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大学・研究所にある論文を検索できる 「発がん物質の遺伝毒性の有無に着目したin vivo短期発がん予測指標に関する研究」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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発がん物質の遺伝毒性の有無に着目したin vivo短期発がん予測指標に関する研究

伊藤, 優子 岐阜大学

2020.03.13

概要

発がん性評価は,化学物質の安全性評価において極めて重要である。しかしながら,一般的な発がん性試験は,何百匹ものげっ歯類動物を用いて長期間に渡って被験物質を投与するため,多大な時間と費用を要する。このことから,短期間で合理的に発がん性を予測し得る指標の確立が求められている。所属研究室の先行研究において,肝発がん物質をラットに 28 日間反復投与した際に,肝臓での発がん性に関連した細胞周期分子の反応性が発がん物質の遺伝毒性の有無により異なることを見出している。そこで,本研究では,肝臓を標的とする遺伝毒性ないし非遺伝毒性発がん物質の in vivo 短期予測指標の探索とその発現特性解明を目的として,エピゲノム発現制御機序の一つである DNA のメチル化と,がん細胞における代謝リプログラミングの 2 つの側面から検討を行った。

第 1 章では,DNA のメチル化に着目して,遺伝毒性肝発がん物質の N-nitrosodiethylamine (DEN)と非遺伝毒性肝発がん物質の carbon tetrachloride (CCl4) の発がん用量をラットに 28 ないし 84 日間反復経口投与した。28 日間投与後に得られた肝臓を用いてメチル化次世代シーケンスおよび発現マイクロアレイ解析を実施し,CCl4 特異的にプロモーター領域で過メチル化し,且つ mRNA 発現の下方制御を示した遺伝子として Ldlrad4 (transforming growth factor (TGF)-β の負の制御因子),Proc(血液凝固因子阻害分子),Cdh17 (カドヘリン接着分子),Nfia (転写因子) の 4 遺伝子を選出した。さらに,これら 4 遺伝子の mRNA 発現は,ラットに他の非遺伝毒性肝発がん物質 (thioacetamide (TAA),methapyrilene hydrochloride (MP)) を発がん用量で最長 90 日間反復投与した後の肝臓においても減少していた。免疫組織化学的解析により,選出した 4 つの遺伝子の転写産物について,肝前がん病変である GST-P 陽性巣における発現分布解析 (投与期間 84 ないし 90 日間) を実施した結果,非遺伝毒性肝発がん物質では遺伝毒性肝発がん物質に比べて,LDLRAD4 および PROC 陰性巣数の増加がみられた。一方,CDH17 および NFIA の発現は,肝発がん物質の遺伝毒性の有無で差は認められなかった。加えて,ラットに腎発がん物質を発がん用量で 28 日間投与した腎臓の髄質外帯の遺伝子発現解析では,非遺伝毒性腎発がん物質 (ochratoxin A) に特異的な反応性はみられなかった。以上より,本研究で選出した Ldlrad4,Proc,Cdh17,Nfia の 4 遺伝子は,肝臓を標的とする非遺伝毒性発がん物質における in vivo エピゲノム短期予測指標となり得る可能性が示唆された。また,LDLRAD4 および PROC は非遺伝毒性肝発がん物質の発がん性に寄与している可能性が考えられた。

第 2 章では,第 1 章で得られた分子のうち,TGFβ シグナリングの負の制御因子である LDLRAD4に着目して,LDLRAD4 の発がん過程における機能を明らかにするため,非遺伝毒性肝発がん物質を最長 90 日間反復投与した肝臓を用いて,TGFβ シグナリングに関連した遺伝子発現を解析するとともに,GST-P 陽性巣における LDLRAD4 と TGFβ シグナリング関連分子の発現分布解析を実施した。さらに,ラットの二段階肝発がんモデルを用い,非遺伝毒性肝発がん物質の発がんプロモーター作用により誘発された肝増殖性病変における LDLRAD4 の発現分布を検討した。その結果,非遺 伝毒性肝発がん物質を反復投与したラットの肝臓において,LDLRAD4 の発現減少を示す GST-P+巣では,LDLRAD4 の発現増加を示す GST-P+巣に比べて,TGFβ1,リン酸化 EGFR,ないしリン酸化AKT2 の陽性巣数が増加し,さらに,PTEN 陰性巣数が増加していた。また,LDLRAD4 の発現減少を示す GST-P+巣では,caveolin-1 ないし TACE/ADAM17 の陽性巣数が増加したことから,非遺伝毒性肝発がん物質による発がん過程において,LDLRAD4 の消失による TGFβ シグナリングの活性化が生じることによって,caveolin-1 依存性の TACE/ADAM17 の活性化を介した EGFR およびPTEN/AKT 経路の亢進が誘発された可能性を見出した。さらに,LDLRAD4 の発現減少を示す GSTP+巣では,細胞増殖活性の増加,アポトーシスの抑制が認められ,LDLRAD4 の発現減少によって前がん病変の細胞が増殖に向かった可能性を明らかにできた。ラットの二段階肝発がんモデルにおいて,長期間の非遺伝毒性肝発がん物質による発がん促進によって誘発された GST-P+増殖性病変では,LDLRAD4 は発現減少しており,特に,変異肝細胞巣に比べて肝細胞腺腫および肝細胞腺癌で顕著に認められたことから,LDLRAD4 の発現減少は発がん促進の過程にも関与している可能性が示唆された。

