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出芽酵母の細胞壁成分β-1,6-glucanの合成関連酵素の研究

北澤, 陽一郎 東京大学 DOI:10.15083/0002002066

2021.10.04

概要

出芽酵母Saccharomyces cerevisiaeは多糖類や蛋白質からなる細胞壁を持つ。細胞壁を構成する多糖類にはβ-1,3-glucan、キチン、β-1,6-glucanなどがあり、その中でもβ-1,6-glucanは他の細胞壁成分を架橋する役割を持ち、酵母の生育に必須な成分である。しかしながら、β-1,3-glucanやキチンがその合成の中心となる酵素及びその働きが明らかになっているのに対し、β-1,6-glucanはその合成の最初の基質がUDP-glucoseであることと、合成関連蛋白質の候補としてKRE遺伝子産物が明らかになっているのみで、合成経路に関わる酵素の実体はまだほとんど明らかになっていない。
 β-1,6-glucanはCandida albicansなどの病原性真菌にも存在することから、β-1,6-glucanの合成経路を明らかにすることは、新しい抗真菌剤の開発に役に立つと考えられる。出芽酵母は分子遺伝学的解析が容易であるだけでなく、ゲノムの配列情報はもとより、全蛋白質間の物理的・遺伝学的相互作用など様々な蛋白質の網羅的情報がデータベース化されているため、出芽酵母でβ-1,6-glucan合成経路を明らかにし、それを他の真菌でのβ-1,6-glucan合成研究に反映できると考えられる。
 本研究では、まず、β-1,6-glucanの合成及び分解を高感度で定量する活性測定法を構築した上で、出芽酵母におけるβ-1,6-glucan合成関連酵素の候補であるKre5とKre6の活性を検討するとともに、出芽酵母の細胞抽出液から合成関連酵素の活性を検出・精製することを試みた。これらにより、β-1,6-glucan合成関連酵素を同定し、その特性を調べることでβ-1,6-glucan合成経路の一端を明らかにすることが本研究の目的である。

第一章 HPLCを使用したβ-1,6-glucan合成関連酵素の高感度酵素活性測定法の構築
 最初に、β-1,6-glucanの合成及び分解を高感度で測定する方法を開発した。β-1,6-glucan関連酵素の活性の存在と特性を調べるには、高純度の基質を得るためにも、また活性測定のためにも、鎖長が異なるβ-1,6-glucanを高分解能で分離し、高感度で定量しなければならない。この目的のためには、従来の方法では不十分である。
 そこで本研究では、糖鎖の還元末端をpyridylamino(PA)化して蛍光により糖鎖を高感度で検出できるようにし、蛍光モニターを備えたHPLCの順相モードでアミノカラムを用いて糖鎖を分離する方法を用いた。この方法で標準品を分離したところ、3~22merの糖鎖を単糖1個単位で分離、検出することができた。次に、N糖鎖標準品を用いてこの方法の定量性を評価した。その結果、1~100pmolまでの間で蛍光面積と糖鎖のmol数は比例しており、この方法の定量性が示されるとともに、定量パラメータが決定された。
 鎖長の異なる糖鎖を高分解能で分離し、高感度で定量できるようになったので、次に、活性測定の基質として、様々な単一鎖長のβ-1,6-glucan純品を得る方法を構築した。材料としては、不均一なβ-1,6-glucanの混合物であるpustulanを塩酸部分分解した後PA化し、構築した系で分離した。得られた様々な鎖長のβ-1,6-glucan混合物のクロマトグラムと、PA化した1、2、6merのβ-1,6-glucan標準品のそれを比較することで、リテンションタイムからβ-1,6-glucanの鎖長を特定することが可能となった。また、この分解物を大腸菌から精製したNeurospora crassaのendo-β-1,6-glucanase、Neg1で分解して分析したところ、鎖長が全体的に短い方にシフトした。この結果から、この検出系でβ-1,6-glucan合成関連酵素の活性を測定できることが示された。最後に、各ピークを分取することで1~15merの単一鎖長のβ-1,6-glucan純品を得、分離を繰り返して純度を高めた。
 以上のように、本章で得た各鎖長のβ-1,6-glucanを基質とし、本章で構築したβ-1,6-glucanの高分解能分離・高感度定量法を用いて、β-1,6-glucan合成関連酵素の活性の詳細な解析が可能となった。

