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グループディスカッションとは
就職活動におけるグループディスカッションとは学生同士(5~8人程度)が、ある1つのテーマについてやりとりを通して、何らかの結論を導こうとする議論のことです。ある目的に向けてグループで議論を進める過程において、応募者がどのような役割を果たすか、その様子を採用担当者が評定シートなどを用いて評価します。今回は、このグループディスカッションについて、どのように取り組むことが望ましいのかをアドバイスいたします。
グループディスカッションが選考に利用されるようになった経緯は、ドイツ軍の将校選抜のために用いられていた集団場面検査を取り入れたことが始まりとされています。
グループディスカッションを用いた選考は、他の採用方法と異なり、個人が討議の進行の中で様々な役割を選ぶことができ、その役割選択の中に個人の特性が表れてくると考えられたためですが、その重要性は年々増してきています。
2022年4月に経団連と全国の大学の関係者でつくる「採用と大学教育の未来に関する産学協議会」から新卒の採用活動に関する重要な方針が報告されました。それらを元に三省合意改正で、一定の基準を満たしたインターンシップで企業が得た学生情報を、広報活動や採用選考活動に使用できるよう見直しました。そのため、インターンシップの選考にもグループディスカッションやグループ面接を取り入れる企業が増加しています。
様々なグループディスカッションの形式
ここでは、グループディスカッションの様々な型をご紹介します。提示されるグループディスカッションの型は、企業によって異なりますが、テーマを出された時に、どういうディスカッションの方法なのか知っておくと安心材料に繋がります。また、時事ネタに基づいたテーマが出されることがあるので、普段からネットや新聞でニュースを見る、もしくは大学の図書館で時事本を読むと良いでしょう。
【企画立案型】
新商品の開発、新規事業の考案、などといったテーマが与えられます。
例:植物を使った斬新な新商品の提案
過疎地や離島の配達方法を開発
【ディベート型】
あらかじめ賛成派と反対派の立場、明確な立ち位置が与えられ二手に分かれたうえでテーマについて議論を行います。
例:旅客車両の無人化に賛成か反対か?
居住地を選ぶなら都会か田舎か?
【課題解決型】
問題・原因を探り、解決策を提示することを目的とします。
例:SNSを使い、純利益を10倍にするには?
花粉症患者を減らすには?
【フェルミ推定型】
一般的に測定不能・検討が難しいような数字について、いくつかの手がかりを元に論理を組み、計算して答えを出します。
例:日本のアレルギー保持者の人数は?
日本のマンホールの数は?
【抽象討論型】
抽象的なものや、一見バラバラで不明瞭なものを、具体的な言葉で結論を導き定義します。
例:良い企業とは?
社会人のモチベーションとは?
【選択型】
複数の選択肢から検討し、テーマにふさわしい回答を絞り込みます。
例:グループから合格者を一人選ぶ。
新規工場を設置するにはどこが良いか?
