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大学・研究所にある論文を検索できる 「脊椎動物におけるオーノログの収斂進化メカニズムの研究」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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脊椎動物におけるオーノログの収斂進化メカニズムの研究

田内 幹大 広島大学

2022.03.23

概要

背景と目的

 脊椎動物の進化の過程では、全ゲノム倍加(WGD)がしばしば起きてきた。脊椎動物の祖先種で、約5億年前にWGDの第1回と第2回が起こり、加えて3回目のゲノム倍加が約3億7千万年前には硬骨魚類で、約1700万年前にアフリカツメガエルの系譜で起こった。そしてこれらのゲノム倍加が原動力となり、遺伝子の進化が促されてきたと考えられている。このゲノム倍加後の遺伝子進化に関しては、古くから理論研究が行われており、古典的な考えとして、倍加後、遺伝子の機能が冗長になるため、負の選択圧が緩み、変異が入ることで、2コピーのうち1つが新機能を獲得するかあるいは偽遺伝子化により1コピーに回帰する(シングルトン化)と考えられていた。しかし、近年のゲノム研究により、一見倍力卩したコピーのどちらにもほとんど変異が蓄積しておらず、2コピーで維持されている遺伝子も多く存在することもわかってきた。そしてこれまでにシングルトン化した遺伝子と2コピーで維持されている遺伝子の機能的特徴については、Gene Ontology解析 などから調べられてきたが、遺伝子の構造が運命選択に与える影響については明らかでなかった。本研究では、進化運命を決定する要因となる遺伝子の構造的な特徴を明らかにすることを目的として研究を行った。

結果

(1) 異なる進化系統における倍加遺伝子の収斂進化
 ゲノム倍加後に必然的にシングルトン化しやすい遺伝子群と2コピーで維持されやすい遺伝子群を浮き彫りにするために、それぞれ独立なゲノム倍加により形成された偽4倍体ゲノムを持つアフリカツメガエルとゼブラフィッシュのオーソログを比較解析した。アフリカツメガエルでは全遺伝子のうち57%が2コピーで維持されているが、発生制御転写因子に限定すると約90%もの遺伝子が2コピーで維持されていることが明らかになってい る。そこでこのような2コピー共に負の選択圧のかかっていると考えられる遺伝子群の中でシングルトン化した遺伝子と2コピーで維持されている遺伝子を抽出すれば、何らかの特徴を持っている遺伝子を同定できる可能性がある。そこでまず発生制御転写遺伝子に注目して、上記の2種でシングルトン化した遺伝子の割合を算出した。その結果、アフリカツメガエルでは12% (102/885)、ゼブラフィシュでは69% (611/889)であった。これらシングルトン化した遺伝子には、シングルトン化への正の選択圧がかかったか、あるいは 2コピーで維持されている遺伝子より負の選択圧が低下したと考えられる。次に2種で共 通してシングルトン化した遺伝子、および2コピーで維持されている遺伝子を抽出した。その結果、アフリカツメガエルでシングルトン化している遺伝子102個のうち88個がゼブラフィッシュでもシングルトン化していることがわかった。さらに、アフリカツメガエルにおいて2コピーで維持されている遺伝子783個のうち、260個がゼブラフィッシュでも2コピーで維持されていた。次に抽出した88個のシングルトン化した遺伝子と260個 の2コピーで維持されている遺伝子に対する祖先型遺伝子群の特徴を、5っの観点(シス エレメントの数、発現部位の数、染色体上での位置、コード配列の長さ、エキソンの数)から調べた。その結果、発現部位の数や染色体上の位置関係に関しては、明らかな差が認められなかった。一方で、シスエレメントの数に関しては、シングルトン化した遺伝子が 2コピーで維持されている遺伝子に比べて有意に少なかったことに加えて、コード配列も有意に長く、ェキソンの数も優位に多かった。これは他の発生制御遺伝子群であるWNTシグナリング関連遺伝子、Shhシグナリング関連遺伝子でも似たような傾向を示すことが明らかとなった。

