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大学・研究所にある論文を検索できる 「TALENを用いたRhizopus属糸状菌における高効率遺伝子組換え技術の開発」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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TALENを用いたRhizopus属糸状菌における高効率遺伝子組換え技術の開発

壺井 雄一 広島大学

2022.03.23

概要

1. 研究の背景と目的
Rhizopus 属糸状菌は、発酵生産に利用される有用な側面を持つ一方、病害菌としての側面ももつ二面性がある微生物として知られている。それゆえ Rhizopus 属菌の遺伝的改変技術は重要であり、物質生産性の向上や感染メカニズムの解明に必要不可欠である。これまでに、Rhizopus 属菌において複数の宿主ベクターシステムが構築されており、栄養要求性株の取得とそれを相補するプラスミドベクタ一の開発や、アグロバクテリウムを用いたグノムへの DNA の挿入技術が開発されてきた。しかし、Rhizopus 属菌において相同組換えによるターゲティングによる遺伝子碳壊例は1例のみであった。相同組換えによるターゲティングによる遺伝子改変手法は遺伝子の破壊、改変及び置換を行うことができる有用な手法であるが、一般的に糸状菌では有効性が低いことが知られている。また糸状菌の中でも Rhizopus 属を含む Mucorales 目は外来 DNA のグノムへの挿入が非常に起こりにくいことで知られており、それゆえ Mucorales 目においては、外来 DNA を用いた相同組換えによるゲノムの改変は極めて困難であり、実用に耐えない手法であった。

近年人工 DNA 切断酵素の利用により、様々な生物でゲノムの任意の部位に特異的に DNA 二重鎖切断 (DSB)の導入が可能となってきた。人工 DNA 切断酵素を用いることで、目的部位での DSB を起点に DNA 修復を誘導し、それを介した様々なゲノム改変が可能となる。そこで本研究では、Rhizopus属糸状菌における高効率遺伝子組換え技術の開発を目的に、人工 DNA 切断酵素の一つであるTranscription activator-like effecter (TALE) nuclease (TALEN)を用い、検討を行った。

2. Rhizopus 属菌における TALENの機能性検証と遺伝子破壊技術の構築
Rhizopus oryzae NBRC5384 株を用い、本菌で機能する宿主ベクター系の開発を行った。本菌に対して変異原として紫外線を照射し、アデニン要求性株を取得した。また代謝中間体を用いた生育回復試験から変異遺伝子として aded を同定し、adeA を遺伝子マーカーとした宿主ベクター系を開発した。さらに RNA-seg 解析により、既報のpdc プロモーターより強発現のプロモーターとして、ldh4 プロモーターとadh プロモーターを同定した。また誘導プロモーターとして、報告がある amy プロモーターを選択した。

続いて Platinum TALEN の機能性検証を行った。構築した発現ベクターを用いて、ライブラリから標的配列に応じた TALEN を構築できるように、R. oryzae 用 TALEN destination ベクターを構築した。機能性検証の標的遺伝子は、トリプトファン生合成遺伝子の一つである trpC遺伝子とした。本遺伝子の破壊株は、5-フルオロアントラニル酸 (以下、S-FAA)を用いてポジティブセレクションすることが可能である。各種条件にて Indel 変異を狙った検討を行った結果、S-FAA 添加培地で生育株が得られるものの、トリプトファン要求性株を得ることはできず、ゲノムシークエンスでもTALEN 切断部位付近での変異は確認できなかった。そこで、エキンヌクレアーゼ(以下、exo)の共発現によりゲノム編集効率の向上が報告されていたことから、本菌から ero 遺伝子の単離を行った。Rhizopus属菌ではexo が報告されていなかったことから、自前で構築したゲノム解析結果から探索を行った。その結果、典型的な exo 遺伝子は存在しなかったが、Exo 活性を持つと報告があるエキソリボヌクレアーゼと相同性が高い Rokeml (Accession No. LC638492)とRoxrnl (Accession No. LC638493)を候補として新規に取得した。TALEN との共発現を検討した結果、adh プロモーターにて TALEN を発現し、Rokem」を共発現した条件にて、5-FAA 添加培地で生育しかつトリプトファン要求性である株を5株取得した。グノムシークエンスを確認したところ、TALEN切断部位からゲノムが 238-bp 欠失した株を1株と 709-00欠失した株を4 株得た。DSB の修復部位を確認したところ、糸状菌で通常優勢と報告があるnon-hornologous end-joining の機構ではなく、microhomology-mediated end-joining (MME』の機構での修復が示唆された。以上から本菌において TALENが機能すると推察された。

