Homozygous variant p.Ser427Pro in PNPLA1 is a preventive factor from atopic dermatitis
概要
【緒言】
アトピー性皮膚炎(atopic dermatitis, AD)は小児期より発症し、慢性に経過する最も一般的な皮膚疾患の一つであり、本邦の小児の8-19%が罹患するという報告もある。ADの発症にはアレルゲンなどの環境要因とアトピー素因と呼ばれる遺伝的素因が関与している。遺伝的素因としてはフィラグリン遺伝子(FLG)変異による皮膚角層のバリア機能異常が報告されているが(Palmer et al. Nat Genet 2006)、本邦においてFLG変異を有するAD患者は全体の約27%であり(Nemoto-Hasebe et al. Br J Dermatol 2009)、それ以外の発症因子の存在が考えられていた。フィラグリン以外で角層のバリア機能に重要な因子としては、corneocyte lipid envelop (CLE)がある。これは角層細胞の表面に主に超長鎖脂肪酸を持つセラミドが結合し一層の脂質層を形成しているものであり、ABCA12, ALOXE3, ALOX12BなどCLEの形成に関連している遺伝子群の一部は、角層の形成異常とバリア機能障害を病態として有する魚鱗癬、魚鱗癬症候群の原因遺伝子として報告されている。このためCLEは角質のバリア機能に極めて重要であると考えられるが、CLE形成に関連する遺伝子について、ADの発症に注目して行われた研究はなかった。今回我々はCLEに関わる遺伝子群のバリアントが、ADの発症に関与している可能性について検討した。
【対象及び方法】
健常群143人、AD群124人を解析の対象とした。過去の文献を参考とし、CLEの形成に関与している20の遺伝子を抽出した。これらの遺伝子に存在するSNPのうち、5%以上のアレル頻度を持ちミスセンス変異またはナンセンス変異を引き起こすものをデータベース(Human Genetic Variation Database)を用いて検索した。最終的に5遺伝子(ALOXE3, PNPLA1, SLC27A4, NIPAL4 and ELOVL4)にある7SNPs(rs3027232, rs74946910, rs34598813, rs12199580, rs12197079, rs4713956, rs2240953, rs6860507, rs3812153)を解析の対象とした。ここで得られたSNPsについてPCRダイレクトシークエンス法および2色蛍光プローブ法により遺伝子型を決定し、統計学的に解析した。またAD群についてはFLG変異を有する群と有さない群それぞれについて、血清IgE値、血清TARC値、またADの重症度スコアであるIGA scoreについてサブグループ解析を行った。
【結果】
PNPLA1遺伝子のSNPの1つであるrs4713956で、AD群において遺伝子型CC の出現頻度が有意に低かった(AD群, CC:CT+TT=26:84; 健常群, CC:CT+TT=54:88; p = 0.015, odd ratio 0.665, 95% confidence interval 0.469-0.945)(Table)。この傾向はFLG変異をもたない群では維持されていたが(AD 群, CC:CT+TT=20:67; p=0.018)、FLG変異を有する群では見られなかった(AD群, CC: CT+TT=6: 17; p=0.27)。また同様の傾向は血清IgEが中等度上昇(171-10, 000UA/mL)している群(AD群, CC: CT+TT=5: 30; p=0.008)、血清TARCが中等度上昇(451-10, 000IU/mL)している群(AD群, CC: CT+TT=8: 35; p=0.018)、IGAスコア3の群でも維持されていた(AD群, CC: CT+TT=2: 15 ;p=0.032)。以上より、AD患者群ではPNPLA1の427番目のアミノ酸がプロリンのホモ接合体である割合が有意に少ないことが示された。
【考察】
PNPLA1はpatatin-like phospholipase domain-containing protein (PNPLA)ファミリーメンバーに属し、8つのexon、533のアミノ酸で構成される(Hirabayashi T et al. Biochim Biophys Acta Mol Cell Biol Lipids 2019)。N末側に活性中心でありPNPLAファミリーで保存されたpatatin domainと、C末側にPNPLA1のみが持つPro-rich hydrophobic regionを有している(Figure)。PNPLA1は常染色体劣性遺伝性魚鱗癖(ARCI)の原因遺伝子として報告されている(Grall A et al. Nat Genet 2012)が、その機能としてはアシルセラミドの生成過程でトランスアシラーゼとして働き、CLEの形成に関与していると考えられている(Hirabayashi et al. Nat Commun 2017, Pichery et al. Hum Mol Genet 2017)(Figure)。今回の研究により、AD患者群ではPNPLA1の427番目のアミノ酸がプロリンのホモ接合体である割合が有意に少ないことが明らかとなった。このことからPNPLA1の427番目のアミノ酸がプロリンである場合、酵素活性が高まり、CLEの形成がより強固となることで、ADの発症が抑制されている可能性が考えられた。また、常染色体劣性先天性魚鱗癬を来たす遺伝子変異のほとんどがpatatin domainに存在しているのに対し、427番目のアミノ酸はPro-rich hydrophobic region上に存在していた。Pro-rich hydrophobic regionは機能未知の領域であるが、patatin domainの酵素活性の調節に働いている可能性が考えられた。
【結語】
本研究により、PNPLA1の遺伝子多型による酵素活性の違いが、ADの発症に関与している可能性が示唆された。さらに機能解析を進めることでADの病態解明や新規治療法の開発につながることが期待される。