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木材細胞壁中のセルロースの充填様式とその水熱処理による変化

栗林, 朋子 東京大学 DOI:10.15083/0002002294

2021.10.13

概要

木材は天然高分子からなる複雑な階層構造を有しており、それによってもたらされる優れた機械的特性から建築構造材料として、また構成要素を分離することで紙パルプ、繊維などの原料として利用されている。循環型社会の構築が世界的に求められている昨今、再生可能資源である木材の材料化技術の向上、および木材の新たな用途開発が期待されている。木材の利用拡大のためには、木材の構造をより詳しく理解し、その長所を活かした用途を見出すことが必要である。また木材は伐採後そのままの状態で用いられることは稀であり、熱処理をはじめとした様々な工程を経て材料化される。それらの処理が構造と物性に及ぼす影響を精査し、その知見を材料設計や工程の最適化に用いることも重要である。
 これまで木材細胞壁の主要構成要素であるセルロース、ヘミセルロース、リグニンの個別の構造については数多くの研究がなされており、またそれらの間の相互作用についても近年様々な検討が行われている。しかしながら、木材の微細構造については未だ明らかになっていない部分が多い。例えば、木材中のセルロースミクロフィブリル(CMF)の形態と構造、また他の構成成分や水との材中での共存状態は長年にわたり議論され続けている重要な課題である。細胞壁の微細構造の解明は、木材の巨視的な物性と構成要素の物理的・化学的特性とを関連付ける鍵となる。木材細胞壁中では各構成要素が分子レベルからマイクロメーターレベルに至る階層的な複合構造を形成している。したがって、木材の微細構造を理解するためには、この広い長さスケール全体に渡る構造上の知見を蓄積する必要がある。これまで、X線散乱や中性子散乱、電子顕微鏡などの手法により木材微細構造についての検討がなされているが、測定手法による試料の調製方法や測定装置の分解能の制限があるために、得られた情報は断片的である。この構造の全容を把握するためには、本来の細胞壁の構造を破壊することなく、広い長さスケールに渡って連続的に構造を観察する手法が求められる。
 本研究では、X線散乱を主な手法として木材細胞壁中でのCMFの形態と細胞壁中での充填様式、またCMF中でのセルロース分子の配列を明らかにすることを目的とした。X線散乱は、水を含んだ試料をそのままの状態で測定でき、非破壊で微細構造についての情報が得られることが利点である。また測定条件の工夫により広い長さスケールでの情報が得られるため、本研究の目的に適した手法である。具体的には、まず飽水状態の木材のX線散乱強度データをもとに、細胞壁中のCMFの配列および形状を明らかにする解析方法を提案した。さらにこの解析方法によって得られた知見を応用し、基本的な工業プロセスである熱処理が木材細胞壁中のセルロースの構造に及ぼす影響を検討した。