(2) アフリカツメガエルにおけるCRISPR/Cas9システムの最適化
 (1)ではアフリカツメガエルとゼブラフィッシュにおいて、共通の進化運命を辿る遺伝子の特徴を抽出したが、次にアフリカツメガエルにおいて2コピーで維持されており、ゼブラフィッシュでシングルトン化している遺伝子に注目することで、それらがどのような進化運命を辿っているのかを推定できると考えた。そのためには、生体内で倍加したそれぞれのコピーの役割を明らかにすることが重要であり、CRISPR/Cas9を用いた遺伝子破壊実験が有用であると考えた。そのためには、倍加したそれぞれのコピーを区別して、gRNAを作成する必要がある。しかし倍加コピー間の配列は、相同性が高く、gRNAを複数箇所に設計することができず、効率の良い遺伝子破壊を行えない可能性がある。そこでgRNAによる破壊効率要因以外で、遺伝子の破壊効率を向上させるため、メラニン合成に必要な/)roWna见遺伝子を標的に用いて、5つの実験条件(受精後のインジヱクション時期、Cas9の導入量、インジェクション溶液の総量、胚あたりのインジェクション箇所の数、インジェクションした胚の培養温度)の変化が破壊率に与える影響を順番に調べた。その結果、インジェクション時には、1500 pgのCas 9 m RNAを含む20 nlの反応液を、1 細胞期胚の2 箇所に分けて導入すると、最も高い破壊率が得られることがわかった。インジェクション後の培養温度については22°Cで一定に維持することで破壊効率が上がった。この条件の元、(3)の解析を行った。

(3) 倍加遺伝子の進化運命の解析
 本章では、アフリカツメガエルにおいて2コピーで維持されており、ゼブラフィッシュではシングルトン化した遺伝子の1つであり、神経の分化や腸内分泌細胞の分化に働くneurog3(ngn3)に注目して、アフリカツメガエルの倍加遺伝子の進化過程について解析した。はじめに(1)で解析した方法と同様に、ngn3の遺伝子構造を解析すると、シスエレメントの数が多く、且、コード配列が短く、エキソンの数も少ないことがわかった。次に祖先型であるネッタイツメガエルのngn3の発現とngn3.L/ngn3.Sの発現を比較すると、胚発生ステージにおいては、ngn3.Sが祖先型と同様な発現を示したのに対して、ngn3丄は祖先型よりも発現が低下していた。一方でアフリカツメガエルの成体期での組織の発現は、 ngn3.Lがに比べて、局所的に発現していたが腸においては、ngn3.Lの発現がngn3.Sよりも強いことがわかった。さらにngn3.LのbHLHドメインをコードする領域には、ネッタイツメガエルのngn3やngn3.Sでは見られない非同義置換型の変異が蓄積していることから、ngn3.L/ngn3.Sの性質の違いを調べるために、その神経誘導活性を神経の分化マーカーであるβ-tubulinを用いて角军析した。その結果、ngn3.Lはngn3.Sよりもその神経誘導活性が少ないことがわかった。さらに(2)で最適化させたCRISPR/Cas9システムを用いて、ngn3.L/ngn3.Sを破壊して、生体内での役割を調べた。腸分泌細胞のマーカーである chromograninA (chgA)を用いて、表現型解析を行った結果、ngn3.Lを破壊した時に比べて、ngn3.Sを破壊した方が、より以が の発現が低下したことがわかった。この結果は ngn3.Lが腸での役割を失いつつあることを示唆している。これらの結果より、の遺伝子の構造は2コピーで維持されやすい特徴を持っており、一部の機能が特化することで、 2コピーで維持される可能性とngn3.Lの発現と機能を失いシングルトン化する2つの可能性が示唆された。

まとめ

 本研究は遺伝子の構造が進化運命に与える影響について複数の観点から解析した初の例であり、シスエレメントの数やコード配列の長さ、さらにエキソンの数にその可能性が示唆された。それだけでなく、アフリカツメガエルで高効率な遺伝子破壊を達成する実験条件を定めることができた。この条件踏まえて、アフリカツメガエルにおいて、進化途中の遺伝子ngn3.L/ngn3.Sの解析を行うと、その運命がシングルトン化または、2コピーで維持される分岐点に位置していることが示唆された。これらの結果は、発生制御遺伝子におけるゲノム倍加後の進化運命を決定する要素を同定しただけでなく、他の遺伝子群の進化運命においてもこれらの要素を含んでいる可能性を示唆した。

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