Candelier K., Hannouz S., Thévenon M.-F., Guibal D., Gérardin P., Pétrissans M., Collet, R.
(2016): Resistance of thermally modified ash (Fraxinus excelsior L.) wood under steam
pressure against rot fungi, soil-inhabiting micro-organisms and termites, European Journal
of Wood and Wood Products, 75(2), 249–262.
Chanzy H., Imada K., Mollard R., Vuong R., Barnoud F. (1979): Crystallographic aspects of
sub-elementary cellulose fibrils occurring in the wall of rose cells culturedin vitro,
Protoplasma, 100(3-4), 303–316.
Driemeier C., Mendes F. M., Santucci B. S., Pimenta M. T. B. (2015): Cellulose
co-crystallization and related phenomena occurring in hydrothermal treatment of sugarcane
bagasse, Cellulose, 22(4), 2183–2195.
Esteves B., Marques A. V., Domingos I., Pereira H. (2007): Influence of steam heating on the
properties of pine (Pinus pinaster) and eucalypt (Eucalyptus globulus) wood, Wood Science
and Technology, 41, 193-207.
Gardiner E. S., Sarko A. (1985): Packing analysis of carbohydrates and polysaccharides. 16.
The crystal structures of celluloses IVⅠ, and IVⅡ, Canadian Journal of Chemistry, 63 (9),
173–180.
Garrote G., Dominguez H., Parajó J. H. (1999): Mild autohydrolysis: an environmentally
friendly technology for xylooligosaccharide production from wood, Journal of Chemical
Technology and Biotechnology, 74, 1101-1109.
Kuribayashi T., Ogawa Y., Rochas C., Matsumoto Y., Heux L., Nishiyama Y. (2016):
Hydrothermal transformation of wood cellulose crystals into pseudo-orthorhombic structure
by cocrystallization, ACS Macro Letters, 5(6), 730-734.
Langan P., Petridis L., O’Neill H. M., Pingali S. V., Foston M., Nishiyama Y., Schulz R.,
Lindner B., Hanson B. L., Harton S., Heller W. T., Urban V., Evans B. R., Gnanakaran S.,
Ragauskas A. J., Smith J. C., Davison B. H. (2014): Common processes drive the
thermochemical pretreatment of lignocellulosic biomass, Green Chemistry, 16(1), 63-68.
Larsson P. T., Wickholm K., Iversen T. (1997): A CP/MAS 13C NMR investigation of
molecular ordering in celluloses, Carbohydrate Research, 302(1–2), 19-25.
Loeb L., Segal L. J. (1954): Preparation of cotton cellulose IV from cotton cellulose III,
Journal of Polymer Science, 14 (73), 121–123.
西村久雄,岡野 健,浅野猪久夫 (1982): 木材細胞壁の微細構造(第 3 報) レッドメランチ中の
セルロース IVⅠ結晶, 木材学会誌, 28 (7), 484–485.
Nishiyama Y., Isogai A., Okano T., Müller M., Chanzy H.(1999): Intracrystalline
deuteration of native cellulose, Macromolecules, 32(6), 2078-2081.
Nishiyama Y., Langan P., Chanzy H. (2002): Crystal structure and hydrogen-bonding
system in cellulose Iβ from synchrotron X-ray and neutron fiber diffraction, Journal of the
American Chemical Society, 124(31), 9074-9082.
Nishiyama Y., Langan P., O’Neill H., Pingali S. V., Harton S. (2014): Structural coarsening
of aspen wood by hydrothermal pretreatment monitored by small- and wide-angle scattering
62
of X-rays and neutrons on oriented specimens, Cellulose, 21(2), 1015-1024.
Nitsos C. K., Matis K. A., Triantafyllidis K. S. (2013): Optimization of hydrothermal
pretreatment of lignocellulosic biomass in the bioethanol production process, ChemSusChem,
6(1), 110-122.
Norberg P. H., Meier H. (1966): Physical and chemical properties of the gelatinous layer in
tension wood fiers of aspen (Populus tremula L.), Holzforschung, 20(6), 174-178.
Pokhrel D., Viraraghavan T. (2004): Treatment of pulp and paper mill wastewater - a review,
Science of The Total Environment, 333(1-3), 37–58.
Roche E. J., O’Brien J. P., Allen S. R. (1986): Preparation of cellulose triacetate I from
solution, Polymer communications, 27, 138–140.
