タンパク質のX線結晶構造解析

概要

令和 4 年度

京都大学化学研究所 スーパーコンピュータシステム 利用報告書
タンパク質のＸ線結晶構造解析
X-ray Crystal Structure Analysis of Proteins

京都大学 化学研究所 先端ビームナノ科学センター 原子分子構造研究領域

藤井 知実

研究成果概要
芳香族化合物である γ-レゾルシン酸を唯一の炭素源として生育が可能である根粒菌
Rhizobium sp. strain MTP-10005 において、γ-レゾルシン酸から始まる芳香族化合物代謝経路
で働く酵素群に含まれるレゾルシノール水酸化酵素は、レゾルシノールをヒドロキシキノールに
変換する酵素である。本酵素は TC-FDM（Two-component flavin diffusible monooxygenase）
ファミリーに属し、還元型フラビンと酸素分子を用いて一原子酸素の添加反応を触媒するオキ
シゲナーゼコンポーネント（GraA）と、フラビン：NADH 酸化還元酵素であるレダクターゼコンポ
ーネント（GraD）の二成分から構成されている。GraD は NAD(P)H を用いてフラビンを還元し、
生じた還元型フラビンが拡散により GraA に受け渡される。本研究では、レゾルシノール水酸
化酵素の触媒機構の構造基盤を理解するために、オキシゲナーゼコンポーネントである GraA
のアポ体の高分解能結晶構造解析を行った。
N 末端に His タグを付加した GraA を精製し、GraA アポ体の結晶化に供した。5 mg/ml タン
パク質溶液について、0.2 M リン酸水素二カリウムを含む 17% (w/v) PEG3350 を沈殿剤溶液
とするシッティングドロップ蒸気拡散法による結晶化を行い、Ｘ線結晶構造解析に適した結晶
を得た。本結晶は、空間群 I4122 に属し、格子定数が a = b = 101.6 Å, c = 319.8 Å であった。
高エネルギー加速器研究機構・物質構造科学研究所・放射光科学研究施設のタンパク質結
晶用ビームラインにおいて X 線回折実験を行い、回折強度データ収集を行った。アポ体結晶
構造を初期モデルとした分子置換法により構造を決定し、分解能 1.9 Å で精密化を行った。計
算化学統合パッケージ Discovery Studio を使用し、得られた構造の検討を行った。
GraA は４つの同一サブユニットからなる四量体分子であり、本結晶の非対称単位中に１サブ
ユニットが含まれていた。互いに直交する３つの分子内２回軸と結晶学的２回軸が一致してい
た。GraA 分子は、２つのサブユニットが対となって C 末端側のヘリックス部分どうしを斜めに接
近させて分子内２回軸の周りに密に会合した二量体を形成し、この二量体２つが更に分子内２
回軸の周りに疎に会合して四量体を形成した Dimer of Dimers 構造をとっている。各サブユニ
ットは、主に逆平行αヘリックスからなる N 末端ドメイン（残基 Met1–Ala121）、２枚のβシートが
重なった中央ドメイン（残基 Leu122–Thr217）、長い４本の逆平行αヘリックス束からなる C 末
端ドメイン（残基 Phe218–Tyr409）の３つのドメインで形成されている。これらの３つのドメインに
より囲まれた空間に位置している FAD 結合部位と推定基質結合部位に、PEG3350 の一部と
推定される PEG の断片が結合していた。FAD 複合体構造では別サブユニットの FAD を覆っ
て固定されていた 13 残基のループ領域（残基 Gly271–Asn283）が、アポ体構造ではディスオ
ーダーしていた。 ...