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大学・研究所にある論文を検索できる 「構造ネスト制限付き平均損失時間モデルのg推定法による時間依存性治療の効果推定」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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構造ネスト制限付き平均損失時間モデルのg推定法による時間依存性治療の効果推定

萩原, 康博 東京大学 DOI:10.15083/0002002500

2021.10.15

概要

1. 序文
 臨床研究を行う主要な目的のひとつは、関心のあるアウトカムに対する治療の効果を推定することである。時間とともに治療が変化する治療は時間依存性治療と呼ばれ、時間依存性治療の効果をバイアスなく推定する方法について研究されてきた。時間依存性治療の効果をバイアスなく推定するためには、治療の影響を受ける時間依存性交絡因子を適切に調整しなければならないが、古典的な層別解析や回帰分析では治療の影響を受ける時間依存性交絡因子を適切に調整することはできないことが知られている。
 時間依存性交絡因子を適切に調整し、時間依存性治療の効果をバイアスなく推定可能な手法として、構造ネストモデルのg推定法が提案されている。この方法には、周辺構造モデルなどのほかの因果解析手法と比較して、いくつか利点がある。生存時間アウトカムに対する構造ネストモデルとして、治療による生存時間の伸縮をモデル化した構造ネスト加速生存時間モデルと、治療によるリスクの増減をモデル化した構造ネスト累積生存時間モデルが提案されている。先に提案された構造ネスト加速生存時間モデルのg推定法は応用事例も多いが、妥当なg推定には人口打ち切りと呼ばれる処理が必要であり、この人工打ち切りにより統計的問題が引き起こされることが知られている。一方、構造ネスト累積生存時間モデルのg推定法は、人工打ち切りが不要という点で改良が加えられたが、モデル化の対象を生存時間ではなくリスクに変更されている。
 近年、臨床研究における生存時間アウトカムの要約指標として、制限付き平均生存時間(restricted mean survival time: RMST)や制限付き平均損失時間(restricted mean time lost: RMTL)が注目されている。制限時点まで追跡した場合に期待される生存時間であるRMSTや、制限時点までに期待されるイベント発生により失われる時間(イベント発生から制限時点までの時間)であるRMTLは、(1)治療効果が生存時間の増減で表され、(2)比例ハザードモデルなどのモデルに依存せずに推定対象が定義され、(3)生存確率や生存時間中央値と異なり制限時点までの追跡期間全体の要約になっているなどの利点がある。
 以上のような背景を踏まえ、生存時間アウトカムに対する時間依存性治療の効果を推定する手法として、構造ネストRMTLモデルのg推定法を提案する。

2. 提案手法
 時点k=0,1,…で測定される共変量をLk、治療をAk(Ak=0で対照治療、Ak=1で試験治療を表す)とし、その履歴を上線で表す(たとえばL⁻k(L0,..., Lk))。生存時間をT、制限時点m=1,2,…,Mまでの制限付き損失時間をm−T(m)=m−min(T, m)とする。ここでは、簡単のために最大の制限時点Mまで生存時間の打ち切りが発生しないとする。静的治療レジメa(a, a,...)のもとでの反事実生存時間をTaと定義し、同様の反事実制限付き損失時間をm-Ta(m)₌m-min(Ta⁻,m)と定義する。時点k≤m−1に関して、加法および乗法構造ネストRMTLモデルをそれぞれ

E[m-Tα⁻k,0_(m)|L⁻k=l⁻, A⁻k=α⁻k,T>k]-E[m-Tα⁻k-1,0_(m)|L⁻k=l⁻,A⁻k=α⁻k,T>k]=γk,m(l⁻k,α⁻k;ψ*)

および

E[m-Tα⁻k,0_(m)|L⁻k=l⁻,A⁻k=α⁻k,T>k]/E[m-Tα⁻k-1,0_(m)|L⁻k=l⁻,A⁻k=α⁻k,T>k]=exp{γk,m(l⁻k,α⁻k;ψ*)}

と定義する。ただし、γk,m(l⁻k,a⁻k;ψ)は、ψに関して滑らかで、すべてのlk、ak-1、ψに関してγk,m (l⁻k,a⁻k-1,0;ψ)₌0を満たす既知関数とし、ψ*をp次元未知パラメータベクトルの真値とする。これらのモデルは、治療AkによるRMTLの因果的変化を表している。データ解析で有用な1パラメータモデルとして、加法モデルでは