ディスカッションの流れ
グループディスカッションに苦手意識を持たれている方もいらっしゃると思いますが、理系学生の皆さんの多くは、ポスター発表など研究の要旨をまとめてプレゼンをされた経験があると思います。研究における大量の情報を1枚の用紙に収めた経験を思い出してください。限りある時間の中で、フレームごとに区切りながら流れを決めて発表されたことでしょう。グループディスカッションも同様です。ある程度頭の中で流れのフレームを置いておき、それに従って進行していくと、余裕をもって取り組むことができます。
以下、グループディスカッションの流れとコツを、順を追って紹介します。
【導入】
たいていの採用選考は、担当者から説明とともに「テーマ」が提示され、制限時間を決められます。ディスカッションの進め方や時間配分、役割分担などの決定は、学生に任されるケースが多いですが、Aさん~Dさんなどとして割り当てられることもあります。開始合図とともに、簡単な自己紹介など挨拶を交わし、スケジュールを決めていきます。下記のように役割を分担すると、討論がスムーズに進行できます。
・司会(リーダー):チームの意見をまとめながら全体の進行を担当。
独りよがりな進行ではなく、未発言者に促すなど全体を把握します。
・書記:討論の内容を整理して書きとめます。記入に没頭しないよう注意。議論が反れない様、軌道修正や対立点をメンバーに共有するなど、積極的に発言できます。
・タイムキーパー:時間配分を管理し、現在の議題に使える時間を共有します。(議論を始める前に、終わりの時間から逆算して時間配分すると効率的に議論をすることができます。まとめや発表の練習時間も忘れずに。
例:役割分担・前提条件把握2/10、原因考察2/10、解決策提案5/10、まとめ・発表準備1/10)
・発表者:発表がある場合は、決められた時間内でまとめを発表します。
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【アイデア抽出】
個人の意見をまとめ1~2分程度で順番に課題の提起を発表していきます。
各自の意見のうち、何を中心に議論を進めるのか要素(ポイント)を絞って論点を整理します。テーマの定義づけをして共有することや5W1Hを意識し、明確化することが大切です。
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【検証】
理想⇒現状⇒ギャップ(メリット・デメリット・課題)⇒結論(話す際は結論ファーストで)。
グループとして結論やまとめなど、課題に対する対応策を導き出します。正しいか正しくないか?よりもグループで共通認識が形成できているか?を大切に。時間があれば、修正や付け足しを確認しましょう。
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【発表準備・まとめ】
発表の概要を全員で確認します。まとめるだけで、発表を行わない場合もあります。
発表は企業にもよりますが、2分程度です。一般的なアナウンサーが話すスピードで1分間300字程度ですので、主内容は500字程度にまとめるのが良いでしょう。議論が途中で終わることがないよう、制限時間内に討論を終了させることを意識して。時間内に「討論は以上です、ありがとうございました」と挨拶し終了しましょう。
採用担当者が重視していること
経済産業省が2006年に提唱した「社会人基礎力」とは、「前に踏み出す力」、「考え抜く力」、「チームで働く力」の3つの能力から構成されています。これらは職場や地域社会で多様な人々と仕事をしていくために必要な基礎的な力で、社会人として活躍するために身に付けることが望ましいと産業界が考えている能力です。グループディスカッションは、この社会人基礎力がどの程度身に付いているか、今後伸ばすことができる素養があるか、を確認するのに有効とされています。
社会人基礎力は多岐にわたり、すべてを備えるとなると不可能に感じられるかもしれませんが、就活の時点で完璧である必要はありません。企業の採用担当者が知りたいことは、『一緒に働ける人か、自社で役に立つ人か』です。
企業は活躍している自社の社員のデータを匿名で、入社時より様々な角度から集積していることがあります。もちろんすべての企業がそうとは限りませんが、それらを参考に将来活躍できうる人物像を捉え想定します。職種によって求められるスキルは異なるものの、その企業にフィットする人物像や方向性を明確にし、各採用担当者によってばらつきが出ないように共有されています。
