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PGAM5による褐色脂肪細胞の機能制御解析

菅原, 祥 東京大学 DOI:10.15083/0002002531

2021.10.15

概要

【序論】
 生物個体におけるエネルギー代謝調節に大きな役割を果たす脂肪組織は、主に「エネルギー貯蔵」を担う白色脂肪組織と、主に「エネルギー消費」を担う褐色脂肪組織に大別される。褐色脂肪細胞にはミトコンドリアが豊富に存在し、ミトコンドリアに局在するUncoupling protein 1(Ucp1)に依存した熱産生を介したエネルギー消費を積極的に行っていることから、肥満をはじめとする各種代謝性疾患の治療標的としても注目されている。
 当研究室で機能解析を続けているPGAM5はミトコンドリア内膜に局在する脱リン酸化酵素であり、ミトコンドリア膜電位の消失に伴って膜内切断を受けることをこれまでに明らかにしている。しかし、PGAM5の個体レベルにおける生理機能に関してはほぼ未解明であったため、PGAM5欠損マウスを作製し、その生理機能解析を試みた。その結果、PGAM5欠損マウスの褐色脂肪組織において定常状態から脂肪滴の蓄積量が減少していることが観察され、また、高脂肪食負荷による肥満に対し耐性を示すことが明らかになった。そこで私はPGAM5欠損マウスでは褐色脂肪組織でのエネルギー代謝能が亢進していると予想し、そのメカニズムの解析を試みた。

【方法・結果】
1. PGAM5欠損マウスの褐色脂肪組織ではUcp1遺伝子の発現が増加している
 まず私は、PGAM5欠損マウスの褐色脂肪組織で何らかの遺伝子発現変化が起こっていることを予想し、RNAシークエンス法による網羅的遺伝子発現解析を行った。するとPGAM5欠損型では褐色脂肪細胞マーカーと考えられている遺伝子群のうち、Ucp1のmRNA量が特異的に増加していた(図1)。このRNAシークエンスの結果をqRT-PCR法によって確認したところ、同様にUcp1遺伝子の発現が特異的に増加していた。この時、UCP1タンパク質の発現をウエスタンブロット法によって検討したところ、タンパクレベルにおいてもUCP1の発現が増加していることがわかった(図2)。これらの結果から、PGAM5欠損マウス褐色脂肪組織ではUcp1遺伝子発現が特異的に増加していることが明らかとなった。

2. PGAM5欠損マウス由来褐色脂肪細胞ではUcp1遺伝子の発現が増加している
 組織で観察されたUcp1遺伝子発現の増加が細胞自律的に起こっているかを検討するため、初代培養褐色脂肪細胞系を適用した。マウス新生児の褐色脂肪組織から単離した未分化細胞を用い、in vitro分化誘導系を確立し、PGAM5欠損による遺伝子発現変化を検討した。すると、組織での結果と同様に、褐色脂肪細胞マーカーと考えられる遺伝子群のうち、Ucp1遺伝子のmRNA発現が特異的に増加していた(図3)。また、ウエスタンブロット法によってタンパク質の発現量を検討すると、褐色脂肪細胞マーカーであるUCP1は未分化な細胞では検出されない一方で、分化の進んだ細胞ではPGAM5欠損によって増加していることが確認された(図4)。以上の結果から、PGAM5はUcp1遺伝子の発現を細胞自律的に、かつ、抑制的に制御していることが示唆された。

3. PGAM5欠損マウス由来褐色脂肪細胞ではβ3作動薬処置依存的な酸素消費量が増加している
 褐色脂肪細胞においてPGAM5欠損によって増加しているUCP1の機能を検討するため、細胞の酸素消費速度を指標に評価を行った。ミトコンドリア電子伝達系はプロトン勾配を形成し、酸素を消費しつつ、そのプロトン駆動力を利用してATPを産生する。しかしながら、プロトン透過能を持つUCP1が活性化することによっても、酸素消費が増加することがわかっている。アドレナリンβ3特異的作動薬であるCL316, 243処置下ではUCP1依存的な酸素消費量の増加が導かれることが知られているため、この条件下での酸素消費速度を各遺伝子型間で比較した。すると、PGAM5欠損褐色脂肪細胞ではCL処置依存的な酸素消費量も有意に増加していることがわかった(図5)。この結果から、PGAM5を欠損した褐色脂肪細胞では、おそらくはUCP1の発現上昇によって、エネルギーを消費する能力が高くなっていることが示唆された。

4. PGAM5は脱リン酸化酵素活性と膜内切断を介してUcp1遺伝子の発現を抑制する
 PGAM5がUcp1発現を抑制する機能の十分性を検証するために、PGAM5を過剰発現することでUcp1の発現が抑制されるかを検討した。この実験には内在性PGAM5の影響を排除する目的で、PGAM5欠損褐色脂肪細胞を用いた。すると、PGAM5の過剰発現によってUCP1のタンパク質が減少していたことから、これまでと同様にPGAM5がUcp1の発現を抑制していることが示唆された(図6)。続いて、PGAM5がUcp1遺伝子の発現を抑制するメカニズムの解析を行った。まず、PGAM5の脱リン酸化酵素活性が、Ucp1の発現制御を行う可能性を考え、脱リン酸化酵素活性を持たないPGAM5のH105A変異体を褐色脂肪細胞に過剰発現したところ、UCP1タンパク質の減少が観察されないことが明らかとなった(図6)。また、PGAM5の持つ重要な特徴として、ミトコンドリア膜電位の消失に伴いミトコンドリア内膜で切断を受けることを当研究室から報告していたため、膜内切断がUCP1発現制御に関与する可能性を考えた。そこで、膜電位消失による膜内切断に耐性を示すS24W変異体を褐色脂肪細胞に過剰発現したところ、UCP1タンパク質の減少が観察されないことが明らかとなった。これらの結果から、PGAM5は脱リン酸化酵素活性と膜内切断を介してUcp1遺伝子の発現を抑制していることが示唆された。

【まとめ・考察】
 本研究において私は、PGAM5が褐色脂肪細胞においてUcp1遺伝子の発現を抑制していることを明らかにし、その結果として褐色脂肪細胞におけるエネルギー消費能やマウス個体レベルでのエネルギー代謝能を抑制している可能性を示した。
 PGAM5とUCP1は共にミトコンドリア内膜に局在するタンパク質であり、PGAM5はミトコンドリア膜電位の消失に伴って切断を受ける分子である一方、UCP1はミトコンドリア内膜を介したプロトン勾配を消費する分子である。これらを考え合わせるとUCP1がPGAM5の切断を一部制御している可能性も想定される。本研究の結果から、PGAM5の膜内切断がUCP1発現抑制に重要であることが示唆されているため、活性化したUCP1がPGAM5の切断を介して自身の発現を抑制するというネガティブフィードバック機構の存在が予想され、エネルギー消費の恒常性維持機構として興味深い。
 今後はこのネガティブフィードバック機構の中でも特に、PGAM5がUCP1発現を抑制する詳細なメカニズムを明らかにすることで、褐色脂肪細胞におけるUCP1量制御を介した肥満症治療標的の創出に繋がることが期待される。

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