Immunohistological evaluation of mismatch repair deficiency in pancreatic ductal adenocarcinoma treated with surgical resection
概要
論
文
内
容
要
約
Immunohistological evaluation of mismatch repair
deficiency in pancreatic ductal adenocarcinoma
treated with surgical resection
主指導教員:高橋
信也教授
(医系科学研究科
外科学)
副指導教員:檜山
英三教授
(自然科学研究支援開発センター
生命科学)
副指導教員:上村 健一郎准教授
(医系科学研究科 外科学)
大塚
裕之
(医歯薬保健学研究科
医歯薬学専攻)
概要
背景:膵癌切除患者のミスマッチ修復機能欠損(deficient mismatch repair:
dMMR)の頻度と予後は未だ明らかとなっていない。本研究は、外科的切除で
治療された日本人膵癌患者における dMMR の頻度とその臨床病理学的関連性
を評価するために計画された。
方法:広島大学で外科的切除を受けた合計 400 人の連続した膵癌患者を対象と
した。 MLH1、MSH2、MSH6、および PMS2 を含む 4 つの抗体による免疫組
織化学的染色を使用して、膵癌検体中の dMMR の存在を判定した。これらの患
者の頻度と臨床転帰を評価するために統計分析を適用した。
結果:400 人のうち、5 人(1.3%)に dMMR を認めた(MLH1 欠損 2 人、PMS2
欠損 2 人、MSH2 欠損 1 人)。 dMMR の患者とミスマッチ修復が保たれている
(proficient mismatch repair: pMMR)患者の間で組織学的に pMMR で有意に
分化度が高い傾向にあった(P = .03)。単変量生存解析では、無再発生存期間(P
= .268)や全生存期間(P = .173)において dMMR と pMMR の間に有意差は
認めなかった。
結語:日本人膵癌切除例における dMMR の頻度は低く、白人と比較した場合、
人種特有の違いは見られなかった。本研究では、dMMR と pMMR の患者間で
無再発生存率と全生存率に有意差は認めなかった。
1.背景
膵癌患者の予後は厳しく、外科的切除が唯一の根治的治療法であり続けている。
進行した膵癌でも、FOLFIRINOX などの新しいレジメンで治療された後の外科的
切除は予後を改善する可能性がある。しかし、根治切除後でも 5 年生存率は 6
~24%にすぎない。切除可能な膵癌が予後不良な理由の 1 つは、術後早期再発
の頻度が高いことである。より効果的な術前化学療法および術後補助化学療法
を開発するための努力にもかかわらず、それらの予後への影響は依然として不
十分であり、新しい効果的な治療が必要である。
近年、免疫チェックポイント阻害剤の有効性が、ミスマッチ修復 機能欠損
(deficient mismatch repair: dMMR)したいくつかの進行性固形腫瘍で証明さ
れた。転移性および局所進行性膵癌の dMMR 患者はまれであると思われるが、い
くつかの研究では、切除不能膵癌に対する免疫チェックポイント阻害剤の有用
性が高いことを示唆している。しかし、外科的切除で治療された多数の日本人
患者を含む膵癌における dMMR の頻度および予後に関するエビデンスは不足して
いる。さらに、日本人と白人の人種差が膵癌の dMMR の割合に影響を与えるかど
うかは不明である。
本研究は外科的切除で治療された日本人膵癌患者における dMMR の頻度と予後を
検索することを目的とした。
2.方法
2.1 研究デザイン
本研究は、広島大学病院の外科で 2002 年 5 月から 2019 年 3 月まで外科的切除
を受けた膵癌患者の施設データベースに基づく後ろ向きコホート研究である。
すべての患者は R0 または R1 切除をされ、病理学的診断で膵癌と診断した。腫
瘍の病期は、UICC 分類第 8 版に従って評価された。切除可能性分類は、NCCN ガ
イドライン 2019 第 3 版に従って評価された。膵癌および膵管内乳頭粘液性腫瘍
(intraductal papillary mucinous neoplasm:IPMN)併存癌の患者は含めたが、
IPMN 由来浸潤癌は除外した。我々はヘルシンキ宣言の倫理原則に従って研究を
実施し、広島大学の倫理委員会から承認を得た(E-1804)。
2.2 免疫組織化学的染色
膵癌の免疫組織化学的染色は streptavidin-biotin-peroxidase テクニックと
DakoEnVision FLEX システム(Dako、Carpinteria、CA、USA)を用いて行った。
dMMR 免疫組織化学用の抗体には、MutL Protein Homolog 1(MLH1)
