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Near Infrared Photo-Antimicrobial Targeting Therapy for Candida Albicans

安井, 裕智 名古屋大学

2021.07.16

概要

【緒言】
 多くの薬剤耐性微生物が出現し従来とは概念が異なる新しい抗微生物治療が求められている。
 鶏卵黄免疫グロブリン抗体(IgY)は、ニワトリ体内で血清から卵黄に移行して受動免疫を付与し、卵黄中に高い濃度で蓄積されており、安価で大量に調整することができる。IgY はすでに様々な微生物に対して一定の効果を認め、次世代の抗微生物治療として注目されているが、長期に大量使用をする必要があるなど効果は限定的である。これを改善するために IgY を武装化し抗菌活性を高める技術革新を考えた。
 近赤外光免疫療法(NIR-PIT)は、近赤外光照射によって活性化される光吸収性フタロシアニン色素 IRDye700Dx(IR700)とモノクローナル抗体(mAb)の付加物を応用した新規の分子標的癌治療である。癌細胞と mAb-IR700 結合体が反応後に、690nm の近赤外光照射により IR700 が活性化されると、mAb-IR700 付加体が表面タンパクを介して細胞膜が破壊される。
 そこで、NIR-PIT を利用して微生物を標的化する集学的治療法である光抗菌ターゲティング療法(Near Infrared Photo-Antimicrobial Targeting Therapy: PAT2)を検討した(図 1)。がん細胞に比べて増殖速度が早い微生物は抗体を大量に消費するが、IgY を採用することで経済性を担保しながら感染症にも利用が可能となる。
 今回、PAT2 の概念を証明するために、抗カンジダ・アルビカンス IgY 抗体(CA-IgY)とカンジダ・アルビカンス(CA)感染皮膚潰瘍モデルを用い感染症の新しい治療法を開発した。
 光感受物質と光の組み合わせによる点で NIR-PIT と類似した治療として光線力学療法(PDT)が存在する。アミノレブリン酸(ALA)を用いた ALA-PDT は、ALA が細胞内に取り込まれ代謝されることで光感受性物質となり、630nm などの特定波長の励起光を照射することで酸化ストレスを発生し、細胞を傷害する。PDT と NIR-PIT の機序の差は癌治療分野で解明されており、NIR-PIT は細胞死の観点で新規モダリティと言える。本研究では ALA-PDT と IgY-PAT2 の比較も併せて行い、その優位性を検討した。

【方法】
1. 試薬
 IRDye 700DX NHS を LI-COR Bioscience から購入した。CA-IgY は共同研究者の岐阜免疫研究所から入手した。

2. CA-IgY-IR700 の合成とカンジダ種への反応性
 CA-IgY を Na2HPO4、IR700 とともにインキュベートし、混合物を Sephadex G50 カラムで分離精製した。複合体に SDS-PAGE を行い、蛍光バンドは Pearl Trilogy を用いて 700 nm の蛍光チャンネルで測定した。CA-IgY-IR700 の特異的結合を確認するためにフローサイトメトリー(Gallios)解析を複数株の CA、CA 近縁種、ヒト皮膚癌細胞 (A431)を用いて評価した。

3. 共焦点顕微鏡
 A1Rsi を使い観察した。10 万個の CA を 1.5mL マイクロチューブに播種し、CA-IgY- IR700(200 µg/mL)を培地に添加し 3 時間インキュベートした。培地を PBS に交換し近赤外光 256 J/cm2 を照射したものと、照射しないものを、ネクローシス検出薬であるヨウ化プロピジウム(PI)を添加後に撮像し検討した。

4. 走査電子顕微鏡
 JSN-7610F を使い観察した。(3)と同様の手順で近赤外光を照射後 3 時間後に 2%グルタルアルデヒドで固定して観察した。

5. In vitro IgY-PAT2
 In vitro の抗微生物効果をコロニー計測と PI を用いたフローサイトメトリー(FACS Caliber)で定量的に評価した。また、機序の違いを確認するため ALA-PDT との比較を行った。10 万個の CA を 1.5 mL マイクロチューブに播種し、CA-IgY-IR700(200 µg/mL)または ALA(0.5%)を培地に添加し 4 時間インキュベート後に、近赤外光または 630 nmの赤色光(256 J/cm2)を照射した。照射後に YPD 寒天培地に 1 枚 30-300 コロニーとなるように播種し 24 時間インキュベーション後にコロニー数を計測した。フローサイトメトリーは照射 3 時間後に PI を添加して PI 蛍光を 1 万個細胞にて評価した。

6. 動物と感染性潰瘍モデル
 In vivo 実験は名古屋大学の動物管理使用委員会の規則に従って行われた。8-10 週齢のメスのマウスを用いた。両腰に直径 6 mm の全皮膚欠損を作り、そこに 1,000 万個の CA を播種し感染性潰瘍モデルを作成した。

