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大学・研究所にある論文を検索できる 「Comprehensive behavioral analysis of the mice deficient in Akain1, a novel protein kinase A-binding protein.」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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Comprehensive behavioral analysis of the mice deficient in Akain1, a novel protein kinase A-binding protein.

藤井 一希 富山大学

2020.03.24

概要

〔目的〕
サイクリックAMP(cAMP)依存性プロテインキナーゼ(PKA)は,cAMPを介して活性化され,セリンないしスレオニン残基をリン酸化する酵素である。セカンドメッセンジャーであるcAMPとPKAを介した細胞内シグナル伝達は,Gタンパク質共役受容体を介したシグナルを始めとする様々なカスケードで利用される。Aキナーゼアンカータンパク質(AKAP)と呼ばれる一連のタンパク質群は,PKAの足場となることで,PKAの細胞局在の制御を担う。このようなAKAP-PKA相互作用によるPKA活性の時空間的制御は,神経可塑性の調節を含む様々な細胞プロセスの制御に関わることが報告されているがその全容は明らかになっていない。神経変性疾患、精神疾患においてPKA-AKAPによる適切なシグナル伝達の障害が生じていることが報告されており,AKAPを介した複合的な経路が新しい創薬標的としても注目されている。Akinaseinhibitor1(Akain1)はPKAシグナルの伝達において特異的な機能を持つ新規のPKA結合タンパク質であり,他のAKAPと競合してPKAの細胞内局在を打ち消すことが報告されている。Akain1は特に神経組織で顕著に発現しているが,脳機能においてどのような役割を果たすかは不明である。そこで,Akain1の機能を明らかにするために,CRISPR/Cas9ゲノム編集システムによりC57BL/6J系統を背景とするAkain1ノックアウト(KO)マウスを作出した。本研究では,網羅的行動テストバッテリーを用いてこのマウスの行動特性を解析し,脳におけるAkain1の生理学的機能を明らかにする。

〔方法並びに成績〕
野生型マウス(WT:♂,♀=20,12),Akain1欠損マウス(KO:♂,♀=20,15),を用いて,9週齢から網羅的行動テストバッテリーによる行動表現型解析を行った。比較的マウスへのストレスが低いとされる試験から順に,一般身体所見・神経学的スクリーニング,明暗選択テスト,オープンフィールドテスト,高架式十字型迷路試験,ホットプレートテスト,社会性テスト(新規環境,threechamber),ロータロッドテスト,プレパルス抑制テスト,ポーソルト強制水泳テスト,ビームテスト,物体位置再認テスト,パターン弁別試験,T字迷路試験,バーンズ迷路試験,新規物体位置認識試験を実施した。一般身体所見・神経学的スクリーニングにおいては,雌雄ともにWTとAkain1KOの間で明らかな違いは見られなかった。痛覚感受性を評価するホットプレート試験において,オスではKOマウスの疼痛反応出現の潜時がWTマウスに比べ有意に延長しており,Akain1KOマウスのオスはWTマウスと比較して痛覚感受性が低いことが示唆された。また、社会性を評価するthree-chamberテストにおいては,Akain1KOのメスにおいてのみ社会的新奇性に対する嗜好性が障害されていた。うつ様行動を評価するポーソルト強制水泳テストにおいて,Akain1KOのオスでは不動時間が有意に増加していた。一方で,メスでは不動時間が減少する傾向がみられ,遺伝子型と性別による効果の間に有意な交互作用が認められた。また,パターン弁別試験において,2つの異なる空間パターン(文脈)を弁別する課題を行ったところ,WTマウスは1日目に馴化されたのと同じ文脈では活動量が低下し,異なる文脈では活動量が低下しなかった。一方,Akain1KOマウスは馴化時との文脈の違いによる活動量に変化が見られなかった。すなわち,Akain1KOマウスは空間パターンの弁別に障害があることが示唆される。バーンズ迷路試験では,逃避箱位置の学習及び学習後のプローブテストにおいてAkain1KOマウスとWTマウスの間には雌雄共に有意な差は見られなかった。次に,逃避箱の位置を反転した逆転学習を行った。オスでは逆転学習時にはWTとKOマウスの間に有意な差は見られなかった。しかしながら,逆転学習後に行ったプローブテストで,WTマウスは逆転学習時の逃避箱の位置を逆転前の逃避箱の位置より有意に長く探索するが,Akain1KOマウスでは両者を探索した時間に有意な差は見られなかった。メスにおいて逆転学習のプローブテストにおいてはWTとKOマウスの間に有意な差は見られなかったが,WTと比較してKOマウスは学習が遅れる傾向がみられた。

〔総括〕
Akain1欠損により,雌雄ともに学習の柔軟性に障害がみられた。また,Akain1欠損は痛覚感受性,社会性行動やうつ様行動には性別により異なる影響を示した。これらの結果は,Akain1が文脈の弁別や行動の柔軟性、そして行動様式の性差に重要であることが示唆された。本研究により明らかになったAkain1欠損マウスの特徴的な行動表現型は,PKA‐AKAPシグナル伝達を理解するための基礎データとなるとともに,Akain1がPKAシグナル伝達を介した発達障害や精神疾患の性差を考慮した新しい標的となる可能性を示唆している。