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大学・研究所にある論文を検索できる 「かび毒のマウスを用いた脳発達リスク評価に関する研究」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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かび毒のマウスを用いた脳発達リスク評価に関する研究

中島, 康太 岐阜大学

2020.03.13

概要

かび毒は農作物を汚染し、食物を介して人や産業動物に健康被害を引き起こすことが知られており、国際的に極めて重要な危険物質とされている。かび毒による健康被害を防ぐためには規格基準の策定が急務であり、その根拠となる幅広い毒性学的情報が求められている。本研究では、未だ知見に乏しい発達神経毒性について、かび毒の高感受性集団である胎児・乳幼児に対するリスク評価を目的とし、神経毒性影響の懸念されるかび毒を対象とした発達期曝露実験を行った。評価部位として、海馬における神経新生に着目し、かび毒による発達神経毒性の標的、機序を明らかにするとともに無毒性量および可逆性について検討した。

更にかび毒の発達期神経新生障害に対する酸化ストレスの関与について関連指標の発現変動の観点から検討した。

第 1 章では、Penicillium属菌種が産生して穀物汚染が危惧されているシトレオビリジン(CIT)を評価対象とし、1、3、10 ppmの濃度で妊娠マウスに妊娠6日目から生後21日目の離乳時まで混餌投与し、雄児動物の海馬歯状回における神経新生障害性を検討した。その結果、離乳時には、10 ppmで神経新生部位である顆粒細胞層下帯(SGZ)での神経幹細胞の減少と神経前駆細胞の増殖を示唆する弱い変化が認められた。歯状回門では、calbindin 1 陽性介在ニューロン数が減少し、神経新生への影響が示唆された。対照的に、歯状回門においてsomatostatin 陽性介在ニューロン数が増加し、神経成長因子シグナルのBdnfおよびNtrk2の発現増加が認められたことから、神経前駆細胞増殖に対するBDNF-TRKBシグナル伝達の促進が示唆された。神経新生の外部制御システムの遺伝子発現変化を認め、神経幹細胞の減少に対する代償性変化としてGABA作動性介在ニューロン、特にparvalbumin (PVALB)陽性介在ニューロンの機能が抑制され、神経幹細胞の増殖および分化促進に寄与していることが示唆された。3 ppm以上でシナプス可塑性に機能するARC陽性の成熟顆粒細胞が増加し、10 ppmで歯状回門のAMPA型グルタミン酸受容体GRIA1 陽性細胞数の増加に加えてGria2およびGria3の発現が増加したことから、ARC媒介シナプス可塑性の増加に伴うAMPA型受容体膜輸送の亢進が示唆された。出生後77日では、Grin2dを除く神経新生制御システムの全ての遺伝子発現の変化が離乳時の結果と比較して逆転し、CIT 発達期曝露による神経新生障害に対する恒常性維持機能の発動が示唆された。
NMDA型グルタミン酸受容体遺伝子のGrin2aとGrin2dは共に発現低下し、それらを発現するGABA作動性介在ニューロン機能が抑制を受けることにより神経発生を正常なレベルに調整していることが示唆された。CIT 発達期曝露による児動物の神経新生障害に基づいた無毒性量は、1 ppm(0.13–0.51 mg/kg体重/日)と判断された。

