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<論説> フランス法における家族の メンバーに対する民事責任(2): 家族のあり方と民事責任法の枠組

白石, 友行 筑波大学

2020.08.24

概要

論 説

フランス法における家族の
メンバーに対する民事責任⑵
─家族のあり方と民事責任法の枠組─

白 石 友 行
はじめに
Ⅰ.
「家族に対する責任」の諸相
 1.一般的な権利または利益の侵害および義務の違反
 2.家族的な権利または利益の侵害および義務の違反(⑴②二から⑵①まで本号)
Ⅱ.
「家族に対する責任」の基礎
 1.
「家族に対する責任」をめぐる議論の再解釈
 2.
「家族に対する責任」をめぐる議論の分析
おわりに

Ⅰ.
「家族に対する責任」の諸相
2.家族的な権利または利益の侵害および義務の違反
⑴ 縦の家族関係で家族的な権利または利益の侵害および義務の違反が問題と
なる場面
② 縦の家族関係の解消または不成立との関連で損害賠償が請求される場面
二.縦の家族関係の不成立との関連で損害賠償が請求される場面
ある者とある子との間に親子関係が成立するための基礎は存在したが、事実
上もしくは法律上の理由により、両者の間に親子関係が成立しなかった場合、
または、両者の間における親子関係の成立が事実として遅れた場合、その子は、
親になるはずであった者または遅れて親になった者に対して、いかなる根拠に
基づき、どのような内容の損害の賠償を求めることができるか。以下では、ま
ず、法律上は両者の間に親子関係を成立させることができたにもかかわらず、
親になるはずであった者がそれをしなかった、または、遅れてそれをしたケー
43

論説(白石)

スだけに関わる問題を、次に、法的な理由により両者の間に親子関係を成立さ
せることができなかったケースだけに関わる問題を、最後に、2 つのケースの
いずれにも関わる問題を扱う。
第 1 に、前者のケースについて、典型的な例は、ある女性が婚姻関係にない
男性と親密な関係を持ち、子をもうけたが、この男性が正当な理由なくその子
を認知しなかったことを受けて、その子が、または、その子が未成年者である
間は女性がその子の代理人として、この男性に対し、認知をしなかったことに
より、または、後になって認知がされたときには認知をするのが遅れたことに
より、子に生じた損害の賠償を求めるというものである 202)。
判例は、認知をするかどうかは本人の意思に委ねられるべきことを出発点と
して、男性が子との関係で認知義務を負うことを否定し 203)、フォートの不存
在を理由に男性が認知をしなかったことを理由とする子からの損害賠償請求を
否定する 204)。もっとも、近時の裁判例では、認知義務が存在しないことを前
提としながらも、当該事案を取り巻く諸状況、特に、自己の子であることを認
識しながらそのことを頑なに拒絶するといった男性側の態度を問題にして、認
知をしないこととは別の形で男性にフォートの存在を認め、子に生じた精神的
損害の賠償を肯定するものが多い 205、206)。この考え方では、認知の不存在から
一応切り離した形で男性側のフォートの有無が評価されている。この考え方を
子からの損害賠償請求の保護対象という視点から捉え直すと、そこでは、保護
202)この問題については、Cf. Pons, supra note 17, nos35 et s., pp.47 et s. ; Ruffieux, supra note
133, nos454 et s., pp.439 et s. ; etc.
203)②二における検討対象との関連で認知の自由を強調するものとして、Ex. Dominique
Laszlo Fenouillet, La conscience, préf. Gérard Cornu, Bibliothèque de droit privé, t.235,
LGDJ., Paris, 1993, nos80 et s., pp.47 et s. ; Hauser, infra note 205, p.296 ; Pons, supra note 17,
nos38 et s., pp.47 et s. ; Siffrein Blanc, supra note 135, nos441 et s., pp,364 et s. ; Philippe Le
Tourneau(sous la dir.), Droit de la responsabilité et des contrats, Régimes d indemnisation,
11ème éd., Dalloz, Paris, 2017, no2212 292, p.806 ; etc.
204)Cass. civ., 28 oct. 1935, DH., 1935, jur., 537 ; Gaz. Pal., 1935, 2, jur., 623 ; JCP., 1936, 325 ;
RTD civ., 1936, 157, chr., Gaston Lagarde ; CA. Versailles, 15 mai 2014, JCP., 2014, 1059, obs.,
Guillaume Kessler ; etc.

44

フランス法における家族のメンバーに対する民事責任⑵

の対象として、認知されること、つまり、父子関係が設定されることではなく、
男性の態度により子自身の人格や感情が害されないことといった要素が想定さ
れることになる。
学説には、これらの裁判例の中に父であるはずの者に対して実質的な認知義
務を課す傾向を読み取ろうとする見解や 207)、更に進めて、男性の認知義務の
裏返しとして、子について親子関係成立への権利や利益の存在を肯定する見解
がある 208)。そして、こうした視点は、一部の裁判例でも明確に採用されている。
例えば、認知をしなかったこと、特に、子であるはずの者に扶養や教育を与え
なかったことそれ自体が男性のフォートであるとか 209)、自己の子であること
を知りながら子であるはずの者を認知せず、その子に身分および法律上の父子
関係に結び付く利益を付与しないことは、子に対する基本的な義務の違反であ
り、
こうした行為を禁止する特別の条文がなかったとしても、このことはフォー
トを構成するといった理解を前提に 210)、子は上記の各フォートによって生じ

205)Ex. CA. Aix en Provence, 5 fév. 1998, Juris Date, no1998 040785(自己の子であること
を認識しながら別の男性の子であると頑なに主張する態度がフォートに該当するとされた
事例); CA. Paris, 29 avril 2003, Juris Date, no2003 218097(自己の子ではないと頑なに主張
し親子関係の存否についての鑑定を拒絶する態度がフォートに該当するとされた事例);
CA. Paris, 23 fév. 2006, RTD civ., 2006, 295, chr., Jean Hauser(自己の子であることを認識し
ながら長期間(22 年以上)にわたり認知をしなかった態度および訴訟中における攻撃的な
態度がフォートに該当するとされた事例); etc.
206)Cass. 1re civ., 23 mars 2011, no09 15.381 ; Dr. fam., juill. 2011, com., 121, note, Sylvie
Rouxel は、男性が父子関係の真実性を疑い女性からの子の養育に係る金銭的要求に抵抗し
続けたことについて、フォートに該当する旨の証明がされていないことを理由に、子から
の損害賠償請求を棄却した原審を維持している。この判例も、認知をしなかったこととは
別の形でフォートの存在が証明されれば、男性に対する子からの損害賠償請求が認められ
ることを示唆している。
207)Pons, supra note 17, nos94 et s., pp.80 et s. ; Ruffieux, supra note 133, nos454 et s., pp.439 et
s. ; etc.
208)Desnoyer, supra note 20, nos122 et s., pp.167 et s. et nos269 et s., pp.337 et s.
209)CA. Colmar, 23 juin 2005, Dr. fam., déc. 2005, com., 263, note, Pierre Murat.
210)CA. Caen, 29 mars 2012, Dr. fam., nov. 2012, com., 168, note, Claire Neirinck.

45

論説(白石)

た損害の賠償を求めることができるとする裁判例がこれである。この構成によ
ると、子からの損害賠償請求の保護対象は、認知されること、つまり、父子関
係が存在することそれ自体、または、父子関係の存在に由来する個別的な権利
や利益として定式化されることになる。
ところで、このように、親子関係を成立させなかったこと自体に責任の基礎
を求め、親子関係の存在またはそこから生ずる個別的な権利や利益を子からの
損害賠償請求の保護対象として措定する理解の仕方は、生殖補助医療の場面で
は、立法の形となって現れている。
夫婦またはコンキュビナージュの当事者は、生殖のために第三提供者の関与
を必要とする医療補助を用いることにつきその同意を与えたときは、子が生殖
補助医療から生まれたのでないことを主張するか、同意に効力がないことを主
張するのでない限り、親子関係の設定または異議申立訴権を行使することがで
きず(民法典 311 20 条 1 項、2 項)
、生殖補助医療に同意した後にそこから生
まれた子を認知しない者は、母およびその子に対して、責任を負う(同条 4 項)。
そして、この民法典 311 20 条 4 項については、子との関係では、生殖補助医
療を用いて父になることに同意した者にはそこから生まれた子を認知する法定
の義務が課せられており、生殖補助医療によって誕生した子を認知しないこと
はフォートに該当するという理解を前提に、こうした意味でのフォートに基づ
く責任を認めた規定として位置付け、親子関係の存在またはそこから生ずる個
別的な権利や利益を子からの損害賠償請求の保護対象として観念するしかない
と思われる。その理由は、それ以外の法的な説明の仕方が成り立ち難いことに
求められる。
まず、民法典 311 20 条 4 項が規定する責任は虚偽の認知をしその後これに
異議を申し立てた者の責任と同列に位置付けられるという理解の仕方を前提
に 211)、後者の法的性格に関する現在の判例の解釈に倣って 212)、同項の責任を
211)Zalewski, supra note 159, nos343 et s., pp.228 et s. ; François Terré, Charlotte Goldie
Genicon et Dominique Fenouillet, Droit civil, La famille, 9ème éd., Dalloz, Paris, 2018, no882,
p.899 ; etc.

46

フランス法における家族のメンバーに対する民事責任⑵

父になるはずであった者と子になるはずであった者との間の合意の違反により
基礎付けること、すなわち、生殖のために第三提供者の関与を必要とする医療
補助に同意をした者は、この同意によって子になるはずであった者との関係で
父として行動する義務を引き受けたが、認知を拒絶することによりこの約束に
違反したと理解することは 213)、適切でない。この場面では、当事者による生
殖補助医療への同意の時点で子になるはずであった者は未だ存在すらしていな
い以上、受胎された子はその利益が存するときはいつでも生まれたものとみな
されるという法原則は妥当せず、父になるはずであった者と子になるはずで
あった者との間の合意を観念することもできないからである 214)。次に、生殖
補助医療に関する立法の制定以前に一部の裁判例が示唆していたように 215)、
生殖補助医療を用いて生まれた子を認知しなかったことのみならず、生殖補助
医療を用いて子を誕生させたことにフォートの契機を求めること 216)、従って、
子からの損害賠償請求の保護対象として、単なる親子関係の存在ではなく、同

212)Cass 1re civ., 21 juill. 1987, supra note 185 ; Cass. 1re civ., 6 déc. 1988, supra note 185 ; Cass.
1re civ., 10 juill. 1990, supra note 185 ; Cass. 1re civ., 5 nov, 1996, supra note 185 ; Cass. 1re civ.,
16 juin 1998, supra note 185 ; etc.
213)Zalewski, supra note 159, nos387 et s., pp.249 et s. は、生殖補助医療への同意を認知=父
として行動する義務の約束として捉える方向性を模索している。
214)同様の問題は、CA. Toulouse, 21 sept. 1987, supra note 199 の理由付けに対しても指摘す
ることができる。同判決は、X が、コンキュビナージュの関係にあった A が第三者提供の
精子を用いた人工授精を実施することに同意し、A が Y を出産した後に認知したが、A と
の関係が解消されたことを受けて、Y に対して認知の解消を求める一方、Y が反訴を提起
して損害賠償の支払を求めたという事案で、本件では人工授精を実施することについて X
と A との間に合意が存在したこと、この合意は違法なコーズを持つものとして無効である
こと、生まれてくる子は、その着床の時から、潜在的に人間としての権利、この場面では、
父および母を持つことについての権利を有することからすると、この合意の締結は Y との
関係でフォートを構成すると判示して、Y の反訴請求を認容した。しかし、仮に生まれて
くる子にその着床の時から人間としての権利が認められ、その時点以降に締結された合意
の内容がその子との関係でフォートを構成するとしても、その子が合意の時点で未だ着床
していなかった場合にまで当該構成を妥当させることはできない。
215)CA. Toulouse, 21 sept. 1987, supra note 199.

47

論説(白石)

定可能な血縁関係で結ばれた親子関係の存在を措定することも 217)、受け入れ
られない。この理解によると、生まれてきたこと自体に消極的な意味付けが与
えられかねないほか 218)、生殖補助医療の利用が一定の要件の下で許容されて
いる状況において、これを用いること自体をフォートの評価の中に組み込むこ
と、そして、同定可能な血縁関係で結ばれた親子関係の存在を子からの損害賠
償請求の保護対象として捉えることは 219)、評価矛盾を引き起こすことになる
からである。最後に、同項が規定する子との関係における責任をリスクに基づ
く責任として把握する理解の仕方も 220)、生殖補助医療を用いて子をもうける

216)Alain Sériaux, La procréation artificielle sans artifices : illicéité et responsabilités, D., 1988,
chr., nos21 et s., pp.205 et s. また、生殖補助医療に関する立法の制定後に民法典 311 20 条4
項の責任を本文のように理解するものとして、Zalewski, supra note 159, nos365 et s., pp.240
et s. ; etc.
217)Sériaux, supra note 216, no16, p.204.
218)Huet Weiller, supra note 199, p.188 ; Id., supra note 185, p.518 ; Marnierre, supra note
199, pp.3 et s. ; Jourdain, supra note 185, p.119 ; etc.
219)この理解によると、第三提供者は、生殖に関与しながら血縁関係にある子との間で親
子関係を成立させなかったという評価を受けるため、理論上は子との関係で不法行為責任
を負うことになる。こうした帰結は、第三提供者と子との間に親子関係が成立することは
ないと規定している民法典 311 19 条1項と明らかに衝突する。ところで、同条2項は、第
三提供者に対してはいかなる責任訴権も行使することができないと規定する。この規律は、
病気等が子に遺伝した場合における第三提供者の免責を予定したものとされているが(Cf.
Roberto Andorno, La distinction juridique entre les personnes et les choses : À l épreuve des
procréations artificielles, préf. François Chabas, Bibliothèque de droit privé, t.263, LGDJ.,
Paris, 1996, nos438 et s., pp.246 et s. ; Annick Batteur, Assistance médicale à la procréation et
responsabilité civile de droit privé(1re partie), PA., 26 juin 2002, no5, pp.5 et s. ; Fenouillet,
supra note 17, no20, p.6 ; etc.)、本文の理解を前提にすると、同条1項との調和を図るため
親子関係不成立との関係で第三提供者の免責を予定した条文として位置付けざるをえなく
なる(このような理解を示すものとして、Mirkovic, supra note 178, pp.608 et s.)。
220)必ずしも明確に示されているわけではないが、Cf. Dreifuss Netter, supra note 163, pp.25
et s. ; etc. また、生殖補助医療が用いられた場面に限らず、子を作るリスクを引き受けた者
はその子に起源を確保しその子を養育しなければならないという考え方を出発点として、
親子関係を成立させなかった者の責任を捉えようとするものとして、Siffrein Blanc, supra
note 135, nos436 et s., pp.371 et s.

48

フランス法における家族のメンバーに対する民事責任⑵

ことを父になるはずであった者にとっての特別のリスクとして捉えることにな
るため、適切さを欠く。
結局、民法典 311 20 条 4 項が規定する子との関係における責任は、認知義
務の違反を根拠としており、父子関係が存在することそれ自体、または、父子
関係の存在に由来する個別的な権利や利益を保護対象とするものとして理解さ
れる 221)。その結果、同項に基づく子からの損害賠償の対象には、本来的には
存在したはずの父子関係がなかったことによって子に生じた財産的および精神
的損害のすべてが含まれる 222)。
以上の実定法の状況を本稿の問題関心に従って整理すると、次のようになる。
実定法は、父になるはずであった者が親子関係を成立させることができたにも
かかわらずそれをしなかったこととの関連で損害賠償が請求される場面では、
その解消との関連で損害賠償が請求される場面とは異なり、原則として、子の
身分や地位ではなく、子の人格や感情を保護対象として想定する。もっとも、
今日では、この場面においても、一定の範囲で子の身分や地位またはそれに由
来する結果を損害賠償請求の保護対象として措定する傾向が看取される。とは
いえ、こうした整理の仕方は、父子関係が成立しなかったケース、または、そ
れが遅れて成立したケースについてのみ妥当する。母子関係が成立しなかった
ケース、典型的には、女性が匿名出産を選択し自ら出産した子との間で母子関
係を成立させなかったケース(民法典 326 条を参照)では、たとえ、その子が
後になって自らを出産した女性の同一性を認識し、この母になるはずであった
者に対して損害賠償を請求したとしても、この請求は否定されることになると
考えられる 223)。匿名出産の制度が立法で認められている以上、この制度を利
用して母子関係を成立させなかったことについてフォートを認めることはでき
ないからである。従って、母になるはずであった者が親子関係を成立させるこ
221)Murat, supra note 190, pp.140 et s. ; Pons, supra note 17, nos59 et s., pp.61 et s. ; Ruffieux,
supra note 133, nos454 et s., pp.439 et s. ; Terré, Goldie Genicon et Fenouillet, supra note 211,
no882, p.899 ; etc.
222)Terré, Goldie Genicon et Fenouillet, supra note 211, no885, pp.902 et s.

49

論説(白石)

とができたにもかかわらずそれをしなかったこととの関連で損害賠償が請求さ
れる場面では、子の身分や地位はもちろん、子の人格や感情も保護対象から除
外される。
第 2 に、後者のケース、すなわち、法的な理由により子と親になるはずであっ
た者との間に親子関係を成立させることができなかったケースについて、その
典型的な例は、ある女性が強制性交の結果として子をもうけその子と母子関係
を成立させたが、その加害者が当該女性の尊属、卑属、兄弟であるために、そ
の子と加害者との間に法的な父子関係を成立させることができなくなったこと
を受けて(民法典 310 2 条を参照)
、その子が、または、その子が未成年者で
ある間は女性がその子の代理人として、強制性交の加害者である女性の尊属、
卑属、兄弟(子からみれば、尊属、兄弟、伯父または叔父)に対して、子に生
じた損害の賠償を求めるというものである。
実定法は、子について、近親者による強制性交の被害を受けたことにより母
に精神的な不調が生じ、
これによって母から養育を受けることができなくなり、
児童社会扶助機関に預けられたこと等といった要素に関わる損害に加えて、強
制性交の加害者との間で法的な父子関係を設定することができないことそれ自
体に関わる損害、または、法的な父子関係の不存在から生ずる財産的および精
神的な不利益が発生することを認め、これらの賠償を肯定する 224)。従って、
ここでは、身分や地位それ自体または身分や地位から生ずる権利や利益が子か
らの損害賠償請求の保護対象として想定されていることが分かる 225)。もちろ
ん、こうした保護対象の理解の仕方は、法律上の規定により子が血縁関係にあ
223)もっとも、実際には、子が自らを匿名で出産した女性に対して損害賠償を請求すると
いう場面を想定することは困難である。子が損害賠償を請求するためには匿名出産の事実
および自らを出産した女性の情報を認識していなければならないが、こうした状況に至る
のは極めて例外的であること、子がほかの女性の養子になっているときには、子の身分や
地位またはそれに由来する結果を損害賠償の形で請求するインセンティブがないことが、
その理由である。子が自らを匿名で出産した女性に対して母子関係の成立を求める訴権に
つ い て の 記 述 で あ る が、Cf. Christine Lassalas, La paternité ne peut plus être imposée,
question de responsabilité..., PA., 16 juin 2016, p.10.

