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大学・研究所にある論文を検索できる 「Wnt非古典経路におけるシグナル伝達分子機構の解析」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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Wnt非古典経路におけるシグナル伝達分子機構の解析

讃岐, 祥一 東京大学 DOI:10.15083/0002005191

2022.06.22

概要

Wntシグナルは、発生段階において様々な組織の形成に関与するばかりでなく、成体においても骨の恒常性維持など様々な生理機能を司っており、シグナル抑制分子であるsclerostinに対する中和抗体が骨粗鬆症の治療薬として用いられるなど、創薬標的としての可能性も注目されている。ヒトやマウスにおいては、リガンドであるWntが19分子種、受容体であるFzdが10分子種知られており、さらに複数の共受容体分子およびシグナル阻害因子など、様々なシグナル調節因子の関与も報告されている。加えて、下流で活性化される主なシグナル伝達経路として、古典経路(Wnt/β-catenin経路)および非古典経路(Wnt/PCP経路およびWnt/Ca2+経路)が存在し、その他にWnt/cAMP経路が活性化される例も報告されている。このようにシグナル起点部分の構成が複雑であり、下流経路のバリエーションも含めると、その組み合わせ数が膨大になることが、Wntシグナル経路の全体像の理解を難しくしている。本研究では、シグナル起点部分で想定される多様な組み合わせにおいて、Wnt分子種とFzd分子種間でどのような選好性があるか、シグナル経路の活性化バランスはどのようなパターンを示すか、などの点に関して系統的な解析を行い、Wntシグナル経路の全体像の把握を目指した。また、特に不明な点が多く残されている非古典Wnt/Ca2+経路に関して、シグナル伝達に関与する分子機構の解析を行った。

第一章Wntシグナル経路活性化パターンの網羅的・定量的評価
私は過去の検討において、マウスWnt19分子種、Fzd10分子種、および機能修飾分子5種(Lrp5/6、Ror1/2、阻害因子Dkk1)に関し、それぞれアデノウィルス発現ベクターを構築した。遺伝子発現プロモータとしては、過剰発現に汎用されるCMVを用いた。また、下流シグナル経路の活性化パターンを定量的に評価するため、Wnt/β-catenin経路、Wnt/PCP経路、Wnt/Ca2+経路、Wnt/cAMP経路それぞれの下流で活性化する転写因子TCF/LEF、AP-1、NFAT、CREBに対する応答配列を、それぞれルシフェラーゼ遺伝子の上流に配置したレポーター・アデノウィルスを構築した。これらウィルスをマウス骨芽細胞様MC3T3-E1細胞に共導入することで、全てのWnt-Fzdの組み合わせに関し、下流経路の活性化度合いを測定した。しかしながら、その後さらに検討を進めた結果、Wnt-Fzdの組み合わせに依存して、CMVプロモータによる遺伝子発現効率に大幅な変動が生じることが明らかとなり、活性化パターンの測定結果にも大きな影響が生じていると懸念された。そこで、Wnt-Fzdの組み合わせによる影響が少なく、安定して高発現を達成可能な発現プロモータのスクリーニングを行った結果、UbCプロモータが最も発現量が安定することが明らかになった。この結果を踏まえ、UbCプロモータを用いたアデノウィルス発現ベクターを再構築し、MC3T3-E1細胞におけるWntシグナル経路の活性化パターンの網羅的な評価を再び行った。またこの際、UbCプロモータを用いた場合でも生じる発現量変動の影響に関しては、UbCプロモータをルシフェラーゼ上流に配置した恒常発現型のレポーター・アデノウィルスを構築し、このレポーター活性との比率とすることで補正を行った。網羅的な測定の結果、Wnt/β-catenin経路の活性化パターンは主としてWnt分子種への依存性が観察され、Wnt3,3aで強い、Wnt1,2で中程度、Wnt7a,9bで弱い活性化が認められた。Wnt/PCP経路の活性化に関してもWnt分子種への依存性が高く、Wnt/β-catenin経路の活性化とは相互に排他的なパターンを示し、Wnt5a,5b,7b,11,16で一定程度の活性化が認められた。また、これら以外のWnt分子種に関しては、AP-1レポーター活性はむしろベースラインより抑制される傾向が認められた。両経路の活性化には共受容体が関与すると考えられており、共受容体と各Wnt分子種の相互作用の有無が、シグナル経路の活性化を決定する主要因になっていると考えることで、一連の結果を説明可能と考えられた。一方Wnt/Ca2+経路に関しては、広範なWntFzdの組み合わせで活性化が認められたが、比較的Fzd分子種に依存的な傾向が観察され、特にFzd8において強い活性化が認められた。Wnt/cAMP経路の活性化に関してはFzd分子種への依存性が高く、Fzd1,8などで一定レベルの活性化が認められたが、その他の広範な組み合わせにおいて、cAMPレポーター活性はベースラインよりもむしろ抑制される傾向が認められた。両経路の活性化には三量体Gタンパク質の共役が関与すると考えられており、Fzd分子種への依存性が強い傾向を説明可能と考えられた。また、Wnt/Ca2+経路の活性化にはGi/o型の三量体Gタンパク質の関与が指摘されており、Wnt/Ca2+経路の活性化が認められる多くの組み合わせにおいて、逆にcAMP応答の抑制が認められる点を説明可能であると考えられた。全ての組み合わせにおける下流シグナル経路の活性化パターンに対してクラスター解析を行ったところ、大きく5種類に分類されることが明らかとなった。特にWntに関しては、Wnt/β-catenin経路を活性化する古典WntとWnt/PCP経路を活性化する非古典Wntに大別されたが、Wnt/Ca2+経路に関しては、両者に広くまたがって活性化する組み合わせが認められ、古典経路と非古典経路という単純な分類ではWntシグナル経路の下流活性化パターンは説明できないと考えられた。

