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大学・研究所にある論文を検索できる 「植物概日時計の位相応答曲線の計測と応用」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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植物概日時計の位相応答曲線の計測と応用

増田 亘作 大阪府立大学 DOI:info:doi/10.24729/00017342

2021.04.20

概要

現在日本は食糧自給率の低下や,高齢化による農業従事者の後継者不足など,農業に関する多くの問題を抱えている.これらの問題を解決する一つの手段として植物工場が注目をされている.植物工場では自動化により人件費を抑えつつ,高度な環境制御により高効率に高品質な野菜を生産することが期待できる.一方で,植物工場では従来の栽培環境と大きく異なることから,ノウハウが十分に蓄積されていない.これを解決するためには,環境データや植物の生育状況のデータを収集し,理論的な予測に基づく植物工場の環境制御を生かした栽培方法を確立することが必要であると考えられる.

植物は地球上の約 24 時間周期の光や温度の変化に適応するため,概日時計を備えている.概日時計とは約 24 時間周期の内因的なリズムであり,植物の光合成や花成といった植物の様々な活動と密接な関係があることが知られている.環境を高度に制御できる植物工場では,光や温度などの環境を自由に設定することができるため,植物の概日時計の特性を考慮して栽培環境を設計することが可能であると考えられる.しかしながら,光や温度,湿度など様々な環境要因が概日時計と関連することが定性的に示されている一方で,それぞれの環境サイクルの中で概日時計がどのように変化し,それらが生育とどのように関係するかの定量的な理解は十分ではない.そのため,概日時計の特性に基づいた栽培環境の設計を行うためには,概日時計と環境シグナルとの関係性を明らかにするとともに,環境と概日時計と生育の間の関係を定量的に明らかにすることが必要である.

概日時計の基本的な特性として,環境の昼夜変動に応答して自身の主観の時刻を変化させることにより,周期的な環境と同期する性質を持つ.この環境刺激に対する応答は,刺激を受けた際の概日時計の時刻に依存して変化する.この時刻(位相)依存的な位相応答の変化をまとめたものは位相応答曲線(phase response curve, PRC)と呼ばれる.PRC は位相に関する周期関数として表され,その振幅は刺激に対する概日時計の応答量の大きさを,位相応答が正から負の値に変化する安定点は概日時計が周期刺激に対して引き込まれる位相を表している.そのため,光や温度などの栽培環境を構成する様々な環境刺激に対して PRC を明らかにすることは,概日時計を考慮した昼夜環境の設計を行う上で重要な役割を果たすと考えられる.従来の研究では PRC を計測するために,植物を恒常条件で一定時間経過させたのちに一度のパルス刺激を与え,その前後での位相差から刺激を受けた位相に対する位相の変化量を求めるという手法を用いてきた.しかし,この方法では複数の刺激に対して応答を計測するためには多くの時間とコストが必要である.一方,周期的なパルス刺激を用いて PRC を計測する手法を先行研究で提案している.この方法により,同程度の実験回数でも非常に高密度な PRC を計測することが可能となった.また,多数の細胞の集団リズムとして構成される個体レベルでの概日リズムにおいて,その PRC がリズムの振幅に依存して変化することを明らかにした.さらに,数理モデルを用いて単一の細胞レベルの PRC から個体レベルの PRCの変化が予測可能になった.以上の結果から,細胞レベルの PRC を取得することは,個体の概日リズムの挙動を予測する上で重要であることを明らかにした.

しかしながら,一方で,細胞レベルの PRC を計測するためには,概日リズムが高振幅の状態で PRC を計測する必要があり,これには従来手法と同様に複数回の計測が必要である.そのため,より多くの種類の刺激や植物種について PRC を計測するためには,細胞レベルの PRCの特性をより簡便に取得する手法が重要であると考えた.また,植物の概日時計は,部位によって応答特性が異なることが知られている.植物工場のような環境では,空調や養液温度を独立して変化させることで,植物の地上部と地下部の概日時計をそれぞれ独立して制御することも可能である.したがって,より精密な概日時計の制御を実現するためには,部位ごとの差異なども考慮する必要がある.しかしながら,部位ごとの位相応答の特性の差異は計測の難しさから十分な理解が得られていないのが現状である.