(Dako、clone
ES05)、MutS Protein Homolog 2(MSH2)
(Dako、clone FE11)、MutS Protein Homolog
6(MSH6)
(Dako、clone EP49)、および Postmeiotic Segregation Increased 2 (PMS2)
(Dako, clone EP51)が用いられた。簡単に説明すると、ホルマリン固定された
パラフィン包埋組織ブロックから切り出された厚さ 4μm の組織切片を脱パラフ
ィンし再水和した。オートクレーブ(121℃、Tris / EDTA バッファーpH9.0 で
15 分)による抗原賦活化処理後、ペルオキシダーゼブロッキング試薬で切片を
インキュベーションすることによりタンパク質をブロックした。次に、切片を
各 MMR タンパク質(一次抗体)とともに室温で 30 分間インキュベーションした。
次に、切片をポリマー試薬とともに室温で 20 分間インキュベーションした。
3,3'-diaminobenzidine(DAB)で染色を視覚化し、マイヤーのヘマトキシリン
溶液で切片を対比染色した。そして切片を脱水して包埋した。同じサンプルで
一次抗体を省略して、ネガティブコントロールを設定した。臨床転帰を知らさ
れていない 2 人の独立した観察者により、dMMR 発現を免疫組織化学的に評価し
た。 dMMR 発現の診断に関しては、内部陽性対照として膵臓腺房細胞を使用した。
染色強度は以下のようにスコア化された:0(染色なし)、グレード 1(弱い染色)、
グレード 2(中程度の染色)、グレード 3(強い染色)。腫瘍細胞の 50%以上でグ
レード 2 以上の染色が観察された場合、サンプルは陽性であると見なした。 4
種類すべてのタンパク質を発現している患者のサンプルは pMMR と診断し、4 つ
のタンパク質のいずれかで発現を欠いている患者は dMMR であると診断した。
2.3 統計分析
すべての患者は、
3〜6 か月ごとに血液検査と CT によるフォローアップを受けた。
治療開始からの再発状況と生存期間を記録し、死亡した患者は死因を記録した。
Kaplan-Meier 法に基づいて生存曲線を作成し、単変量 log-rank 分析により無再
発生存期間(recurrence free survival: RFS)と全生存期間(overall survival:
OS)を比較した。RFS の障害イベントを疾患の再発と定義し、画像所見に基づい
て診断しました。OS の障害イベントは、何らかの原因による死亡として定義し
た。膵癌の治療開始日から各イベントの発生日または最後のフォローアップ
(2019 年 12 月 1 日)までの生存期間を測定した。術後 90 日以内に死亡した患
者は生存分析から除外した。 P <.05 を統計的に有意であると見なした。 JMP
統計ソフトウェアバージョン 14(SAS Institute)を使用してすべての統計分析
を実行した。
3 結果
3.1 患者背景および病理学的要因
この研究では、外科的切除を受けた連続した 400 人の膵癌患者を対象とした。表
1 に、検討された患者背景と臨床病理学的要因をまとめた。 5 人(1.3%)の dMMR
膵癌患者を特定し(表 2)、そのうちの 1 人はリンチ症候群であった。 MLH1 欠
損 2 人、PMS2 欠損 2 人、MSH2 欠損 1 人を特定した(図 1)。 NCCN ガイドライン
2019 第 3 版の切除可能性分類によると、3 人の患者が Resectable 膵癌、1 人は
動脈接触を伴う境界切除可能(BR-A)膵癌、1 人は局所進行切除不能膵癌(UR-LA)
であった。5 例のいずれも IPMN に関連していなかった。
3.2 dMMR と pMMR の関係性
dMMR および pMMR 膵癌患者による臨床病理学的要因を表 1 にまとめた。 dMMR と
比較し組織学的に pMMR で有意に分化度が高い傾向にあった(P = .03)。
3.3 dMMR 膵癌の生存分析
MMR を評価した 400 人の患者のうち、術後合併症のために術後 90 日以内に死亡
した 9 人を除外した。残りの 391 人の RFS 中央値は 33.1 か月(1.2〜139.1 か月)
であり、OS 中央値は 46.1 か月(3.1〜140.7 か月)であった。打ち切られた患
者を除いた追跡期間の中央値は 39.0 か月(8.9〜140.7 か月)であった。RFS の
比較では、dMMR 膵癌と pMMR 膵癌患者間に有意差は認めなかった(P = .268)
(図
2A)。dMMR 患者の生存期間中央値(MST)と 5 年 RFS は、それぞれ未到達と 60.0%
であったが、pMMR 患者はそれぞれ 32.9 か月と 41.3%であった。OS においても、
dMMR 膵癌と pMMR 膵癌患者間に有意差は認めなかった(P = .173)