第二章 出芽酵母のKre5及びKre6のβ-1,6-glucan合成関連酵素活性の検討
 出芽酵母のβ-1,6-glucan合成関連蛋白質の候補としてKre蛋白質がある。Kre蛋白質は、β-1,6-glucanに結合して酵母を殺すK1キラートキシンに耐性を持つ変異株から同定されたKRE遺伝子群にコードされる蛋白質で、その変異株では細胞壁中のβ-1,6-glucan量が減少することから、β-1,6-glucan合成に関わる蛋白質が含まれていると考えられている。Kre蛋白質のうちKre5及びKre6は、共に糖鎖関連酵素に相同性を持つ配列を持っており、β-1,6-glucan合成酵素の有力な候補と考えられた。そこで本章では、これらの蛋白質を組換え体として生産・粗精製し、β-1,6-glucan合成関連酵素の活性があるかを、8merのβ-1,6-glucanを基質として第一章で構築した方法で調べた。
 Kre5については、成熟体全長(C末端のHDELを除く)、C末端側の糖質関連酵素ドメイン(GT24)、上記成熟体からGT24ドメインを除いたN末端ドメインの3つの構築それぞれについてC末端にHisタグを付け、昆虫細胞ではN末端に分泌シグナルを付けて培地に分泌生産、出芽酵母では細胞質に生産させた。精製はいずれの場合もNi-NTAゲルを用い、全ての場合で蛋白質を粗精製することができた。活性測定の結果、昆虫細胞から粗精製した蛋白質では全ての断片でわずかなglucanase活性が見られたが、出芽酵母から粗精製した断片では全ての断片で活性が見られなかった。また、出芽酵母から粗精製した断片でUDP-glucoseからβ-1,6-glucanやN結合型糖鎖に糖転移反応が起きるかも調べたが、そのような活性も見られなかった。少なくともこれらの実験からは、Kre5にβ-1,6-glucanのglucanaseまたはtransglycosylase活性は見出されず、昆虫細胞で見られたglucanase活性は培養上清由来と考えられた。
 Kre6はⅡ型膜蛋白質で内腔側のC末端領域に糖質関連酵素ドメイン(GH16)を持つ。Kre6については、膜貫通領域からC末端側全体の断片のC末端にHisタグを付け、昆虫細胞と出芽酵母で発現させたが、いずれの場合も発現はするものの蛋白質が不溶化し、精製できなかった。そこで、同じ断片のN末端にNusタグ、C末端またはNusタグとの間にHisタグを付けて大腸菌で発現させたところ、不溶化せずに発現しNi-NTAゲルで粗精製することができた。
 粗精製した蛋白質を用い、β-1,6-glucanに対するtransglycosylaseまたはglucanase活性があるか調べた。なお、Kre6蛋白質は、野生型に加えて活性中心に変異を入れた変異型も対照として用意し、Hisタグの位置との組合せで計4種類精製した。Kre6が鎖長の長い糖鎖にのみ活性を持つ可能性を考慮して、pustulan分解後未精製のβ-1,6-glucan混合物と各断片をpH4~8の条件で反応させたが、いずれの場合も鎖長ごとの糖鎖量の分布に変化は見られなかった。
最近、当研究室でKre蛋白質の一つであるKre9がKre6と強く相互作用することが明らかになった。そこで、Kre9とKre6が複合体となって初めて酵素活性を持つ可能性を考え、Kre9のC末端にHisタグを付けて酵母培養上清から精製して系に加え、同様にpH4~9で反応させたが、いずれの場合も変化は見られなかった。β-1,6-glucan純品との反応も行ったが、同様に変化は見られなかった。以上のように、少なくともこれらの実験からは、Kre6にβ-1,6-glucan合成関連酵素の活性は見出されなかった。

