リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

リケラボ 全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索するならリケラボ論文検索大学・研究所にある論文を検索できる

リケラボ 全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索するならリケラボ論文検索大学・研究所にある論文を検索できる

大学・研究所にある論文を検索できる 「A scoring system to predict the elevation of mean pulmonary arterial pressure in idiopathic pulmonary fibrosis」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

コピーが完了しました

URLをコピーしました

論文の公開元へ論文の公開元へ
書き出し

A scoring system to predict the elevation of mean pulmonary arterial pressure in idiopathic pulmonary fibrosis

古川, 大記 名古屋大学

2021.07.16

概要

【緒言】
 特発性肺線維症(idiopathic pulmonary fibrosis, IPF)は慢性進行性の難治性線維性肺疾患で、平均予後は 3 ~ 5 年と予後不良な疾患である。平均肺動脈圧の上昇(mean pulmonary arterial pressure, MPAP; ≧ 21 mmHg)は IPF でしばしば合併し、予後不良因子として知られている。このため IPF における MPAP 上昇を早期に診断する事が重要であるが、MPAP 上昇を診断するためには侵襲的な右心カテーテル検査が必須である。
 しかし IPF と MPAP 上昇の臨床症状は労作時息切れや咳嗽など、両者でよく似た症状であるため、症状からの鑑別は困難である。IPF に伴わない MPAP 上昇を予測する一般的な方法は経胸壁心臓超音波検査であるが、IPF では MPAP 上昇の予測精度が高くない事が知られている。これまで MPAP 上昇を予測する他の確立された方法は無いため、いつ・誰に右心カテーテル検査を行うべきかわかっていなかった。
 そこで、右心カテーテル検査前に、非侵襲的な検査の組み合わせを用いた簡便なスクリーニングスコアを作成する。

【対象と方法】
 公立陶生病院で 2007 年 4 月から 2015 年 7 月に間質性肺炎の初回評価で IPF と診断された 20 歳以上の連続症例を後ろ向きに解析した。右心カテーテル検査に同意しなかった症例、右心カテーテル検査で肺動脈楔入圧(pulmonary artery wedge pressure, PAWP)> 15 mmHg だった症例、初回評価時に IPF や肺高血圧症の治療を行っていた症例は除外した。IPF の診断は、2011 年の IPF 国際ガイドラインに基づいて行った。また、CT 評価は右心カテーテル検査施行前 3 ヶ月以内に撮像した胸部高分解能 CT で評価した。
 胸部 CT における肺動脈径と大動脈径の測定は、臨床経験が 10 年未満の 2 人の呼吸器内科医師が測定し、検者間一致率を検討した。胸部 CT の線維化スコアと気腫化の広がりは、臨床経験が 28 年間の胸部放射線科医が、左右の肺野を、上・中・下の3領域に対してスコアリングを行った。
 MPAP 上昇群(MPAP ≧ 21 mmHg)と非上昇群(MPAP < 21 mmHg)を比較し、統計的に有意に差があった項目を抽出した。さらに変数増加法を用いた多変量ロジスティクス回帰分析により、MPAP 上昇を予測する因子を抽出した。抽出した因子を用いてスクリーニングスコアを作成し、AUC 曲線による精度評価を行った。外的妥当性を評価するために、ブートストラップ法を用いて内的バリデーションを行った。また、スコア毎の感度特異度を検討した。

【結果】
 間質性肺炎の初回評価で IPF と診断された 302 例のうち、基準を満たした 273 例を解析した。右心カテーテル検査では、55 人(20.1 %)に MPAP 上昇を認めた。MPAP 上昇群は、非上昇群に比べ、動脈酸素分圧(PaO2)、%FVC、%FEV1、%DLco、6 分間歩行試験の距離、6 分間歩行試験中の最低 SpO2 は有意に低かった。また、mMRC スコア、CT 上の低 CT 値領域の範囲、CPFE(combined pulmonary fibrosis and emphysema)の割合、肺動脈径(PA)、肺動脈径と大動脈径の比(PA / Ao 比)、経胸壁心臓超音波検査での推定右室圧は有意に上昇していた。右心カテーテル検査では MPAP、肺血管抵抗、 PAWP が有意に上昇していた。
 日常臨床でスコアが簡便に使用できるように、両群で有意に差のあった項目をカテゴリ化した。カテゴリ化してもロジスティク回帰分析で有意である因子は大きくは変わらなかった。
 %FVC と%FEV1、PA と PA / Ao 比は強い相関関係があった(ピアソン相関係数 0.82、 p < 0.001; 0.72、p < 0.001)ため、多変量解析の候補変数として%FVC と PA / Ao 比を選択した。胸部 CT 上の肺動脈径、大動脈径、PA / Ao 比の検者間一致率(ICC, intraclass correlation coefficients)は 0.852 以上であった。

スクリーニングスコアの開発
 多変量ロジスティク回帰分析モデルでは、肺拡散能(%DLco)< 50 %、CT 上の PA / Ao 比 ≧ 0.9、PaO2 < 80 Torr がMPAP 上昇の独立した予測因子であった(C-index 0.772、 95%信頼区間 0.699–0.845; p < 0.001)。
 日常臨床で簡便に使用できるスコアを作成するために、ロジスティク回帰分析の回帰係数 β に基づき、各変数に 1 点ずつ付与して、合計 0 点から 3 点までのスコアを作成した。

スクリーニングスコアの精度と検証
 作成したスコア毎の MPAP 上昇の割合は 0 点、1 点、2 点、3 点で、それぞれ 6.7 %、16.0 %、29.1 %、65.4 %であった(図 1)。ROC 下面積(AUC)は 0.757(95%信頼区間 0.682–0.833)と高かった。スコアが 0 点を Reference とすると、スコアが 3 点であれば MPAP上昇のオッズ比は約 26 倍(p < 0.001)と高値であった。スコアが 0 点の場合、特異度は54.2 %、感度は 13.2 %で、MPAP 上昇に対する陽性適中率(PPV)は 6.7 %であった。対照的に、スコアが 3 点の場合、特異度は 95.8 %、感度は 32.1 %で、MPAP の上昇に対する PPV は 65.4 %であった(表 1)。作成したモデルの AUC は高く(0.757、95 %信頼区間 0.682–0.833)、ホスマー・レメショウ検定は有意ではなく(p = 0.58)、モデルの適合は良好であった。1000 回のブートストラップ法に基づく内的バリデーションでも、作成したモデルの AUC は 0.756(95%信頼区間 0.687–0.825)であった。

【考察】
 本研究では、PaO2、%DLco、CT 上の PA / Ao 比に基づいて、シンプルで非侵襲的なスクリーニングスコアを開発した。これまで、複雑なスコアによって IPF における MPAP 上昇の予測方法が提唱されてきたが、複雑なため臨床現場で使いづらかった。しかし、我々が作成したツールは、右心カテーテル検査を実施した方が良い MPAP が上昇している IPF 患者、特にスコアリングシステムで 3 点以上の患者を簡単に、非侵襲的に選択できるため、臨床現場で役立つ可能性がある。
 現在 MPAP が上昇した IPF 患者に対する確立された治療法は無いため、このスコアを用いて IPF における MPAP 上昇の早期発見を可能にする事により、いつ、誰が、どういった治療を開始するか、さらなる研究を行う必要がある。

【結語】
 肺機能検査の%DLco、CT 上の PA / Ao 比、血液ガス分析の PaO2 による簡便な臨床スコアリングシステムは、IPF 患者における MPAP 上昇を予測できる。