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「理系+αで広げる・広がるキャリア」では、1回目は英語、2回目はコミュニケーションをを取り上げました。今回はリーダーシップを取り上げます。リーダーシップの要素はいろいろありますが、この記事では前回お話ししたコミュニケーションスキルを一歩進めて、リーダー職として必要なコミュニケーションについて考えてみましょう。
以下はエンジニア・研究職の方のキャリアパスと必要なスキルを簡単にまとめた図になります。業界・企業によって他の職種もありますので、あくまで簡略図ととらえてください。前回取り上げたコミュニケーション力と同じくらい、リーダーシップはどのような職種・階層であっても重要なスキルです。リーダーシップについてはビジネス書などの多くの書籍で扱われていますので、本記事では、理系人材によくある具体的な場面におけるリーダーシップに焦点を当ててお話していきます。
理系職種・階層ごとに必要とされるスキル
リーダーシップはなぜ重要なのか?
ITエンジニアに限らず、製造業の技術職、エンジニアリングに携わる方々は、20代後半から30代前半になると、リーダー職に就くことが多いのではないでしょうか。
リーダーになれば、チームとしての成果を上げる・他部門との交渉をするなど、これまでエンジニアとしてはそれほど必要ではなかった業務に多くの時間を費やすことになります。また、プロジェクトマネジャーのように直属ではない人を動かす場合も増えてくることと思います。
また、昨今の技術の複雑化・高度化・大規模化により、異なった技術のメンバーとの協業がますます多くなっています。そのため、多様なバックグランドを持つメンバーをまとめるプロジェクトマネジャーの役割はますます重要になっています。
リーダーシップとは?
一般的にリーダーシップとは、ビジョンを明確にして目標達成へ導く力のことです。プロジェクトの目標を達成するために、目指す方向性を示し、メンバーのモチベーションを維持し、課題を発見したら必要なタイミングで修正を加え、目標達成に向かっていきます。具体的には、ビジョン構築力やそれを言語化する力、決断力、状況により修正する柔軟性など、様々な要素から構成されます。
▍リーダーシップはスキルである
まずお伝えしておきたいのは、リーダーシップは、経験により身に付けられるスキルであるという事です。
文系出身で営業部に配属された方と、理系出身で研究開発部に配属された方の日々の業務について想像してみてください。営業であれば、顧客からの問い合わせ・依頼に対して、社内・社外含めさまざまな方に対応をお願いし、それを顧客に回答する事が主な業務となります。つまり、毎日様々な部門の方に何かしらの業務をお願いし、コミュニケーションをとります。
一方、研究開発であれば、一つのタスクにじっくりと取り組み、上司に相談しつつも、自分の中でほぼ仕事が完結する業務が多く、人に業務を依頼する機会は少ない傾向があります。コミュニケーションも技術中心の限られたメンバーだけになりますので、最低限の説明で問題ありません。
このように、全く異なる経験を数年も積み重ねれば、理系の方が文系職の方に比べて、コミュニケーションやリーダーシップに苦手意識を持ちやすいのは当たり前かと思います。ですが、もし理系の皆さんがある日突然リーダー職となり、苦手意識を持っても、これからのご自身の意識・経験の積み重ねでリーダーシップスキルは身に付けられますので、心配しなくて大丈夫です。多くの研究が示すように、リーダーシップはトレーニングにより身につけられるスキルです。
理系におけるリーダーシップの実践
リーダーシップに関する書籍は多く出版されており、リーダーシップ理論も数多く研究されています。ここではあくまでも、理系職の現場でメンバーをまとめるリーダーのコミュニケーションという観点でお伝えします。
1. 業務の背景や目的を説明する
リーダーはビジョンを明確にすると書きましたが、ここでは皆さんが所属する部署の目標やゴールととらえてください。それを、メンバー全員が理解できるように分かりやすく説明することが重要です。
部下・チームメンバーに業務を依頼する場合、それは全体プロジェクトの一部のタスクとなります。リーダーには全体像が見えていますが、メンバーはそこまで分かっていない場合もあります。例えば、製品評価のうちAの測定を依頼する場合、様々な依頼の仕方があるかと思います。
A)「Aの測定を来週月曜日までにやってください」
B)「Aの測定をやってほしいけど、いつまでにできそうでしょうか」
C)「XプロジェクトでA/B/Cの測定が必要で、その中のAをお願いできますか、いつまでにできそうでしょうか」
D)「Xプロジェクトで顧客要求を確認するため、A/B/Cの測定が緊急に必要です、その中のAをお願いできますか、いつまでにできそうでしょうか」
状況によってさまざまな依頼の仕方がありますが、背景を全く説明しないAの聞き方で、皆さんは測定を張り切ってやる気になるでしょうか?なぜAの測定をやるのか、なぜ月曜日までなのか、いろいろと疑問が湧いてくると思います。
Bは相手の予定を聞いていますので、Aよりは良いかもしれません。C/Dは背景や緊急度を具体的に説明しています。測定者自身からも、「自分はAよりBの測定のほうが慣れているから早くできそう」や「測定結果の期待値は〜」など、このあと詳しく会話ができるでしょう。
コミュニケーションの回でもお伝えしましたが、理系は効率性を重視する傾向があるので、会話もできるだけ短い時間で済まそうとします。効率的なのはいいのですが、人に何かを依頼する場合、なぜそれを依頼するのか、重要度・納期・他業務との優先順位など説明する必要があります。
背景を伝えないと測定結果のチェックもこちらでやる事になり、データのまとめ方が期待と異なっているなど、結果的により多くの時間を割くリスクもあります。
2. 目的を伝え、やり方は人に任せる
理系のリーダーはいわゆるマイクロマネジメント(=上司やリーダーが部下や新人の行動を細かく管理・チェックし、過干渉してしまうマネジメント)になる傾向が強いかもしれません。