X線散乱に基づいた木材細胞壁中のセルロースの充填様式の解析方法
(1) 木材細胞二次壁中層内のCMFの充填様式
 飽水状態の広葉樹(ブナ:F.crenata)試料に、繊維方向に垂直にX線を照射し、散乱ベクトルq(2π/d)=0.01~2Å-1の領域について途切れなくX線散乱パターンを記録した。得られた散乱強度は、細胞壁中の圧倒的な体積を占める二次壁中層(S2層)に由来するもので、これらの散乱パターンから、木材の横断面方向の情報を示す赤道上の散乱強度を抽出した。この散乱プロファイルから、q=0.2、0.35Å-1近傍に明瞭なピークが存在することを発見した。
 この小角領域で見られた散乱プロファイルの特徴を説明するために、モンテカルロ法を用いて、S2層横断面におけるCMFの充填モデルを構築し、モデルから得た散乱強度と実験値との比較を行った。このモデルでは、半径Rの無限長の円筒に近似したCMFが充填密度φで、互いに重なることなく、ランダムな位置に存在する。モンテカルロ法によって得られた円筒の座標から、二体相関関数(PCF)を得た。散乱強度は、PCFをフーリエ変換して得られた構造因子と、円筒の形状から得られた形状因子の積として得た。これをF.crenataの飽水材の実験による散乱プロファイルとの比較したところ、モデルに基づく散乱強度と実験値はよく一致し、このモデルが適当であることが確認された。このことより、広葉樹のS2層の横断面内ではCMFがランダムに配列していることが示唆された。またこの検討からq=0.2Å-1のピークは主にCMFの充填様式に起因し、q=0.35Å-1のピークは主にCMFの形状に起因することが明らかになった。
 上記の検討の中で、実験値と計算値の比較において、主に形状因子からの寄与であるq=0.35Å-1のピークの散乱強度の計算値が、実験値のそれに対して高く見積もられたため、CMFの形状について再検討した。CMFコアの周辺にミクロフィブリル表面、表面に吸着したヘミセルロース層を想定した、3段階の不連続な密度差を有した3層円筒のミクロフィブリルモデルを仮定した。CMFコアと異なる密度をもつ2層の幅gは共通とした。F.crenataでは、R=14.3Å、φ=0.4、g=2.0Åの時に、計算による散乱プロファイルにより実験値を再現することができた。
 このモデルを用い、充填率と円筒半径、CMFの界面構造パラメータを変化させることで、針葉樹(スギ:C.japonica)と竹(モウソウチク:P.heterocycla)の実験散乱プロファイルについても再現することができた。これより、他の木質系植物においてもCMFの配列が同様にランダムであることが示された。C.japonicaはR=12.8Å、φ=0.35、g=3.8Åの時に計算による散乱プロファイルと実験散乱プロファイルがよく一致した。P.heterocyclaでは、単純円筒モデルでR=13.2Å、φ=0.5で実験値とよく一致した。以上より、CMFの径、充填率、CMF近傍の界面構造を考慮することで、本手法が異なる樹種の微細構造の解析にも有効であることが確認された。また、ミクロフィブリル-マトリックス間の界面の構造が、樹種により異なることが示唆された。

(2) CMF内のセルロース分子の配列様式
 F.crenata飽水材の散乱プロファイルの解析から得られたCMFの直径(28.6Å)をもとに、CMF中でのセルロース分子の配列モデルを構築した。18本のセルロース分子鎖が、親水性の(110)、(110)を主表面とする様に充填されたモデルが、妥当であると考えられた。この18本鎖モデルから得られた広角領域の回折プロファイルと実験値を比較したところ、他のCMFモデルから得られるプロファイルに比べてよく一致した。

(3) 乾燥によるCMFの充填様式の変化
 含水率の異なるF.crenataのX線散乱プロファイルを比較した。30%以下の含水率で小角領域の散乱プロファイルが大きく変化することがわかった。乾燥によって、数~十数ナノメートルの領域に固体と空気による界面が形成されたことが示唆された。またq=0.35Åのピークが乾燥に伴い消失する傾向がみられ、CMFとバルクマトリックスの界面構造が脱水により変化することがわかった。

熱処理による木材細胞壁中のCMFの構造とセルロース結晶構造の変化
(1) 熱処理による木材細胞壁中のCMFの構造変化
 含水率の異なるF.crenataを試料に用い、熱処理(200℃、3時間)による細胞壁中のセルロースの構造変化を、X線散乱を用いて観察した。In-situ測定により、昇温から降温過程までの一連の散乱強度の変化を記録した。この熱処理条件によって、飽水材の細胞壁中のCMFの充填様式が劇的に変化することを明らかにした。昇温過程である160℃近傍から、小角領域にみられたq=0.2Å-1、0.35Å-1のピーク強度が徐々に弱くなり、200℃到達時には共に消失した。200℃での熱処理過程から降温後では、q=0.35~0.1Å-1近傍の領域にq-4の傾きを示す直線状の散乱強度の減衰が観察された。このことは、その領域に存在する固相と液相もしくは気相の界面の存在を示すものであり、熱処理によってCMFの配列が乱れ、CMFよりも大きな凝集構造を形成したことを示すと考えられる。前章での検討より、q=0.35Å-1のピークの消失の現象は乾燥によっても観察されたことから、熱処理に伴う系外への水の移動による影響が考えられる。含水率10%の乾燥材では、q=0.35Å-1のピーク強度は200℃までの昇温過程で小さくなったが、熱処理後でも消失しなかった。他の小角領域に変化はみられなかった。

