リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

リケラボ 全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索するならリケラボ論文検索大学・研究所にある論文を検索できる

リケラボ 全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索するならリケラボ論文検索大学・研究所にある論文を検索できる

大学・研究所にある論文を検索できる 「非共有結合を介した小麦タンパク質の挙動解析に基づく新規生地形成モデル」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

コピーが完了しました

URLをコピーしました

論文の公開元へ論文の公開元へ
書き出し

非共有結合を介した小麦タンパク質の挙動解析に基づく新規生地形成モデル

岩城, 全 筑波大学

2022.11.28

概要

パン製造において、ミキシングはその後の二次加工適性を決める最も重要な工程である。小麦粉に水を加えてミキシングすると、小麦粉に含まれるタンパク質が水和し、生地強度が高くなり、グルテンネットワークを形成する。グルテンは生地物性を特徴づけ、二次加工適性に大きく影響するため、グルテンの構造や形成メカニズムが解明されれば、その知見は、育種や小麦粉製品の製造等、幅広い分野で活用できる。これまで、多くの研究者がグルテンの構造や形成メカニズムに関する研究を続けているが、未だに解明されていない点が多い。

これまで多くの研究者が提示しているグルテンネットワークの構造は、タンパク質の SS 結合を中心としている。また、多くの研究者がミキシング中の SS結合の挙動を解析し、グルテン形成モデルを提案している。その一方で、タンパク質の非共有結合を直接測定する方法がないことから、グルテンタンパク質の非共有結合に関する知見は少ない。そこで本研究では、これまで知見が少なかったタンパク質の非共有結合に焦点をあてて非共有結合を介するタンパク質の挙動を解析し、生地形成モデルを提案することを目的とした。

1. ミキシング中のタンパク質のサイズ分布と非共有結合を介するタンパク質の挙動
試料には外国産小麦から製粉したパン用の 2 種類の小麦粉を使用した。小麦粉に塩と水を加えてピンミキサーでミキシングし、ミキシング中の各段階(ミキシング開始時、ミキシングカーブ上昇開始時、ミキシングピーク時、ミキシングカーブ下降終了時、オーバーミキシング時)で生地を採取し、様々な試験に供した。

ミキシング各段階の生地に 0.5%ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)含有 50 mMリン酸バッファーを加え、ホモジナイズおよび超音波処理でタンパク質を抽出したところ、抽出率は 91~93%で、ミキシング各段階の抽出量に有意差はなかった。これにより、生地中のほとんどのタンパク質をサンプル横並びで比較できる方法を確立することができた。タンパク質抽出液をサイズ排除高速液体クロマトグラフィーで分析したところ、ミキシング中にタンパク質凝集体が増加し、タンパク質単量体が減少した。また、高分子(分子量:1×106~108)のタンパク質凝集体が減少し、低分子(分子量:1×105~106)のタンパク質凝集体が増加した。サイズ排除高速液体クロマトグラフィーは排除限界があり、サイズの大きいタンパク質凝集体が分離しきれないため、排除限界がないフィールドフローフラクショネーションを行った。その結果、ミキシング中巨大サイズ(分子量:1×108 以上)のタンパク質が減少した。これらの結果は、ミキシング中にタンパク質凝集体のサイズが減少する一方、タンパク質単量体が凝集することを示唆した。

ミキシング中に凝集するタンパク質単量体の同定を二次元ディファレンスゲル電気泳動法(2D-DIGE)により行った。その結果、主にω-グリアジンがミキシング中に凝集することがわかった。

SDS はタンパク質の SS 結合は切断せず、非共有結合を切断する。ミキシング中のタンパク質の非共有結合の挙動を解析するため濃度の異なる(0.5%、 0.3%、0.1%)の SDS バッファーでタンパク質を抽出し、SE-HPLC 分析を行った。0.5%SDS 可溶性タンパク質凝集体量から 0.3%SDS 可溶性タンパク質凝集体量を差し引いたものを強い非共有結合で凝集したタンパク質凝集体量、 0.3%SDS 可溶性タンパク質凝集体量から 0.1%SDS 可溶性タンパク質凝集体量を差し引いたものを中程度の非共有結合で凝集した凝集体量、0.1%SDS 可溶性タンパク質凝集体量を弱い非共有結合で凝集した凝集体量として算出した。その結果、ミキシングピークまでは強い非共有結合で凝集したタンパク質凝集体量が減少して、中程度の非共有結合で凝集した凝集体量が増加し、ミキシングピーク以降、中程度の非共有結合で凝集したタンパク質凝集体量が減少して、弱い非共有結合で凝集した凝集体量が増加した。この結果は、ミキシング中にタンパク質凝集体の非共有結合が弱くなることを示唆し、タンパク質凝集体のサイズが減少する一因であると考えられた。

以上の結果から、生地形成中にω-グリアジンが非共有結合により凝集する一方でタンパク質凝集体の非共有結合が弱くなり、サイズが小さくなることが示唆された。

2. ミキシング中の疎水性相互作用を介するタンパク質の挙動
小麦タンパク質にはイオン性基はほとんどないが、疎水性アミノ酸が 35%以上含まれており、グルテン形成には、疎水性相互作用が最も重要な非共有結合であると考え、ミキシング中の疎水性相互作用が介するタンパク質の挙動を解析した。有機溶媒は、タンパク質間の疎水性相互作用を弱める。タンパク質間の強い疎水性相互作用を弱める溶液として 30%1-プロパノールを、タンパク質間の弱い疎水性相互作用を弱める溶液として 10%1-プロパノールを用いた。