第 2 章では、Fusarium属のかびにより産生されるトリコテセン系かび毒であり、主に穀物での汚染が広く認められ、DNAや蛋白質の合成阻害作用と共に催奇形性が知られているジアセトキシスシルペノール(DAS)を対象とし、0.6、2.0、6.0 ppmの濃度で妊娠マウスに妊娠6日目から生後21日目の離乳時まで混餌投与した。その結果、児動物では6.0 ppm で雌雄共に生後に断続的な体重の低値を認め、離乳時には体重および脳重量は低値を示し、脳重量低値は生後77日目まで持続した。雄児動物での海馬神経新生を解析した結果、離乳時に2.0および6.0 ppmでSGZにおける顆粒細胞系譜のうち、GFAP 陽性細胞、SOX2 陽性細胞、TBR2 陽性細胞、DCX 陽性細胞の減少に加えて、6.0 ppmでTUNEL (アポトーシス)、metallothionein (MT-I/II ; 酸化ストレス) 、 γ-H2AX ( 二本鎖 DNA切断)およびmalondialdehyde(MDA;酸化ストレス)のそれぞれに陽性の細胞が増加し、歯状回門ではPVALB 陽性介在ニューロンが減少した。さらに、6.0 ppmではGria3、Grin2aとアセチルコリン受容体であるChrna7の発現が減少した。また、二本鎖 DNA切断関連遺伝子の発現変動なしに、酸化ストレス関連 DNA修復遺伝子のOgg1、細胞周期関連遺伝子のParp1および幹細胞制御系遺伝子のKitの発現が減少した。以上の結果から、DASはtype-1 神経幹細胞からtype-3までの神経前駆細胞を広範に減少させ、その機序の一部に神経幹細胞から初期の神経前駆細胞にかけての酸化ストレスに関連するDNA損傷によるアポトーシスとPVALB 陽性介在ニューロンによるtype-2前駆細胞の分化抑制の関与が示唆された。
また、細胞周期関連遺伝子群 (Cdkn2a, Rb1, Trp53)は発現減少し、DNA損傷に対する脆弱性の増加が示唆された。一方、成熟時には、顆粒細胞系譜の変化は全て回復したものの、歯状回では6.0 ppmでARC 陽性顆粒細胞は減少し、歯状回門では2.0および6.0 ppmでニューロンの移動や分化に関わるreelin (RELN)陽性細胞が増加した。また、RELN 関連遺伝子(Itsn1)が発現増加し、RELN 陽性細胞の幼若化は認められなかったことから、RELN 陽性細胞の増加は神経幹細胞の減少とARCを介したシナプス可塑性の減少に対する代償性反応である可能性が考えられた。これらの結果から、DASが酸化ストレスによる細胞傷害を誘発して顆粒細胞系譜の分化を抑制することにより、海馬の神経新生に対し可逆的な障害を引き起こしたことが示唆された。児動物の神経新生障害に基づいた無毒性量は0.6ppm(0.09–0.29 mg/kg体重/日)と判断された。

第 3 章では、既に報告のあるT-2トキシンのマウス発達神経毒性研究および第 2 章のDASのマウス発達神経毒性研究より、トリコテセン系かび毒の神経毒性における酸化ストレス関与が示唆されたため、酸化ストレス除去および神経保護作用の知られているMT-I/IIの発現についてT-2トキシン曝露マウス(0, 1, 3, 9 ppm,混餌)で検索し、MT-I/II発現細胞を特定し、それらの発現増加の意義を検討した。その結果、離乳時には9 ppmで海馬歯状回のSGZおよび門部、大脳皮質、脳梁、小脳でMT-I/II 陽性細胞数が増加した。GFAP 陽性細胞とIBA1 陽性細胞数を検討した結果、GFAP 陽性細胞は、小脳で増加したがSGZでは減少し、その他の脳部位では変動を示さなかった。IBA1 陽性細胞は、すべての部位で変動しなかった。MT 発現細胞を特定するためのMT-I/IIとの二重染色では、SGZではGFAPおよびSOX2と共発現したが、TBR2、DCXおよびNeuNとは共発現しなかった。他の脳部位ではGFAPと共発現した。海馬歯状回での遺伝子発現解析では、Mt2、Il1αおよびIl1r1が発現増加した。これらの結果から、海馬歯状回ではtype-1 神経幹細胞がMTを発現し、神経新生障害に対する保護的作用が示唆された。また、遺伝子発現解析と先行研究でのMDA 陽性細胞増加の結果から、MTは炎症性メディエーターおよび酸化ストレスにより誘導されたと考えられた。他の脳部位で認められたMT-I/II 陽性細胞はアストロサイトであり、T-2トキシンによって誘導された酸化ストレスに反応した発現増強であると判断された。

以上より、異なる2 種のかび毒についてマウスの発達期曝露を行い、児動物のSGZにお
ける顆粒細胞系譜および歯状回におけるGABA作動性介在ニューロンの分布を検索した結果、各かび毒はいずれも可逆的な発達神経毒性を示し、それぞれ異なる様式の障害性であることが見出された。障害の機序として、酸化ストレスの上昇、顆粒細胞および介在ニューロンへの神経伝達物質や脳神経由来因子によるシグナル伝達低下が関与していると考えられ、酸化ストレス関連タンパクであるMT-I/IIの酸化ストレスに応じた脳部位特異的 な発現細胞の増加も認められた。本研究により発達期の海馬における神経新生がかび毒による発達期神経毒性の新たな標的となることが明らかとなった。その毒性は特に胎児・乳幼児における曝露を考慮した基準策定に際して留意すべきであり、かび毒に対する安全性を考慮した安全確保に資することが期待される。

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