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大学・研究所にある論文を検索できる 「世代別にみる女性農業者のエンパワーメントの特徴に関する研究―宮城県と岩手県の女性農業者を事例に―」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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世代別にみる女性農業者のエンパワーメントの特徴に関する研究―宮城県と岩手県の女性農業者を事例に―

唐 冠琰 東北大学

2022.02.28

概要

【目的】
本研究は,女性農業者の「エンパワーメント」の推進に向けて,「縦」一女性農業者の生活史と「横」一女性農業者を取り巻く社会関係の2つの次元からの検討を基に,世代別の女性農業者のエンパワーメントの特徴を多角的かつ絵合的に整理することが目的である。

女性農業者の「エンパワーメント」とは社会的な力をもたず、意思・方針決定への影響力や直接参加力のなかった女性たちがさまざまな活動をとおして,社会・政治・経済の変化の担い手になっていく過程(靏,2007) を意味し,「女性農業者の活躍推進」といった施策によって女性が主体となる起業活動の推進,地域参画における女性参画促進,家庭経営協定締結による経営における女性の発言力増加の面で進まれてきた。また,女性農業者の「エンパワーメント」は農山漁村における女性の地位向上だけでなく,農業の持続可能性にも重要な意味を持っている。その理由として,女性が農業生産経営活動の新たな担い手・労働力として期待されていること,生活者や消費者の視点を持つ女性の経営参画による収益力向上やイノベーション効果が期待されていることが挙げられる.このことから,女性農業者の「エンパワーメント」の世代別特徴を解明することで,「エンパワーメント」の更なる推進に向けた課題解決が重要である.

【方法】
本研究では,農村女性の起業や都市農村の交流活動など,女性農業者の「エンパワーメント」の活動を一つの側面から捉えるのではなく,生活する一個人の総体と社会との関係性の二つの次元から理解を深めるために,「縦」の次元一女性農業者の生活史に関してはライフヒストリー分析法を,「横」の次元一女性農業者を取り巻く社会関係に関してはパーソナルネットワーク分析法を採用した.

ライフヒストリー法は,個人の生活構造に焦点をあて,その人生の一時期,あるいは一生,さらには世代を超えた生き様を対象とし,そこで展開される生活構造の変遷や世代間の文化の継承・断絶などを長いタイム・スパンで探究する研究手法である(谷,2008).

パーソナルネットワーク分析は,主体行為をその主体と取り巻く関係の網の目(ネットワーク) との関連で分析する手法のなかで,特定の個人と関係性を取り結ぶ人と人の関連に限定して、個人レベルの社会関係の形成過程や実態を分析する手法である(森岡,2000).

【分析結果】
「縦」の次元一女性農業者の生活史からの分析では,エンパワーメントの過程における女性農業者の活動は「出身・環境の影響」「ライフイベントの発生」「モデル像への憧れ」「生活経験・農業生産経営知識の同時獲得」「周囲のつながり」が共通点として挙げられ,相違点としては「活動展開の志望」「情報発信の仕様」「関係機関の利用」「集団活動の参加」における世代別差異が抽出された。その同異点を踏まえて,高年層では外部的活動起因・集団的活動傾向・先駆者的責任感を,壮年層では家庭的活動起因・生活課題の集団共有・中堅的行動者を,若年層では自己実現的活動起因・個人行動の優先傾向・集団活動の学習者・多様なる情報発信の志向の特徴を有していることが明らかになった.

「横」の次元一女性農業者を取り巻く社会関係からの分析では,若い世代の女性農業者のパーソナルネットワークは近隣比率も多重送信性も依然として高いものの,ネットワークの規模が一定程度拡張したこと,親族比率が低くなったことが確認された。また,調査対象者の個人属性を基に類型化した分析では,女性農業者の経営形態や活動志向による個人差が確認された。特に新規参入や婚入による生活圏の変化による地縁・血縁ネットワークにおいての違い、経営の仕方や活動の志向による仕事仲間,家族関係においての違いが見られた。女性農業者が持つ社会関係の変化から,女性農業者の主体の増加と活動範囲の拡大, また,それに伴う新たな関係契機が増えたことによる関係形成の独立化,すなわち家族から独立した個人が有する関係の増加と,自由化,すなわち個人の生活様式や活動志向に応じた関係形成の選択自由度の増加,は女性農業者のエンパワーメントの新たな特徴として確認できる。その一方,家族をはじめとする地縁・血縁コア・ネットワークの重要性が依然として存在していることから,活動範囲が拡大し,独自な社会関係を構築する女性農業者に対しても,このコア・ネットワークが女性農業者の活動の「足元」であることを再確認できた.

【結論】
本研究の最大の特徴は,「縦」一女性農業者の生活史,「横」一女性農業者を取り巻く社会関係の二つの次元からの分析を基に,女性農業者のエンパワーメントの世代別特徴を多角的かつ総合的に明らかにした点である。

「縦」女性農業者のライフヒストリーの分析から,エンパワーメントの過程における女性農業者の活動は「出身・環境」、「モデル像への憧れ」、「ライフイベントの発生」による影響などの共通点を有している一方で,活動展開の志向,関係機関の利用や,情報発信の仕方などの面での相違点が見られた.「横」若い世代の女性農業者のパーソナルネットワークの分析から,女性農業者が所有する社会関係の変化が見られ,主体的活動の増加と活動範囲の拡大と,それに伴う関係形成の独立化と自由化が新たな特徴として確認できた.

それに基づいて,今後の女性農業者のエンパワーメントを推進していく上で,世代別の特徴が有する意味を考えると,まず,社会経済環境の変化に伴い,エンパワーメントの世代別特徴が存在していることから,エンパワーメントの推進に必要な行政によるきめ細かな環境整備が重要である。その際における関係機関のあり方に関しては,活動初期の後押し効果,ネットワーク形成における橋渡し役を意識する必要がある、そして,世代共通して「モデル像への憧れ」が活動に影響を与えていることから,現在の高年層が持つ先駆者的責任感としての発信は伝承していくべきであり、現在の壮年層・若年層から提示される新たなモデル像が必要となる。ただし,このモデル像は彼女たちの積み重ねをもとに説得力を増していくものであり,その際の行政側からの支援,評価体制の整備も必要である。そして,活動志向の多様化に伴う選択肢の提供,集団活動を好む傾向の相違からの組織の作り方についての検討も必要であり、そこに関しては,農林水産省が提示した農業女性Project とその地域版グループの展開を評価すべきと考える.また,女性農業者の活動の「足元」となる地縁・血縁コア・ネットワークの役割から,家族など身近な関係によるサポートが重要である。

以上のことから,女性農業者のエンパワーメントの推進には,行政はもとより,身近な関係である家族,そして女性農業者自身による三身一体の行動が必要不可欠である。

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