50

フランス法における家族のメンバーに対する民事責任⑵

る者との間で父子関係を成立させることができない状態にあることを前提とす
る。そのため、父子関係を成立させることにつき事実上の障害があるにすぎな
い場合、例えば、ある女性が親族関係にない者による強制性交の結果として子
をもうけたが、その加害者と関係を持ちたくない等の理由に基づき、子と加害
者との間の父子関係を成立させなかったという場合において、子が強制性交の
加害者に対して損害賠償の支払を求めるときには、出生を取り巻く諸状況に由
来する精神的損害の賠償は認められるものの 226、227)、男性が認知を頑なに拒絶
している等の事情がない限り 228)、父子関係の不存在に関わる要素が賠償の対
象になることはない 229)。
第 3 に、前者のケースであるか後者のケースであるかにかかわらず、子と親

224)TGI. Lille, 6 mai 1996, D., 1997, jur., 543, note, Xavier Labbée(母の兄に対する損害賠償
請求の肯定); CA. Paris, 25 juin 1999, D., 1999, IR., 226(事案の詳細は不明); CA. Grenoble,
29 juin 2005, RCA., fév. 2006, com., 48, note, Christophe Radé(母の父に対する損害賠償請求
の肯定); etc. また、どのような内容の損害が賠償の対象とされているのかは明確でないが、
Cf. Cass. crim., 4 fév. 1998, no97 80.305 ; Bull. crim., no43 ; JCP., 1998, I, 185, chr., Geneviève
Viney ; Dr. pén., juill. 1998, com., 104, note, Albert Maron ; RSC., 1998, 579, chr., Jean Pierre
Dintilhac ; D., 1999, jur., 445, note, Derothée Bourgault Coudevylle ; JCP., 1999, II, 10178,
note, Isabelle Moine Dupuis ; RTD civ., 1999, 64, chr., Jean Hauser(母の父に対する損害賠
償請求の肯定); Cass. crim., 23 sept. 2010, no09 84.108 ; Bull. crim., no139 ; D., 2010, 2365,
obs., Maud Léna ; PA., 30 déc. 2010, 9, note, Amandine Cayol ; RCA., déc. 2010, com., 313,
note, Sophie Hocquet Berg ; D., 2011, 40, chr., Philippe Brun ; D., 2011, 126, chr., Laurence
Lazerges Cousquer ; D., 2011, 2233, chr., Jean Pradel ; D., 2011, 2570, chr., Anne Laude ; JCP.,
2011, 435, chr., Cyril Bloch ; JCP., 2011, 878, chr., Christian Byk ; Gaz. Pal., 2011, 1574, note,
Mustapha Mekki ; RTD civ., 2011, 132, chr., Patrice Jourdain ; AJ pén., janv. 2011, 27, obs.,
Coralie Ambroise Castérot ; Méd. et dr., 2012, 36, chr., Christina Corgas Bernard( 同 上 );
etc.
225)Cf. Labbée, supra note 224, p.544 ; Nathalie Glandier Lescure, L inceste en droit français
contemporain, préf. Claire Neirinck, PUAM., Aix en Provence, 2006, no602, p.354 ; Émilie
Gaillard, Générations futures et droit privé : Vers un droit des générations futures, préf.
Mireille Delmas Marty, Bibliothèque de droit privé, t.527, LGDJ., Paris, 2011, nos112 et s.,
pp.85 et s ; Mélanie Bourguignon, La prohibition de l inceste, préf. Gérard Mémeteau, Presses
universitaires juridiques de Poitiers, Poitiers, 2018, no84, p.114 ; etc.

51

論説(白石)

になるはずであった者との間に親子関係が成立しなかった場合には、子または
その法律上の親からの請求に基づき、親になるはずであって者に対して、法律
上の親子関係の不存在により生ずる財産的な不利益を塡補するための一定の金
銭等の支払が義務付けられることがある。本稿の問題関心に照らすと、以下の
3 つの規律を取り上げることが有益である。
1 つは、約束または義務の引受に基づく扶養等の支払請求である。ある女性
がある男性と親密な関係を持ち、子をもうけて、この男性が父子関係を成立さ
せることなくその子に事実上の扶養等を提供してきたが、その後、この女性と
男性との関係が解消され、子への扶養等が停止された場合に、その子が、また
は、その子が未成年である間は女性がその子の代理人として、男性に対し、父
子関係の成立を求めることなく、子の扶養等に相当する額の支払を求めること
がある 230)。この場合、男性と子との間に親子関係は存在しないため、男性が
226)CA. Caen, 7 nov. 2000, JCP., 2002, II, 10001, note, Alain Sériaux. また、Cf. Cass. crim., 23
sept. 2010, no09 82.438 ; Bull. crim., no139 ; RCA., déc. 2010, com., 313, note, Sophie Hocquet
Berg ; D., 2011, 40, chr., Philippe Brun ; D., 2011, 126, chr., Laurence Lazerges Cousquer ; D.,
2011, 2233, chr., Jean Pradel ; JCP., 2011, 435, chr., Cyril Bloch ; JCP., 2011, 878, chr., Christian
Byk ; Gaz. Pal., 2011, 1574, note, Mustapha Mekki ; R TD civ., 2011, 132, chr., Patrice
Jourdain ; AJ pén., janv. 2011, 27, obs., Coralie Ambroise Castérot.
227)この点については、拙稿・ 前掲注(3)「家族の保護(2・ 完)」61 頁以下での分析を参
照。
228)このような事情があれば、第1で言及した認知義務の違反に基づく損害賠償を通じて、
父子関係の不存在に関わる要素が賠償の対象とされる可能性がある。
229)ただし、子は、第3の2つ目で言及する生計費請求訴権を行使すれば、父子関係の不
存在から生ずる財産的不利益の一部の塡補を求めることはできる。
230)この問題については、Cf. Fernand Derrida, L obligation d entretien : Obligation des parents
d élever leur enfants, préf. André Breton, Bibliothèque de la faculté de droit de l Université
d Alger, t.16, Dalloz, Paris, 1952, pp.63 et s. ; Vu Van Mau, Les engagements d entretien des
enfants adultérins à travers la jurisprudence récente, JCP., 1953, I, 1121 ; Jean Pelissier, Les
obligations alimentaires : Unité ou Diversité, préf. Roger Nerson, Bibliothèque de droit privé,
t.28, LGDJ., Paris, 1961, pp.92 et s. ; Pascal Berthet, Les obligations alimentaires et les
transformations de la famille, préf. Jacqueline Rubellin Devichi, L Harmattan, Paris, 2000,
nos134 et s., pp.82 et s. ; etc.

52

フランス法における家族のメンバーに対する民事責任⑵

子に対して父であることを理由に扶養等の支払を義務付けられることはない。
また、男性がそれまで子に与えてきた扶養等も自然債務または良心の債務に基
づくものにすぎない。このような前提の下、判例は、男性がそれまで扶養や養
育等を継続してきたという事実や、男性が解消に際し女性に宛てて記した手紙
等の中に、扶養等に関する自然債務または良心の債務を民事債務へと変容させ
る男性の意思を読み取ったり、場合によっては、男性と女性との間に子の扶養
等の支払に関する黙示の合意が存在することを認定したりすることで、一定の
場合に、男性に対して、扶養等の債務の履行を義務付けてきた 231、232、233)。この
法理は、かつては、父子関係の成立が法的に認められていなかった場面、特に、
懐胎の時に父になるはずの者が母以外の者と婚姻関係にあった場面で重要な意
味を有していた 234)。というのは、一方で、1972 年 1 月 3 日の法律による改正以

231)Cass. civ., 27 mai 1862, D., 1862, 1, 208 ; S., 1862, 1, 566(肯定例); Cass. civ., 15 janv. 1873,
D., 1873, 1, 180, concl., Blanche ; S., 1873, 1, 29(肯定例); Cass. req., 3 avril 1882, D., 1882, 1,
250 ; S., 1882, 1, 404(肯定例); Cass. req., 20 avril 1912, S., 1913, 1, 214(肯定例); Cass. civ.,
8 fév. 1927, D., 1927, 1, 76, note, H. L. ; DH., 1927, jur., 165 ; Gaz. Pal., 1927, 1, jur., 619 ; RTD
civ., 1927, 640, chr., Eugène Gaudemet(否定例。無効な認知による民事債務への変容の否
定); Cass. req., 2 nov. 1932, DH., 1932, jur., 572 ; S., 1933, 1, 50 ; Gaz. Pal., 1933, 1, jur., 62(肯
定 例 ); Cass. req., 18 avril 1934, Gaz. Pal., 1934, 1, jur., 1031( 肯 定 例 ); Cass. req., 30 avril
1934, S., 1934, 1, 391(肯定例); Cass. civ., 9 juill. 1935, DH., 1935, jur., 444 ; JCP., 1935, 1321,
obs., H. M. ; Gaz. Pal., 1935, 2, jur., 555 ; S., 1936, 1, 29( 肯 定 例 ); Cass. civ., 23 déc. 1935,
DH., 1936, jur., 115 ; Gaz. Pal., 1936, 1, jur., 148 ; S., 1937, 1, 3(肯定例); Cass. civ., 4 mai 1948,
Gaz. Pal., 1948, 2, jur., 40 ; RTD civ., 1948, 466, chr., Gaston Lagarde(否定例。無効な認知に
よ る 民 事 債 務 へ の 変 容 の 否 定 ); Cass. civ., 25 oct. 1948, JCP., 1948, II, 4634, obs., Raoul
Cavarroc ; Gaz. Pal., 1948, 2, jur., 259(男性側の日記や証人の証言について自然債務から民
事債務への変容を基礎付ける証拠にはならないとした原審を破棄した事例); Cass. civ., 18
oct. 1950, Bull. civ., no195 ; Gaz. Pal., 1950, 2, 389 ; D., 1951, som., 7 ; RTD civ., 1951, 251, chr.,
Henri et Léon Mazeaud(否定例。証拠としての書証の端緒の不存在); Cass. civ., 25 oct.
1950, D., 1951, jur., 2 ; Gaz. Pal., 1951, 1, jur., 31 ; RTD civ., 1951, 241, chr., Gaston Lagarde(否
定例。無効な認知による民事債務への変容の否定); Cass. civ., 18 déc. 1951, D., 1952, jur.,
289(否定例。証拠としての書証の端緒の不存在); Cass. 1re civ., 9 nov. 1954, JCP., 1955, II,
8516, obs., Jean Savatier ; RTD civ., 1955, 288, chr., Gaston Lagarde(否定例。同上); Cass.
1re civ., 18 mai 1960, Bull. civ., I, no270 ; D., 1960, jur., 681, note, G. Holleaux(肯定例); etc.

53

論説(白石)

前においては、上記の場面でその子と父になるはずであった者との間の親子関
係の成立は認められておらず(同法による改正前の民法典旧 342 条 1 項、同旧
335 条)
、子が父子関係の存在を前提に扶養等の支払を求めることはできなかっ
たため、他方で、2 つ目で言及するように、1955 年 7 月 15 日の法律による改正

(前頁からつづき)
 下級審の裁判例として、CA. Angers, 30 avril 1873, D., 1873, 2, 139(肯定例); TC. Seine,
10 fév. 1876, D., 1877, 2, 96(肯定例); CA. Orléans, 2 mars 1881, D., 1882, 2, 244(肯定例);
CA. Lyon, 30 déc. 1890, D., 1891, 2, 309(肯定例); CA. Paris, 30 juin 1893, D., 1894, 2, 526(肯
定例); CA. Lyon, 30 mai 1895, D., 1896, 2, 278(肯定例); TC. Rocroi, 16 déc. 1898, Gaz. Pal.,
1899, 1, jur., 94(肯定例); TC. Mamers, 26 déc. 1898, Gaz. Pal., 1899, 1, jur., 659(肯定例);
TC. Sainte Menehould, 15 mai 1901, Gaz. Pal., 1901, 1, jur., 750(否定例。扶養等を引き受け
る明確な意思の不存在); CA. Lyon, 4 juin 1902, RTD civ., 1904, 867, chr., René Demogue(肯
定例); CA. Paris, 28 mars 1905, Gaz. Pal., 1905, 1, jur., 739 ; RTD civ., 1905, 638, chr., Louis
Josserand(否定例。扶養等を引き受ける明確な意思の不存在); CA. Paris, 18 fév. 1910, S.,
1910, 2, 220 ; RTD civ., 1910, 419, chr., Eugène Gaudemet( 肯 定 例 ); TC. Toulon, 12 avril
1912, Gaz. Pal., 1912, 1, jur., 595 ; RTD civ., 1912, 736, chr., René Demogue(否定例。母によ
る男性からの扶養等の提供の放棄); CA. Aix, 5 avril 1913, S., 1913, 2, 313, note, E. Naquet(肯
定例); T. de paix Seine, 26 déc. 1913, RTD civ., 1914, 636, chr., Albert Wahl(肯定例); TC.
Mayenne, 9 janv. 1914, D., 1915, 5, 8(肯定例); CA. Poitiers, 20 janv. 1919, Gaz. Pal., 1919, 2,
jur., 105(肯定例); CA. Paris, 25 fév. 1921, RTD civ., 1922, 168, chr., Eugène Gaudemet(肯定
例); TC. Mayenne, 8 déc. 1927, D., 1928, 2, 159, note, René Savatier(肯定例); TC. Rouen, 19
nov. 1928, DH., 1929, jur., 79 ; Gaz. Pal., 1929, 1, jur., 496(肯定例); CA. Lyon, 20 déc. 1930,
RTD civ., 1932, 143, chr., Eugène Gaudemet(肯定例); TC. Carcassonne, 3 mars 1931, Gaz.
Pal., 1931, 1, jur., 798(否定例。扶養等を引き受ける明確な意思の不存在); CA. Montpellier,
2 juin 1932, DH., 1932, jur., 452 ; S., 1933, 2, 48(肯定例); TC. Marseille, 28 oct. 1932, Gaz.
Pal., 1932, 2, jur., 946(肯定例); CA. Amiens, 10 avril 1933, Gaz. Pal., 1933, 2, jur., 126 ; RTD
civ., 1933. 878, chr., René Demogue(肯定例); TC. Béthune, 13 déc. 1933, Gaz. Pal., 1934, 1,
jur., 340 ; RTD civ., 1934, 405, chr., René Demogue(否定例。男性が未成年者であることを
理由とする意思の不存在); CA. Nîmes, 25 juin 1934, DH., 1934, jur., 502 ; Gaz. Pal., 1934, 2,
jur., 449 ; RTD civ., 1934, 812, chr., Gaston Lagarde(肯定例); CA. Rennes, 11 nov. 1941, DA.,
1942, 104(肯定例); CA. Caen, 9 fév. 1942, Gaz. Pal., 1942, 2, jur., 29(肯定例); TC. Blois, 17
déc. 1943, Gaz. Pal., 1943, 2, jur., 273(肯定例); CA. Paris, 20 avril 1944, Gaz. Pal., 1944, 1,
jur., 287( 肯 定 例 ); CA. Paris, 5 janv. 1945, Gaz. Pal., 1945, 1, jur., 208( 肯 定 例 ); TC.
Boulogne sur Mer, 18 mai 1945, Gaz. Pal., 1945, 1, jur., 207(肯定例); TC. Saumur, 17 avril

54

フランス法における家族のメンバーに対する民事責任⑵

以前においては、上記の場面で子が親子関係を成立させることなく扶養の請求
をすること(同法による改正後の同旧 342 条 2 項以下。なお、1972 年 1 月 3 日
(前頁からつづき)
1947, D., 1947, som., 38 ; JCP., 1947, II, 3737, obs., A. S. ; Gaz. Pal., 1947, 1, jur., 271 ; RTD civ.,
1947, 425, chr., Gaston Lagarde(肯定例); TC. Seine, 10 déc. 1947, Gaz. Pal., 1948, 1, jur., 129
( 肯 定 例 ); TC. Reims, 11 déc. 1947, Gaz. Pal., 1948, 2, jur., 52 ; RTD civ., 1948, 466, chr.,
Gaston Lagarde(肯定例); CA. Paris, 4 mai 1948, Gaz. Pal., 1948, 2, jur., 192(肯定例); TC.
Fontainebleau, 22 juin 1949, Gaz. Pal., 1949, 2, jur., 208(肯定例); TC. Trévoux, 13 déc. 1949,
Gaz. Pal., 1950, 1, jur., 198(否定例。扶養等を引き受ける明確な意思の不存在); TC. Seine,
14 mars 1950, D., 1950, jur., 495 ; Gaz. Pal., 1950, 2, 26 ; RTD civ., 1950, 347, chr., Gaston
Lagarde(肯定例); TC. Dieppe, 10 mai 1950, JCP., 1950, II, 5710, obs., J. S. ; RTD civ., 1950,
491, chr., Gaston Lagarde(否定例。扶養等を引き受ける明確な意思の不存在); CA. Colmar,
21 juill. 1950, Gaz. Pal., 1950, 2, jur., 260 ; D., 1951, jur., 68 ; JCP., 1952, II, 6772, obs., René
Savatier(男性に扶養等を支払う義務があることを前提に子からの増額請求について判断
し た 事 例( 否 定 例 )); CA. Paris, 15 fév. 1952, D., 1952, jur., 403 ; JCP., 1952, II, 7104, obs.,
René Savatier ; Gaz. Pal., 1952, 1, jur., 398 ; RTD civ., 1952, 358, chr., Gaston Lagarde(同上(肯
定例)); TC. Privas, 28 fév. 1952, S., 1952, 2, 148, note, J. B. ; RTD civ., 1952, 506, chr., Henri et
Léon Mazeaud( 肯 定 例 ); CA. Amiens, 6 mai 1952, Gaz. Pal., 1952, 2, jur., 129 ; RTD civ.,
1952, 492, chr., Gaston Lagarde(否定例。扶養等を引き受ける明確な意思の不存在); CA.
Paris, 18 juin 1953, JCP., 1953, II, 7773 ; Gaz. Pal., 1953, 2, jur., 134 ; RTD civ., 1953, 683, chr.,
Gaston Lagarde(肯定例); TC. Marseille, 19 oct. 1956, JCP., 1956, II, 9602, obs., André Rouast
(肯定例); CA. Paris, 9 avril 1957, D., 1957, jur., 455 ; JCP., 1957, II, 10177, obs., Roger Nerson ;
RTD civ., 1957, 670, chr., Henri Desbois(肯定例); CA. Paris, 9 oct. 1958, supra note 156(肯
定例); etc.
232)ある女性が男性と親密な関係を持ち、子をもうけて、この男性が父子関係を成立させ
ることなくその子に事実上の扶養等を提供してきたという状況の下、この男性が死亡した
という場合でも、判例は、同様の理由により、男性の相続人に対して扶養等に相当する額
の支払を命じていた。Ex. Cass. 1re civ., 2 déc. 1959, D., 1960, jur., 681, note, G. Holleaux ;
RTD civ., 1961, 90, chr., Henri Desbois のほか、CA. Bordeaux, 11 mars 1947, JCP., 1947, II,
3800, obs., G. B. ; CA. Aix, 4 déc. 1950, D., 1951, jur., 32 ; JCP., 1952, II, 7072 ; RTD civ., 1953,
91, chr., Gaston Lagarde ; CA. Pau, 3 mars 1953, Gaz. Pal., 1953, 2, jur., 15 ; RTD civ., 1953,
683, chr., Gaston Lagarde ; CA. Lyon, 12 déc. 1957, JCP., 1958, II, 10394, obs., Roger Nerson ;
RTD civ., 1958, 241, chr., Henri Desbois ; etc. 否定例として、Cass. 1re civ., 15 janv. 1957, JCP.,
1957, II, 9791(証拠としての書証の端緒の不存在); Cass. 1re civ., 19 mars 1957, Bull. civ., I,
no146(諸事情を考慮した上で将来効を持つ民事債務への変容が否定された事例); etc.

