好熱菌由来F1-ATPaseの至適生育温度におけるエネルギー変換効率
概要
研究の背景と目的
生体分子モーターF1-ATPase はFoF1-ATP 合成酵素の一部であり,その主な生理学的役割は,生体内におけるエネルギー通貨と言われるATP(アデノシン三リン酸)の合成である.単離されたF1 -ATPase は,ATP をADP(アデノシン二リン酸)と Pi(無機リン酸)に加水分解し,それに伴って放出される自由エネルギー ∆𝜇(化学ポテンシャル差に等しい)を使って分子内の回転軸を回転させ,外部に仕事𝑊をする(図1).このときのエネルギー変換効率 𝑊/∆𝜇 は,好熱菌 Bacillus PS3 由来の F1-ATPase(以下 TF1)を用いた一分子観察実験によって調べられており,25 ℃でほぼ効率100%であると報告されている[1].一方で,好熱菌BacillusPS3 の至適生育温度は65℃であり,そのような高温での一分子観察およびエネルギー変換効率の測定は実験上の困難からこれまで行われていなかった.そこで,本研究では,好熱菌の至適生育温度(65℃)でも TF1は高いエネルギー変換効率を維持できるのかという問いの検証を目的として研究を行った.