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大学・研究所にある論文を検索できる 「学習に伴った状況依存的な意欲の変動機構の解明」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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学習に伴った状況依存的な意欲の変動機構の解明

牧野, 健一 東京大学 DOI:10.15083/0002002539

2021.10.15

概要

【序論】
 私たちは、ある問題に直面したとき、その問題の難渋さゆえに、解決への「意欲」を失ってしまうことがある。その一方で、問題解決が円滑に進行している場合においては、その意欲の保持やなだらかな向上を実感することがある。意欲に関わる脳領域の1つとして、前帯状皮質(ACC)が知られている。例えば、ヒトACCを電気刺激することで、困難を克服しようとする前向きな感情が生じてくることが報告されている(Parvizi, Greicius, Neuron, 2013)。さらに、ラットACCを不活性化することで、物理的な障害を乗り越える意欲が減少することも知られている(Walton, Rushworth, JNeurosci, 2003; Schweimer, Hauber, Learn Mem, 2006; Wang, Li, Learn Behav, 2017)。しかし、これらの知見においては、同一の課題を反復して利用しているため、課題遂行時における意欲の逐次的な「変動」に関しては触れられていない。本研究では、新規課題に対する学習段階における意欲に着目することで、課題遂行中の状況依存的な意欲の変動とACCの活動との関係性に迫った。

【結果と考察】
1) 学習過程における意欲変動を観察する行動試験系の構築
 本研究では、新規課題として、ノーズポーク試験中のルール学習における学習過程に着目した。ノーズポーク試験では、実験装置に2つの穴が設置されている。事前テスト時には、どちらの穴へノーズポーク(鼻先を指し入れる行動)をしても、報酬であるペレットが得られる。しかし、その次のテストの段階では、片方の穴が試行ごとにランダムに点灯し、ラットは、点灯していない穴へノーズポークしたときのみ報酬を獲得することができる。ラットにこのようなルール変更に対する学習を行わせ、このときの意欲の変動を観察した。意欲を観察するため、課題へ参加しなかった試行、すなわちノーズポークを行わなかった試行(無反応試行)の数を利用した。

2) 学習過程における意欲の発揮にはACCが必要である
 まず、学習過程における意欲の発揮に対するACCの必要性を検証した。ラットのACCにGABAA受容体アゴニストであるムシモールを局所投与することによって、テスト中のACCの活動を不活性化した。その結果、コントロールである生理食塩水投与群と比較し、ムシモール投与群では、テスト中の無反応試行率が増加することが分かった。すなわち、ACCの活動が学習過程における意欲の発揮に寄与していることが明らかとなった。

3) 失敗経験は意欲の減退を引き起こす
 次に、意欲の変動が生じうる要因として、成功/失敗経験に着目した。成功/失敗経験に依存して意欲が変動するのか検証するために、テストのセッション1-3の区間における各試行を正解/不正解および無反応試行の3つに分類し、その前後2試行における試行結果の遷移確率を求めた。その結果、ACCを不活性化した群では、コントロールと比較して、不正解後に無反応試行へ遷移する確率が高いことが分かった。その一方で、正解後に無反応試行へ遷移する確率は変わらなかった。すなわち、ACCの不活性化により、成功した後よりも失敗後において、学習への意欲を失いやすくなることが示唆された。さらに、ムシモール群において、無反応試行を繰り返す確率の増加が認められた。すなわち、ACCの不活性化により、無反応試行の状態が維持されやすくなることが明らかとなった。

4) 成功経験はその後の失敗後の意欲減退を緩和する
 さらに、この遷移確率の解析を連続した4試行分まで拡張した。その結果、上記と同様に、ACCの不活性化により、不正解後に無反応試行へ遷移する確率の増加が見られた。しかし、その直前に正解試行が存在する場合、後の試行で不正解を経験しても、無反応試行への遷移確率が上昇することがないということを見出した。したがって、成功経験は後の失敗による意欲減退を緩和するということが明らかとなった。

5) 課題難易度に依存して意欲の減退が引き起こされる
 上記実験において、失敗経験が意欲減退の1要因であることが明らかとなった。したがって、失敗しやすい難しい課題よりも、易しい課題においては、ACCを不活性化したとしても、意欲減退が生じにくいのではないかと考えられる。これを検証するため、上記で用いた課題よりも易しい課題をデザインした。易しい課題として、点灯している穴が正解のルールを採用した。実際に、この試験系では、上記の点灯していない穴が正解のルール時よりも、学習に要するセッション数が有意に少ないことが確認された。この易しい課題の遂行時、ムシモール投与によりACCを不活性化させたところ、上記の難しい課題のときよりも、無反応試行の増加が少ないことが示された。したがって、意欲減退の程度は、遂行する課題の難易度に大きく依存するということが示唆された。

6) ACCの活性化は意欲の減退を緩和する
 次にACCの活性化をすることで、意欲がどのように変動しうるのか検証を行った。ACCの活性化を行うために、DREADDシステムを用いた。予め、ウイルス投与により、変異型ヒトM3ムスカリン様アセチルコリン受容体であるhM3Dq受容体をACC錐体細胞へ発現させ、テストの直前にCNOを腹腔内投与することで、ACCを活性化することができる。このシステムを用いて、テストを行った結果、コントロールと比較して、ACCを活性化した群では、無反応試行数が減少していた。すなわち、ACCの活性化により、課題時の意欲減退が緩和されることが示された。

【総括】
 本研究では、学習過程における意欲に関して、ACCの活動性および意欲変動の状況依存的な特性に迫った。その結果、学習過程における意欲の発揮にはACCの活動が必要であること、さらに、成功後よりも失敗後において意欲が減退しやすく、また成功経験が後の失敗後の意欲減退を緩和するということが明らかとなった。これに加えて、ACCの不活性化による意欲減退の程度は、遂行する学習課題の難易度に依存することが示唆された。さらに、ACCを活性化させることで、意欲減退を緩和させることが可能であることが示された。

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