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機能欠損リボソームに起因する翻訳異常の認識・解消機構の解析

李, 思涵 東北大学

2023.03.24

概要

博士論文 (要約)

機能欠損リボソームに起因する
翻訳異常の認識・解消機構の解析

令和 4 年度
東北大学大学院薬学研究科
生命薬科学専攻
LI SIHAN

機能欠損リボソームに起因する翻訳異常の認識・解消機構の解析
遺伝子制御薬学分野 LI SIHAN

【研究背景・目的】
細胞が保持する遺伝情報は塩基配列として DNA から mRNA に伝えられ、リボソー
ムによって翻訳されることでタンパク質へと変換される。mRNA 上のリボソームの停
滞は翻訳異常を示す危険信号であり、細胞が保持する翻訳品質管理機構 (以下「品質管
理」) により認識・解消されることで遺伝子発現の正確性が維持される。出芽酵母では、
停滞誘導配列を含む mRNA の翻訳に起因するリボソーム停滞は、mRNA の分解系 NoGo Decay (NGD) 、新生ペプチド鎖の分解系 Ribosome-associated Quality Control (RQC)
等の品質管理を引き起こす。mRNA 上の停滞誘導配列が原因となる翻訳異常の認識・解
消の仕組みは、ヒトでも保存されており、このような品質管理の破綻と神経変性疾患と
の関連が示唆されている。
mRNA の配列の他、リボソーム自身の活性の異常もリボソーム停滞の原因となると
想定される。リボソームの異常は、ヒトでは主に造血不全や、皮膚の異常、腫瘍など種々
の疾患の原因になることが明らかとなり、これらの疾患は総じてリボソーム病と呼ばれ
ている。リボソーム病の発症機構はまだ完全に理解されておらず、特にリボソームの翻
訳活性の異常との関連に着目した研究が遅れている。一方、出芽酵母を用いた研究より、
リボソームの活性中心に変異を持つ rRNA は、Nonfunctional Ribosomal RNA Decay
(NRD) と呼ばれる機構により分解・除去されることが報告されている。コドンとアンチ
コドンの正確な対合を認識する活性中心に変異が生じた 18S rRNA の分解機構 18S NRD
の惹起には、翻訳が必須であることから、18S NRD は翻訳異常に起因すると考えられ
る。18S rRNA の変異によりリボソームがコドン認識活性を失い、mRNA 上に停滞する
と想定されるが、mRNA に停滞誘導配列がある場合とは異なる仕様で停滞する可能性

が考えられる。しかし、機能欠損リボソームに起因する翻訳異常の実体が解析されてお
らず、
それを認識し 18S NRD を誘導する分子メカニズムが明らかにされていなかった。
先行研究より、18S NRD は、リボソーム停滞に起因する既知の品質管理 RQC・NGD
と惹起過程が類似している可能性が示唆された。翻訳伸長反応中に停滞したリボソーム
に後続のリボソームが衝突して形成される「衝突リボソーム」に起因する RQC・NGD
の誘導には、E3 ユビキチンリガーゼ Hel2 によるリボソームタンパク質 uS10 のユビキ
チン化、および RQT 複合体によるリボソームのサブユニット解離を必要とする。一方、
Hel2 の別の標的である uS3 の K212 でのユビキチン化は、RQC・NGD には不要である
が、18S NRD に重要であることが示唆された。このことから、機能欠損リボソームがユ
ビキチン化を受けてサブユニットへ解離する仮説が立てられたが、これを示す実験的証
拠が不十分であった。正常型リボソームとの共存下、機能欠損リボソーム特異的な挙動
の解析が困難であることが、18S NRD の研究に残されていた大きな課題であった。
本研究では、出芽酵母を用いて、機能欠損リボソームに起因する品質管理 18S NRD
の惹起機構の解明を基盤に、細胞が多様な翻訳異常を認識・解消する仕組みについて新
たな知見を得ることを目的とした。

【結果・考察】

(1) 18S NRD の惹起におけるユビキチン化およびサブユニット解離の検証
本研究では、機能欠損リボソーム特異的な挙動を調べるため、18S NRD のモデル基質
である 18S: A1755C rRNA を保持する機能欠損リボソームを精製する実験系を構築した。
この精製系を用いた解析より、野生型リボソームと比べて機能欠損リボソームの uS3K212 が優先的にポリユビキチン化修飾を受けることを確認した。次に、18S: A1755C の
分解に寄与するエキソヌクレアーゼ Xrn1 の欠失株を用いて、40S、80S、および複数の
リボソームが同一の mRNA に結合して形成するポリソーム画分における 18S: A1755C
の局在を解析した結果、機能欠損リボソームは 18S rRNA の分解を受ける前に、80S か

ら大・小サブユニットへ解離することを確認した。また、この解離は uS3 のユビキチン
化、および RQT 複合体の構成因子である Slh1 を必要とすることを明らかにした。さら
に、本研究で樹立した機能欠損リボソームのユビキチン化およびサブユニット解離の評
価系を用いて、18S NRD 関連因子として先行研究で同定されたリボソームタンパク質
Asc1 と、mRNA の末端で停滞したリボソームのサブユニット解離に重要な Dom34 の機
能を調べた。その結果、機能欠損リボソームにおいて Asc1 が uS3 のユビキチン化に促
進的に働くこと、Dom34 がサブユニット解離に寄与することが明らかになった。RQT
複合体の構成因子 Slh1 の遺伝子欠失変異と比べて、
Dom34 の遺伝子欠失変異による 18S
NRD の阻害効果が弱いことが先行研究より明らかになっており、18S NRD におけるサ
ブユニット解離には RQT 複合体が中心的な役割、Dom34 が補助的な役割を果たすと推
察した。
以上の結果に基づき、18S: A1755C を保持する機能欠損リボソームは、uS3 のポリユ
ビキチン化を引き金に、RQT 複合体依存的にサブユニットに解離し、18S rRNA の分解
へと導かれるモデルを提唱した。

