Studies on Electro-Mechano-Optical Transducer for Signal Detection of Nuclear Magnetic Resonance
概要
Electro-Mechano-Optical (EMO) NMR は,窒化ケイ素薄膜を介してラジオ波信号を光学領域へアップコンバージョンする新しい NMR(Nuclear Magnetic Resonance)信号検出技術であり,NMR の低ノイズ検出技術として期待されている.しかし,EMO NMR は原理実証には成功していたものの,実用化には程遠かった.EMO NMR を化学分析にも利用するためには,EMO NMR の高感度化,動作の安定化,装置の小型化の3点において改良が必要であることがわかった.申請者は本論文で,以下のようなアプ➫ーチでこれらの問題の解決を図った.
・電気信号を薄膜の信号に変換するためには,それらの周波数差を埋めるようなドライブ信号を入力する必要がある.EMO NMR の先行研究では,ドライブ信号の周波数が観測したい信号の周波数と近いことによって,ドライブ信号の位相雑音が混入し,EMO NMR の感度を著しく下げていた.そこで,ドライブ信号の周波数を観測周波数から離すために,薄膜振動子を軽量化し,薄膜の周波数を 180 kHz から 430 kHz に上昇させた.これにより,ドライブ信号の混入を防ぐことができ,EMO NMR の感度が約 20 倍向上した.また現行の EMO NMR は,薄膜の固有振動の減衰が 10 ミリ秒程度の時定数を持つために,帯域幅が減衰時間の逆数の 100 Hz 程度に限られることも新たに明らかにした.
・薄膜に蒸着した金属を光学的な鏡として用いていたため,金属が吸収したレーザーが熱に変換され,装置を不安定にしていた.そこで,薄膜上で光を反射する鏡部分を,金属蒸着した電極部分から空間的に分離し,メタサーフェスと呼ばれる構造に置き換えた.そして,作成した薄膜の (2, 2) モードの振動を用いてラジオ波を光変換した.メタサーフェスは薄膜上に周期的に穴パターンを開けた構造であり,特定の波長の光を高い反射率で反射する.メタサーフェスを用いることにより薄膜の光の吸収を抑えられ,振動測定を長時間,安定的に行えるようになったことを実験的に示した.
・安定な光学装置を組むためには,通常大型の光学定盤上で精密なアライメントを要する.しかし,化学分析用の NMR で用いられる磁場均一度の高い超伝導マグネット中で EMO NMR 測定を行うためには,限られたスペースの中で光学装置の精確なアライメントを行い光検出する必要がある.その実現のために,超伝導磁場と互換性のある小型な EMO NMR プローブを作成した.そして化学分析で広く用いられる NMR 手法である INEPT(Insensitive Nuclei Enhanced by Polarization Transfer)法を適用したベンゼンの炭素 13 核の NMR 信号を光変換して取得した.