55

論説(白石)

の法律による改正後においては、生計費の請求をすること)も認められていな
かったため、この法理は 235)、子からの扶養等に相当する額の支払請求を基礎
付けうるほぼ唯一の手段となっていたからである 236)。現在では、上記の場面で、
子が父子関係の成立を求めこれを前提に扶養等を請求することも、父子関係の
成立を求めることなく生計費の請求をすること(民法典 342 条以下)も認めら
233)本文で述べた状況の下では、男性は、子またはその母に対して、自らが提供した扶養
等に相当する額の返還を求めることはできない。Cf. Cass. req., 5 mars 1902, D., 1902, 1, 220
(男性の包括受遺者からの返還請求の否定); Cass. civ., 11 mars 1936, S., 1936, 1, 171 ; Gaz.
Pal., 1936, 1, jur., 850 ; JCP., 1936, 716, obs., H. M. ; RTD civ., 1936, 862, chr., René Demogue ;
D., 1937, 1, 16(男性からの返還請求の否定); etc. ただし、男性が血縁関係の存在を誤認し
て扶養等の約束をした場合には錯誤を理由とする取消しが認められる可能性はある。Cf.
CA. Rennes, 27 fév. 1961, JCP., 1962, II, 12461, obs., René Savatier.
234)注(231)および注(232)で引用した裁判例のほとんどがこのケースに関わる。なお、
事例としては少なかったが、懐胎の時に母が父になるはずの者以外の者と婚姻関係にあっ
た場合において、母の夫がその子との父子関係を否定したときにも、この法理は、本文で
述べるのと同じ理由で、重要な意味を有していた。Ex. Cass. civ., 14 janv. 1952, D., 1952,
jur., 177, note, Roger Lenoan ; CA. Paris, 4 juin 1954, D., 1954, jur., 544 ; JCP., 1954, II, 8343,
obs., Jean Savatier ; TC. Amiens, 12 nov. 1954, Gaz. Pal., 1955, 1, jur., 40 ; etc. また、母の夫が
その子との父子関係を否定しなかった事案に関するものであるが、Cf. Cass. 1re civ., 8 déc.
1959, Bull. civ., I, no525 ; D., 1960, jur., 241, note, Jean Savatier.
235)判例は、かつて、親子関係を成立させることが法的に禁止されている場面でされた無
効な認知に関して、自然債務または良心の債務を民事債務へと変容させる契機とみること
はできないとしていた(Ex. Cass. civ., 8 fév. 1927, supra note 231 ; Cass. civ., 4 mai 1948,
supra note 231 ; Cass. civ., 25 oct. 1950, supra note 231 ; etc. もっとも、下級審の裁判例の中
には、これを肯定するものもあった。Ex. CA. Paris, 23 juin 1949, D., 1949, jur., 433 ; RTD
civ., 1949, 517, chr., Gaston Lagarde ; JCP., 1950, II, 5253, obs., Jean Savatier ; CA. Paris, 4 juin
1954, supra note 234 ; etc.)。この解決は、判決文の上では、姦生子に対する認知に法的な
効果を認めることはできないという理解を根拠としていたが、その背後には、それ以上に、
これを認めると親子関係の成立が法的に禁止されている場面において一定の範囲で親子関
係が成立したのと同じ結果がもたらされてしまうとの考慮があった(姦生子に対する無効
な認知が問題となった事案ではないが、一部の裁判例は、こうした考慮に基づき、親子関
係のない子に対する自然債務または良心の債務が民事債務へと変容すること自体を否定す
る。CA. Paris, 14 fév. 1890, D., 1891, 2, 309 ; TC. Bourg, 25 oct. 1927, Gaz. Pal., 1927, 2, jur.,
886 ; TC. Seine, 13 janv. 1928, Gaz. Pal., 1928, 1, jur., 411 ; etc.)。そのため、1955 年7月 15 日

56

フランス法における家族のメンバーに対する民事責任⑵

れているが、子またはその母が父子関係の成立を欲せず、かつ、生計費請求訴
権が否定されるような場面では 237)、この法理はなお機能している 238)。
この法理は、厳密にいえば、民事責任ではなく、約束または義務の論理に属
する。これは、
特にかつての裁判例の立場を前提にすると、父になるはずであっ
た者が子を認知しなかったこと、そして、母との関係を解消した後に法的には
父子関係のない子への扶養等を停止したことについて、不法行為を基礎付けう
(前頁からつづき)
の法律により、親子関係を成立させることが法的に禁止されている場面で、子が親子関係
を成立させることなく扶養の請求をすることが認められようになると、上記の考慮は、も
はや妥当しなくなる。実際、判例は、同法の制定後は、1972 年1月3日の法律により姦生
子に対する認知が認められるようになるまでの間にあっても、結論としては、無効な認知
により自然債務または良心の債務が民事債務へと変容することを認めている(Cass. 1re
civ., 16 mai 1960, Bull. civ., I, no259 ; D., 1960, jur., 681, note, G. Holleaux ; RTD civ., 1961, 90,
chr., Henri Desbois の ほ か、TC. Marseille, 19 oct. 1956, supra note 231 ; CA. Paris, 9 avril
1957, supra note 231 ; etc.)。もちろん、今日では、本文で述べた場面で認知がされると親
子関係が成立することになるため、無効な認知による自然債務から民事債務への変容を論
ずる意味はない。
236)こうした状況は、母と父になるはずであった者との間に一定の親族関係がある場面に
も当てはまる。より正確にいえば、この場面では、現在においても、子が両者との間で親
子関係を持つことは禁止されており(民法典 310 2 条)、母子関係が先に成立すると、父に
なるはずであった者との間で父子関係が成立することはなく、従って、子が父子関係の成
立を求めた上で扶養等を請求することもできないため、理論上は、この法理が機能する余
地はより広い(Cf. Bourguignon, supra note 225, no79, p.107)。しかし、実際には、この場
面で、子が自然債務または良心の債務から民事債務への変容等を主張して父になるはずで
あった者に対し扶養等に相当する額の支払を求めることは、それほど多くない。一方で、
父になるはずであった者が母との間で強制的に性的関係を持ったときには、この者が子に
対して扶養等を引き受けたとみることができるような行動をとることはなく、自然債務ま
たは良心の債務を民事債務へと変容させる契機を見出すことは困難であること、他方で、
父になるはずであった者が母との間で愛情等に基づき性的関係を持ったときには、子に対
する扶養等の履行が任意に行われうるため、そもそも紛争にならないことが、その理由で
ある。
237)子が成年に達してから2年以内に訴権が行使されなかった場合(民法典 342 条2項)が
その例である。また、1993 年1月 8 日の法律による改正前においては、被告が母の性的放縦
を証明した場合にも生計費請求訴権は否定された(同法による改正前の民法典旧 342 4 条)


57

論説(白石)

るようなフォートとみることに疑問が残り、民事責任法理の枠内で子自身から
の請求を受け止めることには困難が伴うことを踏まえ、約束または義務の論理
が仮託的構成として採用されたことによる 239)。実定法は、自然債務または良
心の債務から民事債務への変容という法的構成を用いて、本来的には家族法に
よって、または、家族法が機能していない場合には民事責任法理によって確保
されるべき保護の対象、すなわち、父子関係の不存在に由来する財産的な不利
益の一部を金銭の形で塡補している。そして、この法理は、約束または義務の
論理を基礎に据えているため 240)、二での検討対象を超えて、ある者とある子
との間に血縁等の親子関係を成立させるための基礎は存在しなかったが親子に
類似した関係があったところ後になってこれが解消されたケース、典型的には、
あるカップルの一方が他方の子と同居しその子に扶養や養育等を提供してきた
場合において、カップル関係の解消に伴い扶養や養育等が停止されたという
ケースでも、機能する余地がある 241)。カップル関係の解消と別のカップル関
238)Ex. Cass. 1re civ., 3 oct. 2006, no04 14.388 ; Bull. civ., I, no428 ; AJ fam., nov. 2006, 418, obs.,
François Chénedé ; Defrénois, 2007, art. 37541, 306, note, Jacques Massip ; Defrénois, 2007,
art. 38562, 467, note, Rémy Libchaber ; Dr. fam., janv. 2007, com., 3, note, Pierre Murat. X が
Y に対して父子関係の成立を求める訴えを提起した後、Y から大学の卒業まで毎月 3000 フ
ランを支払う旨の約束を受けたために、この訴えを取り下げたが、やがて Y がその支払を
停止するに至ったため、Y に対して生計費の請求を求めた事案で、本件訴権を生計費請求
訴権として性質決定した上で所定の期間内に訴えが提起されていないことを理由に X の請
求を棄却した原審について、破毀院は、上記の約束によって自然債務が民事債務に変容さ
れているかどうかが確認されていないとして、これを破棄した。
239)Cf. Laszlo Fenouillet, supra note 203, nos152 et s., pp.90 et s.
240)ここから、扶養等の支払を約束した者は、その後に対象となった子が別の者によって
認知されたとしても、そのことだけを理由に扶養等の支払を免れることはできないという、
家族法的な扶養義務の考え方とは異なる解決が導かれる(Cass. 1re civ., 30 juin 1976, no73
13.164 ; Bull. civ., I, no237 ; D., 1978, jur., 489, note, Pierre Guiho のほか、TC. Reims, 11 déc.
1947, Gaz. Pal., 1948, 2, jur., 52 ; RTD civ., 1948, 466, chr., Gaston Lagarde(CA. Nancy, 10
juin 1948, infra の 原 審 ); CA. Riom, 6 juin 1953, JCP., 1953, II, 7907, obs., Pierre Raynaud ;
RTD civ., 1954, 72, chr., Gaston Lagarde ; etc. Contra. CA. Nancy, 10 juin 1948, Gaz. Pal., 1948,
2, jur., 52 ; RTD civ., 1948, 466, chr., Gaston Lagarde ; CA. Paris, 23 juin 1949, supra note 235 ;
etc.)


58

フランス法における家族のメンバーに対する民事責任⑵

係の再構築とが頻繁に行われている現状に鑑みると、この法理は、更に発展し
ていく可能性を秘めている 242)。
もう 1 つは、生計費請求訴権である 243)。子は、その父子関係が成立しなかっ
たときには、母が受胎した時にこの母と親密な関係を有していた者に対して、
生計費の支払を求めることができる(民法典 342 条以下)。この生計費請求訴

241)Ex. Cass. req., 30 juill. 1900, D., 1901, 1, 502 ; S., 1901, 1, 259(夫が妻の子に対して扶養等
を提供することは良心の債務を民事債務として履行することにほかならないとして、その
ことを考慮することなく離婚時の財産の清算を実施した事例); CA. Grenoble, 10 fév. 1903,
D., 1904, 2, 469(夫が妻の子に対して任意に扶養等を提供していたときにはその返還を求
めることはできないとされた事例); CA. Colmar, 20 déc. 1960, D., 1961, jur., 207(ある男性
Y がカップルの関係にあった女性の子 X に対して扶養等を提供することは自然債務を民事
債務に変容させることにほかならないとして、X からの Y に対する扶養等の請求を認容し
た事例); etc. また、Cf. T. de paix Duclair, 23 fév. 1954, D., 1954, jur., 216(ある者 Y が父の妻
になった者の母 X に対して扶養等を提供することは自然債務を民事債務に変容させること
にほかならないとして、X からの Y に対する扶養等の請求を認容した事例); etc. なお、あ
る者が自己の嫡出子の非嫡出子に提供していた扶養等の返還を求めたケースについて、Cf.
TC. Alençons, 28 janv. 1931, D., 1931, 2, 127 ; RTD civ., 1932, 165, chr., René Demogue.
242)本文の場面でこの法理の有用性を説くものとして、Berthet, supra note 230, nos338 et s.,
pp.189 et s. また、教育、愛情、財政という3つの負担の引受から、親として行動する意思
的な約務を認定し、これに基づき別居後の扶養関係の維持を認める方向性を模索するもの
として、Muriel Rebourg, Libre propos sur la reconnaissance d un lien de droit entre l enfant
et de son beau parent, RRJ., 2017, pp.39 et s.
243)生計費請求訴権については、Cf. Michèle Laure Rassat, Propos critiques sur la loi du 3
janvier 1973 portant réforme du droit de la filiation, RTD civ., 1973, nos76 et s., pp.419 et s. ;
André Meerpoel, Les interférences entre l action à fins de subsides de l article 342 nouveau
du code civil et la recherche de paternité naturelle, RTD civ., 1978, pp.787 et s. ; Marie
Claude Catala de Roton, L action à fins de subsides et la pratique des tribunaux, RTD civ.,
1990, pp.1 et s. ; Claudine Gonon, La rapprochement de l action à fins de subsides et de l action
en recherche de paternité naturelle : Aspects de procédure et de fond, JCP., 1998, I, 158,
pp.1477 et s. ; Splange Mirabail, Repenser l action à fins de subsides, Dr. fam., sept. 2011,
étude 19(なお、JCP., 2011, 1063 にも同タイトルで同じ内容の論文が掲載されている);
Isabelle Ardeeff, Plaidoyer pour le maintien de l action à fins de subsides, AJ fam., janv. 2012,
pp.39 et s. ; Frédérique Granet Lambrechts, Filiations. ─ Action à fins de subsides, J. CL.,
Civil Code, Art. 342 à 342 8, Fasc. unique, 2015 ; etc.

59

論説(白石)

権は、子と当該人物との間に法的な父子関係が存在することを根拠として扶養
の支払を求めるものではなく、両者の間に血縁上の父子関係が存在する可能性
があることを根拠として扶養とは別の生計費の支払を求めるものである。その
ため、この訴権は、子と当該人物との間で父子関係を法的に成立させることが
できない場合、具体的には、子の母と当該人物との間に一定の親族関係がある
場合(同 310 2 条を参照)には、子の生計費を確保するための手段として重要
な意味を持つ。また、子と当該人物との間で父子関係を法的に成立させること
ができる場合であっても、子は、当該人物に対して、父子関係の存在を証明し
た上で扶養等の支払を求めるか、母と当該人物との間の親密な関係を証明した
上で生計費の支払を求めるかを選択することができる 244)。
現在の生計費請求訴権は、1955 年 7 月 15 日の法律により導入された特別な
扶養訴権を発展させたものである。この特別な扶養訴権は 245)、近親子および
姦生子について、母との間で親子関係が成立すると父になるはずであった者と

244)もっとも、子が未成年である間は、訴権は法定代理人である母によって行使されるため、
どちらの訴権が選択されるかについては、実際上、子の利益というよりも、母の利害が大
きく関わる。例えば、強制性交により子が生まれた場面等では、母は、父子関係を成立さ
せるための訴権ではなく生計費請求訴権を選択し、当該人物に対して父であることに由来
する権利を付与することなく、子とこの者との間の実際上の関係を断って財産上の支援だ
けを得たり、子に別の父を持つ可能性を残しておいたりする。確かに、上記の場面で母が
生計費請求訴権を選択することは、子にとっても有益である。しかし、それ以外の場面で、
母の一存により子の身分関係が決定されてしまうことに関しては、疑問もある。Ex.
Rassat, supra note 243, no78, pp.421 et s. ; Hauser et Huet Weiller, supra note 183, no705,
pp.470 et s. ; Mirabail, supra note 243, nos11 et s., p.4 ; etc. 反対に、この点に生計費請求訴権
の有用性を見出すものとして、Ex. Ardeeff, supra note 243, pp.41 et s. ; Philippe Malaurie et
Hugues Fulchiron, Droit de la famille, 6ème éd., LGDJ., Paris, 2017, no1362, pp.628 et s. ; Terré,
Goldie Genicon et Fenouillet, supra note 211, no724, pp.694 et s. ; etc.
245)こ の 訴 権 に つ い て は、Cf. André Rouast, Les réformes réalisées en faveur des enfants
illégitimes par la loi du 15 juillet 1955, JCP., 1955, I, 1269 ; Paul Esmain, La preuve de la
filiation naturelle et la condition des enfants adultérins ou incestueux(Loi du 15 juillet 1955),
Gaz. Pal., 1955, 2, doc., pp.21 et s. ; Georges Ripert, La condition des enfants adultérins après
les lois des 15 juillet 1955 et 5 juillet 1956, D., 1956, chr., pp.133 et s. ; etc.

60

フランス法における家族のメンバーに対する民事責任⑵

の間で親子関係を成立させることができなくなることから生ずる財産上の不利
益を塡補するために、親子関係の存在を法的に宣言することなく扶養の支払の
みを求めることを認めたものであった(1972 年 1 月 3 日の法律による改正前の
民法典旧 342 条 2 項から 4 項まで)
。この意味で、同訴権は、親子関係それ自体
を成立させることなく、親子関係の存在から生ずる権利または利益の一部だけ
を保護の対象にしようとするものであった 246)。しかし、この訴権を付与され
ていたのが近親子または姦生子だけであったため、それ以外の婚外子は、父に
なるはずであった者から認知をされなかったとしても、父子関係を成立させる
こと自体は法的に可能である以上、この訴権を行使することができず 247)、前
二者に対する取扱いと後者に対するそれとの間に重大な不均衡が生じてい
た 248)。そこで、1972 年 1 月 3 日の法律は、この特別な扶養訴権を廃止し、新た
に、法的に父を持たないすべての子に対して開かれ、かつ、父子関係ではなく
父子関係の可能性を根拠とする生計費請求訴権を導入した。

246)父であることを法的に認めることなく、父であることに由来する義務を肯定すること
については、その非論理性を指摘する見解もあった。Ex. Paul Esmain, Obs. sous CA. Paris,
16 fév. 1956, JCP., 1956, II, 9327 ; etc.
247)Cass. 1re civ., 13 janv. 1959, Bull. civ., I, no21 ; D., 1959, jur., 61, note, André Rouast ; S.,
1959, 48 ; JCP., 1959, II, 10952, obs., Paul Esmain ; RTD civ., 1960, 306, chr., Henri Desbois の
ほか、TGI. Strasbourg, 1er juin 1956, D., 1957, jur., 253, note, E. de G. de Lagrange ; S., 1957,
236 ; RTD civ., 1956, 578, chr., Pierre Hébraud et Pierre Raynaud ; RTD civ., 1957, 512, chr.,
Henri Desbois ; CA. Amiens, 19 fév. 1957, JCP., 1957, II, 10028 ; RTD civ., 1957, 512, chr.,
Henri Desbois ; TC. Colmar, 27 fév. 1957, D., 1957, jur., 404 ; S., 1957, 307 ; RTD civ., 1957,
512, chr., Henri Desbois ; CA. Caen, 8 oct. 1957, D., 1958, jur., 200 ; CA. Rouen, 5 avril 1960,
D., 1960, jur., 439 ; S., 1960, 266 ; JCP., 1960, II, 11633 ; RTD civ., 1960, 630, chr., Henri
Desbois(Cass. 1re civ., 13 janv. 1959, supra の移送審); CA. Paris, 5 juill. 1960, D., 1960, som.,
117 ; JCP., 1960, II, 11887, obs., R. B. ; etc. また、Cf. Cass. 1re civ., 20 mai 1969, no67 11.414 ;
Bull. civ., I, no193 ; D., 1969, jur., 429, concl., Raymond Lindon et note, Claude Colombet ; JCP.,
1969, II, 16113, obs., Henri Blin ; RTD civ., 1969, 544, chr., Roger Nerson ; RTD civ., 1969, 607,
chr., Pierre Hébraud et Pierre Raynaud(A の妻 B が Y との間でもうけた子 X が Y に対して
扶養訴権を行使した事案で、X が A から父子関係を否認されていないことを理由にこれを棄
却した事例。この判決については、Cf. François Boulanger, L action alimentaire des enfants

61

論説(白石)

このような形で生計費請求訴権を家族法上の扶養の論理から切り離すと、そ
の結果として、この訴権をどのように性質決定すればよいかという問題が生じ
てくる。この点については、子をもうけることとの関連でフォートやリスクを
構想することの問題性、生計費の提供という効果と民事責任法理の考え方との
不適合等を根拠に、この訴権を民事責任の枠組の中で捉えことを放棄し、かつ、
その制度の一貫性の欠如を強調して、生計費請求訴権に関しては立法者の意思
に基づく法定の制度として位置付けるしかないとする理解の仕方もある 249)。
しかし、一般的には、生計費請求訴権について、補償と扶養というハイブリッ
ドな性格を備えたリスクに基づく責任訴権、すなわち、効果は扶養に類似する
が、その基礎は性的関係を持つことにより子をもうけることになるかもしれな
いというリスクに基づく民事責任にあるものとして位置付ける考え方が受け入
れられている 250)。そして、
生計費請求訴権を民事責任の枠内で捉える考え方は、
ある未成年者に対する生計費請求訴権が肯定されたときにはその親が民法典
1242 条 4 項(旧 1384 条 4 項)に基づき父母としての責任を負う可能性がある
ことを示唆する裁判例の解決や 251)、複数の者が同時に生計費を支払う義務を
負うことを認める裁判例の解決 252)とも親和性を持つ 253)。従って、本稿の問題
(前頁からつづき)
illégitimes après de la cour de cassation du 20 mai 1969, JCP., 1970, I, 2301)。ただし、裁判例
の中には、少数ではあるが、近親子および姦生子以外の婚外子に対し旧 342 条2項に基づ
く扶養訴権を認めるものもあった。CA. Paris, 15 juin 1956, D., 1956, jur., 508 ; S., 1956, 67 ;
JCP., 1956, II, 9411, obs., André Rouast ; Gaz. Pal., 1956, 2, jur., 17 ; RTD civ., 1956, 578, chr.,
Pierre Hébraud et Pierre Raynaud ; RTD civ., 1956, 702, chr., Henri Desbois(また、Cf. Paul
Esmain, Les pères nourriciers, Gaz. Pal., 1956, 2, doc., pp.3 et s.); CA. Paris, 30 oct. 1956, D.,
1957, jur., 452 ; S., 1957, 298 ; RTD civ., 1957, 512, chr., Henri Desbois(Cass. 1re civ., 13 janv.
1959, supra の原審); CA. Rouen, 16 déc. 1957, D., 1958, jur., 435 ; JCP., 1958, II, 10607, concl.,
Hardy ; RTD civ., 1958, 388, chr., Henri Desbois ; etc.
248)Cf. Ernest Frank, Pourquoi refuser l action alimentaire à l enfant naturel ?, D., 1968, chr.,
pp.86 et s.
249)Rassat, supra note 243, nos93 et s., pp.435 et s. また、
Cf. Jean Paul Branlard, Le sexe et l état
des personnes : Aspects historique, sociologique et juridique, préf. François Terré,
Bibliothèque de droit privé, t.222, LGDJ., Paris, 1993, nos678 et s., pp.258 et s.