3. Rhizopus 属菌における相同組換え技術の構築
2.で、TALEN と Exo 活性を有する酵素の共発現により、Rhizopus 属菌にて塩基失による遺伝子破壊手法を確立した。続いて、相同組換え技術の確立を目指し検討を行った。

Rhizopus 属菌では、外来から導入した DNA 断片に複製起点がなくても、環状化し複製され、比較的安定に保持されることが報告されている。そのため遺伝子マーカー等を用いた一般的な相同組換え検討を行っても、偽陽性が頻出し相同組換え体の取得が非常に困難と報告がある。そこで TALEN により DSB を誘導して部位特異的に修復機構をリクルートし、さらに DNA 断片の環状化を抑制するため一本鎖DNA を用いることにより、相同組換え(または一本鎖鋳型修復)が可能か検討した。

Rhizopus delemar JCMSSS7株にて宿主ベクター系を構築し、pdcl 遺伝子領域にて検討を行った。初めに相同配列長が 1-kbp (kb)である二本鎖 DNA または一本鎖 DNA のみを用いて形質転換を行った。その結果、二本鎖DNA では選抜株 108株の内、相同組換え株は存在しなかった。一方、一本鎖 DNAを用いた検討では生育株を得ることができず、偽陽性の発生を大きく抑えられることを確認した。続いて、TALEN、Rokem」及び相同配列長が 1-kbp (kb)の二本鎖 DNA 断片または一本鎖 DNA 断片を用い、検討を行った。二本鎖 DNA の使用では、選抜株 108 株のうち相同組換え株は存在しなかった。一方、一本鎖 DNA を使用した条件では、選抜株 8株のうち相同組換え株が1株あり、相同組換え株の取得に成功した(相同組換え効率は12.5%)。

本菌において、相同組換えを誘導するための課題が相同配列長でない可能性が考えられたため、一本鎖DNA の相同配列長を上述より短くし、100-bと50-bにて検討した。その結果、相同配列長 100-6においては選抜株 24株中のうち 22株が相同組換え株であり(相同組換え効率は92 %)、また50-6においては選抜株 24株のうち 19株が相同組換え株であった(相同組換え効率は 79%)。さらに別のpdc3遺伝子領域でも同様に検討を行ったところ、選抜により生育した 20株のうち、8株が目的とする相同組換え株であり(相同組換え効率は40%)、本法にて相同組換えが可能であることを確認した。また本法の汎用性を検証するため、2.で宿主ベクター系を構築した別種である Rhizopus oryzae でもldha 遺伝子領域にて本法を検証した。TALEN、Rokem」及び相同配列長が 1-kbp (kb)の二本鎖 DNA 断片または一本鎖DNA 断片を用いた。その結果、二本鎖DNA を用いた場合、選抜により生育した 24株のうち、相同組換え株は存在しなかったが(相同組換え効率は0 %)、一本鎖 DNA を用いた場合は、選抜により生育した 24株のうち、相同組換え株は18株であった(相同組換え効率は75%)。本法にて R. oryzaeでも同様に相同組換えが可能であることを確認し、Rhizopus 属菌において本法が汎用性高く使用できることを確認した。

4. まとめ
本研究は、Rhizopus 属菌においてTALENを用いて初めてゲノム編集に成功した報告である。Rhizopus属菌において、TALEN と exo 遺伝子を共発現することで塩基欠失を誘導できることを確認し、さらに一本鎖 DNA を用いることで、高効率な相同組換え手法の確立に成功した。本法は Rhizopus 属菌において汎用的に用いることができる。また本法は宿主の相同組換え効率に依存しないことから、相同組換えによるゲノム改変が困難な他の生物においても、本法は検討に値すべき一つの手法であると考えている。他の生物と比較し、相同配列長が数十と比較的短くても相同組換えが可能であることから、今後のゲノム工学には、PITCh 法と呼ばれる MMEJのメカニズムを用いた遺伝子挿入の戦路が有用である可能性が示唆された。本法を応用することで、Rhizopus 属菌の基礎科学及び代謝工学の進展に役立つと考えられる。

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