Evaluation of novel rapid detection kits for dengue virus NS1 antigen in Dhaka, Bangladesh, in 2017
概要
〔目 的(Purpose)〕
デングウイルス感染症(デング熱)は蚊媒介性感染症の一つで、その感染者数の多さから世界的な問題となっている。特に2回目以降の感染では初感染と異なる血消型のデングウイルスに感染することにより、より致死率の高いデング出血熱を引き起こすリスクが高まる。このことから、デング熱の発症記録のマネジメントはデング出血熱発症のリスク評価に非常に有用であると考えられており、デングウイルス検出試薬は迅速な判定、装置不要、簡便な操作からその需要が高まっている。しかしながら、現在販売されているデングウイルス検出試薬は、感度の低さやデングウイルスと同じフラビウイルス属に属し、同様の症状を引き起こすことが知られているジカウイルスと交叉反応を示すことからウイルスの鑑別には使用できない。
そこで本研究では、高感度かつ他のフラビウイルスと交叉反応を示さないデングウイルスNS1抗原新規迅速検出キットを開発するとともに、流行国の一つであるバングラデシュの臨床検体を用いた評価によって、その有用性を評価することを目的として研究を行なった。
〔方 法(Methods))
入手したデングウイルスNS1タンパク質に対する抗体のスクリーニングを実施し、イムノクロマト試薬に適した抗体を4種類選択した。その後、NS1タンパク質の親水性疎水性プロットから、エピトープとなり得るアミノ酸配列を選別し、それらの合成ペプチドを作製した。その合成ペプチドとリコンビナントNS1タンパク質を使用したELISA、western blotによって各抗体のエピトープ決定を行ない、これらの抗体を用いて2種類のデングウイルスNS1抗原新規迅速検出キッ卜を作製した。(TKK-lst, TKK-2nd)
これらのキットの感度、特異性については各血淸型(DENV1, DENV2, DENV3, DENV4)培養ウイルス、交叉反応性については他のフラビウイルスであるジカウイルス、日本脳炎ウイルスの培養ウイルスを用いて評価を実施した。
さらなる評価を行うため、デングウイルス流行国の一つであるバングラデシュ、ダッカにおいて現行のデングウイルス検出試薬であるSD Bioline Dengue NS1 Agを比較対象として2017年の臨床検体を用いた評価を実施するとともに、臨床検体から分離したデングウイルスに対してRNA抽出、ゲノム解析を行い、臨床検体の血清型、エピトープ部分のアミノ酸配列変興の有無を調べた。
〔成 績(Results)]
デングウイルスNS1抗原新規迅速検出キットに使用した4種類の抗体のうち3種類は、他のフラビウイルス属に保存されていないアミノ酸配列領域である100番目から122番目のアミノ酸配列を認識する抗体であり、残り1種の抗体については、立体構造を認識する抗体であった。これらの抗体を用いたキットの培養ウイルスを用いた評価では、全ての血清型(各遺伝子型を含む)に対して高い感度、特異性を持つとともに、高濃度のジカウイルス、日本脳炎ウイルスと交叉反応性を示さなかった。さらに、臨床検体を用いた評価の結果においても、我々の作製したデングウイルスNS1抗原新規迅速検出キットは、現行のデングウイルス検出試薬と比較しても高い感度、96.0%(145/151, TKK-lst kit)、96.7%(146/151, TKK~2nd kit), 83.4%(126/151, SD Bioline NS1 Ag)、高い特異性、98.0%(98/100, TKK-lst kit, TKK-2nd kit)、99.0%(99/100, SD Bioline NS1 Ag)を示した。
評価に用いた臨床検体から抽出したRNAから、2017年にバングラデシュで流行したデングウイルスは、主にデングウイルス2型であり、デングウイルス1型、3型の流行は少数、デングウイルス4型の感染者は確認できなかった。
抗体のエピトープであるNS1タンパク質、100番目から122番目のアミノ酸配列は、臨床分離したデングウイルスにおいても高く保存されていた。
〔総 括(Conclusion)]
現在販売されているキットよりも高感度かつ交叉反応性の無いデングウイルスNS1抗原新規迅速検出キットを開発した。デングウイルスの遺伝子解析及びキットに使用した抗体のエピトープ部分のアミノ酸配列解析により、ウイルスの変異や他の血清型、遺伝子型においても高い反応性を有することが期待され、デング熱の診断に有用であると考えられる。