リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

リケラボ 全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索するならリケラボ論文検索大学・研究所にある論文を検索できる

リケラボ 全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索するならリケラボ論文検索大学・研究所にある論文を検索できる

大学・研究所にある論文を検索できる 「コバレントドラッグの分子デザインとプロテオーム選択性評価」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

コピーが完了しました

URLをコピーしました

論文の公開元へ論文の公開元へ
書き出し

コバレントドラッグの分子デザインとプロテオーム選択性評価

佐藤, 磨美 SATO, Mami サトウ, マミ 九州大学

2020.03.23

概要

【序論】
コバレントドラッグは、標的タンパク質と共有結合を形成し、その機能を不可逆的に阻害する薬剤である。可逆阻害剤と比較して、強く持続的な薬理活性を示し、薬剤耐性変異に対しても有効であることから、近年活発に研究されている。しかし、オフターゲットタンパク質と非特異的に結合した場合には、副作用が発現する恐れがあるため、薬剤が高度な標的選択性を有していることが極めて重要である。コバレントドラッグ創薬において、反応基の反応性は標的選択性に大きな影響を与える。本研究では、反応基に主眼を置き、オフターゲット活性が低く、安全性が高いコバレントドラッグ創出のための分子デザインについて検討を行った。具体的には、研究室で独自に見出した反応基であるα-クロロフルオロアセトアミド (CFA) 基 (Figure 1, left) を利用して、第 3 世代上皮成長因子受容体 (EGFR) 阻害剤、ブルトン型チロシンキナーゼ受容体 (BTK) 阻害剤を開発し、プロテオーム選択性についての評価を行った。また、新たなメカニズムをもつ反応基として、β-クロロフルオロエチルアミン (CFE) 基 (Figure 1, right)を開発した。

【研究内容】
CFA 基を有する第 3 世代 EGFR 阻害剤の開発と機能評価
CFA 基を反応基とした第 3 世代 EGFR 阻害薬の構造活性相関 (SAR) 研究を行った。第 3 世代の EGFR 阻害剤は疾患に関連する変異型 EGFR に選択的に作用し、野生型 EGFR への作用は限定的である。上市されているマイケルアクセプター型の EGFR 阻害剤 osimertinib を鋳型とし、リンカー、ピリミジン 5 位、インドール N1 位の SAR をもとに、osimertinib よりも高い変異型選択性を有する CFA 型阻害剤 17 を見出した (Figure 2)。野生型 EGFR の阻害は皮膚疾患等の副作用を引き起こすことが知られているため、変異型選択性の向上は意義深い。17 のアルキンプローブである 21 を用いた種々のケミカルプロテオミクス解析を行い、阻害剤のプロテオーム選択性について詳細な情報を得た (Figure 3)。

CFA 基を有する BTK 阻害剤の開発と機能評価
CFA が標的可能なタンパク質の拡張を目指し、CFA型の BTK 阻害剤の開発を行った。上市薬 ibrutinib の構造をもとに、リンカーの最適化を行うことで、高い BTK選択性を有する阻害剤 9 の開発に成功した (Figure 4)。 BTK は細胞質に局在するタンパク質であるため、CFAが夾雑環境である細胞内においても確かに作用することを示した。また、これまでに、CFA のシステイン付加体は、水中では加水分解によりラベル化が解除されることが分かっている。しかし、9 を用いたウォッシュアウト実験の結果、ウォッシュアウト 12 時間後の 9 の BTK 占有率は 82%と求められた。BTK は 17 時間で 37%程度ターンオーバーされることが知られているため、9 は BTK に結合後、タンパク質が分解されるまで長時間に渡り結合を維持できると考えられ、高い薬効が得られることが期待できた。

タンパク質ラベル化のためのホルミル基導入法の開発
新たな反応基としてCFE基の開発を行った。CFE 誘導体 11 はタンパク質と結合した後、加水分解で脱離し、タンパク質上にホルミル基を生成する (Figure 5)。ホルミル基は生体における存在量が少ないことから、導入されたホルミル基を足掛かりとして生体直交反応に利用できると考えられた。タンパク質に置換基を導入するという新たな機能を有するコバレントドラッグの開発を目指し検討を行った結果、ピラゾロピリミジン骨格を有する 12 (Figure 6) が、EGFR L858R/T790M キナーゼドメインに対してホルミル基を導入したことが示唆された。12 はフッ化アジリジンを反応基としており、CFEと同様のメカニズムでタンパク質上にホルミル基を導入すると考えられた。

【総括】
本研究では、コバレントドラッグの SAR 研究と、アルキン誘導体を用いたケミカルプロテオミクス解析を行った。研究室で独自に見出した CFA は反応性が穏やかであるため、潜在的なオフターゲット活性が低い。一方で、詳細な SAR 研究により、標的に対する高い活性を得ることが可能であった。さらに本研究では、新たなメカニズムをもつ反応基として CFE の開発を行った。検討の結果、CFE は、タンパク質上にホルミル基を導入するユニークな特性を有することが明らかとなった。今後、CFE のメカニズムを利用した阻害剤開発への応用が期待できる。