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大学・研究所にある論文を検索できる 「カリウムチャネルのミリ秒オーダーの開閉の構造機構の解明」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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カリウムチャネルのミリ秒オーダーの開閉の構造機構の解明

岩橋, 優太 東京大学 DOI:10.15083/0002002511

2021.10.15

概要

【背景】
 カリウムチャネルは、リガンドの結合や膜の脱分極等の刺激に応じて開口し、K+の膜透過を担う膜タンパク質である。K+透過路の構造はすべてのカリウムチャネルで高度に保存されており、開閉機構は主にpH依存性カリウムチャネルであるKcsAをモデルとして解析されてきた。K+透過路を形成するドメインは、2本の膜貫通ヘリックスTM1,TM2からなるサブユニットの4量体として構成され、K+の透過を制御しうるゲートの位置は細胞外側でTM1とTM2の間のループから形成されるselectivity filter(SF)、細胞内側でTM2同士が交差して形成されるhelix bundle crossing(HBC)の2箇所存在する。また、K+を透過しない中性ではHBCの閉じたclosed状態、K+を透過する酸性ではHBCの開いたpermeable状態をとり、pH依存的な開閉ではSFは常に開口し、HBCがゲートとして機能することが知られている(図1)。
一方で、電気生理学的な解析から、カリウムチャネルは開口刺激存在下で常には開口しておらず、ミリ秒程度のタイムスケールでK+を透過する状態と透過しない状態の間を遷移していることが明らかとなっている(図2)。したがって、開口刺激存在下でもHBCかSFのいずれかが開閉し、K+の透過を制御していることが示唆される。ミリ秒オーダーの開閉は変異や脂質環境の変化によって変調を受け、周期性失調症や高血圧等の疾病を引き起こすことが知られている。したがって、ミリ秒オーダーの開閉が生じる機構を解明することは、これらの疾病が生じる機構を理解し、治療薬を開発する上で有用である。しかし、ミリ秒オーダーの開閉がどのような構造機構で生じているのか未だ明らかでない。そこで、本研究では、ミリ秒オーダーの開閉においてどの部位がゲートとして機能するか明らかにし、カリウムチャネルのK+透過制御機構を解明することを目的とした。

【結果】
1. 変異体を用いたミリ秒オーダーの開閉が生じる構造機構の解析
 はじめに、ミリ秒オーダーの開閉が変化する変異体を用いた解析を行った。
 ヒトのカリウムチャネルでミリ秒オーダーの開閉が変化する残基を参考に、KcsAのTM2上の残基に変異を導入した変異体を設計しミリ秒オーダーの開閉を電気生理解析により解析した。その結果、pH3.0では野生型ではK+透過状態の割合が80%であるのに対し、A111V変異体では8%、V91I変異体では36%、V106I変異体では51%と変異体ごとに異なる割合であった(図3A)。次に、各変異体がどのような構造平衡にあるか解析した。界面活性剤DDMで可溶化した各変異体のNMRスペクトルを測定し、ゲートの開閉によって化学シフト値が変化するV76のメチルシグナルから各変異体がとる状態を解析した。野生型ではpH3.0の酸性条件においてHBCの開口したpermeable状態に対応するシグナルのみが検出された一方で、いずれの変異体においてもHBCが閉口したclosed状態に近い化学シフト値sをもつ状態のシグナルが検出された(図3B)。closed状態は野生型が中性でとる状態であるのに対し、各変異体で新たに検出された状態は酸性で検出された状態であり、closed状態とはプロトン化状態等が異なる状態であるため、以下closed’状態とよぶ。各シグナルの強度からpermeable状態とclosed’状態の割合を計算したところ、野生型ではpermeable状態のみが検出されpermeable状態の割合が100%であるのに対し、V91I変異体では40%、V106I変異体では46%、A111V変異体ではほとんど0%であった。
 各変異体のpermeable状態の割合を、電気生理解析から計算したミリ秒オーダーの開閉における開口状態の割合と比較すると、両者はよく相関していた(図4)。また、permeable状態とclosed’状態の両方のシグナルが観測されているV91I変異体では、NMRスペクトル中で両状態のシグナルが広幅化して観測されており、化学シフト差と同程度すなわち数100s-1のタイムスケールで遷移していることが示唆される一方で、ミリ秒オーダーの開閉中のK+透過状態とK+非透過状態の持続時間から、両状態の交換速度は350~1300s-1程度と見積もられた。したがって、permeable状態とclosed’状態の構造平衡のタイムスケールは、ミリ秒オーダーの開閉におけるK+透過状態とK+非透過状態の遷移速度と概ね対応していた。以上の結果から、ミリ秒オーダーの開閉はpermeable状態とclosed’状態の間の構造平衡に対応し、両状態で開閉が変化するHBCの開閉によって生じることがわかった。

2. 脂質組成依存的な構造変化の解析
 次に、他のミリ秒オーダーの開閉の制御因子である脂質に着目し解析を行った。KcsAはPOPCとPOPGの割合依存的にミリ秒オーダーの開閉が変化することが知られている(図5)。脂質二重膜中のKcsAの構造平衡を解析することとした。脂質二重膜中のKcsAをNMR法で解析するためnanodiscを用いた。Nanodiscは円盤状の脂質二重膜をリポタンパク質MSP1が取り囲んだ構造物であり、この脂質二重膜中にKcsAを再構成することができる(図6)。
 POPGの割合を0%,50%,100%としてKcsA-nanodiscを調製し、pH3にてNMRスペクトルの測定を行い、V76のシグナルから各脂質組成でのゲートの開閉を解析した。その結果、POPG0%,50%ではclosed’状態の化学シフト値のシグナルのみが検出された一方で、POPG100%ではclosed’状態とpermeable状態の化学シフト値を持つシグナルが検出された(図7)。POPGの割合が増大するほどK+透過状態の割合が増加するという先行報告の結果と合わせると、脂質依存的な割合の変化においてもpermeable状態とclosed’状態の構造平衡がミリ秒オーダーの開閉に対応することがわかった。

【考察】
 本研究において、変異体と脂質環境といった複数の制御因子依存性の解析から、ミリ秒オーダーの開閉はpermeable状態とclosed’状態の構造平衡に対応し、両状態で開閉が異なるHBCがゲートとして機能することが明らかとなった(図8)。HBCが開口する際には、HBCを形成している膜貫通ヘリックスTM2が分子内側から外側へ移動することが必要である(図9)。ミリ秒オーダーの開閉におけるK+透過状態の割合が低下する変異体(A111V等)では、隣接するサブユニットのL105のコンフォマーが野生型とは変化し、TM2上のL110と立体障害を生じることでTM2が外側に移動するのを阻害する。一方で、ミリ秒オーダーの開閉におけるK+透過状態の割合が低下するPOPC割合が高い脂質組成では、脂質二重膜の側圧が高くなるため、TM2上の膜表面付近に位置するL110が外側から受ける圧力が高くなり、TM2が外側に移動するのが阻害されると考察した。
 このように、変異や脂質環境等の因子はTM2上のL110と相互作用することで、TM2の移動を抑制し、ミリ秒オーダーの開閉を制御していることが示唆される。したがって、このL110と相互作用し構造変化を調整する薬剤は、ミリ秒オーダーの開閉の異常によって生じる疾病の治療薬に繋がることが期待される。

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