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中国における農水産業の発展に関する実証分析

李, 冠軍 リ, カングン 神戸大学

2020.03.25

概要

本研究『中国における藤水産業の発展に関する実証分析』は,序章と終章を含めて7つの章で構成される.

1. 研究の背景
1953年から中国で実施された第1次5か年計画では,国内の重工業化が目標とされた.しかし,当時の東西冷戦が激化した影響で中国が対外援助を受けられるのは旧ソ連のみであったため,中国政府は重工業化のための資本蓄積の調達先を自国の農業へ求め,農業搾取を開始した.その後,工業・サービス業部門の急速な成長によって農業搾取の必要性が無くなったと同時に,第1次産業と第2次・ 3次産業の間で所得格差が拡大した.こうした所得格差を縮小することは重要な政策課題となっている.

他方で,家計所得の増加によって都市部での畜産物や水産物の消費量が増加した.消費者の嗜好の変化に加え,国内の人口増加などによって,今後も畜産物や水産物の消費量のさらなる増大が予想されることから,食料増産も重要な政策課題となっている.

所得格差の縮小と食料増産の両立を迫られた中国政府は,2004年に農業を,2007年に畜産業・水産業を搾取から保護の対象に転換した.

2. 本研究の課題
本研究の目的は,農業,畜産業,水産業に対する中国政府の政策転換が,これらの産業の成長に及ぼした経済効果を明らかにすることである.農業保謎政策の内容としては,2004年以降の穀物生産を中心とする,農粢に対する直接支払,生産物価格支持,農業生産要素の購入補填, 農業資本( 水利・灌漑整備, 道路整備など)投資が挙げられる.これらの農業保護政策の効果を定量的に考察することが本研究の第1の研究課である.

また,畜産業の保護政策の内容としては,2007年以降の価格安定制度,優良品種の導入補填, ワクチン接種の補助, 多頭化の補助( 大規模化) などが挙げられる. また, 水産業の保護政策(技術開発政策)の内容としては,2007年以降の養殖技術の開発・普及,病害対策に対する補助などに取り組む技術推進機関に対する財政支援の強化が挙げられる.本研究の第2の研究課題は,これらの畜産業と水産業の保護政策がそれぞれの産業の生産者の所得及び生産量をどの程度向上させたか,という点を定量的に検討することである.

3. 研究内容
研究の本編である第1章から第5章の内容は次のとおりである.

第1 章「農水産業に関する政策の転換」では,農業,畜産業,水産業に対する中国政府の政策転換について/その経緯を説明するとともに,なぜ搾取政策が採られ,またなぜ保護政策へ転換したのか,政策転換の背景にっいて考察した.中国では,1949年に共産党が政権を樹立して社会主義革命が実現した.その後,3年余りの復興期を経て1953年から第 1次5か年計画が実施され,社会主義的改造と重工業化が目標とされた.しかしながら,当時は東西冷戦が激化しつつあり,中国が対外援助を受けられるのは旧ソ連のみであった.こうした状況の下で,中国政府は重工業化のための資本蓄積の調達先を自国の農業に求めることになった.中国の農業搾取政策の内容は,「統一買付,統一販売J制度(1953年)と農業税条例(法制化は1958年)であるが,人民公社の設立(1958年)もその役割を担った.このうち「統一買付・統一販売J制度とは,食料の国家管理による供出制度である.農家は生産量から自家消費量と現物農業税を除いた残余を政府に安価で供出する制度であり, その目的は都市部で重工業に従事する労働者の食費節減による工業賃金の抑制にあった. また,人民公社はもともと生産手段の私有を否定した社会主義体制の下で,20〇〜300戸の 農家によって設立された農業合作社のいくっかを合弁した組織であるが,「統一買付・統一販売」制度を厳格に適用するための装置にもなった.したがって,農民の手元には農業投資の資金が残らず,農業インフラの整備などは農民の無給労働に委ねられた.この点も搾取政策の一部である.その結果,農民の多くが農業を放棄して都市建設の動員に参加したため,深刻な食料難となり,農民は帰農を強制された.その後,農村戸籍と都市戸籍を分ける戸籍制度を導入し,農村から都市への労働移動が禁止された.「統一買付・統一販売」制度,人民公社,戸籍制度の3っは農業の生産性を損なう原因になるとともに,この時期の「工業大躍進』のように,重工業化も失敗に終わったことは周知のとおりである.畜産業も農業と同様であり,水産業はI卯3年から税金の納付が義務付けられた.

その後,1978年の改革開放によって,人民公社は解体され,農民による生産責任制金に移行した.また,1985年に戸籍制度の制約は緩和され,「統一買付・統一販売」制度は1993年に,農業諸税は2004〜2006年の間に,それぞれ廃止された.工業部門の成長によって,農業搾取の必要性はなくなった.むしろ,工業・サービス業部門の急速な成長が第1次産業と第2次・ 3次産業の間で所得格差を拡大させ,家計所得の増加によって都市部の食料需要,特に畜産物や水産物の需要が増加した.このように,中国政府は所得格差の縮小と食料増産の両立を迫られ,2004年以降,農畜水産業は搾取から保護の対象に転換した.