(2) 熱処理による木材細胞壁中のセルロースの結晶構造の変化
 F.crenata、C.japonic、P.heterocyclaを試料に含水率、熱処理の温度・時間の組み合わせを変化させ、広角X線回折から熱処理による木材細胞壁中のセルロースの結晶構造の変化を調べた。180℃以上で過剰の水が存在する条件下で熱処理をすることで、木材細胞壁中のセルロースは、結晶サイズの増大を伴って元の単斜晶から擬直方晶構造へ不可逆的な相転移を起こした。このセルロースの結晶構造変化のメカニズムは、木材の細胞壁中で逆平行に充填されたCMFの共結晶化であると考えられる。また20樹の広葉樹飽水材に200℃、2時間の熱処理を加え、熱処理前後の結晶構造の変化を観察した結果、上記の結晶構造の変化は、多くの広葉樹中のセルロースに生じる一般的な現象であることが確認された。

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参考文献

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63

第 4章

結論

本研究では、まず、X 散乱の手法を用い木材細胞二次壁中層(S2 層)の横断面方向における、

セルロースミクロフィブリル(CMF)の充填様式から、CMF 内でのセルロース分子の配列に至る

までの微細構造を明らかにするための解析手法の検討を行った。シンクロトロン放射光施設で

の X 線散乱実験によって得られた、実空間における約 60 nm∼3 Å の長さスケール渡る飽水状

態の木材試料の散乱強度の情報に基づき、S2 層内の CMF の形状と配列を模して構築されたモ

デルから算出された理論値を比較検討し、構造解析のための方法を提案した。この検討で得ら

れた知見を適用し、木材の材料化における基本的な工業プロセスである熱処理が木材の微細構

造、およびセルロースの結晶構造に及ぼす影響を検討した。これらの検討により得られた結果

は、将来の木材工業発展のための基盤的知見として有益であるものと考える。本研究による結

果を以下にまとめる。

第 2章

1.

飽水状態の広葉樹(F. crenata)試料に、繊維方向に垂直に X 線を照射し、散乱ベクトル q

(2π/d) = 0.01∼2 Å-1 (実空間で約 3∼630 Å)の領域について途切れなく X 線散乱パターンを記録

した。得られた散乱強度は、細胞壁中の圧倒的な体積を占める S2 層に由来するもので、これら

の散乱パターンから、木材の横断面方向の情報を示す赤道上の散乱強度を抽出した。この散乱

プロファイルから、q = 0.2、0.35 Å-1 近傍に明瞭なピークが存在することを発見した。

2.

S2 層内の CMF を無限長の円筒と仮定した横断面方向の充填モデルを、モンテカルロ法を

用いて構築した。このモデルでは、半径 R の円形断面の CMF が体積充填率φで、互いに重な

ることなく、ランダムな位置に存在する。円筒の 2 体相関関数をフーリエ変換して得られた構

造因子と、円筒の形状から得られた形状因子の積として、散乱強度関数を得た。これを F. crenata

の飽水材の実験による散乱プロファイルとの比較したところ、モデルに基づく散乱強度と実験

値の特徴がよく一致し、このモデルが適当であることが確認された。これにより S2 層内では

CMF がランダムに配列していることが示唆された。また、q = 0.2 Å-1 の散乱ピークは CMF の

配列に起因し、q = 0.35 Å-1 のピークは CMF の形状に起因することが明らかになった。

3.

