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大学・研究所にある論文を検索できる 「高齢者の複合的行動能力を特異的に鍛えるトレーニング法の開発」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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書き出し

高齢者の複合的行動能力を特異的に鍛えるトレーニング法の開発

吉武, 康栄 信州大学

2021.03.01

概要

4版

様 式 C−19、F−19−1、Z−19 (共通)

科学研究費助成事業  研究成果報告書
令和

元 年

6 月 14 日現在

機関番号: 13601
研究種目: 基盤研究(B)(一般)
研究期間: 2016 ∼ 2018
課題番号: 16H03222
研究課題名(和文)高齢者の複合的行動能力を特異的に鍛えるトレーニング法の開発

研究課題名(英文)Does exercise training involved with cognitive training improve motor skill and
cognitive function?
研究代表者
吉武 康栄(Yoshitake, Yasuhide)
信州大学・学術研究院繊維学系・教授

研究者番号:70318822
交付決定額(研究期間全体):(直接経費)

14,390,000 円

研究成果の概要(和文):1)同一仕事量の運動中において,課題の難度の違いにより,皮質脊髄路の興奮性が
変化するか検証した.若齢者に対し,single pulseの経頭蓋磁気刺激を,強度は同一であるが課題の難度が異な
る等尺性筋収縮中に与えた.その結果,MEPの振幅値が課題の難度が高いほうが有意に大きかった.したがっ
て,課題の難度により皮質脊髄路の興奮性が増すことが明らかになった.
2)1)の結果を基に,同一仕事量であったとしても,課題の難度が高い運動メニューの方が高齢者の認知機能の
改善に有用であるか検証した.その結果,筋力の増加は同程度であったが,1部認知機能がより向上することが
明らかになった.
研究成果の学術的意義や社会的意義
通常の筋力トレーニングは,単純な関節の伸展・屈曲運動で構成されている.筋力トレーニングによる筋力・筋
量の増大は見込めても,認知機能に対する効果は結果が別れており,その効果は不明である.一方で,本研究で
試みたように,動作自体が複雑で巧緻性を含んでいる場合は,たとえ同一運動強度であったとしても,単純な動
作よりも大脳の興奮性が増加する.したがって,そのような複雑・巧緻性という要素を含んだトレーニングメニ
ューにすれば,認知機能がより改善・向上する可能性が高まると考えられる.

研究成果の概要(英文):The 1st study examined corticospinal excitability during unilateral
force-matching tasks of different difficulty. Single pulse TMS was applied to the hemispheres of
seventeen young male during force matching tasks with easy (EASY) and difficult (DIFF) task
difficulty. MEPs were significantly larger (P < 0.05) during DIFF than EASY. These results
indicate that greater task difficulty increases corticospinal excitability of both contralateral and
ipsilateral hemispheres.
The 2nd study tested the effect of the exercise training with task difficulty on muscle and
cognitive function. After 3 month-exercise training, exercise training with task difficulty
enhanced some cognitive function scores greater than traditional exercise training while exercise
training volume evaluated by surface EMG was comparable between training. The results indicated
that exercise with task difficulty should be better way to enhance muscle and cognitive function
than traditional training regimen.

研究分野: 運動生理学 神経生理学
キーワード: 大脳興奮性 認知機能 運動課題 課題難度 経頭蓋磁気刺激 TMS 筋力トレーニング 高齢者



式 C−19、F−19−1、Z−19、CK−19(共通)