Simsir H., Eltugral N., Karagoz S. (2017): Hydrothermal carbonization for the preparation
of hydrochars from glucose, cellulose, chitin, chitosan and wood chips via low-temperature
and their characterization, Bioresource Technology, 246, 82-87.
Šturcová A., His I., Apperley D. C., Sugiyama J., Jarvis M. C. (2004): Structural details of
crystalline cellulose from higher plants, Biomacromolecules, 5(4), 1333–1339.
Sugiyama J., Okano T., Yamamoto H., Horii F. (1990): Transformation of Valonia cellulose
crystals by an alkaline hydrothermal treatment, Macromolecules, 23(12), 3196–3198.
高橋 徹, 中山義雄(編): 第 2 章 第 2 節 水分特性, 木材科学講座 3 物理, 第 2 版, 32-36, 海青
社, 東京(1995).
Tomak E. D., Ustaomer D., Yildiz S., Pesman E. (2014): Changes in surface and mechanical
properties of heat treated wood during natural weathering, Measurement, 53, 30–39.
Wertheim G. K., Butler M. A., West K. W., Buchanan D. N. E. (1974): Determination of the
Gaussian and Lorentzian content of experimental line shapes, Review of Scientific
Instruments, 45(11), 1369–1371.
Yamamoto H., Horii F., Odani H. (1989); Structural changes of native cellulose crystals
induced by annealing in aqueous alkaline and acidic solutions at high temperatures,
Macromolecules, 22(11), 4132–4134.
Yamashita D., Kimura S., Wada M., Takabe K. (2016): Improved Maule color reaction
provides more detailed information on syringyl lignin distribution in hardwood, Journal of
Wood Science, 62(2), 131-137.
Wada M. (2002): Lateral thermal expansion of cellulose Iβ and ⅢI polymorphs, Journal of
polymer science part B: Polymer physics, 40(11), 1095–1102.
Zheng A., Jiang L., Zhao Z., Chang S., Huang Z., Zhao K., He F., Li H. (2016): Effect of
hydrothermal treatment on chemical structure and pyrolysis behavior of eucalyptus wood,
Energy & Fuels, 30(4), 3057-3065.
63
第 4章
結論
本研究では、まず、X 散乱の手法を用い木材細胞二次壁中層(S2 層)の横断面方向における、
セルロースミクロフィブリル(CMF)の充填様式から、CMF 内でのセルロース分子の配列に至る
までの微細構造を明らかにするための解析手法の検討を行った。シンクロトロン放射光施設で
の X 線散乱実験によって得られた、実空間における約 60 nm∼3 Å の長さスケール渡る飽水状
態の木材試料の散乱強度の情報に基づき、S2 層内の CMF の形状と配列を模して構築されたモ
デルから算出された理論値を比較検討し、構造解析のための方法を提案した。この検討で得ら
れた知見を適用し、木材の材料化における基本的な工業プロセスである熱処理が木材の微細構
造、およびセルロースの結晶構造に及ぼす影響を検討した。これらの検討により得られた結果
は、将来の木材工業発展のための基盤的知見として有益であるものと考える。本研究による結
果を以下にまとめる。
第 2章
1.
飽水状態の広葉樹(F. crenata)試料に、繊維方向に垂直に X 線を照射し、散乱ベクトル q
(2π/d) = 0.01∼2 Å-1 (実空間で約 3∼630 Å)の領域について途切れなく X 線散乱パターンを記録
した。得られた散乱強度は、細胞壁中の圧倒的な体積を占める S2 層に由来するもので、これら
の散乱パターンから、木材の横断面方向の情報を示す赤道上の散乱強度を抽出した。この散乱
プロファイルから、q = 0.2、0.35 Å-1 近傍に明瞭なピークが存在することを発見した。
2.
S2 層内の CMF を無限長の円筒と仮定した横断面方向の充填モデルを、モンテカルロ法を
用いて構築した。このモデルでは、半径 R の円形断面の CMF が体積充填率φで、互いに重な
ることなく、ランダムな位置に存在する。円筒の 2 体相関関数をフーリエ変換して得られた構
造因子と、円筒の形状から得られた形状因子の積として、散乱強度関数を得た。これを F. crenata
の飽水材の実験による散乱プロファイルとの比較したところ、モデルに基づく散乱強度と実験
値の特徴がよく一致し、このモデルが適当であることが確認された。これにより S2 層内では
CMF がランダムに配列していることが示唆された。また、q = 0.2 Å-1 の散乱ピークは CMF の
配列に起因し、q = 0.35 Å-1 のピークは CMF の形状に起因することが明らかになった。
3.