第三章 出芽酵母β-1,6-glucanase活性の検出と精製
 第二章で、組換え体Kre5及びKre6に活性が検出できなかったので、本章では出芽酵母野生株BY4741の細胞抽出液からβ-1,6-glucan合成関連酵素を活性で探索する実験を行った。一般に、β-1,3-glucanなどの多糖合成関連酵素の多くは細胞膜等の膜に存在することが多いため、まずは膜画分の活性を8merのβ-1,6-glucanを基質として検討した。その結果、膜画分に非還元末端側からのexo-β-1,6-glucanase活性が見られたので、精製してMS/MSで同定したところ、既知の分泌型β-1,3-glucanaseであるExg1であった。Saccharomyces Genome Database(SGD)ではExg1にβ-1,6-glucanase活性の登録がなかったが、報文には記載があった。新規の活性を同定するため、EXG1に加え、糖質関連酵素データベースCarbohydrate-Active enZYmes Database(CAZy)においてEXG1と同じGH5ファミリーに属するためβ-1,6-glucanase活性が疑われたEXG2、EGH1、SPR1のうち胞子形成期に発現するSPR1を除く2遺伝子も欠損させた3重欠損株を作製し、その株を使って活性を探索し直した。
 今回は、細胞を破砕し未破砕菌体を取り除いた細胞粗抽出液(TCL)の段階から5~10merのβ-1,6-glucanを基質として活性を調べたところ、TCLに6mer以上の鎖長のβ-1,6-glucanを分解して2mer以上の断片を生じるendo-β-1,6-glucanase活性が主として見られた。次に、TCLを低速遠心の沈殿(膜画分)、その上清の超遠心による上清(可溶性画分)と沈殿に分画し、同様に活性を検討した。その結果、いずれの画分にも同様に上記endo-β-1,6-glucanase活性が見られた。この活性は5merのβ-1,6-glucanは全く切らず、6merでは弱い活性で2merのみを生じ、7から10merへ鎖長が伸びると、2merに加え3、4、5merと反応生成物が順次加わった。以上より、この新規活性は6つのglucoseを認識してβ-1,6-glucanと結合し、そのうち非還元末端側から4と5番目のglucoseの間の結合を切るものと考えられた。また、6merへの活性が弱いことから、非還元末端側のglucose認識部位にβ-1,6-glucanの末端が位置した場合に結合が弱いことが考えられた。次に、TCL、可溶性画分、膜画分のβ-1,6-glucanase活性についてpH4~8の間で至適pHを調べたところ、いずれの画分も至適pHは6であり、これらの活性が同一の酵素によるものであることが示唆された。また、TCLの活性を100とすると可溶性及び膜画分のendo-β-1,6-glucanaseはそれぞれ145及び6.11であり、活性のほとんどが可溶性画分にあることがわかった。
 最後にこの新規活性の原因となる酵素の同定を行った。まず、培養液5L由来の菌体から、可溶性及び膜画分のそれぞれについて精製を試みた。陰イオン交換、ゲル濾過などを用いて精製したが、両画分とも活性回収率の低いステップがあり、精製には至らなかった。この時点でCAZyを見直したところ、出芽酵母のGH5ファミリーにYbr056wが新たに登録されていることに気づいたので、上記3重欠損株からさらにYBR056Wを欠損させた4重欠損株の活性を調べたところ、全ての画分から上記endo-β-1,6-glucanase活性が消失し、この活性の本体がYbr056wであることがわかった。Ybr056wは報文及びその構造から細胞質に存在すると予想されるが、これは、β-1,6-glucanが細胞表層の外側にのみ存在することを考えると興味深い結果である。また、この4重欠損株は、野生株、Ybr056w単独欠損株、3重欠損株に比べて生育遅延が見られた。このことは、Ybr056wの活性が生育に重要であることを示唆している。

 以上、本研究では、高感度酵素活性測定法を開発した上で、出芽酵母より新規β-1,6-glucan合成関連酵素を探索した。活性が予想されたKre5及びKre6から活性は検出できなかったが、酵母抽出液から新規endo-β-1,6-glucanaseとしてYbr056wを同定した。transglycosylaseがglucanase活性を併せ持つ可能性を考慮すると、Ybr056wがβ-1,6-glucan合成酵素本体のものである可能性もあり、今後そのtransglycosylase活性を検討するとともに、本研究で得られたβ-1,6-glucanase活性をほとんど持たない4重欠損株も用いることで、β-1,6-glucan合成酵素が同定されることが期待される。

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