1.研究開始当初の背景
健常な若者であれば,日常生活にありふれている何一つ苦労もなく円滑に行える単純な動作に
おいても,
「動作の決定→自身の手と対象物までの距離の認識→運動戦略の決定→大脳から脊髄
を通じて筋へ適切な命令伝達→滑らかな筋収縮の発生」という多岐に渡る器官での複合的な働
きが統合されて成り立っている.
つまり,
日常生活活動およびスポーツ動作などの身体運動を,
ヒト独自の高レベルで実施するためには,複合的機能が同時に適切に働く能力が必要である.
ヒトの生活活動の多くは,筋力を意図通りに巧緻的に発揮することで成立しているため,加
齢や不活動によって力を精確に制御する機能が低下してしまうことは,生活の質(QOL)が低
下してしまうことと同義になる.さらには,社会問題となっている加齢による認知症を発症し
た場合は,寝たきりへの道が近くなり,生活筋力さえ保障されなくなってしまう.したがって,
筋力,巧緻性,認知機能は「健康生活の三大必須機能」と捉えられる.体力医科学分野では,
力調節能力や認知機能の低下それぞれの改善を目的として,高齢者に筋力トレーニングを実施
した結果として,単純な力合わせ課題の精確性は向上するが,認知機能への効果は,賛否両論
あることが報告されている.トレーニングの「特異性の原理」に基づけば,高強度での単純な
力発揮が主である筋力トレーニング単体では,認知機能への効果が必ずしも認められない研究
結果について,至極当然であると考えられる.この現状を打破するためには,神経筋活動の特
異性に基づいて考案したトレーニング法の確立が必要である.
通常の運動療法やトレーニングの現場では,筋力/筋力トレーニング,巧緻性/力調節トレ
ーニング,認知機能/脳トレーニングなど,それぞれが別々に行われている.一方,日常生活
活動やスポーツ活動においては,これらの機能が同時に参画する「複合的機能」が,その優劣
を決定する.したがって,高齢者において,複合的行動能力を改善するためには,複合的機能
こそ「特異的に」鍛えられなければならない.
2.研究の目的
本研究の目的は,1)
「筋出力」と「巧緻性」を同時に要求される複合的行動に特異的な神経活
動を明らかにする,2)
「筋出力」
「巧緻性」
「認知機能」を同時に鍛えるハイブリッド筋力トレ
ーニングを組み立て,その実施効果を高齢者において明らかにする,ことであった.
3.研究の方法
1)
「筋出力」と「巧緻性」を同時に要求される複合的行動に特異的な神経活動を明らかにする
右利きの健常若齢者 6 名を対象に,
非利き手の等尺性示指外転動作による力調節課題を行った.
力調節課題の目標強度は,最大随意収縮力の 5%と 15%とし,対象者は表示された目標値の許
容範囲を目視しながら発揮する力が許容範囲に合うよう努力した.各目標強度における難易度
は,力の目標値の表示法によって,易・難課題を設定した.力調節課題中にナビゲーションシ
ステムを用いて,一次運動野手指領域に単発の経頭蓋磁気刺激を行い,第一背側骨間筋より運
動誘発電位(MEP)を記録した.刺激強度は,検証 1:各目標強度の収縮時運動閾値の 1.2 倍,
検証 2:安静時運動閾値の 1.2 倍とし,各課題 20 回の刺激を行った.一次運動野の興奮性は,
課題ごとに加算平均された MEP 波形(P-P 値)から評価した.
2)
「筋出力」
「巧緻性」
「認知機能」を同時に鍛えるハイブリッド筋力トレーニングを組み立て,
その実施効果を高齢者において明らかにする
対象者は,地域在住の高齢者 37 名(男性:13 名,女性:24 名,年齢:72.8 ± 6.8 歳)であり,
男女別かつ無作為に,キネクトを活用し視覚フィードバックと聴覚フィードバックを用いて音
を生み出すトレーニング(MU)群 20 名(身長:155.5 ± 8.3 cm,体重:54.4 ± 10.3 kg)お
よびコントロール(CONT)群 17 名(身長:156.6 ± 8.8 cm,体重:57.9 ± 9.8 kg)であった.
トレーニングは,両群ともスクワット運動とし,週 3 回,3 か月間継続して実施した.CONT
群の運動負荷は,スクワット実施回数をトレーニング 6 週目までは 15 回×3 セットに設定し,
以降は 2 週ごとに 1 セットずつ追加した.MU 群の運動負荷は,事前に取得した筋電図データ
を基に,CONT 群と同等の運動負荷になるよう設定した.トレーニング前後に,以下の身体形
態および筋機能,ならびに認知機能の測定を行った.
身体形態は, 身長,体重,筋厚の計測を行った.筋厚は,超音波 B モード法により,外側広
筋(VL)
,内側広筋(VM)
,内側広筋斜頭(VMO)の各部位で計測した.筋機能は,右脚(利
き脚)による等尺性膝関節伸展動作による最大筋力(MVC)および力調節課題より評価した.
力調節は,1)視覚フィードバックがない条件下で,指示された目標値(10%および 80% MVC)
に相当する力を対象者の主観に基づいて発揮,2)モニタに表示された 20% MVC を示すターゲ
ットラインに対し,発揮した力を表すカーソルが一致するように力発揮,3)2)と同様に,モ
ニタに表示された 20% ± 4% MVC で構成された正弦波形のターゲット(slow 条件:0.5 Hz,
fast 条件:1 Hz)に対し,発揮した力を可能な限り一致させた.ターゲットからの実測値の差
分もしくは力の変動量から力調節能を評価した.
認知機能は,情報処理速度,実行機能,作業記憶より評価した.情報処理速度は,対象者の
眼前に設置したモニタ上に表示される視覚刺激に対し,手元に設置したボタンを可能な限り素
早く押させる単純反応課題を用いた.実行機能は,対象者の眼前のモニタ上に 4 つの文字(赤・
青・黄・緑)のいずれかを 4 色のインク(赤・青・黄・緑)のいずれかで提示するストループ

