Nasturtium officinale Extract Suppresses Osteoclastogenesis in RAW 264 Cells by Inhibiting IκB-Kinase β
概要
1. 序
骨代謝は、正常な骨量及びカルシウム代謝を維持するために重要な生体システムで(1)、破骨細胞による骨破壊と骨芽細胞による骨形成のバランスによって制御されている(2)。骨粗鬆症や関節リウマチにおける骨破壊においては、破骨細胞の過剰な活性化が原因となることが報告されている (3, 4)。従って、破骨細胞の分化や活性化の制御機構の解明は、これらの疾患の予防および治療戦略ターゲットの同定において非常に有望であると考えられている。
本研究では、機能性の高い健康食品開発および、骨疾患の予防に重要な創薬シーズの開発、破骨細胞分化の分子メカニズム解明へ貢献することを目的とし、Nasturtium officinale※抽出物が破骨細胞分化とその機能に与える影響及びメカニズムを解析した。
2. 研究結果及び方法
3.1. N. Officinale 抽出物はRAW 264 細胞の破骨細胞への分化能と骨吸収能を低下させる
はじめに、 RANKL 刺激による RAW 264 細胞の破骨細胞形成において N. officinale 抽出物の影響を TRAP 染色法※により調べた。 N. officinale 抽出物を添加した細胞では、多核化した TRAP 陽性細胞の数が、濃度依存的に減少していた(Fig.1A, B)。骨吸収能アッセイを Osteo Assay Plate (24 well plate; Corning)を用いて行うと、 N. officinale 抽出物を添加した細胞では骨吸収能が低下していた (Fig. 1 C, D)。
3.2. N. officinale 抽出物はRANKL 刺激による破骨細胞マーカー※遺伝子の誘導を抑制する 次に N. officinale 抽出物 が、RANKL 刺激した RAW 264 細胞における破骨細胞関連因子
の発現に与える影響を定量 PCR 及びイムノブロット法によって調べた。N. officinale 抽出物は RANKL 刺激 3 日後の trap, dc-stamp, atp6v0d2, cathepsin K のmRNA 発現誘導を抑制していた (Fig. 2A-D) 。N. officinale 抽出物を添加した細胞では、破骨細胞分化のマスターレギュレーターであるNFATc1 のmRNA 発現及びタンパク質発現も顕著に低下していた (Fig. 3A, B) 一方で、RANKL の受容体RANK のタンパク質発現には影響しなかった (Fig. 3A, B)。
3.3. N. officinale 抽出物はRANKL-RANK シグナル※を抑制する
次にRANKL-RANK シグナル下流で活性化され、NFATc1 誘導に必須なNF-κB 及びMAPKシグナルの解析をゲルシフトアッセイ及びイムノブロットにより行った。その結果、N. officinale 抽出物はNF-κB の活性化を抑制することが示唆された(Fig.4A, B)。NF-κB の活性化には複数の経路が存在するので、スーパーシフトアッセイによって RAW 264 細胞における活性化経路を調べたところ、RelA 抗体によってスーパーシフトが見られた。したがって、 RAW 264 細胞においては RANKL 刺激によってRelA Canonical NF-κB 経路が活性化されることが示された(Fig. 4C)。また、RelA Canonical NF-κB の活性化に重要なIκ-B のリン酸化は、N. officinale 抽出物によって抑制されることも明らかにした (Fig.4C) 。また、N. officinale 抽出物は、MAPK シグナル経路のコンポーネントである ERK, p38 及び JNK のいずれのリン酸化も抑制していた (Fig. 4D)。
3.4. N. Officinale 抽出物はIKKβの酵素活性を阻害する
破骨細胞分化シグナルにおける NF-κB シグナル及び MAPK シグナルの活性化の上流因子である TRAF6 の RANK へのリクルート及び TAK1-TAB1 と IKKβの活性をGST-pull down assay 及び ADP-GloTM Kinase Assay (Promega)を用いて解析した。その結果、N. officinale 抽出物は TRAF6 のリクルート及び TAK1-TAB1 の活性化には影響を与えなかったが (Fig.5 A, B)、IKKβの活性化を抑制した (Fig. 5 C)。
N. officinale 抽出物を HPLC により粗分画したところ (Fig. 6 A)、IKKβのキナーゼ活性は Fr. 4 と Fr. 5 によって強く阻害された (Fig. 6 B) 。また、破骨細胞分化の抑制活性はこれらの画分 Fr. 4 と Fr.5 にみられ、IKKβの阻害活性と相関していた(Fig. 6 C, D)。これらのことから、N. officinale 抽出物に含まれる IKKβ活性阻害成分が、RAW264 細胞における破骨細胞分化を抑制する成分の一つである可能性が示唆された。
3.5. IKKβの阻害剤PS1145 は破骨細胞分化を阻害する
IKKβの阻害剤である PS1145 は、IKKβの酵素活性を in vitro で阻害し(Fig. 7A)、RANKL刺激によるRAW 264 細胞の破骨細胞分化を抑制した(Fig. 7B, C)。また、RANKL-RANK シグナルにおいてIκ-B だけでなく、ERK、JNK のリン酸化も抑制することが示されたが、p38のリン酸化は抑制しなかった(Fig. 7D)。これらのことから、N. officinale 抽出物は破骨細胞分化阻害において、IKKβ を標的分子としてその酵素活性を阻害することによって RANKL-RANK シグナルを抑制する可能性が示された(Fig. 7E)。
3. 討論
本研究では N. officinale 抽出物が、IKKβの酵素活性を抑制することで、NF-κB 及び MAPKシグナルを抑制し、RANKL 刺激による RAW264 細胞の破骨細胞分化と骨吸収能を抑制することを明らかにした。
骨粗鬆症は自覚症状がほとんどない疾患であることから、予防医学が重要視される疾患である。本研究結果は、骨代謝シグナルに着目した機能性の高いサプリメントの開発や、さらには、活性成分同定による新たな創薬シーズの発見に大きく貢献できると考えられる。
4. まとめ
1)N. officinale 抽出物は RAW264 細胞において RANKL 刺激による破骨細胞分化と骨吸収能を抑制する。
2)N. officinale 抽出物は MAPK 及び Canonical な NF-κB シグナルを抑制する。
3)N. officinale 抽出物の標的因子の一つは IKKβである。
5. 今後の研究計画
N. officinale 抽出物をさらに分画し、TRAP 染色やIKKβ in vitro kinase assay を用いて活性成分を同定する。