飽水状態の F. crenata の実験結値と計算値の比較では、主に形状因子からの寄与である q =

0.35 Å-1 のピークの強度が計算値が実験値に対して高く見積もられたため、CMF の形状につい

て再検討した。ここで、CMF とその近傍に 3 段階の不連続な密度差がある 3 層円筒モデルを仮

定した。これは、CMF コア、ミクロフィブリル表面、表面に吸着したヘミセルロース層を想定

したものである。各層の密度差は内側からそれぞれ 1 : 0.66 : 0.33 とし、フィブリル中心と異な

64

る密度をもつ 2 層の幅 g は共通とした。F. crenata では、R = 14.3 Å、φ = 0.4、g = 2.0 Å の時

に、計算による散乱プロファイルにより、実験値をよく再現することができた。

4.

この解析方法を、他の木質系植物を試料にして得られた X 線散乱プロファイルに適用し、

手法の妥当性を再確認するとともに、樹種による CMF の充填様式の違いを検討した。試料はい

ずれも飽水状態のものを用いた。針葉樹の C. japonica は F. crenata 同様、3 層円筒モデルを

考慮し、R = 12.8 Å、φ= 0.35、g = 3.8 Å の時に計算による散乱プロファイルと実験散乱プロ

ファイルがよく一致した。竹 P. heterocycla では、単純円筒モデルで R = 13.2 Å、φ = 0.5 で計

算値と実験値とがよく一致した。以上より、CMF 径およびその充填率、CMF 近傍の界面構造

を考慮することで、本手法が、異なる樹種の CMF の充填様式を説明するために有効であること

が確認された。また、CMF­マトリックス間の界面の構造が、樹種により異なることが示唆さ

れた。

5.

上記の検討で得られた F. crenata 飽水材の CMF 直径 (28.6 Å)に基づき、CMF 内でのセル

ロース分子の配列について検討した。これまで他の文献で提案されてきた 42 本鎖、36 本鎖、

24 本鎖、18 本鎖の CMF セルロース分子の配列モデルを参考にし、そこから算出されるそれぞ

れの X 線回折プロファイルと本実験で得られた F. crenata 飽水材の回折プロファイルを比較し

た。28.6 Å の直径の円内に、構成する全てのセルロース分子鎖が収まり、かつ親水性の(110)、

(1-10)が主表面となる様に充填された 18 本鎖のモデルが妥当であることが示された。

6.

含水率の異なる F. crenata の X 線散乱プロファイルを比較した。30%以下の含水率で小角

領域の散乱プロファイルが大きく変化することがわかった。乾燥によって、数∼十数ナノメー

トルの領域に固体と空気による界面が形成されたことが示唆された。また q = 0.35 Å のピーク

が乾燥に伴い消失する傾向がみられ、CMF とバルクマトリックスの界面構造が脱水により変化

することがわかった。

第 3章

7.

含水率の異なる F. crenata を試料に用い、熱処理(200℃、3 時間)による細胞壁中のセルロ

ースの構造変化を、X 線散乱を用いて観察した。In-situ 測定により、昇温から降温過程までの

一連の散乱強度の変化を記録した。この熱処理条件によって、飽水材の細胞壁中の CMF の充填

様式が劇的に変化することを明らかにした。昇温過程である 160℃近傍から、小角領域にみられ

た q = 0.2 Å-1、0.35 Å-1 のピーク強度が徐々に弱くなり、200℃到達時には共に消失した。200℃

での熱処理過程から降温後では、q = 0.35∼0.1 Å-1 近傍の領域に q-4 の傾きを示す直線状の散乱

強度の減衰が観察された。このことは、その領域に存在する固相と液相もしくは気相の界面の

65

存在を示すものであり、熱処理によって CMF の配列が乱れ、CMF よりも大きな凝集構造を形

成したことを示すと考えられる。前章での検討より、q = 0.35 Å-1 のピークの消失の現象は乾燥

によっても観察されたことから、熱処理に伴う系外への水の移動による影響が考えられる。含

水率 10%の乾燥材では、q = 0.35 Å-1 のピーク強度は 200℃までの昇温過程で小さくなったが、

熱処理後でも消失しなかった。他の小角領域に変化はみられなかった。この小角領域における、

熱処理による CMF の充填様式および形状の変化を説明するためには、今後、界面を含むモデル

の構築と、細胞壁中の水の量を定量的に扱う必要があると考えられる。

8.

