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大学・研究所にある論文を検索できる 「慢性症状を抱える人とその家族介護者に対して多職種から提供されるケアの質を家族介護者のエクスペリエンスとして測定する--尺度開発ならびに家族介護者のエクスペリエンスと予防的健康行動との関連の検証--」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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書き出し

慢性症状を抱える人とその家族介護者に対して多職種から提供されるケアの質を家族介護者のエクスペリエンスとして測定する--尺度開発ならびに家族介護者のエクスペリエンスと予防的健康行動との関連の検証--

中山, 元 筑波大学

2021.12.03

概要

目 的:本邦において慢性症状を抱える人とその家族介護者に対して提供される多職種によるケアの質を家族介護者のエクスペリエンスとして測定する尺度として日本語版 Caregivers’ ExperienceInstrumen(t 別名 IEXPAC CAREGIVERS,以下「,本尺度」あるいは日本語 IEXPAC CAREGIVERSと表現)を開発し,その計量心理学的特性を検証した.

対象と方法:(1) 日本語版の作成:尺度翻訳の国際ガイドラインに準拠した方法で,翻訳・逆翻訳や異文化間の調整,認知デブリーフィング,原版開発者のレビューを経て作成した.(2) 計量心理学的特性の検証:研究デザインは家族介護者が記入する自記式質問票を用いた横断研究.対象・セッティングは,関東地方の 3 自治体において,慢性症状を抱える人を 6 ヶ月以上介護する家族介護者とし,2019 年 10 月から 11 月に介護支援専門員を通じて 400 人に質問票を配布した.主要評価項目は本尺度の 12 項目(1 項目あたり 5 段階 Likert scale 1–5 点)とし,統計解析は探索的および確証的因子分析,Cronbachαの算出,本尺度 12 項目の総合得点と家族介護者の多職種ケアに対する満足度(visual analog scale: VAS)との相関(収束的妥当性),患者の訪問系介護サービス利用の有無による本尺度総合得点の差の t 検定(既知集団妥当性)とした.

結 果:(1) 日本語版の作成:認知デブリーフィングを通して明らかになった日本語表現を改良した.また,家族介護者は各設問の文脈に応じて自らの介護者としての経験に印象を与えている職種を想起していることが確認された.(2) 計量心理学的特性の検証:配布した 400 人のうち回収数(率)は 281 人(70.3%)で,解析対象者は 274 人であった.平均年齢は 63.4 歳,女性 212 人(77.4%)であった.本尺度 12 項目の各項目平均は 2.3–3.9 点で分布し,目立った天井・床効果は認めなかった.探索的因子分析で明らかになった 2 因子構造は原版と同様であり,原版の 2 因子構造を仮定した確証的因子分析における適合度は comparative fit index 0.960,Tucker–Lewis Index 0.949,root mean square error of approximation 0.077 であった.また,12 項目全体の Cronbachαは 0.92で,本尺度の総合得点と VAS との相関係数は r = 0.71 であった.訪問系介護サービス利用あり群の平均得点(標準偏差)は 43.5(8.3)点,なし群は 39.5(8.7)点であった(P =0.001).

考 察:(1) 日本語版の作成では,尺度翻訳において最も重要なステップと言われている認知デブリーフィングを通して日本語表現を改良でき,さらに本尺度が「多職種」つまり 2 職種以上の専門職を評価対象としていることを確認できた.(2) 計量心理学的特性の検証では,探索的および確証的因子分析による構造的妥当性,Cronbach α による内的整合性信頼性,VAS との相関を検証した収束的妥当性,尺度が測る構成概念に違いがあると期待された 2 群の比較による既知集団妥当性のいずれもが確認された.

結 論:日本語版 IEXPAC CAREGIVERS は,我が国において慢性症状を抱える人とその家族介護者に対して提供される多職種によるケアの質を家族介護者のエクスペリエンスとして測定する尺度として,一定の信頼性と妥当性を有していると考えられた.

研究 2
目 的:家族介護者のエクスペリエンスと家族介護者自身の予防的健康行動としての健診受診との関連性について,研究 1 のデータを用いて予備的に検証した.

