ユマニチュード®ケア技法を用いた看護介入の効果に関する文献レビュー
概要
世界的に高齢化が進み,高齢者を対象とする看護ケアのニーズがますます高まっていく中,看護ケアの質向上もよりいっそう求められるようになっている.日本看護協会の認知症ケアガイドブックには,高齢者のケアでは,その人の価値信念を尊重し,健康への機能回復のみならず,現在の生活の充実を図り,その人らしさを支えることが重要であると明記されている1).認知症をもつ高齢者への対応が困難となる原因としてbehavioral and psychological symptoms of dementia(認知症の行動・心理的症状)が挙げられており,BPSDを緩和する目的でイギリス発祥のパーソンセンタードケア(Person Centred Care),フランス発祥のユマニチュードⓇ(Humanitude),スウェーデン発祥のタクティールケア(Taktil Care)が導入されている2).これらの中でも,近年,新しい技法として,フランス発祥のユマニチュードケア技法が注目を集めている.
ユマニチュードケア技法は,フランス人で体育学を専門とするYves Gineste(イヴ・ジネスト)氏とRosette Marescotti(ロゼット・マレスコッティ)氏によって約40年前に創り上げられた,知覚・感情・言語による包括的なコミュニケーションメソッドである3).「人間らしくあること(Humanitude)」という哲学をベースにケア技法が体系づけられており,現在フランス国内では400を超える医療機関・介護施設がこの技法を導入している.また,ベルギー,ルクセンブルク大公国,スイス,ポルトガル,ドイツ,カナダ,イタリア等に国際支部が設けられ,国際的な展開も図られている.
ユマニチュードケア技法が日本に導入されたのは2012年であり,2011年に国立病院機構東京医療センター総合内科の本田美和子医師が,フランスのジネスト・マレスコッティ研究所を訪問したことがきっかけであった.2014年には日本ユマニチュード学会の前身となる「ジネスト・マレスコッティ研究所日本支部」が発足し国内でのユマニチュードケア技法の研修や研究の拠点として活動が始まった.その後,2015年には旭川医科大学でわが国初となる正規の医学教育にユマニチュードケア技法が導入され,その他の医学部においても徐々に導入され始めてきている.さらに,2017年には日本ユマニチュード学会が設立され,2019年に開学した富山県立大学看護学部では全国で初の試みとして,4年間一貫したユマニチュード教育が継続するカリキュラムが策定されている4).ユマニチュードケア技法については多様な実践現場での応用だけではなく,医学系・看護系教育機関での早い時期からの基礎教育への取り組みも開始されている.
ユマニチュードは,「ケアをする者とは何か」という哲学に基づき,具体的な4つの柱と5つのステップから構成される1つのシークエンスを用いて実践する知覚・感情・言語による包括的なケア技法である.ユマニチュードの基本は,「見る」「話す」「触れる」「立つ」という4つの柱及び,「出会いの準備」「ケアの準備」「知覚の連結」「感情の固定」「再会の約束」という5つのステップからなっている5).
ユマニチュードケア技法が日本に導入されてから10年になろうとしているが,大坪ら6)は,7年を経た時点で日本におけるユマニチュード実践の現状と課題に関する文献的考察を行っている.医学中央雑誌のWeb検索ソフトを用いて,キーワードを「ユマニチュード」として抽出された2015年から2018年の全25件の文献について検討した結果,ユマニチュード継続のための長期的な関わりを捉えた研究や量的研究が期待されること,ユマニチュードの実践によってどのような効果が認められるのかについてを,明らかにする必要があるとの指摘がされていた.
これらを踏まえて本研究では,ユマニチュードケア技法を実施した際,どのような効果があったのかを明らかにする目的で文献レビューに取り組んだ.