ミキシング中 30%1-プロパノール可溶性タンパク質が増加し、ミキシング中に疎水性相互作用が弱くなることを示した。また、ミキシング後半、30%1-プロパノール可溶性タンパク質単量体は減少し、タンパク質単量体が疎水性相互作用により凝集すると推察された。2D-DIGE により疎水性相互作用により凝集するタンパク質は主にω-グリアジンであるとわかった。

10%1-プロパノール可溶性タンパク質は、加水時に大きく減少し、その後の動 きはわずかであった。これは加水時に弱い疎水性相互作用によりタンパク質が 凝集することを示し、2D-DIGE によりそのタンパク質は LMW-グルテニンやα、 γ-グリアジンであると同定した。

小麦粉に疎水性の環境になると蛍光を発する 8-アニリノナフタレンスルホン酸を加えてミキシングし、生地表面の疎水性の挙動を評価した。ミキシングピークまで、表面疎水性が増加し、その後わずかに減少した。また、小麦粉に凝集性により蛍光を発するチオフラビン T を加えてミキシングし、生地表面の凝集性の挙動を評価した。ミキシング中生地表面の凝集性は高くなり、ミキシングピークより少し後から凝集性がわずかに低くなった。ミキシング中タンパク質の疎水基が露出し、その後露出した疎水基どうしが相互作用し凝集体が生成すると考えられた。

以上の結果から、生地形成中のタンパク質の疎水性相互作用は、次のような挙動を示すと考えられた。まず、もともと比較的強い疎水性相互作用で凝集していたタンパク質の疎水性相互作用がミキシングピークまで弱まり、タンパク質の凝集体が単量体(主にω-グリアジン)にバラバラになる。同時に、疎水基が露出し、表面の疎水性が高まる。いくつかの単量体タンパク質(例えば、α-グリアジン、γ-グリアジン、LMW-グルテニン)は、加水中に比較的弱い疎水性相互作用によって凝集する。ミキシングピークの後、露出した疎水性タンパク質同士が相互に作用し、ω-グリアジンが凝集する。比較的強い疎水性相互作用は、タンパク質が凝集する間に弱まるため、疎水性相互作用は一定のレベルで収束する。

この挙動は非共有結合の動きと類似しており、非共有結合の中で疎水性相互作用が大きな役割を果たしていると考えられた。

3. ミキシング中の自由水の挙動解析と非共有結合及び疎水性相互作用を介するタンパク質の挙動の再現性の確認
ミキシング中の自由水・結合水の挙動を示差走査熱量計により解析した。ミキシングピークが上がり始める時まで一気に自由水が減って結合水が増え、その後ゆっくりと自由水が減少し続けることがわかった。
生地の粘弾性のバリエーションが大きい国内産強力系小麦 3 種類(生地強度の弱い順に「つるきち」、「春よ恋」、「ゆめちから」)のタンパク質の分子量分布、非共有結合、疎水性相互作用を介するタンパク質のミキシング中の挙動を解析した。それらの挙動が、外国産小麦から製粉した 2 種類の強力粉とほぼ同様の挙動を示したことから、これらの挙動が強力粉に共通して起こる現象であることを確認した。

4.生地形成モデルの提案
ミキシング中のタンパク質の分子量分布、非共有結合と疎水性相互作用を介するタンパク質の挙動、生地の自由水の挙動の解析結果を合わせ、以下の生地形成モデルを提案した。

ミキシング開始時点では、小麦粉は粘弾性がない。小麦粉が吸水することによりグリアジンに粘性が、グルテニンに弾性が生じる。小麦粉が吸水すると、小麦粉成分と水の接触が増えていくために自由水は減り、結合水が増えていく。グリアジンの粘性によりグリアジンはグリアジンやグルテニンとつながり、生地全体の粘弾性が増す。ここまでの記載は、一般的に言われているグリアジンとグルテニンの性質をもとにしたイメージである。

ここから先の記載は、本稿で得られた知見をもとにしている。自由水の減少は、ミキシングカーブが上昇し始める時にほぼ終了する。その間、タンパク質凝集体 の非共有結合(主に疎水性相互作用)が弱くなる一方、弱い疎水性相互作用で LMW グルテニンや α、γ-グリアジンが凝集する。

ミキシング前半、タンパク質凝集体の非共有結合(主に疎水性相互作用)は弱くなりタンパク質のサイズが小さくなると同時にタンパク質の疎水基が露出する。一方で、タンパク質単量体(主にω-グリアジン)が疎水性相互作用で凝集する。

疎水性相互作用が弱くなり、タンパク質凝集体のサイズが小さくなる一方で ω-グリアジンが疎水性相互作用で凝集する動きは、ミキシング後半にも続く。サイズがさらに小さくなるために生地の弾性は低下する。

上記のモデルは、強力粉に共通に起こるモデルであると考えられた。

全国の大学の
卒論・修論・学位論文

一発検索!

この論文の関連論文を見る