そして、ディスカッションを仕事の場面と近似性のある状況と見立て、参加者の個性を見極めます。筆記試験、個人面接、グループ面接である程度わかる表層的な部分(態度・知識・技能)以外の学生の一面を、グループディスカッションで把握するのです。
前回の記事でもご紹介しましたが、企業や団体で働くうえでは、どんな仕事も協働して行うことが多く、一人では成り立ちません。チームで働くことができる人物かは重要なチェックポイントと言えるでしょう(チームで働く力)。企業の規模によっては、話している内容より重視する採用担当者もいます。
また、成長意欲があるかを捉えることも忘れません。グループディスカッションの短い時間内であっても、採用担当者は、一人ひとりの適性や能力を多角的に評価します。ディスカッション中は没頭しすぎていたり、時間の経過に伴って素の自分が出てしまったりする瞬間を、採用担当者は注目しているのです。
グループディスカッションを行う上でのポイント
「見える(見た目・話し方)」と「見えない(人間性)」それぞれを理系の特性を活かして磨き、相手に伝わる表現力を身に付けましょう。
グループディスカッションでは、メンバーとのコミュニケーションを通じて、積極的に関わり意見を言える人が評価される傾向にあります。普段あまり議論を経験していない人が、いきなりその場面において進行するのは容易ではないと思います。役割を与えられた場合など一概には当てはまりませんが、いずれかを押さえて経験値を高め、攻略しておけると良いでしょう。
理系学生の皆さんにおススメしたいのは、日々の実験実習や研究で培った、論理的思考力や分析能力といった力を活かし、発揮することです。
特に複雑な問題の核心を迅速に見極め、論理的に整理することや、数値・データに基づく分析を通じて、グループ内で貢献できると思います。
私がこれまで国立・私立の理系学部生を支援してきた経験からすると、理系学生は、「ある特定な領域に注目できる」、「データや結果を視野に入れる」「客観的な意見を出す」のが得意な傾向にあると感じています。
一方、一つのことに没頭するあまり「俯瞰的に物事を見ること」や、「妥協する(柔軟に反対意見を受け入れる)こと」を得意とされていない学生が多いようにも感じます。反論をすぐに素直に受け入れていては、研究を追及できませんから、ある意味自然なことではありますが、産業界で働く場合は、柔軟性も大切となってきます。
例えそれが正論であったとしても、様々な角度で俯瞰的に見れば、企業の先にはカスタマーや社会貢献が存在します。自分の研究のためだけであれば、妥協は必要ないと思います。しかし、多くの人と協働し、より良い結果を実現するには必要となる場合もあることを考慮してください。
とはいえ、自説を曲げる必要はありません。少数意見が新たな転機を作る場合もあります。ただ、他者への敬意と尊重が基盤になければ、効果的な解決策であったとしても、良い結果を得られないということなのです。自己満足ではなくチームとして最善な解決策を出すために、明確な根拠と一緒に提案しつつ、周囲と協力しながら議論を進めていきましょう。
周囲の意見に納得できないと思ったら「今の自分はチームに貢献できているだろうか?」と自分を客観視してみるのも良いでしょう。
グループディスカッションで押さえておきたいポイント
採用担当者はまず、確認ポイントをMUST、BETTER、BESTと大まかに分類して、応募者を評価することが多くあります。具体的にどのようなことを見ているのか挙げてみました。
〔MUST〕
態度 |
頷きなど、ほかのメンバーに対して敬意を払えているか。 相手の意見に理解しようと耳を傾け、議論に積極的に参加し、意欲を見せるようにしましょう。 |
素の部分 |
礼儀正しく振舞えているか、姿勢が緩んでいないか。 普段の言葉使いが出ないようにしましょう。 |
役割 |
チームの中で、どのような役割を果たしているのか。 チーム全体の効率化を図りましょう。たとえ何かの役割になっていなくても、発言のチャンスは随所にあることを忘れずに! |
論理性 |
論理的コミュニケーション能力があるか。 結論ファーストで、自分の考えを論理的に簡潔に伝えましょう。 |
グループディスカッションにおいての「MUST」は、目線は下がったり、上に向いたりしていないか?声はみんなに届いているか?姿勢や表情は穏やかであるか?足組みや肘はついていないか?など基本的なこともみられています。