以上から,まず,概日時計の特性に基づく栽培環境設計を行うためには,PRC の特性を明らかにすることが重要であると考えた.しかし,PRC の計測は煩雑であり,多くの植物に対して様々な環境刺激に対する応答特性を計測するためには,より簡便にPRC を取得する方法が必要である.さらには,植物概日時計では部位特異性が確認されているため,部位特異性などを考慮した PRC の計測方法も必要である.また,概日時計に基づいて環境設計を行うためには,環境刺激に対する PRC と植物の概日時計および生育との関係を明らかにすることが必要である.これらに加えて,実際の植物生産への応用のためには,栽培品種における有効性の検証が必要である.そこで,本研究ではこれらの課題を解決し,概日時計の応答特性を植物栽培に応用するための一連の計測手法と利用方法を提案することを目的とした.
以下に本論文の概要を示す.

第一章では,研究の背景と目的および論文の構成について述べた.

第二章では,概日時計の PRC の簡易推定を可能とするため,概日リズムの特異点における刺激に対する位相,振幅のリセット現象に着目し,数理モデルを元にした推定手法の構築,および実験による実証を行った.実験ではルシフェラーゼアッセイにより,モデル植物シロイヌナズナの時計遺伝子 CCA1 および TOC1 の発現パターンを計測した.結果として,特異点での応答を用いて,光や温度刺激に対する PRC が各時計遺伝子および変異体において推定可能であることが示された.加えて,本手法を用いることで,植物の地上部と地下部について位相応答の部位特異的な差異を明らかにした.以上の結果から,特異点での応答を用いた PRCの推定手法を簡便かつ幅広い条件に活用できる手法として提案することができた.

第三章では,植物概日時計の PRC をより精密に計測することを可能にするため,自発的あるいは人為的に現れる植物概日時計の時空間パターンを用いた PRC の計測手法を用い,シロイヌナズナの根と葉において部位特異性,個体差,振幅等が PRC に与える影響の評価を行った.結果として,根の時空間パターン(ストライプパターン)を用いたPRC の計測では,根の PRC における部位や時間依存的な変化,振幅依存性,個体差などの評価を行った.また,シミュレーションにより,ノイズが PRC の計測に与える影響を評価した.加えて,植物の葉において,時空間的な環境光の制御により人為的に時空間パターンを生み出すことで PRC を計測できることを示し,葉においても葉身部や葉柄部の部位特異性,個体差などを評価した.以上の結果は,植物のPRC に関わる様々な要因を明らかにするとともに,植物個体内の時空間パターンを用いることで植物の位相応答の特性をより高精度に計測できることを示した.

第四章では,概日時計の PRC と植物の栽培環境および生育との関係を明らかにするため, 光と温度サイクルの複合環境において,各環境サイクル間の位相差(時差)がシロイヌナズナの生育と概日リズムに与える影響を評価した.結果として,複合環境の時差により概日リズムの位相,振幅が変化し,それらは PRC と位相振動子モデルにより,予測可能であることが示された.また,複合環境の時差は植物の成長量にも影響を与え,これらの変化と概日リズムの変化の間に相関があることが分かった.さらに,PRC に基づく概日リズムの予測と概日リズムと生育との関係を組み合わせることにより,光と温度サイクルの時差に対する生育の変化を PRC に基づいて予測できることが明らかとなった.以上の結果により,概日時計の特性を考慮した環境設計が植物の生産性を向上させる可能性を示した.

第五章では,人工光植物工場の主要な生産品目であるリーフレタスを用いて,第二章から第四章で示された手法が実際の植物生産においても応用可能であるかの検証を行った.結果として,第二章,第三章で示された PRC の推定,計測手法により,リーフレタスにおいても概日時計の同期特性が取得可能であることが分かった.また,第四章と同様に時差を持った複合環境下でのリーフレタスの概日リズムと生育を比較した結果,リーフレタスにおいても概日リズムに振幅が PRC に基づいて予測可能であり,リーフレタスの概日リズムの振幅と成長量との間には相関があることが分かった.そのため,リーフレタスにおいても PRC に基づいて環境間の時差が植物の生育に与える影響の予測が可能であることが明らかとなった.以上の結果は,概日時計の PRC の計測および PRC に基づく環境設計が植物工場における栽培品種においても有効であることを示し,概日時計を考慮した栽培環境の設計の植物生産における実用性を示した.

第六章では,以上の結果をまとめ本論文の結論を述べた.

以上により,植物概日時計の応答特性を簡便に計測する手法と精密な計測方法を提案するとともに,概日時計と環境,植物の生育との間の一定の関係性を明らかにすることで,概日時計の応答特性を植物工場における栽培に応用するための一連の計測手法と利用方法を提案した.そして,植物工場における栽培品種であるリーフレタスにおいてこれらの手法を実証することで,概日時計を考慮した栽培環境の設計の植物生産における実用性を示した.

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