課題を用いた.意味回答課題(文字の意味する色を回答)および色回答課題(インク色を回答)
を行い,手元に設置した 4 色のボタンのうち正解に該当するボタンを可能な限り素早く押すこ
とで回答させた.それぞれの課題において,文字の色と意味の一致・不一致条件時での平均反
応時間および正答率を算出した.作業記憶は,口頭にて提示された数字を順唱および逆唱可能
であった個数から評価した.
4.研究成果
1)
「筋出力」と「巧緻性」を同時に要求される複合的行動に特異的な神経活動を明らかにする
検証 1(実施肢と反側)では,MEP は課題間で差はなかった.検証 2(実施肢と同側)では,
MEP は課題難度の主効果が認められ(P < 0.05)
,難課題が易課題よりも 1.5 倍大きかった.同
一強度での力調節課題中の一次運動野の興奮性は,課題実施肢と同側半球において難度が高い
方が増加することが示唆された.したがって,同一仕事量の運動中においても,課題の難度が
異なることにより,大脳の興奮性が変化すると言える.
2)
「筋出力」
「巧緻性」
「認知機能」を同時に鍛えるハイブリッド筋力トレーニングを組み立て,
その実施効果を高齢者において明らかにする
取得された全ての評価項目について,トレーニング前には両群間に差はなかった.身長は,ト
レーニング後に両群ともに変化はなく(P > 0.05)
,群間差もなかった(P > 0.05)
.体重は,ト
レーニング後に両群ともに減少したが(P < 0.05)
,群間差はなかった(P > 0.05)
.筋厚は,VL
および VMO で,トレーニング後に両群ともに増加したが(P < 0.05)
,群間差はなかった(P >
0.05)
.VM の筋厚は,トレーニング後に両群ともに変化はなく(P > 0.05)
,群間差もなかった
(P > 0.05)

最大筋力は,トレーニング後に両群ともに増加したが(P < 0.01)
,群間差はなかった(P > 0.05)

また,力調節課題のうち,課題 3(slow・fast 条件)における誤差面積が,トレーニング後に両
群ともに減少したが(P < 0.05)
,群間差はなかった(P > 0.05)
.他の力調節課題(課題 1 およ
び課題 2)の評価項目では,トレーニング前後および群間差はなかった(P > 0.05)

単純反応課題では MU 群のみ反応時間がトレーニング後に減少した(P < 0.01)
.ストループ
課題の反応時間は,色不一致条件ではトレーニング後に両群とも減少し(P < 0.01)
,さらに,
MU 群が CONT 群よりも低かった(P < 0.05)
.色一致条件では,MU 群のみ減少し(P < 0.01)

