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eIF4Gを介したdORFの翻訳開始機構およびmRNA・タンパク質品質管理機構の分子機構解析

信田 理沙 東北大学

2021.03.03

概要

遺伝情報の発現は DNA から RNA への転写、翻訳の過程を経て最終的にタンパク質の合成を可能としている。生体において異常産物の生成は様々な品質管理機構によって最小限に留められている。mRNA の翻訳は、rRNA と約 50 種類のタンパク質からなる巨大な複合体であるリボソームによって行われる非常に複雑な行程である。リボソームによる mRNA の翻訳は大きく分けて開始、伸長、終結の3つの段階から成り立っており、mRNA 側の異常の識別にも翻訳が必要なことから、リボソームは単純にアミノ酸同士を連結させるための装置ではなく、相互作用する因子と協力して、mRNA とそこから合成されるタンパク質の品質管理に努めているとも言える。本論文は、この翻訳の開始、伸長、終結の各段階に着目した解析により構成されている。mRNA の翻訳は、mRNA の 5’末端に存在する Cap 構造への eIF4F 複合体のリクルート、リボソーム 40S サブユニットへのternary complex の結合に次ぐ 43S 開始前複合体の形成、さらに eIF4F 複合体との相互作用による 48S 開始複合体の形成によって、mRNA 上を開始コドンまで 48S 複合体が移動するスキャニングが可能となり、開始コドン上で 60S サブユニットの結合によって翻訳が開始される。これが生体内における主要な翻訳開始機構であるが、ウイルスで発見された IRES(Internal Ribosome Entry Site)による翻訳は、翻訳に必要な因子を全て宿主側に依存する形で成り立っていながら、宿主側の翻訳を負に抑えつつ、ウイルス自体の増殖を可能としている。IRES はその種類によって依存する翻訳開始因子が異なっているが、中でも翻訳開始因子を一切必要とせず翻訳を開始する CrPV IRES はリボソームを IRES 上に直接リクルートすることで翻訳を開始することができる。この IRES はウイルスだけではなく、細胞内にも存在していることが分かっており、5’UTR 中や ORF(Open reading frame)中にその存在が報告されている。本研究では、細胞内における IRES の中でも、本来翻訳されない領域である 3’UTR 内に IRES 様の翻訳開始活性が存在することを発見した。新しく発見した IRES の配列は、水晶体を構成するクリスタリン遺伝子の1つである CRYBB1、ペルオキシソームの構成因子である PEX1、T 細胞や NK 細胞に発現し、サイトカインの産生に関するシグナル伝達の一部を担う SH2D1A、ドーパミン生合成に必須の酵素の産生に関与する GCH1、各遺伝子の 3’UTR 配列内に存在している。ウイルス IRES との比較から、本研究で新たに発見した IRES 様の配列は、最長でも 102nt と非常に短いこと、翻訳開始がメチオニンとロイシンコドンに依存していること、上流の ORF の発現を抑制するような活性を有しているという点で、既知の IRES とは大きく異なっていることがわかった。試験管内翻訳系の実験より、この IRES 活性は Cap 構造と eIF4E に非依存であることも明らかになった。GCH1 IRES の翻訳が試験管内翻訳系で再現されたことから、翻訳開始点を決めるため、開始コドン上に形成される 80S リボソームの検出を行なったところ、リボソーム P サイトの位置に開始コドンが存在する時に検出される開始コドン+15~18bp の場所にシグナルが観察されたことから、34 番目のメチオニンが翻訳開始点ということが明らかになった。また、この IRES 活性は eIF4G に依存していることから、3’UTR 内の配列に eIF4Gとのアフィニティーがある配列が存在し、ここにリクルートされた eIF4G 依存に翻訳が開始している可能性が示唆された(第1章)。

