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大学・研究所にある論文を検索できる 「Examination of Abnormal Alpha-synuclein Aggregates in the Enteric Neural Plexus in Patients with Ulcerative Colitis」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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Examination of Abnormal Alpha-synuclein Aggregates in the Enteric Neural Plexus in Patients with Ulcerative Colitis

宜保, 憲明 名古屋大学

2023.02.20

概要

【緒言】
Parkinson 病(PD)は、Alzheimer 病に次いで 2 番目に多い神経変性疾患で、運動症状だけでなく非運動症状も呈する。PD は、黒質のドパミン作動性ニューロンのほか、自律神経系、脳幹下部、大脳皮質、嗅球、皮膚、唾液腺、腸などの非神経組織に Lewy小体と呼ばれる α-Synuclein(αSyn)異常凝集体が蓄積することによって発症する。2002年に Braak らが迷走神経背側核から中脳黒質へ Lewy 小体が上行することを剖検で報告して以来、凝集 αSyn が消化管から迷走神経を経由して脳幹下部に伝達されるという仮説が、動物実験や疫学研究などで支持されている。
潰瘍性大腸炎(UC)は、大腸粘膜にびらんや潰瘍を伴う大腸の慢性炎症性疾患である。UC は、血性下痢と腹痛を特徴とし、病変は直腸から連続的に口側へ広がっていく。複数のコホート研究により、UC 患者は炎症性腸疾患(IBD)のない人に比べて PD発症リスクが 1.3-1.8 高いことが示されている。
UC でも起こる腸管上皮バリアの機能的形態的変化が複数の研究により PD でも証明されており、UC における腸管透過性亢進が大腸の腸管神経系(ENS)で αSyn 凝集体の形成を促進するのではないかと考えられた。脳の凝集 αSyn を検出する免疫組織化学染色(IHC)はほぼ確立されているが、腸の凝集 αSyn を検出する IHC プロトコルは方法論的な不均一性が大きく様々な報告がされている。そこで、まず、PD 患者の大腸標本を用いて、腸の凝集 αSyn を染色する IHC プロトコルの検証と最適化を行った。その上で、UC 患者と非 IBD 患者の大腸標本を用いて、ENS の凝集 αSyn を染色した。

【方法】
対象
本研究は、名古屋大学医学部附属病院(NUH)の生命倫理審査委員会の承認を得た (承認番号 2018-292)。腸における凝集 αSyn の IHC プロトコルの検証と最適化には、 2008 年から 2017 年に NUH で剖検を受けた PD 患者 5 名と非 PD 患者 3 名の検体を用いた。IHC プロトコルを最適化した上で、2011 年から 2020 年に NUH で大腸切除術を受けた非 PD の UC 患者 23 名を UC 群、2018 年に大腸切除術を受けた非 PD かつ非 IBD の患者 18 名をコントロール群として、それぞれの大腸標本を解析した。

IHC
結果の項で示すように、我々は αSyn 凝集体の免疫染色条件の検証と最適化を行った。最終的なプロトコルは次の通りである。標準的な手順で脱パラフィン化した中脳および大腸の切片を、0.3%過酸化水素・メタノール溶液中にて室温で 15 分間インキュベートし、内因性ペルオキシダーゼ活性をブロックした。リン酸緩衝生理食塩水 (PBS)中の 1.5%ウマ血清でブロッキングした後、切片に 1:5000 希釈のモノクローナル抗体 pSyn#64(Fujifilm Wako Chemicals)を加え、4℃で一晩インキュベートした。切片を PBS で洗浄した後、PBS 中の 1.5%ウマ血清で希釈したビオチン化抗マウス IgG抗体で 37℃、30 分間処理した。切片を PBS で再度洗浄し、Avidin-Peroxidase-Complex solution(Vector Laboratories)でオーバーレイした。切片を PBS で再度洗浄し、3,3'-ジアミノベンジジン(DAB)および過酸化水素で 3 分間インキュベートし、ヘマトキシリンで対比染色を行った。
Auerbach 神経叢の凝集 αSyn と p62 の二重蛍光免疫染色では、上記の DAB 染色で用いた切片と連続した切片を用いた。脱パラフィン化した後、切片を 5%ウシ血清アルブミンにて 4℃で一晩ブロッキングした。その切片を、それぞれ 1:1000 希釈の抗マウスモノクローナル pSyn#64 抗体、抗モルモットポリクローナル p62/SQSTM1(C 末端)抗体(PROGEN Biotechnik)で処理し、4℃で一晩インキュベートした。その後、切片を PBS で洗浄し、Alexa Fluor 488 標識抗マウス IgG 抗体および Alexa Fluor 594 標識抗モルモット IgG 抗体の 1:1000 希釈液にて室温で 1 時間処理した。

