コリネ型細菌による中鎖脂肪酸生産技術の開発
概要
研究成果の概要(和文):
我々は、コリネ菌による中鎖生産技術の開発を試み、以下の知見を得た。
① 長鎖生産菌に、脂肪酸合成酵素FasAの鎖長伸長を担うケトアシルシンターゼ(KS)ドメイン内変異(Thr2563Ile)を導入すると、長鎖の生産が抑制され、微量ながら中鎖(C8~12)の生成が起こる。
② 長鎖生産菌で、枯草菌のBioI酵素を発現させると、微量ながら中鎖飽和脂肪酸であるノナン酸(C9)が生成する。
③ リポ酸の前駆体である中鎖(C8)のデノボ合成は、サブの脂肪酸合成酵素FasBが担うも、微弱なバイパス経路がある。メインの脂肪酸合成酵素であるFasAがその候補。
研究成果の学術的意義や社会的意義
中鎖脂肪酸(C8~12)は、母乳に含まれ、近年、長鎖型とは異なる生理作用があることがわかってきた。最近では、アルツハイマー病など認知障害の改善効果が相次いで報告されている。加えて、工業用としても、洗剤や乳化剤、殺菌剤等、中鎖型に特有の用途がある。しかし、これらの供給は、一部の植物や藻類のもつ油脂に依存しており、潜在需要の拡大に伴い、高い生産性と安定した量産化が課題となっている。この状況に鑑み、我々は、独自に開発したコリネ菌の長鎖脂肪酸生産菌を用いて、長鎖に向かう炭素を中鎖の段階で生成させるための諸検討を行った。その成果として、本研究は、中鎖生産の可能性を示す3つの戦略を提供するものである。
研究成果の概要(英文):
We attempted to engineer long-chain fatty acid-producing Corynebacterium glutamicum to produce medium-chain fatty acids. Our findings include:
(1) Introduction of a specific mutation in the ketoacyl synthase domain of the fasA gene into the long-chain fatty acid producer resulted in generation of a significant amount of medium-chain fatty acids (C8~12) in exchange for reduced production of long-chain fatty acids.
(2) Expression of the bioI gene of Bacillus subtilis in the long-chain fatty acid producer resulted in generation of nonanoic acid (C9), albeit in a small amount.
(3) The lipoic acid precursor octanyl-CoA (C8) originates predominantly from the FasB route, but slightly from another bypass route, which is likely to be the FasA route.
キーワード: コリネバクテリウム グルタミカム 中鎖脂肪酸 脂肪酸合成酵素 BioI リポ酸合成経路