論文の公開元へMicroRNA profiling in adults with high-functioning autism spectrum disorder
概要
自閉スペクトラム症（ASD）とは、社会的コミュニケーションの障害や繰り返し行動を特徴とする神経発達障害である。その診断は、臨床症状に基づいて行われているが、客観的な指標が乏しく、時間的制約のある臨床現場では十分な評価が難しい。また、近年、成人期まで見過ごされた結果、十分な医療や支援を受けていないケースが認識されるようになってきた。これは、典型的な症状を呈するASD は幼児期に診断につながることが多い一方、知的機能が保たれている高機能ASD は発達段階の早期には気付かれにくく、進学や就労での不適応を契機に、はじめて疾患特性が明らかになることが一因であると考えられる。
遺伝子の発現を制御する重要な因子の一つとして、マイクロRNA(miRNA)が注目されている。ASD と miRNA との関連については、小児期から ASD 症状が明らかな典型例を対象とした研究が主に実施されており、様々な体組織内でmiRNA が変動するという報告がなされている。しかし、高機能ASD でのmiRNA 発現変動については明らかになっていないことから、本研究では、成人高機能 ASD の血液を用いて、miRNA プロファイリングを行った。
研究参加に同意を得たASD 患者・健常者を対象被験者とした。診断には、DSM-5（精神障害の診断と統計マニュアル）を用い、さらにWAIS-Ⅲ（ウェクスラー成人知能検査）・ADOS（自閉症診断観察検査）・SRS-2（対人応答性尺度）により疾患の特性を評価した。採取した被験者の末梢血から、miRNA を含む RNA を抽出し、品質確認を行った後、miRNA の発現変動についてマイクロアレイを用いて網羅的な解析を行った。その結果、ASD 群で有意な発現変動を示す 18 個の miRNA を見出した。とくに 5 つの miRNA が顕著な発現変動を呈していた。結果の信頼性を高めるため、ランダムに作成した複数のサブセットに対して機械学習アルゴリズムを用いて繰り返し解析したところ、miR-6126 が最も高頻度に選択された。さらに、qRT-PCR 法を用いて、miR-6126 がASD 群で有意な発現低下を認めた。以上の結果から、成人高機能 ASD の有無を判定する指標としてmiR-6126 が最も有望である可能性が示された。
次に ASD の臨床症状と miR-6126 の発現変動との関係を検討し、SRS-2 の総得点とmiR-6126 発現との間に有意な相関を認めた。この結果は、miR-6126 の発現と ASD の症状（社会性障害の程度）との間に関連があることを示している。
また、miRNA は複数の標的遺伝子をコントロールするなど、多様な機能を持つことが知られている。miR-6126 の標的遺伝子を介した役割を調べるため、データベースを用いて、標的遺伝子を探索し、パスウェイ解析を行った結果、miR-6126 の標的遺伝子群は、ニューロンやシナプス、オキシトシンシグナル伝達経路と関連することが示された。まとめると、本研究はmiR-6126 が成人高機能ASD の血液で発現低下していること、miR-6126 が ASD の重症度と相関していること、さらにその標的遺伝子を介して ASDの病態に関与している可能性を示した。本結果は、高機能ASD の診断法の開発に大きく貢献できることが期待される。
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