鏡検と評価
凝集 αSyn を免疫染色した切片は、正立顕微鏡(BX53, Olympus)、倒立顕微鏡(IX73, Olympus)、バーチャルスライドシステム(VS120-S5-J, Olympus)を用いて鏡検した。脳の切片では黒質の、大腸の切片では Meissner 神経叢または Auerbach 神経叢の凝集 αSyn をそれぞれ精査した。陽性染色切片は匿名化して陰性染色切片と混合し、盲検者が再検した。凝集 αSyn と p62 を共染色した切片は、共焦点顕微鏡(SpinSR10, Olympus)で鏡検した。

【結果】
腸の凝集 αSyn に対する IHC の検証と最適化
PD 患者の中脳切片と大腸切片を用いて、オートクレーブとギ酸処理の組み合わせで、IHC プロトコルにおける抗原賦活化の条件を 10 パターン検討した。いずれの条件でも黒質では凝集 αSyn が適切に染色されたが、Auerbach 神経叢ではオートクレーブとギ酸処理を行わない条件を除き、凝集 αSyn が染色されなかった。これらの不成功は、神経叢の核や細胞質の非特異的染色、あるいは強いバックグラウンド染色のいずれかによるものであった。驚いたことに、抗原賦活化の手順を完全に省くことで、黒質でも大腸でも凝集 αSyn を適切に染色することができた。

UC 患者の大腸における凝集 αSyn の解析
UC 群とコントロール群との間に、年齢、性別の有意差はなかった。23 名の UC 群の罹病期間は 3-444 ヶ月と幅広く、平均は 153 ヶ月であった。UC 群 23 名の計 87 個の大腸標本とコントロール群 18 名の計 25 個の大腸標本をそれぞれ分析した。凝集 αSyn は、UC 群のひとつの標本で観察されたが、コントロール群では観察されなかった。pSyn#64 と p62 の共染色では、Auerbach 神経叢に pSyn#64 と p62 が共局在していた。以上、UC 群では 87 標本中 1 標本が凝集 αSyn 陽性で、コントロール群では 25 標本全てが凝集 αSyn 陰性であり、統計的有意差はなかった。

【考察】
pSyn#64 による IHC において、黒質では様々な条件の抗原賦活化で凝集 αSyn を適切に染色できたが、同様のプロトコルを用いても大腸では凝集 αSyn を特異的に染色できなかった。一方、抗原賦活化処理を完全に省略したプロトコルでは、黒質だけでなく大腸においても凝集 αSyn を特異的に染色することができた。pSyn#64 によって認識されるリン酸化 Ser129 は、αSyn の C 末端に近いフレキシブルドメインに位置している。我々は、フレキシブルドメインのリン酸化 Ser129 はホルマリン固定によって架橋されず、抗原賦活化処理はむしろ他の分子のアーチファクトを増強させたのではないかと推測している。あるいは、大腸で観察された αSyn 凝集の初期段階でのリン酸化 Ser129 は、抗原賦活化処理に対して脆弱である可能性も考えられた。
複数の疫学研究により、UC が PD のリスクであることが示されており、UC 患者では大腸に αSyn が凝集している可能性があると仮定した。しかし、我々の仮説に反して、UC 患者の大腸における αSyn の異常凝集は、コントロール群と比較してその頻度が高くなかった。UC 群とコントロール群との間に有意差がなかったのは、次の理由によると推測する。第一に、UC の患者数および患者あたりの標本数が不十分であった可能性がある。PD 患者の大腸標本でも、1 切片あたり 1-2 個の凝集 αSyn が観察されるのみであった。従って、より多くの UC 患者を分析し、患者あたりの検体数を増やせば、より多くの陽性検体が得られたかもしれない。第二に、我々のコホートにおける UC 患者は、疫学研究で分析された患者と比較して、病勢が良好にコントロールされていた可能性がある。現在、UC には、有効な薬剤が多く揃っており、かつてよりも寛解状態を維持しやすくなっている。たとえ罹病期間が長い UC 患者であっても、慢性炎症が適切に抑制されていれば αSyn は大腸で凝集しない可能性がある。もし、難治性患者や薬物アドヒアランスの悪い患者など、長期間にわたって再発と寛解を繰り返す患者を多く解析していれば、凝集 αSyn が高頻度に検出されたかもしれない。

【結論】
抗原賦活化を省略することで大腸の凝集 αSyn を pSyn#64 で適切に染色することができたが、大腸神経叢における異常な αSyn 凝集が UC で増加しているかどうかを識別するには 23 名という UC 患者数は十分と言えなかった。