62

フランス法における家族のメンバーに対する民事責任⑵

関心に即していえば、生計費請求訴権は、父子関係の不存在から生ずる不利益
の一部、すなわち、扶養の欠如を金銭的に塡補するための民事責任訴権、ある
250)細部に違いはあるが、Gérard Cornu, La naissance et la grâce(à propos du projet de loi
sur la filiation), D., 1971, chr., no16, p.168 ; Id., Droit civil, La famille, 9ème éd., Montchrestien,
Paris, 2006, nos56 et s., pp.124 et s. ; Roger Nerson, La situation des enfants nés hors mariage,
Deuxième partie, RTD civ., 1975, nos40 et s., pp.639 et s. ; Jean Bosquet Denis, Réflexion sur
la distinction de《l alimentaire》et de《l indemnitaire》, JCP., 1981, I, 3010, nos11 et s., pp.5 et
s. ; Neirinck, supra note 135, no171, pp.158 et s. ; Joly, infra note 253, p.3 ; Haser et Huet
Weiller, supra note 183, no705, pp.470 et s. ; Henri et Léon Mazeaud, Jean Mazeaud, François
Chabas et Laurent Leveneur, Leçons de droit civil, t.1, vol.3, La famille : Mariage ─ Filiation ─
Autorité parentale ─ Divorce et séparation de corps, 7ème éd., Montchrestien, Paris, 1995,
no997 6, pp.413 et s. ; Claude Colombet, La famille, 6ème éd., PUF., Paris, 1999, no137, pp.205 et
s. ; Jean Carbonnier, Droit civil, vol. 1, Introduction, Les personnes et La famille, l enfant, le
couple, Quadrige, PUF., Paris, 2004, no645, p.1446 ; Zalewski, supra note 159, nos304 et s.,
pp.208 et s. ; Nadège Voidey, Le risque en droit civil, préf. Georges Wiederkehr, PUAM., Aix
en Provence, 2005, pp.236 et s. ; Lescure, supra note 225, no585, pp.346 et s. ; Ardeeff, supra
note 243, pp.40 et s. ; Granet Lambrechts, supra note 243, no9, pp.6 et s. ; Bourguignon, supra
note 225, no77, pp.104 et s. ; Le Tourneau, supra note 203, no2211 91, p.764 ; Malaurie et
Fulchiron, supra note 244, no1361, pp.627 et s. ; Terré, Goldie Genicon et Fenouillet, supra
note 211, no725, p.695 ; etc. また、この点を明確に説く裁判例として、Ex. CA. Paris, 27 sept.
1974, D., 1975, jur., 507, note, Jacques Massip ; Gaz. Pal., 1975, 1, jur., 285, note, Jean Viatte ;
etc.
251)CA. Paris, 6 mai 1977, D., 1978, jur., 145, note, Jacques Massip ; RTD civ., 1978, 347, chr.,
Roger Nerson(ただし、監督および教育上のフォートの不存在を理由に父の免責が認めら
れた事例); etc. この解決と民事責任法理の親和性を指摘するものとして、Cf. Catala de
Roton, supra note 243, no16, p.8 ; Hauser et Huet Weiller, supra note 183, no705, pp.470 et s. ;
etc.
252)Cass. 1re civ., 17 juill. 1979, no78 10.706 ; Bull, civ., I, no214 ; D., 1980, jur., 185, note,
Jacques Massip ; D., 1980, IR., 64, obs., Danièle Huet Weiller ; Defrénois, 1980, art. 32403,
1139, note, Jacques Massip(ただし、5人の被告のうち4人については父でないことの証
明がされ、結論的には1人に対してのみ生計費の支払が命じられた事例)のほか、TGI.
Angers, 9 avril 1974, D., 1975, jur., 71, note, Danièle Huet Weiller ; RTD civ., 1975, 98, chr.,
Roger Nerson ; CA. Reims, 30 juin 1983, D., 1986, IR., 64, obs., Danièle Huet Weiller ; etc. こ
の解決と民事責任法理の親和性を指摘するものとして、Cf. H. et L. Mazeaud, J. Mazeaud,
Chabas et Leveneur, supra note 250, no997 6, pp.413 et s.

63

論説(白石)

いは、父子関係が存在していれば得られたはずの財産的結果の一部を保護対象
とする損害賠償請求として定式化される 254)。
更に、生計費請求訴権との関連では、以下の 2 点を付言しておくことが有益
である。
まず、かつては、被告は母の性的放縦を証明することによって生計費の支払
を免れることができるとされていたが(1993 年 1 月 8 日の法律による改正前の
民法典旧 342 4 条)
、その後、1993 年 1 月 8 日の法律による改正で、この規律
が削除されたことである。これは、性的放縦の意味を厳格に解釈する裁判例の
傾向 255)を踏まえつつ、母の行為態様が子からの請求の可否に影響することの
問題性 256)を意識したものである。従って、この改正によって、子の利益と母
253)これに対して、民法典 342 条以下に基づき生計費を付与する旨の判決を創設的なものと
して位置付け、訴権行使前の期間に関する生計費の請求を認容した原審を破棄した判決は
(Cass. 1re civ., 19 mars 1985, no84 10.219 ; Bull. civ., I, no100 ; D., 1985, jur., 533, note, Jacques
Massip ; Defrénois, 1985, art. 33581, 1003, note, Jacques Massip ; JCP., 1986, II, 20665, obs.,
Andrè Joly)、民事責任の考え方とは整合的でない(Joly, supra, pp.3 et s.)。
254)この点を強調すれば、生計費請求訴権については、民事責任法理に仮託した形で限定
的に自然親子関係を成立させるための訴権として位置付けることもできる。Cf. Meerpoel,
supra note 243, no69, p.820.
255)民法典旧 342 4 条にいう性的放縦は同旧 340 1 条1項にいう明白な不品行よりも狭い概
念であり、母が自由奔放で多くの

の対象になっていたり、該当の期間にほかの男性と性

的関係を持っていたり、ポルノ映画に出演していたりしたというだけではこれに当たらな
いとされていた。Cass. 1re civ., 1er fév. 1977, no75 11.712 ; Bull. civ., I, no59 ; D., 1978, jur., 145,
note, Jacques Massip ; RTD civ., 1978, 350, chr., Roger Nerson ; Cass. 1re civ., 15 mars 1978,
no76 13.215 ; Bull. civ., I, no109 ; D., 1978, jur., 553, note, Jacques Massip ; Cass. 1re civ., 15 nov.
1978, no77 10.172 ; Bull. civ., I, no349 ; D., 1979, IR., 244, obs., Danièle Huet Weiller ; D., 1980,
jur., 185, note, Jacques Massip ; Defrénois, 1980, art. 32403, 1139, note, Jacques Massip(ただ
し、母と被告との間に親密な関係があったかどうかが確認されていないとして生計費請求
訴権を認容した原審を破棄した事例); Cass. 1re civ., 22 mai 1979, no78 11.251 ; Bull. civ., I,
no149 ; D., 1980, IR., 64, obs., Danièle Huet Weiller ; Cass. 1re civ., 20 déc. 1982, Defrénois,
1983, art. 33082, 773, note, Jacques Massip ; Cass. 1re civ., 8 oct. 1986, no85 11.493 ; Bull. civ., I,
no237 ; Gaz. Pal., 1987, 1, jur., 229, note, J. M. ; Cass. 1re civ., 15 mars 1988, no86 16.152 ; Gaz.
Pal., 1989, 1, jur., 374, note, J. M. ; Defrénois, 1988, art. 34309, 1012, note, Jacques Massip ;
etc. 下級審の裁判例として、TGI. Thonon les Bains, 1er juin 1973, D., 1974, jur., 104, note,

64

フランス法における家族のメンバーに対する民事責任⑵

のそれとの一体的な把握を前提としているかのような 257)生計費請求訴権に対
する外在的な制約が排除されたことになる。
次に、現在の実定法においては、被告が生計費の支払を免れる目的で子の父
でないことを証明するために(民法典 342 4 条)DNA 鑑定等が用いられるだ
けでなく 258)、原告が生計費の請求を基礎付ける目的で被告と母との間に親密
な関係が存在したことを証明するためにも DNA 鑑定等が用いられているこ
と 259)、しかも、後者の場面では、DNA 鑑定等はそれを実施しない正当な理由
がある場合を除き権利であるとされ、被告に正当な理由がなければ原告の請求
に基づき DNA 鑑定等が実施されていることである 260)。そして、こうした取扱
いは、原告が被告に対して父子関係の成立を求める場面でのそれ 261)と同じで
ある 262)。ここでは、被告と母との間に親密な関係が存在したことを証明する
ことにより、被告と子との間に親子関係が存在する可能性があることを明らか
にし、これによって生計費請求訴権を基礎付けるという本来の形が消え去り、

(前頁からつづき)
Jacques Massip ; CA. Paris, 6 mai 1977, supra note 251 ; TGI. Paris, 15 janv. 1979, D., 1979,
jur., 274, note, Gilbert Paire ; CA. Paris, 8 fév. 1979, D., 1980, jur., 185, note, Jacques Massip ;
Defrénois, 1980, art. 32403, 1139, note, Jacques Massip ; CA. Paris, 22 fév. 1979, D., 1980, jur.,
185, note, Jacques Massip ; Defrénois, 1980, art. 32403, 1139, note, Jacques Massip ; CA.
Reims, 30 juin 1983, supra note 252 ; etc. 性的放縦の存在を認めた裁判例として、CA. Agen,
7 janv. 1981, D., 1982, jur., 584, note, Jacques Massip(母が数分おきに繰り返し複数の男性
と性的関係を持ったことが性的放縦に該当するとされた事例); etc.
256)Cf. Neirinck, supra note 135, no177, pp.165 et s. ; Branlard, supra note 249, nos678 et s.,
pp.258 et s. ; etc.
257)Rassat, supra note 243, no92, pp.434 et s. は、子の利益と母のそれとの同一性および訴訟
数の削減の要請から、旧 342 4 条の規律に説明を付けることができないわけではないと説
く。
258)被告が子の父でないことを証明するために DNA 鑑定等が用いられた事例として、
Cass. 2ème civ., 21 fév. 1978, D., 1980, IR., 64, obs., Danièle Huet Weiller ; TGI. Paris, 18 avril
1989, D., 1989, som., 365, obs., Danièle Huet Weiller ; etc. ま た、Cf. Cass, 1re civ., 19 nov.
1991, no90 11.216 ; Bull. civ., I, no317 ; D., 1993, jur., 29, note, Jacques Massip(被告により要
請された DNA 鑑定等を命じなかった原審を破棄した事例); etc.

65

論説(白石)

DNA 鑑定等を通じて被告と子との間に親子関係があることを証明することに
より、被告と母との間に親密な関係が存在したことを明らかにし、これによっ
259)判例によれば、母と被告との間に親密な関係があったことの証明はすべての方法です
ることができ(Cass. 1re civ., 21 oct. 1980, no79 14.618 ; Bull. civ., I, no262 ; Gaz. Pal., 1981, 2,
jur., 475, note, Jacques Massip ; etc.)、そこには、DNA 鑑定等も含まれる(Cass. 1re civ., 9
mars 1983, no82 12.600 ; Bull. civ., I, no93 ; Gaz. Pal., 1983, 2, jur., 561, note, Jacques Massip ;
RTD civ., 1983, 728, chr., Roger Nerson et Jacqueline Rubellin Devichi ; Defrénois, 1983, art.
33133, 1163, note, Jacques Massip ; Cass. 1re civ., 14 fév. 1995, no93 13.369 ; Bull. civ., I, no81 ;
D., 1995, som., 224, chr., Frédérique Granet Lambrechts ; JCP., 1995, II, 22569, note,
Catherine Puigelier ; Defrénois, 1995, art. 36210, 1385, note, Jacques Massip ; D., 1996, jur.,
111, note, Jacques Massip ; Cass. 1re civ., 3 juill. 1996, no94 16.758 ; Defrénois, 1997, art.
36591, 724, note, Jacques Massip ; CA. Paris, 22 fév. 1991, JCP., 1991, II, 21777, obs., Solange
Mirabail ; etc.)。そして、被告が DNA 鑑定等を拒絶したことは、それだけでは上記の親密
な 関 係 の 存 在 を 明 ら か に す る 事 情 に は な ら な い が(Cass. 1re civ., 17 sept. 2003, no01
13.856)、その存在を推定させる事情にはなる(Cass 1re civ., 5 fév. 1991, no89 13.584 ; Bull.
civ., I, no48 ; D., 1991, jur., 456, note, Jacques Massip ; RTD civ., 1991, 509, chr., Danièle Huet
Weille ; Defrénois, 1991, art. 35047, 673, note, Jacques Massip ; CA. Agen, 15 fév. 2007, AJ
fam., juill. août, 2007, 323, obs., François Chénedé ; CA. Aix en Provence, 16 janv. 2008, Dr.
fam., avril 2009, com., 40, note, Anaïs Gabriel ; etc.)。
260)Cass. 1re civ., 14 juin 2005(2 arrêts), no03 12.641 et no04 13.901 ; Bull. civ., I, no253 et
no254 ; D., 2005, 1804 ; RTD civ., 2005, 768, chr., Jean Hauser(no03 12.641); Defrénois, 2005,
art. 38278, 1848, note, Jacques Massip ; Dr. fam., sept. 2005, com., 182, note, Pierre Murat ; D.,
2006, 1141, chr., Frédérique Granet Lambrechts ; Cass. 1re civ., 6 déc. 2005, no15 11.150 ; Bull.
civ., I, no478 ; D., 2006, 14 ; D., 2006, 1141, chr., Frédérique Granet Lambrechts ; RTD civ.,
2006, 98, chr., Jean Hauser ; Defrénois, 2006, art. 38415, 1065, note, Jacques Massip ; Cass. 1re
civ., 8 juill. 2009, n o08 18.223 ; Bull. civ., I, n o159 ; PA., 16 sept. 2009, 6, note, Marlène
Burgard ; AJ fam., oct. 2009, 402, obs., François Chénedé ; etc. また、これらに先立つ下級審
裁判例として、Ex. CA. Paris, 22 fév. 2001, JCP., 2001, II, 10558, note, Thierry Garé ; etc.
261)Cass. 1re civ., 28 mars 2000, no98 12.806 ; Bull. civ., I, no103 ; D., 2000, IR., 122 ; D., 2000,
jur., 731, note Thierry Garé ; JCP., 2000, I, 253, chr., Christian Byk ; JCP., 2000, II, 10409, obs.,
Marie Christine Monsallier Saint Mleux ; RTD civ., 2000, 304, chr., Jean Hauser ; Defrénois,
2000, art. 37194, 769, note, Jacques Massip ; PA., 5 sept. 2000, 8, note, Nathalie Nevejans
Bataille ; PA., 27 nov. 2000, 13, note, Corinne Daburon ; Dr. fam., juin 2000, com., 72, note,
Pierre Murat ; D., 2001, 976, obs., Frédérique Granet ; Cass. 1re civ., 30 mai 2000, no98 16.059 ;
Dr. fam., oct. 2000, com., 108, note, Pierre Murat ; D., 2001, 976, obs., Frédérique Granet ; etc.

66

フランス法における家族のメンバーに対する民事責任⑵

て生計費請求訴権を基礎付けるという論理の逆転が起きている 263)。かくして、
現状における生計費請求訴権は、父子関係を成立させるための訴権または父子
関係の存在に基礎を置く扶養訴権に接近しており 264)、父子関係が存在してい
れば得られたはずの財産的結果に相当する部分の一部ではなく、父子関係の存
在から生ずる権利や利益それ自体を直接的に保護の対象とするものになりつつ
ある 265)。
最後の 1 つは、母からの損害賠償請求を通じた子の扶養等の確保である。あ
る女性がある男性と婚姻外で親密な関係を持ち、子をもうけたが、その後、こ
の女性と当該男性との関係が解消されたときには、この女性は、当該男性に対
して、婚姻の約束があるケースでは男性側の詐害的誘惑または婚姻約束の解消

262)また、DNA 鑑定等の結果を根拠に生計費請求訴権を認容する判決が確定し、その後に
父子関係を成立させるための訴権および扶養等の支払を求める訴権が行使された場合、父
子関係の存在については、前訴で既に明らかにされているため、後訴で再度これを争うこ
とはできない。Cf. Cass. 1re civ., 4 janv. 1995, no93 10.870 ; Bull. civ., I, no7 ; Defrénois, 1995,
art. 36145, 1024, note, Jacques Massip.
263)Mirabail, supra note 259, p.5 ; Id., supra note 243, nos6 et s., pp.2 et s.
264)Gonon, supra note 243, pp.1477 et s. ; Berthet, supra note 230, nos143 et s., pp.87 et s. ;
Mirabail, supra note 243, no9, p.3 ; Alain Bénabent, Droit de la famille, 4ème éd., LGDJ., Paris,
2018, no695, pp.512 et s. ; etc.
265)こうした評価および注(244)で言及した問題が指摘される状況の下では、生計費請求
訴権の存在意義が問われ、その修正または廃止が提言されることになる。まず、DNA 鑑
定等により確実に親子関係の存在が証明され、いかなる場合においても子が親子関係を成
立させた上で扶養請求をすることに事実上の障害は存在しないとすれば、生計費請求訴権
の機能領域を親子関係の成立が法的に禁止されている場面(現状では、母になるはずであっ
た者と父になるはずであった者との間に一定の親族関係が存在する場面)に限定すること、
そして、男性が先に子を認知したときには、母子関係を成立させることができない状況が
生ずることも想定されることから、母になるはずであった者に対する関係でもこの訴権を
認 め る こ と が 考 え ら れ る(Mirabail, supra note 243, nos14 et s., pp.4 et s. の ほ か、Cf.
Gutmann, supra note 163, nos54 et s., pp.54 et s. ; Bourguignon, supra note 225, no78, p.106 et
no80, pp.108 et s.)。また、上記の場面での親子関係の成立を法的に肯定するという立法上
の態度決定をすれば、生計費請求訴権それ自体を廃止することも考えられる(Gutmann,
ibid. ; Mirabail, supra note 243, no17 et s., pp.5 et s.)。

67

論説(白石)

