Impairment of right ventricular strain evaluated by cardiovascular magnetic resonance feature tracking in patients with interstitial lung disease
概要
1.序論
間質性肺炎は,進行性の肺組織の線維化を起こす予後不良の疾患である.間質性肺炎患者の死因としては,急性増悪など肺機能の悪化が最も一般的である.しかし,最近の報告によると,合併した心血管疾患による死亡の割合は無視できず,虚血性心疾患,心不全,肺高血圧症の合併した患者は合併していない患者と比較して,有意に予後不良であることが報告されている.(Carteretal.,2019).特に肺高血圧症は,間質性肺炎患者で頻繁に観察され,死亡リスク増加と密接に関連している(Pateletal.,2007).間質性肺炎患者の肺高血圧症に関しては,低酸素性血管収縮と毛細血管破壊による肺血管床の減少が重要な病態生理とされている.肺高血圧症によって,右室の後負荷増大による右室機能不全が起こるが,間質性肺炎患者の肺高血圧による右室の機能的変化については十分に明らかにされていない.
心臓MRIは,右室容積および駆出率の正確で再現性のある評価を行うことができる.先行研究によって,cineMRIによる右室駆出率は間質性肺炎患者の強力な予後因子であることが示されている(Katoetal.,2015).しかし,右室駆出率は心周期における右心容積の変化の指標であり,右室心筋の直接的な機能を必ずしも反映していない可能性がある.最近,featuretracking法という従来のcineMRIを使用し,心筋ストレインを評価する方法が開発された.心筋ストレインは心周期における心筋の直接的な伸縮を反映しているため,駆出率よりも直接的な心筋の機能指標とされている.この研究の目的は,間質性肺炎患者を対象に,心臓MRIによるfeaturetracking法を用いて右室の心筋ストレインを計測し,肺高血圧症との相関や予後との関連性を評価することである.
2.実験材料と方法
研究デザインは後ろ向き観察研究である.肺高血圧症が疑われ,心臓MRIと右心カテーテルを行った合計70名の間質性肺炎患者(平均年齢:71±8歳,39[56%]男性)と20名のコントロール群(平均年齢:63±13歳,11[55%]男性)を対象とした.コントロール群は,心疾患が疑われ心臓MRIを施行したが,器質的心疾患が指摘されなかった患者群とした.1.5TのMRI装置を用い,steady-statefreeprecession法によるcineMRIを撮像した.右室の心筋ストレインは専用のソフトウェア(Vitrea,CANONMedicalSystems)を用いて,cineMRIを解析しfeaturetracking法により算出した.cineMRIを用いて,右室の容積の変化量である駆出率も算出した.肺高血圧症の定義は,安静時の平均肺動脈圧が20mmHgおよび肺血管抵抗を3woodunits以上とした(Simonneauetal.,2019).右室心筋ストレインの予後予測について評価するため,心臓MRI撮影後1年以内の死亡の有無を電子カルテを用いて調査した.
3.結果
肺高血圧症を合併した間質性肺炎患者((n=18)は合併していない患者(n=52)に比べ,右室の心筋ストレインは有意に障害されていた(-13.3±5.4%vs.-16.9±5.4%,p=0.048).また,肺高血圧症を合併していない間質性肺炎の患者(n=52)では,コントロール群(n=20)と比較して,右室心筋ストレインが有意に低下していた(-16.9±5.4%vs.-20.8±6.3%,p=0.002).また,右室心筋ストレインは,右心カテーテルにおける平均肺動脈圧(r=0.347,p=0.003)や肺血管抵抗(r=0.297,p=0.013)と有意な相関を示した.間質性肺炎患者の70名中5名(7%)が心臓MRIを施行した1年以内に死亡した.死亡を予測するためのROC(receiveroperatingcharacteristicscurve)の曲線下面積(areaunderthecurve:AUC)は右室心筋ストレインが0.900(95%CI:0.800to1.000),右室駆出率では0.643(95%CI:0.454to0.832)であった.また,右室の駆出率に右室のストレインを加えることによる純再分類改善度(netreclassificationimprovement:NRI)は0.969(95%CI:0.504to1.434,p<0.001)と算出された.
4.考察
この研究は間質性肺炎患者における右室の機能変化が心臓MRIとfeaturetracking法による心筋ストレイン解析によって正確に評価できることを実証した.さらに低下した右室の心筋ストレインは短期的な死亡率と関連しており,短期の予後予測においては右室心筋ストレインの右室駆出率に対する付加的な価値が認められた.これは,従来の容積の変化を計測した心機能指標である駆出率が評価としては必ずしも十分でなく,心筋の伸縮性を直接評価できる心筋ストレインを加えることにより,よりよい予測が可能である事を示唆している.
したがって,featuretracking法による右室心筋ストレインの解析は,解析時間がやや掛かるが,間質性肺炎患者のリスク層別化をより良くするという点において価値がある検査と考えられた.長期予後に関しては,右室心筋ストレインと関連性が認められなかったが,長期予後に関しては,心機能とは関連性のないイベント(肺癌や感染など)で死亡することが多かった事が原因として考えられた.今回の結果より,心臓MRIによる右室心筋ストレインは,間質性肺炎における心機能評価や短期的なリスク層別化に有用なイメージングマーカーである可能性が示唆された.