7. In vivo における IgY-PAT2
 CA を播種していない無菌群、感染性潰瘍を作成したマウスを以下の 4 群:1) 感染単独群 2) 近赤外光照射単独群 3) CA-IgY-IR700 単独群 4) IgY-PAT2 群、の計 5 群に割り付けた。 CA-IgY-IR700 を塗布する群には Day 0( 潰瘍作成の翌日) に CA-IgY- IR700(200 µg/mL)を塗布した。近赤外光を照射する群には Day 1 に 256 J/cm2 を照射した。700 nm 蛍光は Pearl Trilogy で観察し、潰瘍面積は Image J で計測した。Day 2 に直径 5 mm の生検パンチで組織を摘出し、ホモジナイズをした溶液を用いて、真菌数、サイトカインの計測を行った。

8. 統計
 別段の指定がない限りデータは最小 3 回の実験から平均値±SEM として表す。統計解析ソフトウェア(GraphPad Prism)を用いて統計分析を行った。p 値<0.05 を統計的に有意な差を有すると判定した。

【結果】
1. CA-IgY-IR700 の結合と反応性
 SDS-PAGE で CA-IgY-IR700 は抗体バンドに一致して IR700 の蛍光を認めたが、CA- IgY 単独では検出可能な蛍光シグナルを示さなかった(図 2A)。フローサイトメトリー解析では複数株の CA、CA 近縁種で 700 nm 蛍光を確認されたが、A431 ではほぼ観察されなかった(図 2B)。よって、CA-IgY と IR700 の結合が確認され、ヒト細胞には結合しないが、カンジダ属に広く特異的に反応することが確認された。

2. CA における in vitro IgY-PAT2
 CA の蛍光顕微鏡観察および走査電子顕微鏡観察を行った。蛍光顕微鏡観察では IgY- PAT2 を行ったもので死細胞蛍光染症が観察され(図 3A)、走査電子顕微鏡観察では CA表面に穴があき変形したことが観察された(図 3B)。
 次にコロニー計測とフローサイトメトリーで定量評価を行った。コロニー計測では CA-IgY-IR700 単独、IgY-PAT2、ALA-PDT 群でコロニー数の減少を認め、IgY-PAT2 と ALA-PDT では光量依存的にコロニー数が減少した(図 3C)。フローサイトメトリーでは IgY-PAT2 のみが死細胞染色を認め、光量依存的に死細胞率が増加した(図 3D)。
 以上から、IgY-PAT2 は ALA-PDT とは異なる機序で、光量依存的に CA の破壊を誘導することが確認された。また、同一の光エネルギーで IgY-PAT2 は ALA-PDT よりも、殺菌効果が高く、また効果出現が早いことが判明した。

3. 感染性潰瘍マウスモデルにおける in vivo IgY-PAT2
 両腰部に感染性潰瘍を持つマウスにおいて、近赤外光照射前に IR700 の蛍光は潰瘍部に観察された(図 4A)。潰瘍面積は IgY-PAT2 群は感染単独群、CA-IgY-IR700 単独群、近赤外光単独群より有意に小さく、無菌群と差を認めなかった(図 4B)。コロニー数は IgY-PAT2 は感染単独群より有意に減少した(図 4C)。サイトカイン・ケモカインは IgY-PAT2 群は感染単独群より、MIP-1β を除く測定したすべての種類で低下した(図 5)。

【考察】
 IgY を用い、NIR-PIT を感染症に応用した PAT2 を組み合わせた IgY-PAT2 を前臨床で検討した。CA-IgY-IR700 は CA 近縁種にも反応を認める一方、ヒト細胞とは反応を認めない特異性をもつ。IgY はポリクローナル抗体であり CA 抗原を広く認識するが、真菌とヒト細胞の構造が大きく異なるため特異性を保つと考えられた。IgY-PAT2 は NIR-PIT と同様の機序と推測され短時間に菌体が破壊されるが、ALA-PDT では酸化ストレスを介して菌を破壊する時間がかかる。In vitro IgY-PAT2 のフローサイトメトリーとコロニー計測の結果はこの時間経過の差を示唆している。In vivo の実験では IgY- PAT2 は CA のみを除去し、マウス正常細胞には影響を及ぼさないために余分な炎症を起こさず、無菌群と同等の創傷治癒となることを示した。
 本研究で実施した IgY-PAT2 は既存の抗微生物薬とは異なる新たな感染症治療法であり、以下の利点が考えられる。微生物による薬剤の取り込み、代謝を介さないため耐性化を起こしづらいと想定できる。従来の抗微生物薬に反応しない未知の微生物に対しても抗体を作成することが可能であり、抗体を変えれば応用できる。従来の抗微生物薬と併用が可能であり、さらに細胞壁や細胞膜を傷害する機序から相乗効果が期待される。今後は他の菌種や複合感染に対する治療効果、他の感染モデルについて更なる検討が必要である。

【結語】
 IgY-PAT2 は新たな感染症治療法となりえ、CA による感染性皮膚潰瘍に対して有効性を示した。

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