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大学・研究所にある論文を検索できる 「Production of antiviral lignin from sugarcane bagasse by microwave glycerolysis」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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Production of antiviral lignin from sugarcane bagasse by microwave glycerolysis

Kimura, Chihiro 京都大学 DOI:10.14989/doctor.k23939

2022.03.23

概要

地球温暖化や移動のグローバル化などにより病原性ウイルス蔓延の脅威が深刻化している。植物バイオマスからの抗ウイルス物質生産は、ウイルス感染症への対抗策となり得ると同時に、再生可能な炭素資源からの高付加価値物生産を通して、脱炭素社会に貢献するバイオリファイナリーの普及に寄与する。しかし、莫大な賦存量を有する植物細胞壁成分(リグノセルロース)から抗ウイルス物質を生産した研究報告は少なく、研究対象も製紙過程で副生する廃液リグニンや、成分組成と化学構造が十分解析されていないリグニンやリグニン・多糖結合体抽出画分に限られる。本論文では、リグノセルロースを化学反応により抗ウイルス物質へと変換することを目的に、農産廃棄物であるサトウキビバガスから抗ウイルス物質を生産するマイクロ波化学反応をスクリーニングした。得られた抗ウイルス物質の化学構造および作用機構を解析するとともに、抗ウイルス物質をセルロースに担持させることで、全成分が植物バイオマスに由来する抗ウイルス繊維素材を作成し、そのウイルス感染抑制効果を解析した。

第1章では、リグニンからの抗ウイルス物質生産の研究背景を詳述し、本論文の概要を紹介した。

第2章では、サトウキビバガスから抗ウイルス物質を生産するマイクロ波化学反応を見出すため、酸またはアルカリを含む極性溶媒中でマイクロ波加熱によりサトウキビバガスを化学分解した。反応生成物は中和後に有機溶媒により抽出分画し、乾燥後にジメチルスルホキシドに再溶解させて脳心筋炎ウイルス(encephalomyocarditis virus; EMCV)に対する増殖抑制活性を測定した。その結果、硫酸を含むグリセロール水溶液においてサトウキビバガスを200°Cで分解後、分解物をメタノールで抽出した画分に強い抗EMCV活性を認めた。また、この抽出画分は宿主細胞に対する毒性が極めて低かった。このメタノール抽出物のうち、アセトン不溶画分をジメチルスルホキシドに溶解させ、20倍量のアセトンを加えて生成した沈殿を除去することで活性成分を精製した。これを構造解析に供することで、抗ウイルス物質は天然型の化学構造が破壊された重量平均分子量がおよそ2,000のリグニン(FR200 )であることを明らかにした。さらに、サトウキビバガスを140、160、180°Cでマイクロ波加熱分解し、それぞれの分解物からFR200と同様の方法でリグニン(FR140、FR160、FR180)を精製した。これらのリグニンの抗ウイルス活性と構造を解析した結果、反応温度が高いほど天然型のリグニン構造の破壊が進み、抗ウイルス活性が強く発現することを明らかにした。

第3章では、生産した抗ウイルスリグニンFR200のウイルス増殖抑制活性の発現機構と抗ウイルススペクトルを解析した。第2章において、FR200は宿主細胞の自然免疫応答を賦活化せず、またEMCVとの直接的な接触がないと抗ウイルス活性を発現しないことを見出した。これは、FR200が細胞外でEMCVに作用し、宿主細胞内へ侵入するまでの感染の初期段階を阻止していることを示唆する。そこで、EMCVの構成成分であるRNAとカプシドに対するFR200の作用を解析した。EMCVをFR200とインキュベートした後に抽出したRNAを電気泳動解析およびトランスフェクション実験に供した結果、FR200はEMCVのRNAを損傷しないことが示された。吸着実験では、抗EMCV活性が高いリグニンほどEMCVの外表面であるカプシドへの親和性が高かった。加えて、疎水度の測定から、FR200のEMCVカプシドとの親和性の高さは、リグニンの構造変換に付随した親水性の増大に起因した。また、FR200の抗ウイルス活性を、EMCVの宿主細胞への(1)吸着、(2)侵入、(3)細胞内での複製、の各ステージに分けて測定した結果、FR200はEMCVの宿主細胞への吸着を強く阻害することを明らかにした。さらに、マウス脳脊髄炎ウイルス(Theiler's murine encephalomyelitis virus; TMEV)、水疱性口内炎ウイルス(vesicular stomatitis virus; VSV)、シンドビスウイルス(Sindbis virus; SINV)、ニューカッスル病ウイルス(Newcastle disease virus; NDV)に対する FR200の抗ウイルス活性を測定した結果、このリグニンはノンエンベロープウイルスであるEMCVやTMEVだけでなく、エンベロープウイルスのVSV、SINV、NDVの感染も抑制し、その抗ウイルス活性の強さはFR200の各ウイルス表面との親和性の高さと相関があることを見出した。以上の結果からFR200は、エンベロープの有無に関わらずウイルス表面との相互作用により感染を阻害する侵入阻害剤であると結論した。

第4章では、100%植物バイオマスに由来する抗ウイルス素材を開発するため、抗ウイルスリグニンをセルロースに固定化し、作成したリグニン固定化繊維のネコカリシウイルス(feline calicivirus; FCV)に対する抗ウイルス効果を評価した。FR200はヒトノロウイルスの代替ウイルスであるFCVの感染を強く抑制し、その活性はEMCVの場合と同様にウイルス粒子との直接的な接触により発現することを明らかにした。この結果を受け、FR200 を取得する精製プロセスの上流画分であるアセトン不溶画分(AIF200)を70%エタノールに濃度1.0 mg/mLで溶解させ、ここにコットンを浸漬し風乾することでセルロースへの固定化を行った(cotton-AIF200 )。コントロールとして、70%エタノール処理したコットン(cotton-EtOH)も作成した。ATR FT-IR測定および蛍光顕微鏡観察により、コットンへのリグニンの固定化を確認した。作成したリグニン固定化コットン (cotton-AIF200) および原料コットン (cotton-EtOH) をろ材としてFCV液をろ過すると、cotton-EtOHに比べcotton-AIF200はろ液のFCV力価を96.5%減少させた。また、RNAの定量により、ろ液中のFCVのRNA量が94.0%減少したことが示された。これらの結果から、ろ液中のウイルス力価の減少は、抗ウイルスリグニンによるFCV粒子の捕捉作用に起因することが強く示唆された。

以上のように、サトウキビバガスのマイクロ波グリセロリシスにより細胞毒性が極めて低い抗ウイルスリグニンを生産できることを見出した。生産した抗ウイルスリグニンは天然型の構造が破壊されたリグニンであり、この構造変換により抗ウイルス活性が発現した。また、この抗ウイルスリグニンはウイルス表面に作用することで宿主細胞への吸着を阻害し、感染を抑制していた。さらに、抗ウイルスリグニンをセルロースに固定化することにより、幅広い用途での利用が期待される100%植物バイオマス由来の抗ウイルス繊維素材を開発した。