に際してのフォート等を理由に、そうでないケースでも男性側の詐害的誘惑ま
たは関係解消に際してのフォート等を理由に、損害賠償の支払を求めることが
できる 266)。その際、裁判例の中には、子の存在を考慮して、子の扶養や教育
等に係る負担を女性に付与される損害賠償の対象の中に含めるものがある 267)。
この解決は、かつては、第 2 で言及した特別の扶養訴権や生計費請求訴権が
266)これらの法理は、横の家族関係の不成立または解消との関連で損害賠償が請求される
場面の諸ケースの一部として、⑵ ②で扱われる。
267)Cass. civ., 21 juin 1933, Gaz. Pal., 1933, 2, jur., 539 ; RTD civ., 1933, 1174, chr., René
Demogue(詐害的誘惑を理由とする損害賠償の中に子の扶養や教育に要する費用相当額の
賠償を含めた事例); Cass. 1re civ., 7 juin 1963, Bull. civ., I, no292 ; D., 1964, jur., 621, note, Jean
Pradel ; RTD civ., 1964, 85, chr., Henri Desbois ; RTD civ., 1965, 137, chr., René Rodière(婚
姻約束の解消における男性のフォートを理由とする損害賠償の中に子が成年に達するまで
の毎月の扶養に相当する額の賠償を含めた事例); Cass. 1re civ., 20 juill. 1971, no70 13.317 ;
Bull. civ., I, no247 ; D., 1971, som., 218(婚姻約束の解消における男性のフォートを理由とす
る損害賠償の中に女性が子を1人で養育しなければならなくなったことの負担から生ずる
損害の賠償を含めた事例); Cass. 1re civ., 15 mai 1973, no71 12.339 ; Bull. civ., I, no167 ; D.,
1973, IR., 166 ; Gaz. Pal., 1973, 2, som., 179(同上。ただし、旧 342 条2項に基づく扶養定期
金の支払請求も認容された事例); Cass. 1re civ., 6 juill. 1976, no75 13.535 ; Bull. civ., I, no248
(コンキュビナージュの解消における男性のフォートを理由とする損害賠償の中に子の誕
生後に女性へ財産的な支援をしなかったことから生ずる損害の賠償を含めた事例); etc. ま
た、Cf. Cass. 1re civ., 30 nov. 1959, Gaz. Pal., 1960, 1, jur., 250 ; RTD civ., 1960, 463, chr., Henri
et Léon Mazeaud(子との関連における男性のフォートの基礎付け方に疑問は残るが、婚
姻約束の解消における男性のフォートを理由に子に対して付与される損害賠償の中に扶養
定期金に相当する額の賠償を含めた事例); etc.
 下級審の裁判例として、CA. Douai, 3 déc. 1853, S., 1854, 2, 193 ; D., 1855, 2, 132(女性と
の間で交わされた子の扶養や教育等に関する約束の違反を理由とする損害賠償が認容され
た事例); CA. Caen, 10 juin 1862, D., 1862, 2, 128(同上。上告審(Cass. civ., 26 juill 1864, D.,
1864, 1, 347 ; S., 1865, 1, 33, note, Em. Moreau)も同旨である); CA. Nancy, 12 nov. 1896, D.,
1896, 2, 520(同上); TC. Marseille, 6 avril 1927, Gaz. Pal., 1927. 2. jur., 226(フォートの基礎
付け方に疑問は残るが、婚姻外で性的な関係を持つという男性および女性の共通フォート
を理由とする損害賠償の中に子の扶養や教育に要する費用相当額の賠償を含めた事例);
TC. Poitiers, 5 nov. 1928, Gaz. Pal., 1929, 1, jur., 142(詐害的誘惑を理由とする損害賠償の中
に子の扶養や教育に要する費用相当額の賠償を含めた事例); TC. Dax, 7 fév. 1935, Gaz. Pal.,
1935, 1, jur., 666(フォートの基礎付け方に疑問は残るが、関係解消における男性のフォート

68

フランス法における家族のメンバーに対する民事責任⑵

存在しなかったという状況の下、とりわけ男性と子との間に親子関係を法的に
成立させることができなかった場面で 268)、母に対して子の扶養や養育等に要
する費用相当額を付与するための手段、従って、子に対して扶養や養育等を実
質的に確保するための手段として機能した 269)。また、この解決は、現在にお
いても、例えば、親子関係が成立しないことについて親になるはずであった者
に子との関係でのフォートを認めることができず、しかも、法定の要件を充足
しないため生計費請求訴権を用いることができない場面では、一定の意味を持

(前頁からつづき)
を理由とする損害賠償の中に子の扶養や教育に要する費用相当額の賠償を含めた事例);
TC. Clamecy, 17 déc. 1941, Gaz. Pal., 1942, 1, jur., 118(詐害的誘惑を理由とする損害賠償の
中に子の扶養や教育に要する費用相当額の賠償を含めた事例); TC. Privas, 28 fév. 1952,
supra note 231(フォートの基礎付け方に疑問は残るが、婚姻外で性的な関係を持つという
男性および女性の共通フォートを理由とする損害賠償の中に子の扶養や教育に要する費用
相当額の賠償を含めた事例。ただし、自然債務から民事債務への変容を理由とする扶養請
求 も 認 容 さ れ て い る ); CA. Paris, 12 mai 1977, Gaz. Pal., 1978, 2, jur., 370, note, Jacques
Massip(自己の子であることを知りながら扶養の支払を拒絶したことを理由とする損害賠
償の中に女性が子を1人で養育しなければならなくなったことの負担から生ずる損害の賠
償を含めた事例); etc. また、Cf. CA. Paris, 27 juill. 1920, RTD civ., 1921, 225, chr., Eugène
Gaudemet ; RTD civ., 1921, 730, chr., René Demogue(詐害的誘惑を理由とする損害賠償の
中に子の扶養や教育に要する費用相当額の賠償が含まれることを前提に、女性が後に別の
男性と結婚しこの男性が子を認知したとしても当該損害賠償請求の成否には影響がないと
された事例); TC. Bourg, 21 nov. 1933, Gaz. Pal., 1934, 1, jur., 284 ; RTD civ., 1934, 389, chr.,
Gaston Lagarde(子との関連における男性の責任の基礎付け方に疑問は残るが、「もっとも
明白な正義」を理由に子に対して付与される損害賠償の中に扶養定期金に相当する額の賠
償を含めた事例); CA. Amiens, 5 janv. 1949, JCP., 1950, II, 5254, obs., Jean Savatier(フォー
トの基礎付け方に疑問は残るが、単なる誘惑を理由とする損害賠償の中に子の扶養や教育
に要する費用相当額の賠償が含まれることを前提に、女性が後に別の男性と結婚しこの男
性が子を認知したとしても当該損害賠償請求の成否には影響がないとされた事例); etc. 更
に、賠償の対象となった損害の中身は明確にされていないものの、300 万フランという認
容額からみて子の扶養や教育に要する費用相当額が損害賠償の対象に含まれていると考え
ら れ る も の と し て、CA. Paris, 4 janv. 1952, D., 1952, jur., 112, note, G. H. ; S., 1952, 2, 85,
note, Henri Mazeaud ; JCP., 1952, II, 6842, obs., Paul Esmain ; Gaz. Pal., 1952, 1, jur., 167 ;
RTD civ., 1952, 214, chr., Henri et Léon Mazeaud.

69

論説(白石)

ちうる。実定法は、子になるはずであった者に対して、子の身分や地位に由来
する権利や利益それ自体ではないものの、親子関係が存在していれば得られた
はずの財産的結果に相当する部分の一部を、母からの損害賠償請求という間接
的な手段によって与えている。
結局、これら 3 つの訴権は、いずれも、親子関係の存在に由来する権利義務
の一部またはそれに相当する財産的な結果を、約束や義務、法定の責任制度、
または、ほかの者からの損害賠償という回路を用いて、実質的に担保するもの
として位置付けられる。
以上のとおり、実定法は、縦の家族関係の解消または不成立との関連で損害
賠償が請求される場面では、濃淡はあるものの、可能な限り、身分や地位それ
自体、または、そこから生ずる、もしくは、生ずるはずであった権利義務関係
の保護を図り、それが不可能であるときには、様々な法的構成に仮託させるこ
とで、身分や地位等が存在する場合と等しい財産的な結果を導こうとする傾向
にある。

268)この場面で子の扶養や教育等に係る負担に相当する額を女性に付与される損害賠償の
中に含めると、実質的に父子関係の成立を認めたのと同じ結果になるとの理由から、この
解決を否定する裁判例として、Ex. TC. Chartres, 6 juin 1945, Gaz. Pal., 1945, 2, jur., 130 ;
RTD civ., 1945, 267, chr., Henri et Léon Mazeaud ; etc. この裁判例は、上記の解決によると
一定の場合に親子関係を法的に成立させないという立法上の態度決定が実質的に潜脱され
ることになってしまうという学説からの批判(Henri Mazeaud, L 《absorption》des règles
juridiques par le principe de responsabilité civile, DH., 1935, chr., p.7 の批判が有名である。
これに先立つものとして、Théophile Huc, Commentaire théorique et pratique de code civil,
t.2, art. 144 à 311, Librairie Cotillon, Paris, 1892, no8, pp.16 et s. ; Francis Félix Dubois, Les
fiançailles et promesses de mariage en droit français, th. Rennes, 1897, pp.160 et s. ; etc. また、
Cf. Savatier, supra note 267, p.2 ; Rodière, supra note 267, p.138 ; etc.)を踏まえたものであっ
た。なお、初期の裁判例で同旨を説くものとして、Ex. CA. Caen, 24 avril 1850, D., 1855, 2,
177.
269)Pradel, supra note 267, pp.621 et s. ; Desbois, supra note 267, pp.85 et s. ; Pons, supra note
17, nos79 et s., pp.73 et s. ; etc.

70

フランス法における家族のメンバーに対する民事責任⑵

⑵ 横の家族関係で家族的な権利または利益の侵害および義務の違反が問題と
なる場面
① 横の家族関係の内容との関連で損害賠償が請求される場面
カップルの一方が、共同生活を一方的に停止したり、性的な関係を持つこと
を拒んだり、ほかの者と親密な関係を持ったりする等した場合、他方は、この
一方に対して、損害賠償の支払を求めることができるか。以下では、カップル
の関係が夫婦である場合、パクスである場合、そして、コンキュビナージュで
ある場合に分けて、これらの問題についての実定法の展開過程および現状を分
析する。
第 1 に、カップルの関係が夫婦である場合について、夫婦の一方が、夫婦関
係から生ずる人格的な内容を持つ義務、例えば、尊重義務(民法典 212 条)、
貞操義務(同条)
、生活共同義務(同 215 条)等に違反した場合 270)、他方は、
義務に違反した者の人格や自由への配慮の必要性という理由により、これらの
義務につき履行の強制を求めることはできないが 271)、その違反により損害が
発生しているときには、不法行為の一般原則(同 1240 条(同旧 1382 条)
、同
1241 条(同旧 1383 条)
)に基づき、損害賠償の支払を求めることができる 272)。
このことは、以下で引用する裁判例の豊富さが示しているとおり、古くからほ
ぼ一貫して承認されてきた。一部には、夫婦の一方による人格的義務の違反を
契機として他方が財産的な利益を得ることは不道徳であること 273)、仮にそう
でなくても、夫婦の人格的義務の違反を理由とする損害賠償請求は復讐心に動
機付けられているにすぎないこと 274)、夫婦の人格的義務の違反については別
270)財産的な性格を持つ義務、例えば、婚姻費用分担義務等では、その違反に対して履行
の強制を求めることが可能であるため(民法典 214 条を参照)、その義務に違反した者に害
意や濫用的な拒絶等が存在しない限り(Ex. CA. Paris, 30 nov. 1988, D., 1989, IR., 15(夫が
妻に対して婚姻費用分担訴権の提起を余儀なくさせたことを理由とする不法行為の成立を
肯定した事例); etc.)、不法行為による損害賠償請求が問題になることはない。
271)ただし、初期の裁判例の中には、(妻に対する)婚姻義務の履行の強制を肯定するもの
もあった。Ex. CA. Nîme, 10 juin 1862, D., 1863, 2, 193(同居義務); CA. Pau, 11 mars 1863, D.,
1863, 2, 193(同居義務); etc.

71

論説(白石)

居や離婚といったサンクションの手段が用意されているため、それとは別に不
法行為の一般原則に基づき損害賠償を認めることはできないこと 275)、こうし
た形での損害賠償請求を認めると夫婦間または元夫婦間に決定的な亀裂が生じ
てしまうこと 276)等を挙げて、人格的義務の違反を理由とする損害賠償請求を
認めない裁判例もないわけではなかったが、ごく少数に止まっている 277)。こ
うした状況は、学理的な議論でも同様である 278)。
離婚が禁止されていた時代、または、離婚がほとんど認められていなかった
時代においては、
夫婦の一方による人格的義務の違反があった場合、他方にとっ
ては、不法行為による損害賠償請求がほぼ唯一の救済となっていた 279)。その
ため、夫婦の人格的義務の違反を理由とする損害賠償請求は、夫婦関係の存続
中にそこから生ずる個別的な権利や利益を保護するための手段として機能し
272)この問題については、Cf. Didier Guiton, Les dommages intérêts en réparation d un préjudice
résultant d un fait antérieur au divorce, D., 1980, chr., pp.247 et s. ; Karine Ducrocq Paywels,
Responsabilité civile et rupture du couple, th. Lille 2, 2013 ; Élodie Mulon, Dommages
intérêts en matière de divorce : pour une suppression de l article 266 du Code civil, Gaz. Pal.,
2014, pp.99 et s. ; Jérôme Casey, Ar ticles 1382 et 266 du Code civil. ─ Analyse de
jurisprudence et synthèse, Dr. fam., juill. 2015, dossier 34 ; Guillaume Kessler, Les dommages
et intérêts dans le divorce : panorama de jurisprudence, Dr. fam., juill. 2015, dossier 35 ; Laura
Pizarro, Le traitement juridique de la rupture du couple : Réflexion sur l émergence d un droit
commun de la couple, préf. Isabelle Barrière Brousse, Collection de Thèses, t.59, Defrénois,
Paris, 2017 ; etc.
273)CA. Pau, 11 mars 1863, supra note 271 ; TGI. Brest, 9 juill. 1974, D., 1975, jur., 418, note,
Jacques Prévault(夫が離婚請求を棄却された後に妻の同居拒絶を理由に損害賠償を請求し
た事案)
274)TGI. Brest, 9 juill. 1974, supra note 273.
275)CA. Paris, 27 juin 1963, JCP., 1963, II, 13360, obs., R. B. ; D., 1964, jur., 112, note, André
Ponsard ; S., 1964, 187, note, D. M. ; RTD civ., 1964, 79, chr., Henri Desbois(Cass. 1re civ., 9
nov. 1965, infra note 287 の原審); TGI. Brest, 9 juill. 1974, supra note 273.
276)CA. Pau, 11 mars 1863, supra note 271 ; TGI. Brest, 9 juill. 1974, supra note 273.
277)CA. Paris, 27 juin 1963, supra note 275 ; TGI. Brest, 9 juill. 1974, supra note 273 のほか、
TC. Châlons sur Marne, 14 avril 1905, S., 1906, 2, 52 ; RTD civ., 1906, 402, René Demogue
(妻
の同居義務は損害賠償に解消されるものではないことが理由として挙げられている); etc.

72

フランス法における家族のメンバーに対する民事責任⑵

た 280)。ところが、離婚が広く認められるようになると、夫婦の一方による人
格的義務の違反があった場合に、その者の配偶者が夫婦関係の継続を望みつつ
不法行為の一般原則に基づき損害賠償を請求するという事例は、ほとんど想定
されなくなる 281)。当事者がともに夫婦関係の継続を欲しているときには、両
者の間で協議に基づく処理がされたり、被害者による宥恕があったりするはず
であるし、仮にこれらが存在しなかったとしても、被害者が夫婦関係を継続さ
せることの妨げになることを危惧して 282)損害賠償請求を回避するはずだから

278)人格的義務の違反を理由とする夫婦間の損害賠償請求を否定する見解(Ex. François
Laurent, Principes de droit civil français, t.3, Bruylant Christophe et Cie, Bruxelles et
Librairie A. Durand & Pedone Lauriel, Paris, 1870, no92, p.123. 愛情関係と金銭による強制と
が 両 立 し な い こ と を 根 拠 と す る )や、 限 定 的 な 場 面 で の み こ れ を 肯 定 す る 見 解(Ex.
Catherine Philippe, Le devoir de secours et d assistance entre époux : Essai sur l entraide
conjugale, préf. Georges Wiederkehr, Bibliothèque de droit privé, t.170, LGDJ., Paris, 1981,
pp.284 et s. 要件としてフォートの重大性および損害の深刻性を要求することで適用領域を
限定すべきことが主張されている)がないわけではなかったが、ごく少数に止まっている。
279)この時代の裁判例として、Cass. req., 26 juin 1878, D., 1879, 1, 80(妻の同居義務違反を
理由とする夫からの損害賠償請求); CA. Nîme, 20 fév. 1862, D., 1863, 2, 193
(同上。同判決は、
夫からの損害賠償請求が認められないとすれば、妻は罰せられることなく義務に違反する
ことができてしまうと判示する); TC. Castel Sarrazin, 8 avril 1864, D., 1864, 3, 46 ; S., 1864,
2, 82, note, Latailhède(CA. Toulouse, 29 juin 1864, infra の原審); CA. Toulouse, 29 juin 1864,
D., 1864, 2, 174 ; S., 1864, 2, 155( 同 上 ); CA. Besançon, 10 juill. 1866, D., 1866, 2, 135 ; S.,
1867, 2, 5(同上。ただし、同判決は、別居裁判の中で主張すべき事柄であるとして夫から
の請求を棄却する); etc. また、Cf. Cass. civ., 5 fév. 1873, D., 1873, 1, 209 ; S., 1873, 1, 289,
note, Joseph Émile Labbé(妻が夫に対して不貞行為を理由に損害賠償を支払う義務を負う
ことを前提に、夫が妻の不貞行為の相手方との和解に基づき受け取った金銭は夫婦の共通
財産を構成しないとされた事例); etc.
280)Cf. Pons, supra note 17, nos258 et s., pp.156 et s. ; etc.
281)挙げられている理由は様々であるが、Cf. François Givord, La réparation du préjudice
moral, Dalloz, Paris, 1938, no37, pp.63 et s. ; René Verdot, La cohabitation, D., 1964, chr., no12,
p.124 ; Frédérique Niboyet, L ordre public matrimonial, préf. Janine Revel, Bibliothèque de
droit privé, t.494, LGDJ., Paris, 2008, no537, p.236 ; Ruffieux, supra note 133, no55, pp.62 et s. ;
Stéphanie Moracchini Zeidenberg, La contractualisation du droit de la famille, RTD civ., 2016,
no18, p.783 ; Fenouillet, supra note 17, no19, p.6 ; etc.