第 3 章では,肝発がん物質の遺伝毒性の有無によって,発がんに向かう代謝リプログラミングが異なるかを検討した。本研究では,遺伝毒性肝発がん物質 (DEN,Aflatoxin B1,N-nitrosopyrrolidine,carbadox) ないし非遺伝毒性肝発がん物質 (CCl4,TAA,MP) をそれぞれ 28 日間,84 ないし 90 日間反復投与したラットの肝臓を用いて,酸化的リン酸化,解糖系およびグルタミン代謝関連分子のmRNA 発現と GST-P 陽性巣における免疫組織化学的な発現分布を比較・検討した。その結果,非遺伝毒性肝発がん物質では,遺伝毒性肝発がん物質に比べて,投与 28 日後から酸化的リン酸化関連遺伝子の発現は抑制され,さらに 84 ないし 90 日後では酸化的リン酸化に関連するミトコンドリアATP 合成酵素 ATP synthase subunit beta (ATPB) 陰性巣数は増加していた。一方,解糖系酵素および糖輸送担体 (GLUT1),また,グルタミン代謝関連遺伝子およびグルタミン輸送担体 (SLC1A5) の発現は,遺伝毒性の有無に関わらず増加していた。代謝調節因子では,非遺伝毒性肝発がん物質は28 日後から c-MYC 陽性細胞数が増加した一方で,84 ないし 90 日後で Tp53 の発現抑制がみられた。以上より,非遺伝毒性肝発がん物質では,遺伝毒性肝発がん物質に比べて,発がんの初期に酸化的リン酸化が抑制されている可能性が考えられた。一方,解糖系およびグルタミン代謝は,肝発がん物質の遺伝毒性の有無に関わらず増加していた。非遺伝毒性肝発がん物質では,代謝調節因子である c-MYC の増加と Tp53 の抑制により,発がんに向かう標的細胞のエネルギー代謝シフトおよび細胞増殖の促進が生じていた可能性が示唆された。

以上より,まず,DNA のメチル化に着目して,遺伝毒性ないし非遺伝毒性肝発がん物質をラットに反復投与した肝臓についてメチル化次世代シーケンスおよび発現マイクロアレイ解析を実施することにより,肝臓を標的とする非遺伝毒性発がん物質のエピゲノム in vivo 短期予測指標として,Ldlrad4,Proc,Cdh17,Nfia の 4 遺伝子を選出することができた。加えて,LDLRAD4 およびPROC は非遺伝毒性肝発がん物質の発がん性に寄与している可能性を明らかにした。次に,選出された分子のうち,TGFβ シグナリングの負の制御因子である LDLRAD4 に着目し,発がん過程における LDLRAD4 の発現減少と TGFβ シグナリングとの関連性を検討することにより,非遺伝毒性肝発がん物質投与によって,発がんの過程で LDLRAD4 が発現減少し,TGFβ シグナリングの活性化を介した EGFR シグナリングの活性化が生じる可能性を明らかにした。最後に,がん細胞における代謝リプログラミングに着目して,遺伝毒性ないし非遺伝毒性肝発がん物質をラットに反復投与した肝臓を用いて,細胞増殖に必要なエネルギー代謝として知られる酸化的リン酸化,解糖系およびグルタミン代謝に関連した分子の反応性を比較・検討することにより,発がん物質投与の初期段階から発がんに向かう代謝リプログラミングのパターンが,肝発がん物質の遺伝毒性の有無によって異なる可能性を明らかにした。

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