自分のやり方が効率的だと考えており、部下・メンバーにも自分のやり方を押し付けてしまうような形で現れます。もちろん、入社したばかりの新人の方には目標だけではなく、進め方も指導する必要はありますが、ある程度経験のあるメンバーには、背景・ゴール・スケジュール等を説明したら、仕事の進め方は任せましょう。当然メンバーの力量・経験は異なりますので、経験の浅いメンバーには進捗確認の頻度を上げる(週1回の確認を週3回にするなど)などの方法で対応します。
理系人材の場合、課題に対して一人で集中して仕事を完結させることが多いです。スケジュールは決まっていますから、その限られた時間の中で、自分なりにどのように工夫し効率化するか(例えばExcelでマクロを組むなど)に喜びややりがいを感じることも多いでしょう。上司・リーダーはやり方には口をはさまず、メンバーが業務に集中できる環境を作るべく、外部からの問い合わせ・質問に対応します。
リーダーから細かく注意をされると、自分はその人から信用されてないと感じ、業務へのモチベーションは下がります。逆に任せてもらえていると感じれば、より高い成果を出せるよう、集中して仕事に取り組みます。皆さんが過去一緒に仕事をしていた理系リーダーの方は、どのようなタイプだったか、どんな人と仕事がやりやすかったかを、ぜひ思い出してみてください。
3. チームの成果を意識する
皆さんがプロジェクトのリーダーに選ばれた当初は、同じ業務をメンバーが取り組む際、もっと良いやり方があると助言したくなったりもするでしょう。しかし、あなたの業務はチーム全体の成果を上げることで、細かいタスクに一つ一つ口を出すことではありません。ぜひ、自分の仕事は「チームでの成果」だと、日々意識していただきたいと思います。それによって、あなたの意識・思考・行動もリーダーのものへと変わっていきます。
理系リーダーの場合、技術者として優秀な方がそのままリーダーに選ばれるケースも多いでしょう。技術について誰にも負けたくないと思っているプライドの高いリーダーは、分からないことをメンバーに質問できないかもしれません。しかし、「チームでの成果」さえ上がれば、あなたが技術に詳しいかは重要なことではありませんし、チーム内も人によって技術の得意・不得意分野はあります。むしろ、分からないこと・知らないことを謙虚にメンバーに聞いたほうが、メンバーの発言のハードルが下がり、困った時に気軽に相談できる雰囲気が生まれます。チームに活気があり、様々な困難も乗り越えるためには、どのような発言も許容する心理的安全性(=Googleが注目した成功するチームの共通点)が重要で、リーダーの日々の発言・行動はそこに大きく影響します。
リーダーシップを身に付けるには?
リーダーシップは経験により身に付くと述べましたが、具体的にどのような経験をすれば良いのでしょうか。学生時代であれば、サークル活動の代表をやりリーダーシップを身に付けたと就活で説明したかもしれません。社会人になっても、普段から自分で意識することによって、社内・社外ともいろんな場面で経験を積むことができます。
1. 自分から発言・提案をする
もしあなたが会議で自分から発言をしないタイプであれば、自分の業務が関わる会議の場では、できるだけ自分から発言してみましょう。発言することに不安を感じるならば、まずは打ち解けているメンバーの場を利用するのも良いでしょう。どんな大きな課題も、自分ができそうなスモールステップに落とし込み、それを続けることでだんだんと慣れていきます。
慣れてきたら思い切って、自分の提案を言ってみたり、自分から会議を設定したりするなどレベルを上げていきます。社内でリーダーシップがあるなと思う人をよく観察して参考にすることも良いでしょう。
2. 相手の話をよく聞く
将来リーダー職につく・部下を持つようになると「聞くスキル」が非常に重要になります。理系人材の場合、効率性や過去の経験から、「通常は○○にするけど」とか「○○すべきでしょう」など、相手の話が終わる前に口をはさんでしまうことも多いかもしれません。メンバーはリーダーからこのように言われれば、反対意見は言いづらいでしょう。
普段の会議やちょっとした打ち合わせの場で、相手の話をよく聞く癖をつけましょう。特に重要と思われる場だけでいいので、相手の話に耳を傾け、表情や声のトーンまで注意を払い、聞いてみましょう。聞いている間、自分の感情・意見が湧いてきますが、それは一旦脇に置いて、聞くことに徹するのです。将来リーダーになって、部下・メンバーの話を聞く際にはこのような経験が必ず役に立ちます。話をきちんと最後まで聞いてくれて、それからコメントをしてくれるリーダーは、メンバーから信頼されます。
3. フラットな人間関係を学ぶ
会社の組織は基本的に階層なので、社内には様々な利害関係が存在します。リーダー職または上司になると、メンバーまたは部下が自分の依頼に従うのは当たり前だと思うようになり、次第に依頼の仕方も雑になるかもしれません。
しかしリーダーシップとは、「リーダーが目指す方向性を示し、メンバーのモチベーションを維持し、目標達成に向かう」ものであり、利害関係のある上司の指示だから仕方ないとメンバーが感じて行うものではありません。
一方、自治会や趣味のサークル、NPO組織でのボランティア活動などのフラットな関係性であるグループではどうでしょうか。毎月活動するとか会議をするのであれば、ある程度役割分担は決めますが、リーダーが提案してもさまざまな意見や反対意見も出るかもしれません。そのような場で、メンバーをまとめあげるというのは、会社組織とは全く異なる大変さがあります。ぜひ、このようなフラットな人間関係の場に身を置いてみることをお勧めしたいです。
以上、理系リーダー職として身に着けたいコミュニケーションについてまとめました。皆さん、できそうなことからぜひトライしてみてもらえたらと思います。
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