Search for α condensed states in ¹³C using α inelastic scattering
概要
α凝縮は近年の原子核物理学において大きな注目を集めている現象の一つである。α凝縮状態においては、原子物理におけるボーズ・アインシュタイン凝縮のように、全てのαクラスターは同一の最低エネルギー準位を占有している。α凝縮状態では、αクラスターの運動量分布がゼロ近傍に狭く局在化するために、その密度は原子核の飽和密度よりも小さくなる。最近では、α凝縮が低温・低密度核物質の内部エネルギーを減少させることが理論的に指摘されている。非対称核物質中では、α凝縮の影響が抑制されると考えられるため、α凝縮が希薄核物質の状態方程式に強いアイソスピン依存性を生じさせる可能性がある。しかしながら、希薄核物質中においてα凝縮現象が実際に起こっているかどうかは自明ではなく、実験による確認が待たれている。
実験においては、無限系である核物質を直接の研究対象とすることはできないが、様々な質量数及びアイソスピンを持つ有限系の原子核において、α凝縮状態を実験的に探索することにより、希薄核物質におけるα凝縮現象の手がかりを得ることができる。もし、α凝縮状態が様々な原子核において普遍的に存在するならば、α凝縮は希薄な原子核多体系における一般的な現象であることが示されるであろう。これまで、α凝縮状態の存在を確立し、その性質を明らかにする試みが、理論・実験の双方から精力的に行われてきた。しかしながら、これらの研究対象は自己共役かつ核子数A=4kの原子核に限られており、有限なアイソスピンを持つA≠4k原子核におけるα凝縮状態はほとんど議論されていない。
本研究では、自己共役でないA≠4k原子核の系統的探索への第一歩として、13C原子核におけるα凝縮状態の探索を行った。希薄な構造を有するα凝縮状態の探索を行うためには、原子核の密度変化を引き起こすことのできるアイソスカラー単極子(IS0)及び双極子(IS1)遷移が有用である。そこで、これらの遷移に対する断面積が大きくなる0度を含む前方角度において、388MeVのα粒子ビームを用いた13Cに対するα非弾性散乱の微分断面積を測定した。
測定の結果、13Cにおける励起エネルギーEx=12.5MeV付近にIS0遷移によって励起されているピーク構造を新たに発見した。ピークフィット解析を行なった結果、この構造は複数の1/2-状態から構成されていることが示唆された。これらの状態に対するIS0遷移強度は殻模型計算では再現できない。したがって、これらの状態は空間的に発達したクラスター構造を持つと考えられる。また、多重極分解解析により、Ex=14.5,16.1MeVにIS1遷移で励起されたJπ=1/2+または3/2+状態を発見した。理論計算から予想されるエネルギーレベル構造が実験によく対応していることから、16.1MeVの状態はα凝縮状態である可能性がある。しかしながら、この状態に対するIS1遷移強度は、実験値が理論的予想値よりも顕著に小さい。今後、高励起状態を取り入れた詳細な理論計算との比較が必要だと考えられる。また、実験においても、13Cにおけるα凝縮状態の存否の確立に向けて、崩壊モードの測定などの更なる実験情報の重要性を示す結果となった。