73

論説(白石)

である 283)。従って、現在では、夫婦の人格的義務の違反を理由とする損害賠
償請求は 284)、通常、離婚請求と同時に行われ 285)、場合によって、離婚後
に 286)、または、事実上の別居状態の中で離婚に向けた手続が開始されている
時や、離婚の成立要件が充足されていないため夫婦関係は継続中であるが実質

282)これに対して、Ducrocq Paywels, supra note 272 は、夫婦間における不法行為に基づく
損害賠償請求を認めることが関係の修復にとって有用であるかどうかには疑問が残るもの
の、請求の意図等につき裁判官の審査に委ねることにより適切な解決を導くことは可能で
あり(nos299 et s., pp.191 et s.)、これを認めても離婚の平和化という立法の一般的な動向
に反するわけではないと説く(nos683 et s., pp.458 et s.)。
283)婚姻継続中であっても人格的義務の違反を理由とする夫婦の一方からの損害賠償請求
を認めるべき理由として、これを否定すると、違反された側は、離婚をしなければ損害賠
償を請求することができなくなるため、婚姻の継続を欲しているとしても、損害賠償を請
求するために離婚へと促されることになってしまうという点が挙げられることもあるが
(Jean Maur y, La séparation de fait entre époux, RTD civ., 1965, no9, pp.520 et s. ; Yves
Char tier, Domicile conjugal et vie familiale, R TD civ., 1971, no40, pp.545 et s. ; Id., La
réparation du préjudice, Dalloz, Paris, 1983, no269, p.336 ; Thomas, supra note 16, p.302 ;
etc.)、本文の理解によると、この説明は説得的でない。
284)夫婦関係の終局的な変質による離婚または一方的有責離婚のケースでは、前者の被告
または後者の原告に、婚姻の解消により被った極めて重大な結果の賠償が認められるが(民
法典 266 条1項)、この請求は離婚訴権と同時にしかすることができない(同条2項)。こ
れに対して、不法行為の一般原則に基づく損害賠償請求には、このような訴権の行使時期
に関する制約はない。
285)比較的最近の判例で、損害賠償請求の基礎となる事実が明確に示され、それに基づき
請求が認容されているものに限定しても、Cass. 1re civ., 22 mars 2005, no04 11.942 ; Bull.
civ., I, no143 ; D., 2005, 1053 ; RTD civ., 2005, 375, chr., Jean Hauser ; D., 2006, 343, chr.,
Guillaume Serra(夫の貞操義務違反および侮辱を理由とする妻からの損害賠償請求);
Cass. 1re civ., 3 janv. 2006, no04 18.767(夫の貞操義務違反を理由とする妻からの損害賠償請
求); Cass. 1re civ., 14 fév. 2006, supra note 12(夫の暴行および貞操義務違反を理由とする妻
からの損害賠償請求); Cass. 1re civ., 25 avril 2006, no05 16.062 ; D., 2007, 616, chr., Guillaume
Serra(夫の貞操義務違反および同居義務違反を理由とする妻からの損害賠償請求); Cass.
1re civ., 19 nov. 2008, no08 10.251 ; Gaz. Pal., 2009, 2106, note, Amandine Cléret ; PA., 5 fév.
2009, 16, note, Marlène Bulgard(夫の貞操義務違反、暴行、アルコール依存を理由とする
妻からの損害賠償請求); Cass. 1re civ., 11 fév. 2009, supra note 12(妻の貞操義務違反等を理
由とする夫からの損害賠償請求); etc.

74

フランス法における家族のメンバーに対する民事責任⑵

的には破綻している状況の下で 287)行われる 288)。もちろん、このことは、夫婦
関係の継続中には人格的義務の違反を理由とする損害賠償が事実上ほとんど請
求されないことを示しているだけであり、それが法的な形で制約されているこ
とを意味するものではない。このように、夫婦の人格的義務の違反を理由とす

(前頁からつづき)
 下級審の裁判例として、CA. Paris, 21 fév. 2002, RTD civ., 2002, 278, chr., Jean Hauser(妻
の貞操義務違反および同居義務違反を理由とする夫からの損害賠償請求); CA. Paris, 3 fév.
2005, Dr. fam., juill. 2005, com., 167, note, Virginie Larribau Terneyre ; D., 2006, 343, chr.,
Guillaume Serra
(夫の貞操義務違反および同居義務違反を理由とする妻からの損害賠償請求);
CA. Montpellier, 14 mai 2008, Dr. fam., oct. 2008, com. 141, note, Virginie Larribau Terneyre
(夫の貞操義務違反を理由とする妻からの損害賠償請求); CA. Paris, 25 mars 2010, Dr. fam.,
déc. 2010, com., 182, note, Virginie Larribau Terneyre(妻の貞操義務違反を理由とする夫か
らの損害賠償請求); CA. Aix en Provence, 3 mai 2011, JCP., 2011, 1156, obs., Laura Pizarro ;
Gaz. Pal., 2011, 3392, note, Emmanuèle Pierroux ; RTD civ., 2012, 297, chr., Jean Hauser(夫
による性的な関係を持つことについての拒絶を理由とする妻からの損害賠償請求); CA.
Angers, 23 mai 2011, Dr. fam., nov. 2011, com., 165, note, Virginie Larribau Terneyre(妻の
尊重義務違反を理由とする夫からの損害賠償請求); CA. Lyon, 23 mai 2011, Dr. fam., nov.
2011, com., 165, note, Virginie Larribau Terneyre(妻の生活共同義務および尊重義務違反
を理由とする夫からの損害賠償請求); CA. Aix en Provence, 27 nov. 2012, JCP., 2013, 122,
obs., Laura Pizarro(夫の貞操義務違反、暴行、娘への強制性交を理由とする妻からの損害
賠償請求); CA. Paris, 10 avril 2013, Dr. fam., sept. 2013, com., 116, note, Jean René Binet(夫
の貞操義務違反を理由とする妻からの損害賠償請求); CA. Bourges, 13 fév. 2014, Dr. fam.,
avril 2014, com., 56, note, Jean René Binet(妻の貞操義務違反を理由とする夫からの損害賠
償請求); CA. Bordeaux, 9 sept. 2014, Dr. fam., nov. 2014, com., 157, note, Jean René Binet(夫
の貞操義務違反を理由とする妻からの損害賠償請求。ただし、離婚については否定例);
CA. Aix en Provence, 20 janv. 2015, supra note 15(夫の貞操義務違反、暴行、娘への強制
性交等を理由とする妻からの損害賠償請求); CA. Rouen, 22 oct. 2015, Dr. fam., fév. 2016,
com., 21, note, Anne Claire Réglier(妻の貞操義務違反を理由とする夫からの損害賠償請
求); CA. Basse Terre, 18 mai 2015, JCP., 2015, 2059, obs., Valérie Doumeng(夫の貞操義務
違反を理由とする妻からの損害賠償請求); CA. Riom, 3 nov. 2015, Dr. fam., fév. 2016, com.,
22, note, Anne Claire Réglier(同上); CA. Paris, 3 mars 2016, Dr. fam., juin 2016, com., 121,
note, Anne Claire Réglier(同上); CA. Versailles, 23 juin 2016, Dr. fam., oct. 2016, com., 195,
note, Anne Marie Caro(同上); CA. Riom., 27 mars 2018, Dr. fam., juill. 2018, com., 176, note,
Julie Colliot(夫の尊重義務違反を理由とする妻からの損害賠償請求); etc.

75

論説(白石)

る損害賠償請求は、現状では、主として、夫婦関係の解消後にそこから生ずる
個別的な権利や利益を回顧的に保護するための手段として機能しうる 289、290)。

286)TC. Nice, 27 mars 1922, Gaz. Pal., 1922, 2, jur., 281 ; RTD civ., 1923, 143, chr., René
Demogue(妻の一方的有責離婚が成立した後の元夫からの損害賠償請求); CA. Angers, 23
déc. 1931, Gaz. Pal., 1932, 1, jur., 347(夫の一方的有責離婚が成立した後の元妻からの損害
賠償請求。否定例); CA. Bordeaux, 4 fév. 1999, RTD civ., 2000, 554, chr., Jean Hauser(夫婦
間で別居が成立し、妻による損害賠償が認容され、夫婦間で離婚が成立した後に、この元妻
による別の損害の賠償が認容された事例); CA. Versailles, 10 sept. 2015, JCP., 2015, 1259, obs.,
Guillaume Kessler(夫の貞操義務違反を理由とする元妻からの損害賠償請求。否定例); etc.
287)Cass 1re civ., 9 nov. 1965, no63 13.236 ; Bull. civ., I, no597 ; JCP., 1965, II, 14462 ; Gaz. Pal.,
1965, 2, jur., 14 ; D., 1966, jur., 80, note, Jean Mazeaud ; RTD civ., 1966, 288, chr., René
Rodière ; RTD civ., 1966, 514, chr., Roger Nerson(夫が2度にわたり別居請求をしたが、い
ずれも棄却された後に、妻が離婚または別居を求めることなく夫による同居拒絶等を理由
に損害賠償を請求した事案); TGI. Brest, 9 juill. 1974, supra note 273(否定例); CA. Aix en
Provence, 22 juin 1978, D., 1979, jur., 192, note, Jacques Prévault(夫が離婚請求をしたが棄
却された後にコンキュビーヌと生活を開始したことを受けて、妻が離婚または別居を求め
ることなく同居拒絶および貞操義務違反等を理由に損害賠償を請求した事案); etc. なお、
Cf. TGI. Toulouse, 6 janv. 1977, D., 1978, IR, 39, obs., Alain Bénabent(妻が婚姻中に夫の貞
操義務違反を理由に損害賠償を得ていたことは離婚に際して婚姻の解消から生じた損害の
賠償を請求することの妨げにならないとされた事例); Cass. 2ème civ., 14 nov. 2002, no01
03.217 ; Bull. civ., II, no256 ; RTD civ., 2003, 66, chr., Jean Hauser ; Defrénois, 2003, art. 37727,
615, note, Jacques Massip(妻の一方的有責離婚を命じた原審について、妻がそれ以前に損
害賠償の支払を命じられていることを理由に上告したが、これが棄却された事例); etc. ま
た、夫の姦通罪を規定していた刑法典旧 339 条または妻の姦通罪を規定していた同旧 338
条の適用との関連が問題となった判決であるが、Cf. CA. Agen, 18 juill. 1902, D., 1903, 2, 344
(夫が不貞行為を理由に妻とその相手方に対して損害賠償を請求した事案); T. de corr.
Seine, 14 mars 1944, Gaz. Pal., 1944, 2, jur., 69(妻が不貞行為を理由に夫とその相手方に対
して損害賠償を請求した事案); T. de corr. Toulouse, 6 nov. 1951, D., 1952, jur., 300(夫が不
貞行為を理由に妻とその相手方に対して損害賠償を請求した事案); Cass. crim., 17 oct.
1956, Gaz. Pal., 1956, 2, jur., 387 ; D., 1957, jur., 245, note, André Breton ; RTD civ., 1957, 125,
chr., Henri et Léon Mazeaud ; RTD civ., 1957, 308. chr., Henri Desbois(妻が不貞行為を理由
に夫とその相手方に対して損害賠償を請求した事案。ただし、損害の不存在を理由に請求
は棄却された事例); Cass. crim., 4 juill. 1963, no63 90.827 ; Bull. crim., no241(妻が不貞行為
を理由に夫に対して損害賠償を請求した事案); Cass. crim., 22 fév. 1966, no65 90.164 ; Bull.
crim., no59(妻が不貞行為を理由に夫とその相手方に対して損害賠償を請求した事案); etc.

76

フランス法における家族のメンバーに対する民事責任⑵

なお、離婚が認められる 4 つのケース(相互の同意による離婚、婚姻解消の
原則の承諾による離婚、夫婦関係の終局的な変質による離婚、フォートに基づ
く離婚。民法典 229 条を参照)のうち、夫婦関係の終局的な変質による離婚ま
たは一方的有責離婚のケースでは、前者の被告または後者の原告に、婚姻の解
消により被った極めて重大な結果の賠償が認められる(同 266 条)291)。しかし、
この損害賠償は、婚姻の解消から生ずる損害だけを対象とし、それ以外の損害
をカバーするものではない 292)。また、相互の同意による離婚および婚姻解消

288)Cf. Jourdain, supra note 9, nos24 et s., pp.8 et s. ; Malaurie et Fulchiron, supra note 244,
no1488, pp.698 et s. ; etc.
289)問題関心は異なるが、Cf. Pons, supra note 17, nos267 et s., pp.161 et s. ; Ruffieux, supra
note 133, nos79 et s., pp.83 et s. ; Ducrocq Paywels, supra note 272, nos299 et s., pp.191 et s. ;
etc.
290)Jean Garrigue, Les devoirs conjugaux : Réflexion sur la consistance du lien matrimonial,
préf. Laurent Leveneur, Editions Panthéon Assas, Paris, 2012, no528, pp.452 et s. は、離婚に
おけるフォートの役割を低下させるという 2004 年5月 26 日の法律による改正の精神を守
ること、有責離婚を宣告された者にも補償給付は支払われうるところこの者に対して過剰
な損害賠償を義務付けると補償給付の実質が奪われてしまうこと等を理由に、近時の裁判
例では損害賠償の額を小さくする傾向がみられるとして、その実効性に疑問を呈する。し
かし、仮にこうした傾向がみられるとしても、以下の本文での分析を踏まえるならば、そ
のことは、損害賠償請求の実効性の欠如を示すものというよりも、人格的義務の強度の低
下や想定されている損害賠償請求の保護対象の変化に規定されたものと考えるべきである。
291)2004 年5月 26 日の法律(同法については、Cf. Jean Jacques Lemouland, La loi du 26
mai 2004 relative au divorce, D., 2004, pp.1825 et s. ; Florence Bellivier, Divorce. Loi no2004
439 du 26 mai 2004 relative au divorce(JO 27 mai 2004, p.9319), RTD civ., 2004, pp.565 et s. ;
Hugues Fulchiron, Les métamorphoses des cas de divorce(à propos de la réforme du 26 mai
2004), Defrénois, 2004, art. 37999, pp.1103 et s. ; Virginie Larribau Terneyre, La réforme du
divorce atteindra t elle ses objectifs ? ─ Première partie : Variations sur les intentions du
législateur, Dr. fam., juin 2004, étude 13, ─ Deuxième partie : Les moyens du changement,
Dr. fam., juill. 2004, étude 16, ─ Troisième partie : Les risques d immobilisme, Dr. fam., sept.
2004, étude 19 ; etc.)による改正前においては、一方的有責離婚のケースに限り、その原
告に婚姻の解消から生ずる財産的および精神的損害の賠償が認められていた(同法による
改正前の民法典旧 266 条。1975 年7月 11 日の法律による改正前の同旧 301 条2項も同旨で
ある)。この点も含め、民法典 266 条については、② 一で扱われる。

77

論説(白石)

の原則の承諾による離婚のケース、ならびに、フォートに基づく離婚のケース
であっても双方的有責離婚の場合には、民法典 266 条の適用がない 293)。その
292)ただし、実定法において、民法典 266 条で賠償の対象とされる婚姻の解消から生ずる損
害と同 1240 条で賠償の対象とされるそれ以外の損害との区別は、必ずしも明確でない。夫
婦の人格的義務の違反により生じた損害についてみると、裁判例の多くはこれを後者の中
に含めているが(既に引用し、これから引用する様々な裁判例のほか、Cf. Cass. 2ème civ.,
21 juin 1967, no66 12.700 ; Bull. civ., II, no229(夫の不貞行為を理由とする妻からの民法典旧
301 条2項に基づく損害賠償請求を肯定した原審について、救護権の喪失とは区別される
損害の存在が明らかにされていないとして破棄した事例); Cass. 2ème civ., 28 sept. 2000,
no98 22.952 ; Dr. fam., janv. 2001, com., 5, note, Hervé Lécuyer(夫の不貞行為を理由とする
妻からの同 266 条に基づく損害賠償請求を肯定した原審について、本件損害は婚姻の解消
から生じたものではないとして破棄した事例); Cass. 2ème civ., 11 avril 2002, no00 13.417 ;
Dr. fam., oct. 2002, com., 114, note, Hervé Lécuyer(夫による受入権行使の妨害を理由とす
る妻からの同 266 条に基づく損害賠償請求を肯定した原審について、婚姻の解消から生ず
る損害の存在が明らかにされていないとして破棄した事例); Cass. 1re civ., 25 janv. 2005,
no02 16.255 ; Dr. fam., mai 2005, com., 104, note, Virginie Larribau Terneyre ; D., 2006, 343,
chr., Guillaume Serra(妻の不貞行為を理由とする夫からの同 266 条に基づく損害賠償請求
を肯定した原審について、本件損害は婚姻の解消から生じたものではないとして破棄した
事例); Cass. 2ème civ., 14 oct. 2009, no08 20.037(夫の暴力および不貞行為を理由とする妻か
らの同 266 条に基づく損害賠償請求を肯定した原審について、婚姻の解消から生ずる損害
の存在が明らかにされていないとして破棄した事例); etc. また、Cass. 1re civ., 14 déc. 2004,
no02 20.652 ; Bull. civ., I, no321 ; RTD civ., 2005, 113, chr., Jean Hauser(夫の継続的な暴力を
理由とする妻からの同 266 条に基づく損害賠償請求を肯定した原審について、婚姻の解消
から生ずる損害の存在が明らかにされていないとして破棄した事例); etc.)、一部の裁判例
は、婚姻の解消から生ずる損害として捉えることができないにもかかわらず、これを前者
の中に包含させてしまっている(Cass. 2ème civ., 16 déc. 1963, Bull. civ., II, no826 ; D., 1964,
jur., 227 ; JCP., 1964, II, 13660, obs., J. A ; RTD civ., 1964, 533, chr., Henri Desbois(夫による
性的な関係を持つことについての拒絶を理由とする妻からの同旧 301 条2項に基づく損害
賠償請求の肯定例); Cass. 2ème civ., 4 janv. 1964, no62 13.043 ; Bull. civ., II, no13(夫の不行跡
を理由とする妻からの同旧 301 条2項に基づく損害賠償請求の肯定例); Cass. 2ème civ., 11
juill. 1966, no65 13.602 ; Bull. civ., II, no764(夫の不貞行為を理由とする妻からの同旧 301 条
2項に基づく損害賠償請求の肯定例); Cass. 2ème civ., 4 juin 1970, no69 12.775 ; Bull. civ., II,
no198 ; D., 1970, som., 206( 同 上 ); Cass. 2ème civ., 31 mars 1978, no77 11.231 ; Bull. civ., II,
no92(妻の不行跡を理由とする夫からの同旧 301 条2項に基づく損害賠償請求の肯定例);
Cass. 2ème civ., 26 oct. 1978, D., 1980, IR., 75, obs., Alain Bénabent(夫の不貞行為および同居

78

フランス法における家族のメンバーに対する民事責任⑵

ため、一部の例外的な裁判例を除き 294)、実定法は、同 266 条に基づく損害賠
償とは別に、どのような理由による離婚のケースであるかを問わず 295)、また、
離婚について(元)夫婦の双方に有責性が存在するとき、つまり、損害賠償請
求の原告にも離婚についての有責性が存在するときであっても 296)、同 1240 条
に基づく損害賠償の可能性を認め、後者の中で、夫婦の人格的義務の違反から
生ずる損害を賠償の対象としてきた 297、298、299)。そして、婚姻の解消から生ずる
損害は同 266 条によってカバーされるため、同 1240 条に基づく損害賠償が認
められるためには、同 266 条で賠償の対象とされる損害とは別の損害、つまり、
婚姻の解消から生ずる損害とは別の損害が存在していなければならない 300)。
(前頁からつづき)
拒絶を理由とする妻からの同旧 301 条2項に基づく損害賠償請求の肯定例); Cass. 2ème civ.,
5 juin 1984, no83 11.861 ; Bull. civ., II, no106(夫が若い女性と暮らすために夫婦の住居を離
れたことを理由とする妻からの同 266 条に基づく損害賠償請求の肯定例); Cass. 2ème civ., 7
fév. 1990, no88 19.923(夫の暴力、不貞行為、同居拒絶を理由とする妻からの同 266 条に基
づ く 損 害 賠 償 請 求 の 肯 定 例 ); CA. Paris, 13 janv. 1998, Méd. et dr., 1999, vol.38, 8, chr.,
Véronique Barabé(夫が妻の入院中に愛人を夫婦の住居に住まわせたことを理由とする妻
からの同 266 条に基づく損害賠償請求の肯定例); CA. Nancy, 27 avril 1998, Méd. et dr., 1999,
vol.38, 8, chr., Véronique Barabé(妻の同居義務違反を理由とする夫からの同 266 条に基づ
く損害賠償請求の肯定例); etc. また、CA. Paris, 14 janv. 2009, Dr. fam., mai 2009, com., 54,
note, Virginie Larribau Terneyre(夫の暴力を理由とする妻からの同 266 条に基づく損害賠
償 請 求 の 肯 定 例 ); Cass. 1re civ., 5 janv. 2012, no10 21.838 ; RTD civ., 2012, 105, chr., Jean
Hauser(妻からの同 266 条に基づく損害賠償請求を棄却した原審について、夫による継続
的な暴力の存在は明らかであるとして破棄した事例); Cass. 1re civ., 19 déc. 2012, no11
27.410 ; Dr. fam., fév. 2013, com., 28(夫による身体的および精神的完全性への侵害を理由と
する妻からの同 266 条に基づく損害賠償請求の肯定例); etc.)。本文の記述は、実定法の主
流を前提としたものである。
293)2004 年5月 26 日の法律による改正前においては、相互同意による離婚および共同生活
の解消による離婚のケース(ただし、反対の裁判例も存在した。この点も含め、Cf. Jacques
Massip, Le divorce pour séparation de fait et la pratique des tribunaux, D., 1978, chr., pp.81 et
s. ; Didier Guiton, Les dommages intérêts en réparation d un préjudice résultant du divorce,
D., 1980, chr., nos17 et s., pp.240 et s. ; etc.)、ならびに、フォートに基づく離婚であっても双
方的有責離婚の場合には、民法典旧 266 条の適用がなかった。
294)CA. Paris, 27 juin 1963, supra note 275 ; TGI. Brest, 9 juill. 1974, supra note 273 ; etc.

