台風シミュレーションに基づく免震層の残留変形評価
概要
近年,人々の建物の安全性・居住性に対する意識が高まるとともに,集合住宅や事務所ビルに免震構造が積極的に採用され、特に高さ60m以上の超高層建物への適用が拡大している。しかし、建物の高層化に伴い、地震力に対して相対的に風外力が大きくなる。その上,地震力と比べて,風外力は長時間繰り返し作用するという特徴があるため,塑性化しやすい免震ダンパーに及ぼす影響を考えなければならない。大きな風外力が長時間作用することを考えると,建物の最大応答値が許容値を超えていないことを確認するだけではなく,免震ダンパーの塑性変形量の累積、すなわち免震層の残留変形に与える影響についての評価も必要である。
現行の耐風設計は建物全体が弾性範囲に留めているので,基本的には10分間の風力に対して最大応答値の評価を行っている2。しかし,上述したように免震建物の高層化により、設計時想定する風速レベルにおいては免震ダンパーの塑性化設計が必要となっている。免震ダンパーの塑性化を許容した場合,免震層の残留変形の評価も必要となってくる。さらに,台風の観測においては、風速・風向が時々刻々と変化するため,これまでの風速・風向が一定の10分間の風力を用いた評価では不十分であることが考えられる。そのため、風速・風向変化を考慮した台風シミュレーションに基づく評価が必要となる。
既往研究では,村上ら3が、強風時の観測記録に基づく超高層免震建物の頂部風速と免震層平均変位の関係から,強風イベント終了時に免震層に残留変形が発生していることを確認した。小川らみが、多質点系モデルによる超高層免震建物の免震層残留変形についての評価を行った。ただし、検討用風力は10分間の風直交方向風力のみとし,風速・風向変化を考慮した免震層残留変形についての検討はまだ行われていない。馬橋らSが,3次元フレーム解析モデルを用いた一方向入力,三方向同時入力ともに,強風イベント終了時には残留変形を確認した。ただし,検討用台風サンプルは1例に過ぎないため,ほかの台風サンプルの場合は異なる残留変形となる可能性もある。そこで,本報では既往研究を踏まえて,様々な台風サンプルを採用し,風速・風向変化が超高層免震建物の最大応答値だけではなく免震層残留変形に与える影響について検討し、設計実務に有益な情報を提供することを目的とする。
本論文の構成を以下に示す。2章では、多質点系モデルおよびその構造諸元について述べる。3章では,時刻歴風応答解析に用いられる風速・風向および作成した風外力の時刻歴について説明する。4章では,風速・風向変化が最大応答値に与える影響についての検討を行う。5章では、残留変形を評価した上で,弾性剛性を用いた残留変形の推定値と比較し、その整合性を示す。6章では,本論文のまとめと今後の課題を提示する。