光遺伝学を用いた脳深部における局所血流変動の誘導と時空間解析
概要
脳が血液供給をどのように調節するか、また、局所の脳血流(cerebral blood flow; CBF)がどのように脳機能を制御するかは脳の生理的機能を理解する上で極めて重要である。一方、血管細胞によって制御を受けているCBFの時空間変動に関する情報は、主に脳表で行われていて、脳深部においてその非常に限られている。そのため血流変動が個体に及ぼす影響の解析には多くの課題残されている。本研究は脳深部におけるCBFの局所的な変化が個体にどのような影響を及ぼすか検証を試みた。
本研究では、全身において平滑筋細胞および内皮細胞において光感受性タンパク質を発現させた血管光遺伝学ツールを開発し、それを用いることで血流操作時におけるCBFの時空間変動を捉えることができた。光感受性チャネルタンパク質であるチャネルロドプシン-2(Channelrhodopsin-2; ChR2)を発現するマウスの脳への光照射は、CBFの局所的な減少が誘導され、光活性化アデニル酸シクラーゼ(Photoactivated adenylyl cyclase; PAC)を発現させたマウスの場合はCBFの局所的な増加が引き起こされた。光刺激による血流変動の増減は照射する光の強度および照射時間に比例した。このように、光による一時的な局所CBFの増減を誘導させることに成功した。
そして、脳深部である腹側線条体を対象に、ドップラー血流計測法、fMRIを用いて、光によって誘導された局所CBFの時空間変動の詳細を解析した。麻酔下で行ったドップラー血流計測からは、ミリ秒単位の短時間の光照射においても血流変動を誘導させることができ、その変動は数分後にもとに戻ることが確認された。また、覚醒下においてfMRIを用いた計測からは、照射する光の強度を最適化することによりCBFの空間的な変動範囲を腹側線条体に限定させることに成功した。この情報をもとに、CBFの局所変動が個体の行動に及ぼす影響をオープンフィールドテストおよび尾懸垂試験を用いて調べた。
本研究を通して開発された血管の光遺伝学動物モデルおよび局所CBF変動の時空間的知見は、血管系や神経回路を結びつける基礎研究に限らず、血流変動と高次脳機能の関連を明らかにする研究にも貢献できると考える。