飽水状態の F. crenata の実験結値と計算値の比較では、主に形状因子からの寄与である q =
0.35 Å-1 のピークの強度が計算値が実験値に対して高く見積もられたため、CMF の形状につい
て再検討した。ここで、CMF とその近傍に 3 段階の不連続な密度差がある 3 層円筒モデルを仮
定した。これは、CMF コア、ミクロフィブリル表面、表面に吸着したヘミセルロース層を想定
したものである。各層の密度差は内側からそれぞれ 1 : 0.66 : 0.33 とし、フィブリル中心と異な
64
る密度をもつ 2 層の幅 g は共通とした。F. crenata では、R = 14.3 Å、φ = 0.4、g = 2.0 Å の時
に、計算による散乱プロファイルにより、実験値をよく再現することができた。
4.
この解析方法を、他の木質系植物を試料にして得られた X 線散乱プロファイルに適用し、
手法の妥当性を再確認するとともに、樹種による CMF の充填様式の違いを検討した。試料はい
ずれも飽水状態のものを用いた。針葉樹の C. japonica は F. crenata 同様、3 層円筒モデルを
考慮し、R = 12.8 Å、φ= 0.35、g = 3.8 Å の時に計算による散乱プロファイルと実験散乱プロ
ファイルがよく一致した。竹 P. heterocycla では、単純円筒モデルで R = 13.2 Å、φ = 0.5 で計
算値と実験値とがよく一致した。以上より、CMF 径およびその充填率、CMF 近傍の界面構造
を考慮することで、本手法が、異なる樹種の CMF の充填様式を説明するために有効であること
が確認された。また、CMFマトリックス間の界面の構造が、樹種により異なることが示唆さ
れた。
5.
上記の検討で得られた F. crenata 飽水材の CMF 直径 (28.6 Å)に基づき、CMF 内でのセル
ロース分子の配列について検討した。これまで他の文献で提案されてきた 42 本鎖、36 本鎖、
24 本鎖、18 本鎖の CMF セルロース分子の配列モデルを参考にし、そこから算出されるそれぞ
れの X 線回折プロファイルと本実験で得られた F. crenata 飽水材の回折プロファイルを比較し
た。28.6 Å の直径の円内に、構成する全てのセルロース分子鎖が収まり、かつ親水性の(110)、
(1-10)が主表面となる様に充填された 18 本鎖のモデルが妥当であることが示された。
6.
含水率の異なる F. crenata の X 線散乱プロファイルを比較した。30%以下の含水率で小角
領域の散乱プロファイルが大きく変化することがわかった。乾燥によって、数∼十数ナノメー
トルの領域に固体と空気による界面が形成されたことが示唆された。また q = 0.35 Å のピーク
が乾燥に伴い消失する傾向がみられ、CMF とバルクマトリックスの界面構造が脱水により変化
することがわかった。
第 3章
7.
含水率の異なる F. crenata を試料に用い、熱処理(200℃、3 時間)による細胞壁中のセルロ
ースの構造変化を、X 線散乱を用いて観察した。In-situ 測定により、昇温から降温過程までの
一連の散乱強度の変化を記録した。この熱処理条件によって、飽水材の細胞壁中の CMF の充填
様式が劇的に変化することを明らかにした。昇温過程である 160℃近傍から、小角領域にみられ
た q = 0.2 Å-1、0.35 Å-1 のピーク強度が徐々に弱くなり、200℃到達時には共に消失した。200℃
での熱処理過程から降温後では、q = 0.35∼0.1 Å-1 近傍の領域に q-4 の傾きを示す直線状の散乱
強度の減衰が観察された。このことは、その領域に存在する固相と液相もしくは気相の界面の
65
存在を示すものであり、熱処理によって CMF の配列が乱れ、CMF よりも大きな凝集構造を形
成したことを示すと考えられる。前章での検討より、q = 0.35 Å-1 のピークの消失の現象は乾燥
によっても観察されたことから、熱処理に伴う系外への水の移動による影響が考えられる。含
水率 10%の乾燥材では、q = 0.35 Å-1 のピーク強度は 200℃までの昇温過程で小さくなったが、
熱処理後でも消失しなかった。他の小角領域に変化はみられなかった。この小角領域における、
熱処理による CMF の充填様式および形状の変化を説明するためには、今後、界面を含むモデル
の構築と、細胞壁中の水の量を定量的に扱う必要があると考えられる。
8.