同じ言葉を発しても、その人の態度によって受ける印象が変わります。そして異なる印象や影響を与える可能性がありますので、伝わり方までをイメージするといいでしょう。
〔BETTER〕
協調性 |
対等な議論に持ち込めているか。 専門用語など頻繁に使用すると共通の理解が促せません。また、発言しないということは、回答用紙を白紙で出すようなものです。メンバー全員に発言の機会の提供を意識しましょう。 |
客観性 |
客観的な視点があるか。 流れを汲み取り、不明な点があれば積極的に質問し、議論を深めてみましょう。 |
時間配分 |
最終目標時間を逆算して時間配分ができているか。 時間配分を意識し、チームで共有しながら議論を円滑に進めるようにしましょう。 |
調整力 |
最適な判断をチームとして導けるかどうか。 異なる意見を調整し、折り合いのつく案を提案してみましょう。皆で持ち合わせた知識やアイディアをまとめ結論へと導くことができるかの調整を行います。結果ではなく、情報を整理し、過程も大切にしましょう。 |
グループディスカッションで、自分自身が周囲の状況とバランスをとりながら関わり、つり合いのとれた状態にすることができる能力があると「BETEER」です。集団で話し合っていると、自分の知らなかった情報が得られたり、異なる立場の異なる見方に触れたりすることで、自身の意見が揺れることがあります。そんな時にどのような行動を取るのかが問われます。「同調」ではなく「深化」を意識し、集団浅慮に陥らない工夫を心がけましょう。集団だからこその相互的なコミュニケーション・共有された問題解決や目標達成を目的としたコミュニケーションを心がけます。また他の人と同じ意見であっても『賛成+α』で自分の意見を伝えてみましょう。
〔BEST〕
説得力 |
論点を整理し、理解を得られる考えが伝えられるか 相手の意見に対して、建設的な反論を行い、停滞している議論の発展に寄与しましょう。 |
着眼点 |
新しい視点や独自性のアイデアの提案があるか。 議論が行き詰った中では、発想の転換も大切です。 |
柔軟性 |
属するグループ(団体)の特性を理解しているか。 一つの意見に固執せず、他のメンバーの意見も尊重することや、他の意見に耳を傾けることにチャンスが潜んでいます。 |
グループディスカッションでの「BEST」は、ゴールを意識できているかが鍵となります。
私たちの思考法は、主に「拡散」と「収束」の両方のベクトルがあります。「拡散」は、いろいろなアイデアを出して広げる、様々な角度から捉えるなどを指します。「収束」はどうまとめるか、どれが有効かを絞り込んで、深めていく作業です。
拡散させず、収束だけしようとすれば最初からネタが少ないままの収束となり、良い結論が得られにくくなります。また、逆に拡散させる一方だと議論の成果がよくわからなくなってしまいます。もし早いタイミングで話が収束してしまいそうな場合は、これで十分な検討ができたかと提起してみることも大切です。議論の「拡散」と「収束」という一見、正反対な方向性を意識してみましょう。
グループディスカッションに向けて
人間が何らかの活動に取り組む背景には、「意欲」という心理的側面があります。意欲の要因は2つあります。「外発動機付け(外部からの働きかけ)」「内発動機付け(自身の内部から湧いてくる意欲)」です。後者のほうが活動に粘り強く取り組み、活動の質も高く、優れた成果に結びついていくことが明らかにされています。解決すべき問題、達成すべき目標など共通した目的を持った組織が「内発動機付け」により「協働」※した結果、仕事で成果を出せるのです。
※「協働」とは:同じ目的のために、対等の立場で協力し合いながら働くこと。
学生の皆さんは、是非ご自身の中から湧く意欲を大切にしてください。そのうえで企業から求められている人物像を具体的にイメージすることで、ふるまい方が変わってきますし、ディスカッション中のキャッチボールも的を得たものになっていきます。また、話し方に人柄が表れる、と言われているように、人間性や相手への配慮が表れる言葉選びを実践してみましょう。
冒頭でもお伝えしたように、企業は働く仲間を求めて採用選考を行います。恐れず、驕らず、一緒に研究できる仲間を想像して、取り組んでみましょう。可能であれば事前に、自治体やハローワークの「わかもの支援」や大学の「キャリアセンター」で練習してみてください。この記事が、グループディスカッションへの対策のヒントになりますように。皆さんを応援しています。
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