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大学・研究所にある論文を検索できる 「神経変性疾患における脂肪酸結合タンパク質の役割解明及び創薬」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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神経変性疾患における脂肪酸結合タンパク質の役割解明及び創薬

程 岸 東北大学

2022.03.25

概要

【研究背景】:
1.神経変性疾患
神経変性障害は、軸索、樹状突起またはシナプスの構造と機能の変性に続く神経細胞の進行性の悪化を特徴とし、最終的には神経細胞の脱落または白質障害につながる。その中で、最も慢性的で加齢に伴う神経変性疾患に、脳の神経細胞死によって引き起こされるアルツハイマー病(AD)とパーキンソン病(PD)およびその他のオリゴデンドログリア関連疾患である多系統萎縮症(MSA)やクラッベ病(KD)などがある。PDは、世界で最も一般的かつ重篤な運動障害疾患であり、60歳以上の成人の約1%が罹患している。この病気は黒質ニューロンの選択的喪失に起因しているが、詳しい原因はいまだ不明である。PDの主要な特徴は、安静時振戦、硬直、および動作緩慢である。姿勢の不安定性(基本的な特徴と診断される場合もある)は非特異的であり、通常、初期の疾患、特に若い患者には見られない。PDの顕著な病理学的特徴としては、黒質緻密部のドーパミンニューロンの不可逆的な変性およびレビー小体(LB)やレビー神経突起(LN)などの細胞質内糸状封入体の存在が挙げられる。140アミノ酸のタンパク質であるα-シヌクレイン(αSyn)は、通常ニューロンのシナプス前終末に見られるが、その誤った折り畳みと凝集は、散発性および遺伝性PDの両方でLBおよびLNを形成し、神経変性細胞死の引き金となる。多系統萎縮症(MSA)は、進行性自律神経不全、パーキンソン症候群、およびさまざまな組み合わせの小脳および錐体路の病変・症候を特徴とする成人発症の致命的な神経変性疾患である。パーキンソニズムが顕著な場合はパーキンソン病サブタイプとして分類され、小脳性運動失調が顕著な場合は小脳サブタイプとして分類される。MSAの病理学的特徴は、誤って折りたたまれたαSynからなるグリア細胞質内封入体である。このような変化はオリゴデンドロサイト(OLG)の変性と脱髄を誘発し、またグリア細胞からニューロンへの栄養供給も障害される。

2.α-シヌクレイン
αSynは分子量15,000のタンパク質であり、140アミノ酸で構成され、帯電したN末端領域(1-60)、非アミロイドベータ成分として知られている中央の疎水性領域(NAC)(61-95)及びα-シヌクレインの凝集と関与している強酸性のC末端ドメイン(96-140)を含む3つの異なる領域で構成される。α-シヌクレインは、中枢神経系(CNS)で豊富に発現する天然変性タンパク質であり、最初に可溶性および単量体型としてinvitroで精製された。通常、無秩序なタンパク質は、誤った折り畳みと凝集を回避する荷電残基とプロリンが豊富な一次配列を持っている。しかし、突然変異によりその環境条件が変化し、α-シヌクレインの本来のコンパクトな折り畳みが乱れ、凝集(線維化)を引き起こされる。これまでに、α-シヌクレインの6つの点突然変異(A53T、A30P、A53E、E46K、G51D、およびH50Q)がシヌクレイノパチーに関連していると報告されている。A53T、E46K、およびH50Q変異のα-シヌクレインは凝集しやすいのに対し、A30P変異のα-シヌクレインはオリゴマー化しやすいことが報告されている。

3.脂肪酸結合タンパク質
細胞では、炭素原子の数が少ない脂肪酸は水溶性であるが、炭素原子の数が12以上の長鎖脂肪酸(LCFAs)は水に不溶性である。したがって、LCFAsを細胞内に移動させるためには、LCFAsに結合して可溶化する脂肪酸結合タンパク質(FABPs)が必要である。FABPファミリーは、分子量が14〜15kDaの低分子量細胞内タンパク質であり、哺乳類では最大12種類が同定されている。
その中で、心臓型(FABP3)、脳型(FABP7)、表皮型(FABP5)の3つのFABPが脳で発現している。FABP3は心臓から最初に単離されたが、体内の組織や細胞に広く発現し、心臓に加えて脳、骨格筋、乳腺、卵巣にも発現する。FABP3は、AAなどのn-6不飽和脂肪酸に高い親和性を示す。また、エポキシエイコサトリエン酸、AA代謝物に結合し、その半減期を延長する。FABP5は表皮、肝臓、脂肪細胞で広く発現している。FABP7と同様で、胚性脳の神経細胞とグリア細胞で高発現するが、成熟した脳では減少する。mRNAの発現は神経新生(E17)から神経分化過程(E19)でピークに達し、シナプス形成期(P5-P10)に発現が減少し、神経細胞の移動と分化に関与すると考えられている。FABP7は、星状細胞の神経幹細胞と海馬の顆粒細胞層に局在する。FABP7は、出生後の胚性脳で高い発現レベルを示し、成熟した脳、星状細胞、およびOPCsでは発現レベルが低下する。FABP7遺伝子ノックアウトマウスを用いた分析では、FABP7が星状細胞へのn-3長鎖不飽和脂肪酸の取り込みに関与していることが示された。また、FABP3及びFABP7の発現が、パーキンソン病、アルツハイマー病、およびその他の神経障害を含む神経変性障害の患者の血清および脳脊髄液(CSF)で増加することが報告されている。

