Relationship between structural and functional changes in glaucomatous eyes: a multifocal electroretinogram study
概要
【目的,緒言】
多局所網膜電図(mfERG)は,網膜神経節細胞(retinal ganglion cell)の機能を調べることが可能である。そのため,同部位が障害される緑内障において,その診断や機能障害の評価に関する mfERGの有用性については,これまで様々な検討がなされてきた。
当教室でも以前,mfERG を用いて黄斑の半径 5°以内で測定された鼻側,耳側の振幅比(N/T)が緑内障性変化の検出に有用であることを見出した。一方,他のグループにおいては,mfERG の明所視陰性反応(PhNR)と B 波の比率(PhNR/B)が緑内障性変化を捉える良いパラメーターになり得るとする報告もなされている。
mfERG から得られる N/T と PhNR/B は,どちらも緑内障の診断及び機能障害の評価に役立つ可能性があるものの,この両者のどちらがより緑内障の臨床評価に有用であるかを比較した報告は未だない。
そこで本研究では,同一緑内障眼を用いて N/T 及び PhNR/B の 2 つの mfERG パラメーターと,光干 渉断層計(OCT)による黄斑領域の形態計測値及び自動視野検査(SAP)による視感度との関連性を検討し,臨床的有用性について比較・検討した。
【対象と方法】
岐阜大学医学部附属病院を受診し,開放隅角緑内障と診断された患者のうち,本研究に同意が得られた患者を対象とした。患者選択基準は,-6.0 ジオプトリー(D)から+3.0 D の範囲の等価球面値,及び対数矯正視力(VA)0 以下(logMAR),かつ緑内障以外の眼疾患がなく,過去に内眼手術歴を有しない者とした。
形態学的評価のため OCT を用いて,黄斑部の平均厚及び黄斑部を 6 領域に分割し神経節細胞複合体(GCC)厚を測定した。また視機能評価のため,ハンフリー視野(VF)の 30-2 プログラムを 6 分割,10-2 プログラムを 5 分割し,その平均感度(MT)を使用した。これらに対して,mfERG 測定にはメイヨー社製 VERIS Science 4 を使用し,既報に則った刺激・測定条件で得られた 5°以内の N/T 及び 20°以内を 5 分割した PhNR/B を測定し,これらのパラメーターと上記測定値との相関を調べた。
なお,統計解析にはHuber-White robust サンドイッチ分散推定量を用いた多変量回帰分析を用い,有意水準はp< 0.05 とした。
【結果】
対象は 44 例 69 眼(男性 22 例,女性 22 例,右眼 32 眼,左眼 37 眼),平均年齢 59.4 歳であった。平均眼圧は 13.8mmHg,VF30-2 の平均偏差(MD)で分類した緑内障進行度は初期 40 眼,中期 13 眼,後期 16 眼で,緑内障の病型は原発開放隅角緑内障(POAG)17 眼,正常眼圧緑内障(NTG)52 眼であった。VF30-2 及び VF10-2 の平均 MD はそれぞれ-7.00 dB 及び-6.31 dB であった。GCC の平均厚は 95.6μm であった。N/T の平均は平均 0.83,区域分けした PhNR/B では中心で最も大きく平均 0.32,鼻上側で最も小さく平均 0.21 であった。
N/T と GCC 厚との比較では,鼻下側及び下方,耳下側網膜領域で有意な相関がえられた(相関係数 =-8.432,-7.916,-7.857,p 値=0.007,0.008,0.001)。また N/T と VF パラメーターとの比較では,上方,鼻上側及び耳下側の視野領域において有意な相関を認めた(相関係数=-4.302,-4.437,-0.864, p 値=0.020,0.045,0.026)。
一方,PhNR/B と GCC 厚または VF パラメーターの比較では,多く測定領域で有意な相関は得られなかった。耳下側領域でのみ PhNR/B は,GCC 平均厚と有意に相関し,耳上領域でのみ MT と優位な相関を示した(PhNR/B 対 GCC; 相関係数=4.823,p=0.012,PhNR/B 対 MT;相関係数=-1.632,p=0.013)
【考察】
N/T は PhNR/B と比し,多くの測定領域で GCC 厚や視感度と相関を示し,緑内障臨床においてより有用である可能性が示された。また,N/T と GCC 厚が上方網膜領域に比し下方網膜領域で優位な相関を示したことは,緑内障における形態的変化が下方網膜領域でより早期から起こり易いという疾患特性を,また N/T と MT が鼻上側や上方視野領域で相関を示したことは緑内障における視野障害の特徴を反映しているものと思われた。
本研究では,N/T,PhNR/B 共に緑内障の診断に有用である可能性は示したが,現段階では OCT や VFの精度に及ばない結果であった。将来,実臨床において mfERG を緑内障の診断に用いるためには,刺激野や測定条件の更なる検討が必要である。なお,PhNR/B が多くの領域において GCC 厚と優位な相関が得られなかった要因として,両者の測定範囲を完全に一致させることができなかったことが考えられ,今後の研究で改善する必要があると考える。
【結論】
N/T は,PhNR/B と比較し,多くの測定領域において OCT による形態計測値や視野検査による視感度と相関を示し,緑内障臨床においてより有用と考えられたが,緑内障実臨床に用いるには更なる検討・改良が必要と考えられた。