対象と方法:研究デザインは研究 1 のデータを用いた横断的分析で,解析対象者は介護期間が 1 年以上であった 251 名の家族介護者とした.アウトカムを家族介護者の 1 年以内の健診受診の有無,要因を家族介護者のエクスペリエンス(日本語版 IEXPAC CAREGIVERS 総合得点,各ドメイン「患者に焦点」「家族介護者に焦点」得点),共変量を家族介護者の年齢・性別・教育歴・等価所得・介護負担感,および患者の要介護認定度とした.統計解析は,2 変量解析を健診受診の有無で 2 群 化した総合得点の差の t 検定,多変量解析を 2 項ロジスティック回帰分析とした.総合得点と健診 受診との関連性を解析した後,各ドメイン得点と健診受診との関連性についても探索的に解析した.

結 果:過去一年以内に健診を受診した家族介護者の割合は 72.5%であった.2 変量解析では健診受診あり群の日本語版 IEXPAC CAREGIVERS 総合得点および各ドメイン得点は,健診受診なし群に比べて有意に高値であった.多変量解析でも,総合得点は健診受診と有意に関連し(1 標準偏差増加あたりの調整オッズ比 [aOR] = 1.53; 95%信頼区間 [CI] 1.09–2.13),「患者に焦点」得点(同 aOR = 1.50; 95%CI 1.08–2.08),「家族介護者に焦点」得点(同 aOR = 1.48; 95%CI 1.06–2.08)についても同様であった.

考 察:「家族介護者に焦点」得点が健診受診と関連したことは,ソーシャルサポートが予防的健康行動を促すという理論やソーシャルサポートと健診・検診受診との関連をみた先行研究の結果と合致すると考えられた.一方,「患者に焦点」得点と健診受診との関連が理論的には説明されにくいなか,両者に有意な関連を認めたのは,「家族介護者に焦点」得点が両者の関係に影響を及ぼした可能性が推察された.未測定の交絡因子の存在などが本研究の限界であった.
研究 3

目 的:インフォーマルなソーシャルサポートなどの交絡因子による影響を調整した上でも,家族介護者のエクスペリエンスが家族介護者自身の健診受診に関連するかを検証した.

対象と方法:研究デザインは家族介護者が記入する自記式質問票を用いた横断研究.対象・セッティングは茨城県の 3 自治体において慢性症状を抱え,要介護認定を受けて 1 年以上となる人を介護する 40~74 歳の家族介護者とし,2020 年 11 月から 12 月に介護支援専門員を通じて質問票を配布した.アウトカムを 2019 年 4 月から調査票回答時点までの間の家族介護者の健診受診の有無,要因を家族介護者のエクスペリエンス(日本語版 IEXPAC CAREGIVERS)とした.また,共変量を家族介護者の性別・年齢・主観的健康観・健康保険証の種別・教育歴・世帯年収・住民票のある自治体,家族介護者が知覚するインフォーマルなソーシャルサポート(情緒的サポート),介護時間,家族介護者のペイシェント・エクスペリエンス,介護認定を受けるより前の家族介護者の健診受診行動の習慣とした.統計解析は 2 変量解析を健診受診の有無で 2 群化した総合得点の差の t 検定,多変量解析を 2 項ロジスティック回帰分析とした.

結 果:家族介護者 1,091 人のうち 887 人(81.3%)が調査票に回答し,最終的な解析対象者は 644人であった.家族介護者の年齢の中央値は 62 歳で,女性が多く(74.5%),健診受診割合は 62.0%であった.2 変量解析では日本語版 IEXPAC CAREGIVERS 総合得点と「家族介護者に焦点」得点は,健診受診の有無と有意に関連していた一方,「患者に焦点得点においては有意な関連を示さなかった.多変量解析でも,総合得点および「家族介護者に焦点は健診受診と有意に関連した(1SD 増加あたり aOR = 1.23; 95%CI 1.01–1.49,同 aOR = 1.26; 95%CI 1.03–1.53).一方,「患者に焦点」では有意差を認めなかった(同 aOR = 1.17; 95%CI 0.96–1.42).


考 察:日本語版 IEXPAC CAREGIVERS 総合得点および「家族介護者に焦点得点は,インフォ ーマルなソーシャルサポート等の交絡因子で調整した上でも,健診受診と有意に関連した.「家族 介護者に焦点ドメインが家族介護者の情緒的ニーズを取り込んで作成されたこと等を踏まえると,本研究結果はソーシャルサポートが予防的健康行動を促すという理論と合致した.

結 論:プライマリ・ケア提供者をはじめとした医療介護福祉職が,家族介護者自身に注意を向けたケアの質を向上することで,家族介護者が自らを大切にして,健診受診という予防的健康行動を促進し得る可能性があることが示唆された.