第2章「農業保護政策と農民所得の改善」では,穀物を対象としたトランスログ型可変利潤関数の計測を通じて直接支払,価格支持,生産要素の購入補填,農業資本投資と農民所得との関係を分析した.その結果,計測期間(2004〜2012年)では,①直接支払と農業資本投資によって農業所得が26%増加したことがわかった.同時に,②価格支持によって,穀物供給量が20%,③種子の購入補填によって種子購入量が23%,それぞれ増加したこと を明らかにした.

第3章「農業保護政策と生産性の向上」では,農業保護政策が農業生産の技術的側面にどの程度寄与したのか考察するため,農産物の全要素生産性(Total Factor Productivity : TFP)と農業保護政策の関係を検討した.中国の場合,農業の技術進歩は競争力の強化にとって極めて重要なファクターであるため,第3章では中国国内で需要量が多く,世界的にも主要な貿易品目である小麦を取り上げ,テルンクビスト指数を作成してトランスログ型生産関数からΊΤΡを測定した. その結果, 計測期間( 2007 〜2015 年) では, ①直接支払と, ②農業資本投資に対する弾力性はそれぞれ0.14, 0.32であった.実際に,①直接支払によって中国では高価とされる複合肥料(配合,化成肥料)の投入が特に増加しており,BC技術の改善に結びついたと考えられる.また,②中国では,特に土地利用型農業のインフラ整備が遅れているため,農業資本投資が技術の進展に,える効果は大きかった.一方,ά)価格支持がTFPに与える影響は負となった.このことは,価格支持が生産性の低い農家を温存している可能性を示しており,今後の保護のあり方の課題といえる.

第4章「振興策と畜産業の成長Jでは,農業保護政策と畜産業の関係を検討するため,肉類生産量のうち70% を占める豚肉の生産(養豚業)を対象に,保護政策ダミー(2006年以前:0, 2007年以降:1)を組み込んだ養豚の可変利潤関数をトランスログ型で農家の規模別に計測した.分析期間(2001〜2010年)において,①保護政策が防疫の強化やデュロック種のような収益性の高い優良品種の普及などを促進したため,農業所得は20%増加した.また,②大規模畜産業における成豚の供給弾力性は1.70であり,価格に対する反応が大きいことから,価格安定制度の重要性が確認された.

第5章「技術開発政策と水産業の成長」では,水産業に対する保護政策の効果を分析した.中国の水産業は水産資源の枯褐問題のため,保護の対象は養殖漁業であった.実際に,計測期間(2008〜2015年)を単純平均した年間漁獲量のうち,80%が囊殖によるものである.こでは養殖技術の開発・普及などの技術開発政策に対する実質支出額を説明変数に加えたトランスログ型生産関数を計測して,要因分解分析を行った.その結果,技術開発政策の実質支出額が10%増加すると,養殖漁業の漁獲量は3.3%増加することが示された.また,要因分解の結果,技術開発政策の実質支出額が漁獲量の増加に及ぼす寄与率は25%であり, 慣行的生産要素( 船舶, 労働, 養殖海面面積, 飼料) の各寄与率と比較してもっとも髙かったことがわかった.

4. 結論とインプリケーション
本研究の目的は,中国における農業,畜産業,水産業の政策転換の経緯と背景を説明した上で,搾取から保護へ向かう政策転換が,中国の農業,畜産業,水産業の振興に与えた貢献を全般的かつ計量的に明らかにすることであった.

分析の結果,穀物を中心とした農業保護政策がもたらした影響については,①直接支払と農業資本投資によって農業所得が26 % 増加したこと, _格支持によって, 穀物供給量が2 0 % , ③種子の購入補填によって種子準入量が23 %, それぞれ増加したこと, ④直接支払と,⑤農業資本投資に対するTFPの弾力性はそれぞれ0.14, 0.32であったこと,⑥価格支持がTFPに与える影響が負であったことが明らかとなった.

また,養豚業では,①保護政策が防疫の強化やデュロック種のような収益性の髙い優良品種の普及などを促進したため,藤業所得は20%増加したことが示された.②大規模畜産業における成豚の供給弾力性は1.70であり,価格に対する反応が大きいことから,価格安定制度の重要性が確認された.養殖漁業では,技術開発政策に対する実質支出額が漁獲量の増加に及ぼす寄与率は25%であった.

以上の分析結果によって,保誰政策が対象産業の振興に貢献していることが計量的に実証された.ただし,中国ではコメの次に消費量が多い小麦については,価格支持は技術力の低い農家を温存させる方向に働き,小麦農家全体の技術水準を停滞させる原因となることが分かった.中国は2001年からWTOに加盟したが,WTOの通商規律上も価格支持は問題であり,この点は今後の保護の在り方の課題となると言える.

参考文献

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