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大学・研究所にある論文を検索できる 「心不全発症における心腸連関病態機構の解明」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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心不全発症における心腸連関病態機構の解明

梅井, 正彦 東京大学 DOI:10.15083/0002005048

2022.06.22

概要

心不全では、心拍出の低下による臓器虚血や、静脈還流量の増加に伴う組織うっ血に起因して、腸管虚血や腸管浮腫による消化管粘膜障害や薬剤吸収率低下などの所見が認められる。これに併せて、心不全患者では利尿薬の使用だけでなく、運動耐用能の低下や交感神経系の活性化に伴う腸蠕動運動の低下によって便秘傾向になることが一般的であり、さらなるQOL低下の原因の1つとなっている。

腸内細菌叢が食物線維を分解することによって得られる短鎖脂肪酸は宿主の疾病に対して保護的に作用する可能性がある腸内細菌代謝物の一つである。心不全患者においては腸内環境の悪化によって腸内細菌叢の構成異常が生じた結果、短鎖脂肪酸が減少することが予想され、それがさらに心不全増悪を来すという悪循環、すなわち心腸連関といえる病態機構が作用している可能性がある。しかしながら、腸内細菌と心不全病態の間に存在するメカニズムに関してはこれまでほとんど検討されておらず、全貌は明らかにされていない。

そこで私たちは、腸内細菌代謝物の中でも短鎖脂肪酸の分子メカニズムに着目し、心腸連関病態機構の視点から心不全病態解明を目指す方針とし、下記4項目にそって実験を行った。

1.短鎖脂肪酸の心不全における体内動態・機能評価
まず、短鎖脂肪酸の心不全における体内動態・機能評価として、イソプロテレノール負荷による心不全モデルマウスを作成し、短鎖脂肪酸の一つである酢酸を投与して血行動態、機能評価を行った。結果、酢酸を投与した心不全モデルマウスでは心収縮率の低下が抑制され、心臓の肥大抑制効果も認められた。このことから酢酸は心不全モデルにおける心機能低下、心肥大に対して保護的に作用する可能性が示唆された。

2.心臓における短鎖脂肪酸受容体の探索
次に、一細胞解析を用いて心臓における短鎖脂肪酸受容体の探索を行った。ここで、心臓において短鎖脂肪酸受容体のうちOlfr78が血管平滑筋細胞に発現していることが明らかとなった。一方で、心筋細胞においては既知の短鎖脂肪酸受容体の発現は認められなかった。また、心筋細胞における短鎖脂肪酸のオーファン受容体探索のため、短鎖脂肪酸刺激によるGPCR下流の細胞内シグナル伝達活性化についての探索も行ったが、血管平滑筋細胞に発現しているOlfr78によると思われるCREBリン酸化経路の活性化を認めたが、純度の高い心筋細胞培養において明らかなシグナル活性化は認められなかった。

3.心臓における短鎖脂肪酸の機能解析
続いて、心筋細胞と心臓線維芽細胞に対する短鎖脂肪酸の作用について解析を行った。まず、短鎖脂肪酸刺激を行い、心拍数や心収縮・弛緩における心筋細胞の速度変化を計測した。心筋細胞に対して酢酸、プロピオン酸、酪酸の全てにおいて、心拍数や収縮・弛緩速度に明らかな変化は認められなかった。また、心臓線維芽細胞に酢酸、プロピオン酸、酪酸を投与した上で各試薬間での生存細胞数を比較した。プロピオン酸・酪酸投与によって心臓線維芽細胞の増加が認められ、短鎖脂肪酸がアポトーシスの抑制あるいは細胞増殖作用またはその両方に関与している可能性が考えられた。

4.心筋細胞における短鎖脂肪酸のエピジェネティック作用の探索
次に、心臓における短鎖脂肪酸のエピジェネティクス作用について検証した。まず、酪酸刺激による心筋細胞サイズの計測を行い、酪酸はエンドセリンによる心筋細胞肥大を抑制する作用を認めることが明らかとなった。また心筋細胞に対する短鎖脂肪酸刺激ではヒストンのアセチル化が認められ、酪酸は心筋細胞に対してHDAC阻害作用を呈することが明らかとなった。同様に、エンドセリンによって上昇が認められたNppa,Acta1,Myh7などの心肥大マーカーは短鎖脂肪酸によって抑制される結果が得られた。その機序として、酪酸はHDACを抑制することでInpp5fの上昇を介して心筋細胞肥大の抑制に寄与している可能性が考えられた。

5.まとめ
in vivoモデルにおいて酢酸が心機能低下や心肥大に対して抑制性に作用する可能性が示唆され、さらに一細胞解析によって心臓での血管平滑筋細胞におけるOlfr78の発現が明らかとなった。また心筋細胞培養においては血管平滑筋細胞混在によると思われる酢酸によるCREBリン酸化経路の活性化を認めたことから、血管平滑筋細胞におけるOlfr78に酢酸が作用することによって、心筋細胞-血管平滑筋細胞における細胞間相互作用を介して酢酸が心臓保護作用を示す可能性が示唆された。一方、in vitroにおいて心筋細胞において短鎖脂肪酸の中でも酪酸は特にHDAC阻害作用が強く、HDAC阻害によってInpp5fの上昇を介して心筋細胞の肥大抑制に寄与する可能性が示唆された。体内に酢酸が酪酸へ変換する機構があることから、in vivoモデルにおける心保護作用は酪酸のHDAC阻害作用を介した結果である可能性も示唆された。以上より、短鎖脂肪酸は受容体やHDAC阻害作用を介して心不全に対して保護的に作用することが示唆された。

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