γk,m(l⁻k, a⁻k;ψ)₌{ψ+2ψ(m-k-1)}ak、

乗法モデルでは

Exp={γk,m(l⁻k, α⁻k; ψ*)}=1+1-exp(ψαk)/(m-k)²-2{1-exp(ψαk)}/m-k

が挙げられる。
 構造ネストRMTLモデルの推定法として、ランダム化にもとづくg推定法と観察研究の仮定にもとづくg推定法という、異なる仮定にもとづくふたつの方法を提案する。ランダム化にもとづくg推定法はランダム化が保証する治療A0が予後と独立に決定されているという仮定を利用する一方、観察研究の仮定にもとづくg推定法は治療Ak(k=0,1,…,M−1)が観察履歴を条件付けたもとで予後と独立に決定されているという仮定を利用する。いずれの手法も、仮定のもとで構造ネストRMTLモデルに対する漸近正規性を有する一致推定量を与える。ただし、現実のデータ解析で観察研究の仮定にもとづくg推定法が妥当であるためには、傾向スコアモデルまたはアウトカムモデルを正しく特定する必要がある。
 推定された構造ネストRMTLモデルを用いて、対照治療を継続するときと試験治療を継続するときの周辺RMTLE[m-T0⁻ (m)]とE[m-T1⁻ (m)]を推定できる。本研究では、任意の構造ネストRMTLモデルのもとで周辺RMTL E[m-T0⁻ (m)]の一致推定量を導出した。また、構造ネスト RMTL モデルがγk,m(l⁻k,α⁻k;ψ)=γk,m(l0,αk;ψ) のクラスに属するとき、E[m-T¹⁻(m)]をE[k-T0⁻(k)]、S1⁻(k)=Pr[T1⁻>k]、γk,m(l0,αk;ψ*)(k₌0,1,...m-1)を用いて表現できる。本研究ではこれを利用してE[m-T1⁻ (m)]の一致推定量を導出した。生存確率S1⁻ (k)の推定には、T1⁻が区分指数分布に従うという仮定を用いた。加えて、試験治療を基準とした構造ネストRMTLモデルを再推定することで、任意のγk,m(l⁻k,α⁻k;ψ)を一致推定する推定量も導出した。
 最大の制限時点Mまでに生存時間の打ち切りが発生するときに用いるIPCW法を提案した。情報のない打ち切りの仮定などのもとで、上述の提案手法は同様の性質を持つ。

3. シミュレーション実験
 ふたつの実験を行った。実験1では、時点数の少ないデータで構造ネストRMTLモデルのパラメータ推定に関して観察研究の仮定にもとづくg推定法の統計学的性能を評価した。実験2では、時間依存性交絡を伴う治療変更が発生するランダム化比較試験を想定したデータで、1パラメータ構造ネストRMTLモデルのg推定法により、ITT(intention-to-treat)解析やPP(per-protocol)解析によるバイアスをどの程度低減させることができ、またそのときの提案手法の推定精度はどの程度かを評価した。実験1では、(1)回帰分析にはバイアスが認められ、(2)傾向スコアモデルまたはアウトカムモデルが正しく特定されているとき、提案手法によるパラメータ推定値にバイアスは認められず、(3)正しく特定されているかを問わずアウトカムモデルを用いることで推定精度が向上し、(4)アウトカムモデルを用いないと、パラメトリックモデルの推定を考慮しない標準誤差の推定量は標準誤差を過大評価し、(5)アウトカムモデルを正しく特定すると、特に治療モデルを誤特定したときに、パラメトリックモデルの推定を考慮する標準誤差の推定量は、標準誤差を過小評価する傾向にあった。実験2では、周辺RMTLの差に関して、提案手法はITT解析やPP解析のバイアスを低減可能であることが示された。帰無の治療効果以外のシナリオでは多くの場合、提案手法の平均二乗誤差(バイアスと推定精度の両方を考慮した指標)はITT解析とPP解析より小さかった。ただし、乗法モデルを用いたE[m-T1⁻(m)]の推定では、治療効果が有害な場合、極端な推定値が得られることがあった。

4. 提案手法のMEGA studyへの適用
 冠動脈疾患に対するプラバスタチンの1次予防効果を検証したランダム化比較試験であるMEGA studyデータに提案手法を適用した。1パラメータ加法モデルと乗法モデルに対してランダム化にもとづくg推定法と観察研究の仮定にもとづくg推定法を適用し、プラバスタチンをまったく服用しなかった場合と継続して服用した場合の周辺RMTLを推定した(表1)。観察研究の仮定にもとづくg推定法よりランダム化にもとづくg推定法で大きな治療効果を表す推定値が得られたが、ともにITT解析による治療効果の推定値と大きくは違わなかった。

5. 考察
 本研究では、生存時間アウトカムに対する新しい構造ネストモデルとして構造ネストRMTLモデルを提案し、このモデルの推定法として、ベースライン以後の治療メカニズムに仮定を置かないランダム化にもとづくg推定法と、ベースライン以後の治療メカニズムに仮定を置くことで推定効率の向上と識別可能なモデルの拡大が可能な観察研究の仮定にもとづくg推定法を提案した。提案したg推定法は、既存の生存時間アウトカムに対する構造ネストモデルのg推定法と同様の仮定のもとで、漸近正規性を持つ一致推定量を与えることを示した。加えて、推定した構造ネストRMTLモデルを用いた周辺RMTLの推定手法をふたつ提案した。シミュレーション実験では有限標本での提案手法の統計的性能を評価し、提案手法は仮定のもとで構造ネストRMTLモデルのパラメータが表す治療効果をバイアスなく推定し、治療変更を伴うランダム化比較試験ではITT解析やPP解析のバイアスを低減できることが示された。提案手法をMEGA studyデータに適用した結果、ITT解析と提案手法による結果に大きな差異は見られなかったが、提案手法による実データ解析方法を示し、実際の臨床研究データにも提案手法を適用可能であることを示した。以上の成果により、提案手法は生存時間アウトカムに対する時間依存性治療の効果を推定する手法として有用と考えられる。今後の研究課題には、(1)構造ネストRMTLモデルに対する包括的なモデル選択手法の開発、(2)より推定効率の高いaugmented-IPCW法の応用、(3)上下界のない構造ネストRMTLモデルのg推定法の開発が含まれる。

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