79

論説(白石)

このことからは、夫婦の人格的義務の違反を理由とした同 1240 条に基づく損
害賠償請求の保護対象を、夫婦関係の存在それ自体に結び付く包括的な要素、
換言すれば、配偶者という身分や地位そのものとして想定することはできない
ことが明らかになる 301)。
ところで、実定法においては、夫婦間の人格的義務の違反を理由とする損害
295)双方的有責離婚のケース(注(296)で引用する裁判例を参照)、婚姻解消の原則の承
諾 に よ る 離 婚 の ケ ー ス(CA. Agen, 7 mai 2015, JCP., 2015, 844, note, Charlotte Claverie
Rousset ; RTD civ., 2015, 860, chr., Jean Hauser(ただし、婚姻の解消から生ずる損害とは別
の損害の存在が証明されていないとして請求が棄却された事例); etc.)、および、2004 年5
月 26 日の法律による改正前における共同生活の解消による離婚のケース(Cass. 2ème civ.,
25 fév. 1981, no79 12.223 ; Bull. civ., II, no41(夫の婚姻義務違反により妻に生じた損害の賠
償が請求された事例); TGI. Amiens, 9 juill. 1976, D., 1977, jur., 85, note, Alain Bénabent(夫
の貞操義務違反により妻に生じた損害の賠償が請求された事例); CA. Paris, 11 mai 1978,
JCP., 1978, II, 18980, obs., Raymond Lindon ; RTD civ., 1980, 337, chr., Roger Nerson(同上。
なお、原審(TGI. Paris, 7 fév. 1977, JCP., 1977, II, 18599, obs., Raymond Lindon ; D., 1978,
IR., 9, obs., André Breton)は離婚原因とは別のフォートの不存在を理由に妻からの請求を
棄 却 し た ); CA. Paris, 29 juin 1978, JCP., 1979, II, 19064, obs., Raymond Lindon ; RTD civ.,
1980, 337, chr., Roger Nerson(同上); etc.)であっても、民法典 1240 条に基づく損害賠償
請求は認められる。
296)Cass. 2ème civ., 15 oct. 1981, no80 13.925 ; Bull. civ., II, no186 ; Gaz. Pal., 1982, 2, jur., 489,
note, Jacques Massip ; Defrénois, 1982, art. 32930, 1248, note, Jacques Massip(共通財産の
横領および不行跡により妻に生じた損害の賠償が請求された事例); Cass. 2ème civ., 4 mars
1987, D., 1987, som., 277(妻の侮辱、暴行、同居義務違反により夫に生じた損害の賠償が
請求された事例); Cass. 2ème civ., 16 mai 1988, no87 14.391(主張された損害の中身は不明);
Cass. 2ème civ., 17 déc. 1998, no97 14.142(夫がコンキュビーヌとの関係を公にしその者を妻
として扱ったことにより妻に生じた損害の賠償が請求された事例); Cass. 1re civ., 29 fév.
2012, no10 25.734(妻の貞操義務違反および同居義務違反により夫に生じた損害の賠償が
請 求 さ れ た 事 例 ); Cass. 1re civ., 23 mai 2012, no11 16.964 ; Dr. fam., juill. 2012, com., 118,
note, Virginie Larribau Terneyre ; RCA., sept. 2012, com., 223(主張された損害の中身は不
明); Cass. 1re civ., 20 juin 2012, no11 13.001(妻の貞操義務違反により夫に生じた損害の賠
償が請求された事例); Cass. 1re civ., 26 juin 2013, no12 14.463 ; RTD civ., 2013, 584, chr., Jean
Hauser(主張された損害の中身は不明); Cass. 1re civ., 1er juin 2017, no16 16.874 ; RTD civ.,
2017, 622, chr., Jean Hauser ; Dr. fam., sept. 2017, com., 177, note, Anne Marie Caro(同上);
etc.

80

フランス法における家族のメンバーに対する民事責任⑵

賠償請求との関連でみた場合に、その適用場面を拡大させる方向に作用する諸
解決と、
これを限定させる方向に作用する諸解決とが存在している。とはいえ、
これらは、相反する解決として位置付けられるべきものではなく、いずれも、
人格的義務の違反を理由とする損害賠償請求の保護対象の中に、配偶者として
の身分や地位に由来する個別的な権利や利益だけでなく、それとは切り離され
た個人としての人格的な権利や利益が含まれること、更にいえば、保護対象の
(前頁からつづき)
 もっとも、一時期の判例は、双方的有責離婚の場合には、民法典 1240 条に基づき損害賠
償を請求することはできないかのような判断を示していた(Cass. 2ème civ., 5 juill. 2001, no99
19.183 ; Cass. 1re civ., 27 avril 2004, no02 11.359 ; Dr. fam., juin 2004, com., 106, note, Virginie
Larribau Terneyre ; Cass. 1re civ., 3 nov. 2004, no03 13.874 ; Cass. 1re civ., 17 janv. 2006, no04
17.165 ; Cass. 2ème civ., 17 oct. 2007, no06 20.701 ; Dr. fam., nov. 2007, com., 208, note, Virginie
Larribau Terneyre ; D., 2008, 807, chr., Lina Williatte Pellitteri ; Cass. 1re civ., 3 déc. 2008,
no07 21.907 ; Cass. 2ème civ., 14 oct. 2009, no08 11.742 ; Cass. 2ème civ., 23 fév. 2011, no09
72.079 ; RTD civ., 2011, 328, chr., Jean Hauser ; AJ fam., juin 2011, 328, obs., V. Avena
Robardet ; etc.)。しかし、この解決を民事責任法理の枠内で説明することは困難であり(Cf.
Garrigue, supra note 290, no527, pp.450 et s. ; Ducrocq Paywels, supra note 272, nos172 et s.,
pp.111 et s. ; etc.)、これらの判例は学説による支持を得ていなかった(Jean Hauser et
Danièle Huet Weiller, Traité de droit civil, La famille : Dissolution de la famille, LGDJ., Paris,
1991, no485, p.421 ; Carbonnier, supra note 250, no614, p.1373 ; Mulon, supra note 272, no17,
pp.104 et s. ; etc.)

297)既に引用し、これから引用する様々な裁判例のほか、Ex. Cass. civ., 9 mai 1951, Bull.
civ., no141(妻の貞操義務違反により夫に生じた損害の賠償が請求された事例); Cass. 1re
civ., 25 avril 1978, D., 1979, jur., 35, note, Jacques Massip(夫の貞操義務違反および同居義務
違反により妻に生じた損害の賠償が請求された事例); Cass. 2ème civ., 4 fév. 1981, no79
12.595 ; Bull. civ., II, no23(夫の無関心により妻に生じた損害の賠償が請求された事例);
Cass. 2ème civ., 11 fév. 1981, no79 14.612 ; Bull. civ., II, no30(同上); Cass. 2ème civ., 2 déc. 1987,
no86 17.539(妻の貞操義務違反により夫に生じた損害の賠償が請求された事例); Cass. 2ème
civ., 11 déc. 1991, no90 17.502(夫の卑猥な言動により妻に生じた損害の賠償が請求された
事例); Cass. 1re civ., 14 janv. 2009, no08 10.538 ; Gaz. Pal., 2009, 2106, note, Élodie Mulon ; AJ
fam., juin 2009, 259, obs., Stéphane David ; D., 2010, 1253, chr., Guillaume Serra(夫が離婚手
続中に子を奪ったことにより妻に生じた損害の賠償が請求された事例); Cass. 1re civ., 25
fév. 2009, no08 13.413 ; D., 2010, 1253, chr., Guillaume Serra(夫の無関心により妻に生じた
損害の賠償が請求された事例); etc.

81

論説(白石)

中心が前者から後者へと移行しつつあることを示すものである 302)。
一方で、適用領域の拡大に作用する諸解決としては、夫婦それぞれに、婚姻
(前頁からつづき)
 下級審の裁判例として、CA. Grenoble, 13 janv. 1947, D., 1947, jur., 173 ; RTD civ., 1947,
310, chr., Henri et Léon Mazeaud(夫の不行跡により妻に生じた損害の賠償が請求された事
例。ただし、損害の不存在を理由に請求は棄却されている); TC. Mamers, 10 juin 1954, D.,
1954, jur., 468 ; RTD civ., 1954, 464, chr., Gaston Lagarde(夫の貞操義務違反および侮辱によ
り妻に生じた損害の賠償が請求された事例); CA. Paris, 25 avril 1978, JCP., 1979, II, 19187,
obs., Raymond Lindon ; RTD civ., 1980, 337, chr., Roger Nerson(夫の貞操義務違反および同
居義務違反により妻に生じた損害の賠償が請求された事例); CA. Paris 25 mai 1978, JCP.,
1978, II, 18981, obs., Raymond Lindon ; D., 1979, IR., 19, obs., André Breton ; RTD civ., 1980,
337, chr., Roger Nerson(夫の貞操義務違反および夫による妻と子との間の関係の阻害によ
り妻に生じた損害の賠償が請求された事例); CA. Toulouse, 10 juin 1985, Gaz. Pal., 1985, 2,
jur., 724(妻の貞操義務違反により夫に生じた損害の賠償が請求された事例); etc. また、
Cf. CA. Paris, 25 mars 1955, D., 1955, jur., 444 ; RTD civ., 1955, 659, chr., Henri et Léon
Mazeaud(夫の不貞行為の相手方に対する妻からの損害賠償請求との関連で、妻が夫に対
して貞操義務違反を理由に損害賠償を請求することができることが判示された事例); CA.
Paris, 9 nov. 1963, D., 1964, jur., 294 ; S., 1964, 324(同上); TGI. Lille, 13 mars 1984, Gaz. Pal.,
1990, 2, jur., 675, note, Xavier Labbée( 同 上 ); CA. Bordeaux, 13 mai 1997, RTD civ., 1997,
909, chr., Jean Hauser(同上); etc.
298)その結果、以下のような判決は破棄の対象になる。離婚の場面で民法典 1240 条の適用
を否定する判決(Cf. Cass 1re civ., 9 nov. 1965, supra note 287 ; Cass. 1re civ., 24 janv. 1990,
no87 17.785 ; Bull. civ., I, no21 ; Cass. 1re civ., 11 janv. 2005, no02 19.016 ; Bull. civ., I, no13 ; D.,
2005, 242 ; RTD civ., 2005, 375, chr., Jean Hauser ; AJ. fam., avril 2005, 144, obs., Stéphane
David ; D., 2006, 343, chr., Guillaume Serra ; Cass. 1re civ., 7 déc. 2011, no11 11.273 ; RTD civ.,
2012, 105, chr., Jean Hauser ; etc.)、婚姻の解消から生ずる損害とは別の損害が存在するに
もかかわらず同 1240 条に基づく損害賠償請求を棄却する判決(Cf. Cass. 2ème civ., 27 oct.
1966, no65 13.406 ; Bull. civ., II, no876 ; D., 1967, jur., 177, note, André Rouast ; RTD civ., 1967,
380, chr., Roger Nerson(夫による追い出しにより妻に生じた損害の賠償が請求された事例。
ただし、別居のケース); Cass. 2ème civ., 9 mai 1979, no78 12.435 ; Bull. civ., II, no134 ; RTD
civ., 1980, 337, chr., Roger Nerson(夫の行為により妻に生じた健康上および職業上の損害
の賠償が請求された事例); Cass. 2ème civ., 28 fév. 1996, supra note 12(夫の暴行等により妻
に生じた損害の賠償が請求された事例); Cass. 2ème civ., 17 déc. 1998, supra note 296 ; Cass.
1re civ., 17 fév. 2004, no02 13.461 ; Dr. fam., mai 2004, com., 79, note, Virginie Larribau
Terneyre ; Dr. fam., nov. 2004, com., 201, note, Virginie Larribau Terneyre(主張された損害

82

フランス法における家族のメンバーに対する民事責任⑵

制度または夫婦であることに由来する義務に加えて、個人間の一般的な行為規
範の夫婦関係における具体化とも評すべき義務が課されていることを示すもの
を挙げることができる 303)。夫婦間の貞操義務との関係では 304)、配偶者以外の
者と性的な関係を持たないという意味での不作為義務の違反のほかに 305)、性
的な関係を伴わない親密な交流 306)、出会いを求める行為 307)、特定の人物への
精神的な傾倒 308)等が、その違反として捉えられている 309)。これらの場面では、
貞操義務が脱物化、観念化、道徳化、精神化されており 310)、その当否はとも
(前頁からつづき)
の中身は不明); Cass. 1re civ., 22 mars 2005, supra note 285 ; Cass. 1re civ., 6 juill. 2005, no04
10.081 ; Bull. civ., I, no307 ; D., 2005, 2103 ; RTD civ., 2005, 767, chr., Jean Hauser ; Dr. fam.,
oct. 2005, com., 212, note, Virginie Larribau Terneyre ; D., 2006, 343, chr., Guillaume Serra
(主張された損害の中身は不明); Cass. 1re civ., 25 avril 2006, supra note 285 ; Cass. 1re civ., 19
nov. 2008, supra note 285 ; Cass. 1re civ., 11 fév. 2009, supra note 12(妻の貞操義務違反によ
り夫に生じた損害の賠償が請求された事例); Cass. 1re civ., 17 mars 2010, no09 11.511(夫が
財産状況の証拠資料を提出しなかったことにより妻に生じた損害の賠償が請求された事
例); Cass. 1re civ., 7 déc. 2016, no15 27.900 ; RTD civ., 2017, 110, chr., Jean Hauser(夫の暴力
的な行為により妻に生じた損害の賠償が請求された事例); etc. また、Cf. Cass. 1re civ., 18
janv. 2012, no11 10.959 ; Gaz. Pal., 2012, 914 ; RCA., avril 2012, com., 100(婚姻の解消から生
ずる損害とは別の損害が存在したとしても、それは一方的有責離婚宣告および補償給付等
により塡補されているとして、同 1240 条に基づく損害賠償請求を棄却した原審を破棄した
事例); etc.)、および、婚姻の解消から生ずる損害とは別の損害の存在が主張されているに
もかかわらず、同 1240 条に基づく損害賠償請求の可否を判断することなく、婚姻の解消か
ら生ずる損害の不存在を理由に同 266 条(または同旧 301 条2項)に基づく損害賠償請求
を棄却するに止まる判決(Cf. Cass. 2ème civ., 17 oct. 1962, supra note 12(夫が会社の経営を
妨げたこと、病気をうつしたこと、不貞行為をしたことにより妻に生じた損害の賠償が請
求された事例); Cass 2ème civ., 15 déc. 1975, no74 14.909 ; Bull. civ., II, no344 ; D., 1976, IR, 93
(主張された損害の内容は不明); Cass. 2ème civ., 27 fév. 1980, no78 16.612 ; Bull. civ., II, no45 ;
D., 1980, IR., 437 ; RTD civ., 1980, 758, chr., Roger Nerson ; Defrénois, 1980, art. 32494, 1462,
note, Jacques Massip(夫が愛人の名でアパルトマンを取得したことにより妻に生じた損害
の賠償が請求された事例); Cass. 2ème civ., 25 juin 1980, no79 11.310 ; Bull. civ., II, no161(夫
による婚姻義務違反により妻に生じた損害の賠償が請求された事例); Cass. 2ème civ., 5 juin
1991, no90 14.314 ; Defrénois, 1992, art. 35212, 304, note, Jacques Massip(夫が愛人を連れ
て公の場に現れたことにより妻に生じた損害の賠償が請求された事例); etc.)が、それで
ある。

83

論説(白石)

かく 311)、一般的な誠実義務としても捉えられうる内容が貞操義務の中に入り
込んできていること 312)は確かである 313)。また、尊重義務についても 314)、同様
299)婚姻の解消から生ずる損害の賠償についての特別の規定(民法典 266 条、2004 年5月
26 日の法律による改正前の同旧 266 条、および、1975 年7月 11 日の法律による改正前の同
旧 301 条2項)は、1941 年4月2日の法律により初めて明文化されたものである(同法に
つ い て は、Cf. André Breton, La loi du 2 avril 1941 sur le divorce et la séparation de corps,
JCP., 1941, I, 205 ; Id., La loi du 2 avril 1941 sur le divorce et la séparation de corps devant la
jurisprudence, JCP., 1943, I, 339 ; Paul Esmain, La réforme du divorce et de la séparation de
corps, Gaz. Pal., 1941, 1, doc., pp.101 et s. ; etc.)。それ以前の実定法は、当時の民法典旧 301
条が規定する扶養定期金の支払によってカバーされない部分について、婚姻の解消から生
ずる損害であるかどうかを問わず、不法行為の一般規定に基づきその賠償を認めていた
(Cass. civ., 20 fév. 1912, S., 1912, 1, 569 ; Gaz. Pal., 1912, 1, jur., 337 ; RTD civ., 1913, 183, chr.,
René Demogue(夫の侮辱的な態度を理由とする妻からの損害賠償請求); Cass. req., 2 juill.
1913, Gaz. Pal., 1913, 2, jur., 284 ; RTD civ., 1913, 787, chr., Eugène Gaudemet(夫による母性
および尊厳の侵害を理由とする妻からの損害賠償請求); Cass. req., 13 mai 1924, DH., 1924,
jur., 389 ; Rev. crit., 1925, 390, chr., André Rouast(夫による重大な侮辱を理由とする妻から
の損害賠償請求); Cass. civ., 21 juin 1927, DH., 1927, jur., 398 ; S., 1927, 1, 299 ; JCP., 1927,
969 ; Gaz. Pal., 1927, 2, jur., 243 ; D., 1928, 1, 5, note, Georges Ripert ; Rev. crit., 1928, 273,
chr., André Rouast(夫による度重なる暴力を理由とする妻からの損害賠償請求); Cass.
req., 27 juill. 1931, DH., 1931, jur., 507 ; Gaz. Pal., 1931, 1, jur., 675 ; RTD civ., 1931, 864, chr.,
Eugène Gaudemet(夫が悪意をもって審理を遅延させたことを理由とする妻からの損害賠
償請求); Cass. civ., 29 mars 1938, supra note 12 ; etc.)。また、この損害賠償は、同旧 301 条
が規定する扶養定期金とは無関係であるため、原告側に扶養を必要とする状況があること
は、 そ の 要 件 に な ら な か っ た(Cass. civ., 21 juin 1927, supra ; CA. Bourges, 4 avril 1928,
DH., 1928, jur., 309 ; etc.)。
 夫婦の人格的義務の違反を理由とする損害賠償に関わる裁判例として、Ex. Cass. req., 8
juin 1939, DH., 1939, jur., 421(夫が近所の女性宅を頻繁に訪問していたことを理由とする
妻からの損害賠償請求); etc. のほか、CA. Montpellier, 10 nov. 1897, D., 1899, 2, 15 ; S., 1901,
2, 137, note, P. Lacoste ; Rev. crit., 1902, 405, chr., Étienne Ernest Hippolite Perreau(夫によ
る 性 的 な 関 係 を 持 つ こ と に つ い て の 拒 絶 を 理 由 と す る 妻 か ら の 損 害 賠 償 請 求 ); CA.
Montpellier, 29 nov. 1897, Rev. dr. civ., 1902, 184, chr., Albert Chéron(同上); TC. Clemont
Ferrand, 9 août 1900, Gaz. Pal., 1900, 2, jur., 620(夫による軽