細胞内における最も一般的な mRNA の変異であるナンセンス変異は、DNA への変異や、転写段階でのエラーなどによって ORF 途中に終止コドンが出現する変異であり、ナンセンス変異依存分解形(nonsense-mediated mRNA decay : NMD)によって分解される。この NMD は翻訳終結に依存したmRNA の品質管理機構であり、異常な位置での翻訳終結をUpf1タンパク質が感知することで、mRNA を分解するが、その効率は 100%ではない。つまり、 PTC を有する mRNA は翻訳されることで品質管理を受ける事から、異常な短鎖型タンパク質が生成されていると考えられる。このような NMD の機構をすり抜けたようなタンパク質の分解に NMPD が働くことで、異常タンパク質の発現を最小限に留めている。当研究室の先行研究より PGK1 タンパク質の 300 番目のアミノ酸を終止コドンに置き換えた FLAG-Pgk1-300 タンパク質が NMPD のターゲットとなることが明らかになり、この FLAG-Pgk1-300 特異的に共沈降するタンパク質として Hsp70 が同定された。本研究では、この Ssa1/Hsp70 の NEF(Nucleotide Exchange Factor)として機能する Sse1/Hsp110 の機能を明らかにすることを目的として解析を行なった。NMPD の基質となる異常タンパク質は、Ssa1/Hsp70 の欠損株および Sse1/Hsp110 の欠損株において安定化しており、これは mRNA の安定化を伴わないことから、NMPD においてこれらシャペロン分子が分解促進に寄与していることが明らかとなった。さらに、タンパク質の半減期を調べたところ、 Sse1/Hsp110 の変異体のうち、ATP 加水分解能に異常をきたす変異体において異常タンパク質の分解促進が生じ、半減期が野生型よりも短くなることが明らかになった。このことから、Sse1/Hsp110 の ATP 結合型または ADP 結合型の状態が異常タンパク質の分解、フォールディングを決める重要な分岐点であることが示された(第2章)。

翻訳の伸長中に mRNA の二次構造やレアコドン、連続した塩基性アミノ酸配列によってリボソームが停滞した際、NGD による mRNA の分子内切断が生じる。酵母において翻訳終結因子 eRF3 に相同な Dom34 と RF1 に相同な Hbs1 がこれら mRNA の分解促進を行うことが明らかになっている。これまで NGD において mRNA の切断を行うエンドヌクレアーや、細胞内在性の分子切断を受ける mRNA は不明であった。ORF 途中でポリ(A)鎖の付加が生じることでノンストップmRNA を生成することが報告されていた CBP1 mRNA の解析において、分子内切断を受けることが示唆されたことから、詳細な解析を行なった。その結果、 CBP1 mRNA の分子内切断に必要な最小配列(ECIS : endonucleolytic cleavage-inducible sequence)は、ステムループ構造をとることが明らかになった。このステムループ構造の形成を阻害するような変異の挿入によって、分子内切断が観察されなくなることから、このステムループ構造が重要であることが示唆された。さらに、3’末端に存在するミトコンドリアターゲッティングシグナル(MTS : Mitochondrial targeting signal) の欠失変異体でも分子内切断が観察されなくなり、mRNA がミトコンドリアへ輸送されることが重要であることも明らかになった。これまでの NGD の解析では、翻訳伸長中のリボソームが、ある特定の配列によって翻訳停滞を起こすことが必要条件であったが、CBP1 mRNA の分子内切断には MTS によるミトコンドリアへのターゲティングと、ECIS のステムループ構造の両方が必要であることが示唆された。さらに、ミトコンドリアへリクルートされた CBP1 mRNA は、最終的にミトコンドリア外膜上に局在するtRNA スプライシングエンドヌクレアーゼSen 合体によって断されることが明らかになった。さらに RNA-seq による解析から、CBP1以外にもミトコンドリアに局在する mRNA で分子内断をうける mRNA を数発見した。以上の結果より、CBP1 mRNA は、翻訳に共役する形でミトコンドリア外膜上にリクルートされ、Sen 合体による ECIS 上のステムループ構造の認識をうけ、最終的に分子内断をおけることが明らかになった。これは、NGD における mRNA の制御においてミトコンドリア(オルガネラ)への局在に依存した mRNA 品質管理機構の存在を示唆している(第3章)。

本研究は、遺伝子発現において重要な行程である翻訳の開始、伸長、終結の各段階に生じる現象を、様々な基質(mRNA、タンパク質)を通して検証し、明らかにしてきた。新規 dORF(downstream open reading frame)の同定により、ゲノム上に未だ発見されていない ORF の存在の可能性が示唆され、今後のバイオインフォマティクスと分子生物学的手法の進歩によって、次々と明らかにされることが期待される。NMPD における mRNA とタンパクの品質管理機構は、生体内における異常産物の排除機構として重要であり、今後の発展が期待される。また、CBP1 mRNA の分子内切断の生理学的意味は未だ不明であるが、mRNA翻訳に共役した局在の変化と、それに連動した品質管理機構の概念は新しく、今回ミトコンドリアに局在する mRNA でも選択的にいくつかの遺伝子で分子内切断が観察されていたことからも、これらの意義の解明が期待される。

参考文献

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