【研究方法】:
本研究では、FABP3を過剰発現させたNeuro-2A細胞をアラキドン酸(AA)で刺激し、αSynのオリゴマー化が亢進することを確認した。次に、リコンビナントFABP3の精製タンパク質を用いた8-アニリノナフタレン-1-スルホン酸(ANS)アッセイを用いて、FABP3の脂肪酸結合ドメインに結合するFABP3リガンドを創製した。FABP3リガンドの活性は、Neuro-2A細胞を用いてAA誘導によるαSynオリゴマー化に対する効果を免疫ブロット及び蛍光染色で確認した。また、シヌクレイノパチーモデル培養細胞およびミエリンプロテオリピドタンパク質(PLP)誘導多系統萎縮症マウスにを用いてFABP7がαSynと共局在し複合体を形成することを検討した。合成されたFABP7リガンド6(MF6)は、ANSアッセイ及び水晶振動子微量天秤(QCM)アッセイを使用して、FABP7に対する親和性を確認した。培養細胞系でサイコシン(10μM)によるホスホリパーゼA2(PLA2)の活性化を用いて内在性αSynとFABP7のオリゴマー化レベルを確認し、KG-1Cヒトオリゴデンドログリア細胞とオリゴデンドロサイト前駆細胞(OPCs)の両方で細胞死を検討した。続いて、OLGがKG-1Cヒトオリゴデンドログリア細胞とマウスOPCsの両方でサイコシン処理によってどのように誘導されるか検討した。ミトコンドリアにおける脂肪酸結合タンパク質5の功能を検討するために、電位依存性陰イオンチャネル(VDAC-1)とBcl-2関連Xタンパク質(BAX)を用いて、ミトコンドリアのマクロポア形成を確認した。

【研究結果】:
本研究は神経変性疾患におけるFABPの役割を注目した。FABP3はドパミン神経細胞に発現し、ドパミン神経細胞におけるαSynの凝集及びオリゴマー化を促進した。さらに、その作用はAAの投与によ増強されました。一方、FABP3をターゲットする特異リガンド(リガンド1、7、8)は有意的にFABP3によるαSynの凝集及びオリゴマー化を阻害し、細胞保護的に働きことを証明した。
FABP7はグリア細胞あるいはOLGに沢山発現しαSynの凝集を促進した。臨床的な証拠では、FABP7はMSA患者の血液で有意に変化する。また、PLPマウスにFABP7とαSynの共局在は確認された。一方、試験管内での実験では、FABP7はαSynを普通の凝集より高い分子量の凝集体を作り、その凝集体はマウスに対し著しい運動機能障害を示した。その原因は、作られた凝集体はグリア細胞あるいはOLGに選択的に取り込まれ、OLG細胞死を促進することが考えられる。FABP7を抑制するため開発したFABP7のリガンド(リガンド6)はFABP7とαSynの結合をブロックし、凝集体レベルを抑制することでOLG細胞死を改善した。
一方、OLGに発現するFABP5はミトコンドリアストレスの状況でミトコンドリアの中に蓄積した。蓄積したFABP5はVDAC-1及びBAXの凝集を制御しミトコンドリアマクロポアの形成を促進した。ミトコンドリアマクロポアの形成と伴い、シトクロムC及びmtDNAの分泌も促進され、ミトコンドリアロスやOLG細胞死を誘導した。並びに、インヒビターやshRNAによるFABP5の抑制はミトコンドリアマクロポアの形成を抑制しOLG細胞死を改善した。

【結論】:
以上のことから、FABP3やFABP5及びFABP7をそれぞれターゲットするリガンドがそれぞれの関連疾患に治療効果を示した。今後、FABPsのリガンドが新規治療薬となる可能性が十分考えられる。

【考察】:
本研究では、FABP7はαSynの凝集を促進し分子量及び毒性の高い凝集体を作ることを明らかにした。その凝集体は嗅球に100%、基底核に35%、皮質に60%、小脳に10%のOLG細胞に選択的取り込まれる。しかし、その機序は不明である。神経細胞においては、FABP7/αSynの凝集体は見られない。即ち、OLG細胞おける特異的な受容体が存在し(神経細胞に発現されてないあるいはレベルが低い)、FABP7/αSynの凝集体の取り込みに関与する可能が高い。その受容体を検索し、よりMSAの発病メカニズムを理解することが、病気を治す治療薬の開発に向けて、解決策を提供できる。
今後では、MSA患者の脳組織やPLPマウスを用いて、一つずつFABP7の結合タンパク質やエンドサイトーシスの関連タンパク質やMSAで有意的に変化したタンパク質などからFABP7/αSynの凝集体の取り込みを制御する受容体を検討する予定である。