Sheaves of Structures, Heyting-Valued Structures, and a Generalization of Łoś's Theorem
概要
本論文は、数理論理学の古典的モデル理論における重要定理を、トポス理論的なモデル理論へと一般化するものである。たとえば代数学において、体の直積は体にならないが、体の超積は常に体になる。それどころか環の族が与えられたとき、その“ほとんどすべて”が体ならばその超積も体になる。この種の保存性を任意の構造(群、環、グラフ、順序集合などの一般化)と任意の初等的性質(一階論理の言語で表せる性質)へと拡張したのがŁośの定理である。
当初は古典的な構造について証明された定理であるが、トポス理論的なモデル理論においても、構造の層について類似の部分的結果が成り立つことがわかっている。また集合論の文脈で、ブール値構造についてŁośの定理が成立するための必要十分条件が調べられている。本研究の主定理は、これら散在する先行研究を統一し、ハイティング値構造へと敷衍し、もっとも一般的な形で定式化したものである。論文は前半と後半からなる。まず前半では、後半に必要な概念整備が行われる。位相空間Xの開集合系O(X)は、束としてみると完備ハイティング代数になる。この対応関係を起点として、X上の層の圏とO(X)値集合の圏の間の圏同値が得られる。どちらもトポスなので、圏論的論理学の標準的手法によりトポス内構造の概念が得られ、モデル論を展開することが可能になる。圏同値ではあるものの、前者は層論的な直感を与え、後者は論理的取り扱いを容易にする点で重要であり、どちらの見方にも意義がある。
注目すべき事実として、O(X)値集合の圏における部分対象束には「厳密関係」という概念を用いて具体的表示を与えられるという点が挙げられる。この厳密関係に着目することで、集合論に由来する強制値の定義式を自然に導出することができる。さらに圏同値により強制値を構造の層へと翻訳することで、論理式のトポス理論的解釈(Kripke-Joyal意味論)との対応がつけられる。これらの事柄を明示的かつ系統的に記したのは、おそらく本論文が最初であろう。
論文の後半では、まず超積の構成が、ある種の層のフィルター商をとることで実現できることに着目する。同じことは、適切な仮定のもとでハイティング値構造についても実現できる。超積が一般化されることで、Łośの定理をハイティング値構造へと一般化することが可能になる。以上の準備をしたうえで、本論文の第一成果が述べられる。
定理:O(X)値構造Mが与えられたとき、Mジェネリックフィルターによるフィルター商について(ゲーデル翻訳を通した)Łośの定理の一般形が成り立つ。この定理は古典的なŁośの定理だけでなく、既知のŁoś型定理の多くを包含するという点で真の一般化になっている。しかし一方で、Mジェネリックフィルターの概念はなかなか扱いにくい。そこで先行研究で焦点を当てられたのが、ある種の最大値原理である。ブール値構造については、この最大値原理がŁośの定理の必要十分条件となることが知られている。この洞察をさらにハイティング値構造にまで一般化したのが、本論文の主定理である。
主定理:適切な条件を満たすO(X)値構造Mについて以下は同値である。
(1) Mは最大値原理の亜種を満たす。
(2)任意の極大フィルターはMジェネリックである。
(3)任意の極大フィルターによるフィルター商についてŁośの定理の一般形が成り立つ。
最後に、関連研究と展望が綿密に述べられて、本論文は幕を閉じる。