F. crenata、C. japonic、P. heterocycla を試料に含水率、熱処理の温度・時間の組み合わ

せを変化させ、広角 X 線回折から熱処理による木材細胞壁中のセルロースの結晶構造の変化を

調べた。180℃以上で過剰の水が存在する条件下で熱処理をすることで、木材細胞壁中のセルロ

ースは、結晶サイズの増大を伴って元の単斜晶から擬直方晶構造へ不可逆的な相転移を起こし

た。このセルロースの結晶構造変化のメカニズムは、木材の細胞壁中で逆平行に充填された CMF

の共結晶化であると考えられる。

9.

20 樹の広葉樹飽水材に 200℃、2 時間の熱処理を加え、熱処理前後の結晶構造の変化を観察

した。これにより、上記の結晶構造の変化は少なくとも広葉樹一般に生じる現象であることが

確認された。

66

謝 辞

本研究を遂行するにあたり、指導教員としてご指導をいただきました松本雄二教授に御礼申

し上げます。フランス植物高分子研究所(Cermav-CNRS)の西山義春博士、小川悠博士には、欧

州シンクロトロン放射光施設(ESRF)での X 線散乱実験をはじめデータ解析について、手厚いご

指導を賜りました。ありがとうございました。同研究所の Laurent Heux 博士には、固体 NMR

測定に際し、ご助言を賜りました。ESRF での実験時には、ビームライン担当者として CNRS

研究員 Cyrille Rochas 博士、Isabelle Morfin 博士の多大なご協力を頂きました。東京大学の木

村聡博士には、光学顕微鏡観察の観察方法、木材切片の作製、試料染色などの調製方法につい

て丁寧にご指導頂きました。ありがとうございました。

本研究に使用した木材試料の採集にご協力下さいました皆様に、深謝申し上げます。ブナ、

スギ、モウソウチクの生材採取には、農学国際専攻の斎藤幸恵教授のお力添えを頂き、東京大

学付属演習林の秩父演習林および樹芸研究所の職員の方のご協力のもと、演習林内の立木伐採

により入手することができました。京都大学生存圏研究所の杉山淳司教授には、試料の選定か

らご助言を頂き、同研究所材鑑調査室の反町始氏のご協力のもと、材鑑調査室に保管されてい

る試料を分けて頂きました。ありがとうございました。

木材科学研究室の横山朝哉准教授、秋山拓哉助教、勝亦京子博士には、木材の化学分析方法

について、多くのご助言、ご指導を賜りました。木材化学研究室の皆様には、研究室での日常

生活においても大変お世話になりました。感謝申し上げます。

Cermav 滞 在 中 は 、 チ ー ム リ ー ダ ー の Karim Mazeau 博 士 を は じ め 、 Structure and

Properties of Glycomaterials チームの職員、学生の皆様にあたたかく受け入れて頂き、研究、

現地での生活においてご助言、ご助力を頂きました。ありがとうございました。

最後に、博士研究遂行の支えとなってくれた両親に感謝いたします。

本研究は、日本学術振興会の科学研究費補助金(JSPS KAKENHI Grant Number JP 1 7 J 0

5 1 5 6)の支援により実施された。また本研究 3 章中の一部(3.3.3)は、京都大学生存圏研究所全

国共同利用研究によるものである。

67

発表論文

Tomoko Kuribayashi, Yu Ogawa, Cyrille Rochas, Yuji Matsumoto, Laurent Heux, Yoshiharu

Nishiyama,

Hydrothermal

transformation

of

wood

cellulose

crystals

into

pseudo-orthorhombic structure by co-crystallization, ACS Macro letters, 5 (6),

730-734(2016).

栗林朋子, 小川

悠, 松本雄二, 西山義春, 広葉樹材の 200℃水熱処理によるセルロースの構造

変化, 木材学会誌 (査読中)

68

...

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