(2) 機能欠損リボソームに起因する翻訳異常の認識機構の解明
停滞誘導 mRNA 上にリボソームが強く停滞すると、後続のリボソームと衝突し、衝
突センサーである Hel2 によるユビキチン化を受けて RQC・NGD を誘導することが当
研究室より報告されている。一方、18S NRD を誘導する機能欠損リボソームもユビキチ
ン化されるが、翻訳中に停滞・衝突が起こるか否かは明らかにされていなかった。機能
欠損リボソームが示す翻訳異常の正体を解明するために、18S: A1755C を保持するリボ
ソームを特異的に精製後、リボソームが翻訳中の mRNA 配列を網羅的に解析するリボ
ソームプロファイリングを行った。その結果、機能欠損リボソームの大多数は翻訳開始
コドンで停滞することが明らかになった。開始コドンの上流の mRNA には翻訳伸長中
のリボソームが存在しないため、機能欠損リボソームの停滞は、既知の停滞の目印であ

るリボソーム間の衝突を伴わないことが想定される。これに一致して、衝突センサー
Hel2 の遺伝子欠失株において、機能欠損リボソームの uS3 のユビキチン化のレベルは
野生株と比べて顕著な差が見られなかった。従って、Hel2 以外の E3 ユビキチンリガー
ゼが単独で停滞した機能欠損リボソームを認識し、uS3 のユビキチン化を触媒すること
が示唆された。
そこで、18S NRD に必須な E3 を探索する遺伝学的スクリーニングにより当研究室で
同定された Mag2 と Fap1 に着目して解析した。Mag2 が uS3 に最初のユビキチンを付加
した後、Fap1 がユビキチン鎖を伸長させることが当研究室で行われた試験管内反応に
より明らかとなったが、これらの E3 の基質特異性および単独のリボソーム停滞との関
連が不明であった。そこで、Mag2 と Fap1 が結合したリボソームの特徴について、①リ
ボソーム画分における Mag2 および Fap1 の分布の解析、
②Mag2 または Fap1 を精製後、
共精製された内在性のリボソームを対象としたリボソームプロファイリング、により調
べた。①の結果、複数のリボソームが同一の mRNA を翻訳して形成するポリソーム画
分に Mag2 が多く検出されたのに対して、Fap1 が単独の 80S リボソームに特異的に結
合することが明らかになった。また、②の結果、Mag2 が翻訳速度の低下したリボソー
ムを全般的に認識する傾向が見られた一方、Fap1 は開始コドンに位置するリボソーム
をはじめ、隣接するリボソームのない単独の 80S リボソームに優先的に結合すること
が示唆された。さらに、ミュンヘン大学 Beckmann 研究室との共同研究により、CryoEM を用いた Fap1-リボソーム複合体の構造解析を行った結果、Fap1 が Asc1 などのリ
ボソームタンパク質および 18S rRNA と相互作用しており、同時に mRNA トンネルの
入口、出口両方で mRNA と相互作用する様子が観察された。このことから、翻訳伸長
中のリボソーム上の mRNA の相対的な動きが Fap1 の結合を妨害する可能性が示唆さ
れた。以上より、Fap1 は 80S リボソームが停止状態になった時に活性化する、単独で
停滞したリボソームに特化した停滞センサーであると考えられる。Mag2 が翻訳速度の
遅いリボソームに最初のユビキチンを付加することで機能欠損リボソームの候補とし、

その後単独のリボソーム停滞が持続する場合に Fap1 が結合してユビキチン鎖を伸長さ
せ、18S NRD を誘導するという二重確認モデルを提唱した (図 1) 。

図 1.機能欠損リボソームによる 18S NRD 誘導機構の二重確認モデル

(3) 18S NRD の新規基質の同定および一般性の検証
これまでの 18S NRD の解析には、単一のモデル基質として 18S: A1755C が用いられ
てきたが、18S NRD は細胞が産生する内在性の機能欠損リボソームを含め、翻訳異常を
示すリボソームを分解・排除する比較的に一般的な品質管理であると想定される。18S
NRD の新規基質を探索した結果、18S rRNA の活性中心近傍の塩基への変異導入が一般
的に 18S rRNA の分解を引き起こすことを見出した。また、DNA・RNA と架橋する抗
がん剤であるシスプラチン処理後の 18S rRNA の配列を RNA-seq で解析した結果、18S
NRD に必須な Mag2 の欠失時に特異的に蓄積し、機能欠損をもたらす変異が複数同定
された。さらに、異なる機序で翻訳を阻害する複数の薬剤が、18S NRD の引き金である
uS3 のユビキチン化を亢進させることを確認した。ヒト培養細胞においても同様に翻訳
阻害による uS3 のユビキチン化の誘導が観察され、このユビキチン化は Mag2 のホモロ
グである RNF10 に依存することを明らかにした。以上の結果から、①塩基置換などの
変異や損傷により不活性型になった rRNA を含む機能欠損リボソーム、②ストレス時な
どの翻訳阻害により強く停滞し、機能欠損の場合と同様の翻訳異常を示すリボソーム、

が 18S NRD の基質になる可能性が考えられる。ヒトでは数多くの 18S NRD 関連因子が
保存されており、出芽酵母に類似した翻訳異常に対応するための品質管理が備わってい
ることが想定される。本研究の成果は、リボソームの異常に起因するリボソーム病の発
症機序の新たな理解、および薬剤投与がもたらすリボソームへの影響と副作用との関連
の理解につながると期待される。 ...

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