F. crenata、C. japonic、P. heterocycla を試料に含水率、熱処理の温度・時間の組み合わ
せを変化させ、広角 X 線回折から熱処理による木材細胞壁中のセルロースの結晶構造の変化を
調べた。180℃以上で過剰の水が存在する条件下で熱処理をすることで、木材細胞壁中のセルロ
ースは、結晶サイズの増大を伴って元の単斜晶から擬直方晶構造へ不可逆的な相転移を起こし
た。このセルロースの結晶構造変化のメカニズムは、木材の細胞壁中で逆平行に充填された CMF
の共結晶化であると考えられる。
9.
20 樹の広葉樹飽水材に 200℃、2 時間の熱処理を加え、熱処理前後の結晶構造の変化を観察
した。これにより、上記の結晶構造の変化は少なくとも広葉樹一般に生じる現象であることが
確認された。
66
謝 辞
本研究を遂行するにあたり、指導教員としてご指導をいただきました松本雄二教授に御礼申
し上げます。フランス植物高分子研究所(Cermav-CNRS)の西山義春博士、小川悠博士には、欧
州シンクロトロン放射光施設(ESRF)での X 線散乱実験をはじめデータ解析について、手厚いご
指導を賜りました。ありがとうございました。同研究所の Laurent Heux 博士には、固体 NMR
測定に際し、ご助言を賜りました。ESRF での実験時には、ビームライン担当者として CNRS
研究員 Cyrille Rochas 博士、Isabelle Morfin 博士の多大なご協力を頂きました。東京大学の木
村聡博士には、光学顕微鏡観察の観察方法、木材切片の作製、試料染色などの調製方法につい
て丁寧にご指導頂きました。ありがとうございました。
本研究に使用した木材試料の採集にご協力下さいました皆様に、深謝申し上げます。ブナ、
スギ、モウソウチクの生材採取には、農学国際専攻の斎藤幸恵教授のお力添えを頂き、東京大
学付属演習林の秩父演習林および樹芸研究所の職員の方のご協力のもと、演習林内の立木伐採
により入手することができました。京都大学生存圏研究所の杉山淳司教授には、試料の選定か
らご助言を頂き、同研究所材鑑調査室の反町始氏のご協力のもと、材鑑調査室に保管されてい
る試料を分けて頂きました。ありがとうございました。
木材科学研究室の横山朝哉准教授、秋山拓哉助教、勝亦京子博士には、木材の化学分析方法
について、多くのご助言、ご指導を賜りました。木材化学研究室の皆様には、研究室での日常
生活においても大変お世話になりました。感謝申し上げます。
Cermav 滞 在 中 は 、 チ ー ム リ ー ダ ー の Karim Mazeau 博 士 を は じ め 、 Structure and
Properties of Glycomaterials チームの職員、学生の皆様にあたたかく受け入れて頂き、研究、
現地での生活においてご助言、ご助力を頂きました。ありがとうございました。
最後に、博士研究遂行の支えとなってくれた両親に感謝いたします。
本研究は、日本学術振興会の科学研究費補助金(JSPS KAKENHI Grant Number JP 1 7 J 0
5 1 5 6)の支援により実施された。また本研究 3 章中の一部(3.3.3)は、京都大学生存圏研究所全
国共同利用研究によるものである。
67
発表論文
Tomoko Kuribayashi, Yu Ogawa, Cyrille Rochas, Yuji Matsumoto, Laurent Heux, Yoshiharu
Nishiyama,
Hydrothermal
transformation
of
wood
cellulose
crystals
into
pseudo-orthorhombic structure by co-crystallization, ACS Macro letters, 5 (6),
730-734(2016).
栗林朋子, 小川
悠, 松本雄二, 西山義春, 広葉樹材の 200℃水熱処理によるセルロースの構造
変化, 木材学会誌 (査読中)
68
...