さらに意味一致・不一致条件では両群ともトレーニング後に減少した(P < 0.01)
.ストループ
課題の正答率は,色不一致条件では,両群とも増加し(P < 0.01)
,意味不一致条件では CONT
のみ増加したが(P < 0.01)
,群間差はなかった(P > 0.05)
.色・意味一致条件は両群ともにト
レーニング後の変化および群間差はなかった(P > 0.05)
.数唱課題では,両群ともにトレーニ
ング後の変化および群間差はなかった(P > 0.05)
.以上のことから,運動量は同じであるが難
度の高い動作が含まれたトレーニングは,筋機能の向上の効果に加え,認知機能の中でも実行
機能の向上に従来のトレーニング法よりも有用である可能性がある.実行機能が向上した要因
として,本研究で処方したトレーニングは巧緻性および複数課題を伴う動作で構成されている
ことから,視覚的情報を判断・選択し,身体を調節することを一層要求され,1)の研究結果か
らサポートされるように,当該機能を担う大脳の前頭前野の神経活動が亢進したことに起因す
ると考えられる.
5.主な発表論文等
〔雑誌論文〕
(計 6

件)全て査読あり

1.

Watanabe H, Mizuguchi N, Mayfield DL, Yoshitake Y. Corticospinal excitability during actual and
imaginary motor tasks of varied difficulty. Neuroscience. 2018 Nov 1;391:81-90. doi:
10.1016/j.neuroscience.2018.08.011..

2.

Yoshitake Y, Uchida D, Hirata K, Mayfield DL, Kanehisa H. Mechanical interaction between
neighboring muscles in human upper limb: Evidence for epimuscular myofascial force
transmission in humans. J Biomech. 2018 Jun 6;74:150-155. doi: 10.1016/j.jbiomech.2018.04.036.

3.

Yoshitake Y, Ikeda A, Shinohara M. Robotic finger perturbation training improves finger postural
steadiness and hand dexterity. J Electromyogr Kinesiol. 2018 Feb;38:208-214. doi:
10.1016/j.jelekin.2017.11.011.

4.

Watanabe H, Kanehisa H, Yoshitake Y. Unintended activity in homologous muscle during intended
unilateral contractions increases with greater task difficulty. Eur J Appl Physiol. 2017
Oct;117(10):2009-2019. doi: 10.1007/s00421-017-3689-7.

5.

Yoshitake Y, Kanehisa H, Shinohara M. Correlated EMG Oscillations between Antagonists during
Cocontraction in Men. Med Sci Sports Exerc. 2017 Mar;49(3):538-548. doi:
10.1249/MSS.0000000000001117.

6.

Yoshitake Y, Miyamoto N, Taniguchi K, Katayose M, Kanehisa H. The Skin Acts to Maintain
Muscle Shear Modulus. Ultrasound Med Biol. 2016 Mar;42(3):674-82.
doi:10.1016/j.ultrasmedbio.2015.11.022.

〔学会発表〕
(計 5 件)
1. 渡邊裕宣,松村遥,武富貴史,Alexander Plopski,権田智也,加藤博一,吉武康栄.動作
観察による運動学習を促進させる顔変換システムの有用性の検証,第 19 回 計測自動制御
学会 システムインテグレーション部門講演会,スポーツ応用システム:大阪市,2018 年
12 月.
2.

渡邊裕宣,陳泰之,吉武康栄.片側性力調節課題時の難易度と同側一次運動野の皮質内抑
制・促通機構の解明,第 72 回日本体力医学会大会,愛媛県,2017 年 9 月.

3.

Hironori Watanabe, Sohei Washino, Hiroaki Kanehisa, Yasuhide Yoshitake. Motor execution and
imagery with greater task difficulty increases corticospinal excitability, 64th Annual Meeting of
American College of Sports Medicine, Board 69, Denver (USA), 2017 年 6 月.

4.

渡邊裕宣,吉武康栄.片側性力調節課題時の難易度と両側一次運動野の興奮性の相違,第
71 回日本体力医学会大会,岩手県,2016 年 9 月.

5. ...

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