第二章Wnt/Ca2+経路の活性化に関与する分子機構の探索
前項の解析では、古典Wntおよび非古典Wntに広くまたがる組み合わせでWnt/Ca2+経路の活性化が認められたが、この特徴がWntシグナル経路に関する一般的な特徴かを検証するため、マウス筋芽細胞様C2C12細胞を用いてWnt/Ca2+経路の活性化の評価を行った。MC3T3-E1細胞においてWnt/Ca2+経路の活性化が認められた複数のWnt-Fzdの組み合わせをC2C12細胞に導入して検証を行ったが、いずれの組み合わせにおいても活性化は認められなかった。同時に測定したWnt/β-catenin経路の活性化に関しては、C2C12細胞においても強い活性化が認められる点や、他のGPCRリガンドによるNFATレポーターの活性化は検出される点なども考慮すれば、Wnt/Ca2+経路の活性化は細胞種に大きく依存すると考えられた。そこで、Wnt/Ca2+経路の活性化に関与する分子機構に着目して検討を進めることとした。現在のところ、Wnt/Ca2+経路の活性化メカニズムとしては以下の2つの機構が提唱されている。一つは、FzdがGタンパク質共役型受容体としてWntを認識し、Gi/o型三量体Gタンパク質が共役することで、小胞体からCa2+が動員される機構である。もう一つは、多発性嚢胞腎の原因遺伝子として知られるPkd1が、Fzd非依存的にWntを認識する受容体として機能し、Pkd1と共役してカチオンチャネルを形成するTrpp2を介して、細胞外からCa2+が動員される機構である。これらの機構が細胞ごとに使い分けられているのか、共存して機能しうるのか、あるいは未知の別の機構が存在するのか、などは明らかになっていない。そこで、Wnt/Ca2+経路を強く活性化するFzd8をモデル分子として採用し、MC3T3-E1細胞においてGi/oの関与を検証した。Wnt8a/Fzd8/Lrp5の導入によって誘導されるNFATレポーター活性の上昇は、百日咳毒素によって大きく抑制され、MC3T3-E1細胞においてはWnt/Ca2+経路の活性化にGi/oの関与が示唆された。そこで、MC3T3-E1細胞には発現しているがC2C12細胞には発現していない何らかの分子が、Gi/oの共役からCa2+動員が生じるまでのプロセスのどこかの段階で、必須機構として介在している可能性を想定し、分子の探索を試みた。MC3T3-E1およびC2C12細胞にN末端にHisタグを付加したFzd8およびWnt8a/Lrp5を導入し、細胞膜透過性のクロスリンカーでタンパク質間の架橋を行った後、Fzd8分子を含むタンパク質複合体を回収した。得られたタンパク質複合体をプロテアーゼ消化した後、nanoLC-MSを用いたプロテオミクス解析を行って、含まれるタンパク質を網羅的に同定した。同定されたタンパク質群の機能・発現連関をGeneMANIAにより解析し、Fzd8周辺のサブネットワークを抽出した上で、両細胞間で差分解析することで、MC3T3-E1細胞選択的な分子を抽出したところ、13種類のタンパク質が同定された。これらの中で、Wntシグナル経路との関連性を示唆する情報が存在するものは、Trrp2およびPtk7の2種類であった。そこで、MC3T3-E1細胞に、これらの分子に対するshRNAを導入することで内因性の遺伝子発現を抑制した条件下で、Wnt8a/Fzd8/Lrp5の導入によって誘導されるNFATレポーターの活性を評価した。その結果、Trpp2の遺伝子発現抑制に伴ってレポーター活性の減弱が認められた。Trpp2はPkd1以外にも、Trpc1あるいはTrpv4と複合体を形成して細胞膜に局在し、Ca2+透過性のカチオンチャネルを形成することが知られており、Fzd8が細胞膜上でこのチャネルと機能的に相互作用してCa2+を動員している可能性が考えられた。MC3T3-E1細胞において、EGTAをメディウム中に添加してCa2+をトラップした場合、Wnt8a/Fzd8/Lrp5によるNFATレポーターの活性誘導は強く抑制され、Wnt/Ca2+経路におけるCa2+動員は細胞外からであることが明らかとなった。さらに、Trpcファミリーの阻害剤で処理した場合にも、NFATレポーターの活性誘導の強い抑制が観察された。一連の結果から、MC3T3-E1細胞においては、Fzd8に共役したGi/o型三量体Gタンパク質によって、細胞膜上のTrpp2-Trpc複合体が活性化され、細胞外からCa2+が動員される、という新たな機構によってWnt/Ca2+経路の活性化が生じている可能性が示唆された。

本研究により、Wntシグナル経路に関する包括的なシグナル活性化プロファイルを明らかにし、特にWnt/Ca2+経路の活性化パターンの特徴、および強い細胞種依存性が新たに見出された。さらに、Wnt/Ca2+経路の活性化分子機構として、細胞種依存性を説明できる新たな仮説の提唱に至った。

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