(図 2B)。 dMMR
患者の OS の MST および 5 年生存率はそれぞれ未到達と 40%であったが、pMMR
患者はそれぞれ 44.9 か月および 40.7%であった。
4 考察
本研究は外科的切除で治療された日本人膵癌患者における dMMR の頻度と予後を
検索することを目的とした。我々の結果は、免疫組織化学的染色によって dMMR
を有する患者は 5 人(1.3%)のみであることを証明した。また、dMMR の患者の
予後は、pMMR の患者よりも RFS と OS が比較的良好であったにもかかわらず、有
意差がなかったことを示した。
免疫チェックポイント阻害剤は、さまざまな固形がんの dMMR 患者に良好な結果
をもたらした。Le DT らは、12 種類の dMMR がん患者における PD-1 阻害剤の有
効性を報告した。彼らの研究では、画像上 PR と CR がそれぞれ 53%と 21%であ
ったと報告した。いくつかの種類の癌に対する PD-1 阻害剤の有効性を考えると、
膵癌へのその適用への関心が高まっており、研究が進んでいる。しかし、検出
方法や患者数は異なるものの膵癌における dMMR の割合は 0.3%~22%であった。
さらに、外科的切除をされた膵癌患者(特に日本人患者)における dMMR の存在
を評価した報告はほとんどない。外科的切除で治療された膵癌患者の大多数は
治癒的切除後に癌の再発に苦しんでおり、PD-1 阻害剤をテストすることは重要
である。本研究は、外科的切除を受けた日本人膵癌患者 400 人の dMMR に関する
貴重なデータを提供する。
我々の結果は、日本人の膵癌患者の dMMR の頻度が 1.3%であり、白人の膵癌患
者で報告された頻度と類似していることを明らかにした。一方、過去の 2 つの
報告では、日本人の膵癌患者における dMMR の頻度が 15.5%と 17.4%であるこ
とが示されているが、これらの割合は我々の報告よりもはるかに高く、検出方
法やサンプルサイズの違いが原因である可能性が考えられた。
我々の研究は、dMMR 膵癌の予後と pMMR 膵癌の予後に有意差は認めなかったが、
dMMR 膵癌は pMMR 膵癌よりも比較的良好な予後を示したことを明らかにした。い
くつかの研究では、dMMR の膵癌患者は pMMR の膵癌患者よりも予後が良好である
と報告されている。CloydJM らは、dMMR 膵癌患者の 5 年生存率が 100%であると
報告した(観察期間中央値 93.1 か月)。また Hu ZI らは、dMMR 膵癌の平均生存
期間が 96.6 ヶ月であったことを報告した。本研究では、dMMR の患者の長期生存
は認めていないが、dMMR の 5 人のうち 4 人は予後が良好である可能性がある。
実際、現在の研究における dMMR の患者の 5 人に 3 人はまだ生きていて、亡くな
った 1 人も 75 ヶ月の生存を得ていた。また残りの 1 人は URLA 膵癌であったが
治療開始後 11.2 か月生存した。これらの結果から、dMMR 膵癌の患者は pMMR 膵
癌の患者よりも予後が良好である可能性があるかもしれない。さらに、dMMR 膵
癌は、pMMR 膵癌とは異なった背景をもった可能性がある。この研究では、dMMR
膵癌の組織学的分化は pMMR よりも有意に低かった(P = .03)。いくつかの報告
はまた、dMMR 膵癌は pMMR 膵癌より高分化型であるか、組織学的に大部分が区別
可能であることを示してる。また Lupinacci RM らは、IPMN 関連膵癌の dMMR の
頻度(4 / 58、6.9%)が、非 IPMN 関連膵癌(5 / 385、1.3%)よりも高いこ
とを報告した(P = .02)。我々の研究では、dMMR の患者は IPMN 関連膵癌ではな
かったが、これは我々の研究における dMMR の患者数が少ないことが原因である
可能性が考えられた。膵癌の dMMR と IPMN との関連についてはさらに調査する
必要がある。
我々は本研究の限界を認識している。第一に、本研究は本質的に後方視的であ
り、単一施設からの少数の dMMR 患者によるものである。第二に、116 人の患者
が術前化学療法を受けており、これが dMMR の頻度に影響を及ぼした可能性があ
る。いくつかの報告は、化学療法が dMMR の発生率に影響を与えることを明らか
にしている。これらの制限を克服するには、より多くの dMMR 患者に関するさら
なる前向き研究が必要である。
結論として、外科的切除で治療された膵癌患者における dMMR の割合はまれであ
り、日本人患者と白人患者の間でその頻度に差は認めなかった。膵癌における
dMMR の予後は比較的良好であったが、pMMR と比較して有意差はみとめなかった。
謝辞
この研究のためにホルマリン固定、パラフィン包埋組織ブロックを提供いただ
きました、広島大学病理診断科のスタッフに感謝します。
利益相反
なし