的な無関心、性的な関係を

持つことについての拒絶、婚姻義務違反を理由とする妻からの損害賠償請求); CA. Agen,
18 juill. 1902, supra note 287 ; CA. Toulouse, 12 mai 1903, S., 1903, 2, 240 ; D., 1904, 2, 186 ;
RTD civ., 1904, 549, chr., Eustache Pilon(妻の婚姻義務違反を理由とする夫からの損害賠償

84

フランス法における家族のメンバーに対する民事責任⑵

の傾向がみられる。この義務は、家庭内暴力や夫婦間の強制性交等を抑制する
という観点を念頭に置きつつ、2006 年 4 月 4 日の法律による改正で民法典 212
条に付加されたものである。もっとも、それ以前から、そして、それ以降にお
いてはより一層、裁判例では、夫婦それぞれに、物理的な侵襲をしない義務、
尊厳や名誉を侵害しない義務、過度に性的な関係を求めない義務 315)等に加え
(前頁からつづき)
請求); CA. Dijon, 27 fév. 1907, S., 1907, 2, 64(夫の婚姻義務違反を理由とする妻からの損害
賠償請求); T. de corr. Orléans, 31 mars 1911, Gaz. Pal., 1911, 2, jur., 55 ; RTD civ., 1911, 647,
chr., René Demogue(妻の貞操義務違反を理由とする夫からの損害賠償請求); TC. Nice, 27
mars 1922, supra note 286(妻の貞操義務違反を理由とする元夫からの損害賠償請求); TC.
Rhône, 1er déc. 1926, S., 1927, 2, 20 ; DH., 1927, jur., 147 ; Gaz. Pal., 1927, 1, jur., 555 ; Rev. crit.,
1928, 273, chr., André Rouast(夫による同居拒絶を理由とする妻からの損害賠償請求); TC.
Alençon, 19 avril 1932, DH., 1932, jur., 342 ; Gaz. Pal., 1932, 2, jur., 255(妻の同居義務違反を
理由とする夫からの損害賠償請求); CA. Montpellier, 28 janv. 1936, Gaz. Pal., 1936, 1, 623(夫
による同居拒絶を理由とする妻からの損害賠償請求); etc.
300)婚姻の解消から生ずる損害とは別の損害の存在が証明されていないことを理由に民法
典 1240 条に基づく損害賠償請求を棄却した判例および裁判例として、Cass. 2ème civ., 13
janv. 1993, no91 16.684 ; Cass. 2ème civ., 17 déc. 1998, no97 14.130 ; Cass. 2ème civ., 28 mars
2002, no00 17.225 ; Cass. 1re civ., 28 sept. 2011, no10 11.760 ; Cass. 1re civ., 23 oct. 2013, no12
20.325 ; Gaz. Pal., 2013, 411 ; etc. の ほ か、CA. Montpellier, 13 mars 2011, Gaz. Pal., 2011,
1784 ; CA. Agen, 7 mai 2015, supra note 295 ; CA. Riom, 27 mars 2018, supra note 285(ただ
し、尊重義務違反や暴行等がフォートとして取り上げられていることからするとこの評価
には疑問が残る); etc. また、婚姻の解消から生ずる損害とは別の損害の存在を確認するこ
となく同 1240 条に基づく損害賠償請求を認容した原審を破棄した事例として、Cass. 1re
civ., 5 nov. 2008, no07 15.718 et no07 19.923 ; Gaz. Pal., 2009, 2107, note, Amandine Cléret ; Dr.
fam., janv. 2009, com., 5, note, Virginie Larribau Terneyre ; PA., 5 fév. 2009, 16, note, Marlène
Bulgard ; etc.
301)ただし、1941 年4月2日の法律により婚姻の解消から生ずる損害の賠償についての特
別の規定が明文化される以前においては、不法行為の一般規定は、当時の民法典旧 301 条
が規定する扶養定期金の支払によってカバーされない部分のすべてを賠償の対象としてい
た。そのため、同 1240 条に基づく損害賠償の保護対象の中に配偶者という身分や地位それ
自体も含められていた。この点は、② 一で扱われる。
302)本 稿 の 問 題 意 識 と は 異 な る が、Cf. Gonthier et Lamarche, supra note 9, pp.179 et s. ;
Garrigue, supra note 290 ; etc.

85

論説(白石)

て、婚姻前から存在していた治癒の見込みがない重大な病気 316)、性的な障
害 317)、過去の犯罪歴 318)、同性愛 319)等といった 320)、夫婦生活に大きな影響を
及ぼすような重要な事実を隠し続けないという意味での率直さに関わる義
務 321)、夫婦生活のみならず配偶者の健康にも甚大な影響を及しかねない自己
の病気の治療に取り組むこと 322)、配偶者の意向を無視して生殖行為をしない
ようにすること 323)、配偶者に相談することなく性転換手術や民事身分の変更
を行わないようにすること 324)等といった、自己決定の領域に属する事柄につ
いて配偶者の人格等を尊重して行うという意味での誠実さに関わる義務 325)、
303)こうした義務の区別は、Garrigue, supra note 290 がいう夫婦の義務と普遍の義務との対
比、Ruffieux, supra note 133, nos46 et s., pp.49 et s. がいう(カップル関係の)規範的義務と
一般的義務との対比にほぼ相当する。また、Cf. Gonthier et Lamarche, supra note 9, pp.181
et s. ; etc. 更に、本文で示した婚姻制度または夫婦であることに由来する義務は、Marlène
Burgard, L obligation essentielle en droit commun et l obligation fondamentale en droit de la
famille ; À la recherche d un régime juridique unique, RRJ., 2009, pp.1855 et s. がいう基本的
義務に当たる。
304)夫婦間の貞操義務一般について、Cf. Caroline Chabault, De la relativité de l adultère dans
le divorce pour faute, Dr. fam., juill. août 1998, chr., 11, pp.6 et s. ; Marie Cécile Villa Nys,
Réflexions sur le devenir de l obligation de fidélité dans le droit civil de la famille, Dr. et pat.,
sept. 2000, pp.88 et s. ; Guy Auguste Likillimba, La fidélité en droit privé, préf. Jacques
Mestre, PUAM., Aix en Provence, 2003, nos195 et s., pp.137 et s. ; Catherine Philippe, Quel
avenir pour la fidélité ?, Dr. fam., mai 2003, chr., 16 ; Vincent Égéa, L impératif en droit de la
famille, RRJ., 2004, nos30 et s., pp.670 et s. ; Astrid Mignon Colombet, Que reste t il du devoir
de fidérité entre époux ?, PA., 31 janv. 2005, pp.6 et s. ; Laetitia Antonini Cochin, Le paradoxe
de la fidélité, D., 2005, pp.23 et s. ; Éric Bazin, La fidélité dans les couples, Gaz. Pal., 2012,
pp.169 et s. ; Ben Hadj Yahia, La fidélité et le droit, préf. Bernard Beignier, Bibliothèque de
droit privé, t.551, LGDJ., Paris, 2013, nos679 et s., pp.615 et s. ; Ducrocq Paywels, supra note
272, nos377 et s., pp.249 et s. ; etc.
305)この点との関連では、2013 年5月 17 日の法律により同性婚が承認される以前から、貞
操義務違反となりうる配偶者以外の者との性的な関係に同性とのそれも含まれるものとさ
れてきたことが重要である。Ex. Cass. 2ème civ., 27 mars 1963, infra note 368(ただし、結論
としては貞操義務違反が否定された事例); CA. Paris, 10 avril 2013, supra note 285 ; CA. Aix
en Provence, 18 sept. 2014, Dr. fam., nov. 2014, com., 156, note, Jean René Binet ; etc. また、
Cf. CA. Dijon, 6 juill. 2012, infra note 306 ; etc.

86

フランス法における家族のメンバーに対する民事責任⑵

配偶者に重大な影響を与えるような行為をしないという意味での慎み深さに関
わる義務 326、327)、および、配偶者や子等におおらかな態度を示したり、配偶者
の意見を取り入れながら共同の事柄を実施したりするというという意味での寛
容さに関わる義務等 328)、様々な無名の義務があることが承認されている 329)。
これらの義務も、一般的な誠実義務が夫婦関係の中で具体化されたものとして
位置付けられる 330)。言い換えれば、同 212 条の尊重義務を媒介として、夫婦
306)Cass. req., 8 juin 1939, supra note 299 ; Cass. 2ème civ., 21 déc. 1960, no59 12.093 ; Bull. civ.,
II, no810(妻が特定の女性と特別な交友関係を結んでいたことが離婚原因としてのフォー
トに該当するとされた事例); Cass. 1re civ., 30 sept. 2003, no02 15.813(夫がほかの女性とカ
フェでくつろいだり、夜間にこの女性の家を訪問したりしたことが離婚原因としての
フォートに該当しないとした原審を破棄した事例); Cass. 1re civ., 30 avril 2014, no13 16.649 ;
RTD civ., 2014, 627, chr., Jean Hauser ; Dr. fam., juin 2014, com., 95, note, Jean René Binet
(妻
が SNS 上で多数の男性と頻繁にメッセージのやりとりをし写真の交換をしていたことが離
婚原因としてのフォートに該当するとされた事例); CA. Dijon, 6 juill. 2012, AJ fam., oct.
2012, 503, obs., V. A. R.
(バイセクシュアルである夫が SNS 上で特定の男性と親密なメッセー
ジのやりとりをしていたことが離婚原因としてのフォートに該当するとされた事例); etc.
307)Cass. 2ème civ., 28 sept. 2000, no98 21.110(妻が頻繁に夜遊びをし不特定多数の男性に対
して誘惑的な態度をとっていたことが離婚原因としてのフォートに該当するとされた事
例); CA. Amiens, 19 mai 2010, AJ fam., janv. 2010, 50, obs., Mikaël Benillouche(夫が妻と同
居中に出会い系サイトに登録していたことが離婚原因としてのフォートに該当するとされ
た事例); CA. Riom, 2 sept. 2014, Dr. fam., déc. 2014, com., 179, note, Jean René Binet(妻が
数か月の間出会い系サイトに登録していたことが離婚原因としてのフォートに該当すると
された事例); etc.
308)CA. Paris, 13 fév. 1986, Gaz. Pal., 1986, 1, jur., 216, note, J. G. M.(妻が精神的な意味で神
父に傾倒し夫から距離を置いたことが離婚原因としてのフォートに該当するとされた事
例); etc.
309)Cf. Yvaine Buffelan Lanore et Kiteri Garcia, Cas de divorce. ─ Divorce pour faute. ─
Faits imputables à un époux : principales applications, J. CL., Civil Code, Art. 242 et 247 2,
Fasc. 20, 2016, n os95 et s., pp.33 et s. ; V irginie Lar ribau Ter neyr e, Mariage.
─ Organisation de la communauté conjugale et familiale. ─ Principes directeurs du couple
conjugal : réciprocité des devoirs entre époux(C. civ., art. 212). ─ Principes structurant la
communauté familiale : direction conjointe de la famille et contribution conjointe aux charges
du mariage(C. civ., art. 213 et 214), J CL., Civil Code, Art. 212 à 215, Fasc. 10, 201, nos21 et s.,
pp.15 et s. ; etc.

87

論説(白石)

という身分や地位それ自体ではなく、相互に対等な個人間の関係に着目した人
格的義務のモデルが形成されつつある 331)。更に、こうした個人間の関係を踏
まえた誠実や相互的尊重の観点は、夫婦関係の解消に向けた手続を進めている
時はもちろん 332)、夫婦関係の解消後にも現れる。例えば、ユダヤ教を信仰す
310)用いられている表現は様々であるが、Cf. Hauser et Huet Weiller, supra note 183, nos1017
et s., pp.746 et s. ; Carbonnier, supra note 250, no547, p.1221 ; Égéa, supra note 304, nos30 et s.,
pp.670 et s. ; Id., Droit de la famille, 2ème éd., LexisNexis, Paris, 2018, no1090, p.516 ; Garrigue,
supra note 290, nos104 et s., pp.87 et s. ; Bazin, supra note 304, pp.171 et s. ; Ruffieux, supra
note 133, no132, pp.135 et s. ; Ben Hadj Yahia, supra note 304, nos803 et s., pp.731 et s. ;
Ducrocq Paywels, supra note 272, nos395 et s., pp.259 et s. ; Delphine Chauvet, La fidélité dans
le mariage, un devoir en voie de disparition !, AJ fam., mars 2016, pp.148 et s. ; Bénabent,
supra note 264, no150, pp.127 et s. ; etc.
311)貞操義務の内容について性的な意味での不貞関係を持たないことに限定すべき旨を主
張するものとして、Garrigue, supra note 290, nos104 et s., pp.87 et s. ; Larribau Terneyre,
supra note 309, nos21 et s., pp.15 et s. ; etc.
312)CA. Dijon, 6 juill. 2012, supra note 306 は、夫の当該行為について、誠実、信頼、尊厳に
反するものとして性格付けている。また、CA. Basse Terre, 18 mai 2015, supra note 285 は、
夫がほかの女性との間で不貞関係を継続し2人の子をもうけたこと自体を尊重義務に対す
る違反として性格付けている。
313)Cf. Hauser et Huet Weiller, supra note 183, nos1017 et s., pp.746 et s. ; Égéa, supra note
304, nos30 et s., pp.670 et s. ; Catherine Philippe, L article 212 du code civil : Du XXe au XXIe
siècle, in, De code en code : Mélanges en l honneur du doyen Georges Wiederkehr, Dalloz,
Paris, 2009, pp.629 et s. ; Garrigue, supra note 290, nos77 et s., pp.65 et s. ; Ruffieux, supra note
133, no132, pp.135 et s. ; Luciano Olivero, L infidélité sans adultère à l époque d internet : Une
comparaison entre la France et l Italie, RIDC., 2015, pp.549 et s. ; etc.
314)夫婦間の尊重義務一般について、Cf. Buffelan Lanore et Garcia, supra note 309, nos8 et s.,
pp.5 et s. ; Larribau Terneyre, supra note 309, nos56 et s., pp.28 et s. ; Ducrocq Paywels, supra
note 272, nos476 et s., pp.319 et s. etc. 2006 年4月4日の法律による改正前の状況について、
少 し 古 い が、Cf. Yves Guyon, De l obligation de sincérité dans le mariage, RTD civ., 1964,
pp.473 et s.
315)TGI. Dieppe, 25 juin 1970, JCP., 1970, II, 16545 bis ; Gaz. Pal., 1970, 2, jur., 243 ; RTD civ.,
1971, 367, chr., Roger Nerson(夫が高齢の妻に性的な関係を執拗に求めることが離婚原因
としてのフォートに該当するとされた事例); etc. また、Cf. TGI. Bernay, 3 juin 1981, Gaz.
Pal., 1981, 2, som., 299(日常的な性行為の要求は、それが濫用にわたるものでない限り、
離婚原因としてのフォートに該当しないとされた事例); etc.

88

フランス法における家族のメンバーに対する民事責任⑵

る夫婦が法的に離婚をした後、夫が妻に対して正当な理由なくゲットと呼ばれ
る離縁状を引き渡さなかった場合には、夫にフォートが認められ、夫に対して
損害賠償の支払が命じられているが 333)、この解決は、夫婦関係の解消後にお
316)Cass. civ., 7 mai 1935, D., 1935, 1, 78, note, Paul Appleton ; S., 1935, 1, 220(ただし、夫が
病気を隠し続けたことに加えて、妻にその病気をうつしたことが離婚原因としてのフォー
トに該当するとされた事例); Cass. 2ème civ., 5 juill. 1956, D., 1956, jur., 609 ; S., 1956, 172 ;
RTD civ., 1957, 92, Henri Desbois(夫による健康状態の秘匿が離婚原因としてのフォート
に該当するとされた事例); Cass. 2ème civ., 12 mai 1960, Bull. civ., II, no309 ; D., 1960, som., 97
(夫による重大な病気の秘匿が離婚原因としてのフォートに該当するとされた事例); etc.
 下級審の裁判例として、CA. Aix, 3 juin 1936, DH., 1936, jur., 546 ; Gaz. Pal., 1936, 2, jur.,
454 ; RTD civ., 1936, 850, chr., Gaston Lagarde(妻による精神病の秘匿。ただし、婚姻前か
ら存在していた精神病の秘匿がその意思によるものではないとの理由で離婚原因としての
フォートに該当しないとされた事例); TC. Nîmes, 2 fév. 1942, JCP., 1942, II, 1826(ただし、
夫婦の生活に影響を及ぼすような病気ではないとの理由で離婚原因としてのフォートに該
当しないとされた事例); CA. Nancy, 6 mai 1946, Gaz. Pal., 1946, 2, jur., 7(夫による重大な病
気の秘匿が離婚原因としてのフォートに該当するとされた事例); CA. Montpellier, 25 oct.
1961, D., 1961, jur., 775(妻による重大な病気の秘匿が離婚原因としてのフォートに該当す
るとされた事例); CA. 7 déc. 1998, Dr. fam., juill. août 1999, com., 80, note, Hervé Lécuyer
(同上); etc.
317)Cass. req., 25 janv. 1922, S., 1922, 1, 152 ; D., 1924, 1, 7(夫による性的障害の秘匿が離婚
原因としてのフォートに該当するとされた事例); Cass. civ., 7 mai 1951, D., 1951, jur., 472 ;
Gaz. Pal., 1952, 2, jur., 47 ; RTD civ., 1951, 505, chr., Gaston Lagarde(妻による性的障害の秘
匿が離婚原因としてのフォートに該当するとされた事例); etc.
 下級審の裁判例として、CA. Orléans, 4 mars 1904, S., 1904, 2, 301 ; D., 1905, 2, 67(夫に
よる性的障害の秘匿が離婚原因としてのフォートに該当するとされた事例); TC. Dax, 30
nov. 1906, D., 1907, 2, 135(同上); CA. Toulouse, 13 déc. 1910, D., 1913, 2, 159(夫による性
的障害の秘匿。ただし、当事者の年齢等を理由に離婚原因としてのフォートに該当しない
とされた事例); CA. Colmar, 26 juin 1928, Gaz. Pal., 1928, 2, jur., 685(夫による性的障害の秘
匿が離婚原因としてのフォートに該当するとされた事例); TC. Chateau Chinon, 24 nov.
1948, Gaz. Pal., 1949, 1, jur., (
7 事案の詳細は不明); CA. Nancy, 12 mai 1958, Gaz. Pal., 1958, 2,
jur., 20(夫による性的障害の秘匿が離婚原因としてのフォートに該当するとされた事例);
etc.
318)CA. Pau, 14 déc. 1998, Dr. fam., juill. août 1999, com., 80, note, Hervé Lécuyer.
319)CA. Aix en Provence, 29 mars 2004, Dr. fam., déc. 2004, com., 225, note, Virginie
Larribau Terneyre.

89

論説(白石)

いても、元夫婦のそれぞれに、相互の人格を尊重したり、誠実に取決めを実行
したりする義務が課せられることがあることを示している 334、335)。
他方で、適用領域の縮小に作用する諸解決としては、一定の場合に婚姻制度
または夫婦であることに由来する義務が弱められていることを示すものを挙げ
320)それ以外の例として、Ex. Cass. 2ème civ., 25 oct. 1961, no59 13.488 ; Bull. civ., II, no687 ;
JCP., 1962, II, 12514, obs., Paul Esmain(婚姻前に妻から夫へ渡された手紙が妻の母により
書かれたものであることを隠し続けることが離婚原因としてのフォートに該当するとされ
た事例); CA. Bordeaux, 1er déc. 1913, S., 1914, 2, 199(婚姻前から存在していた事実を婚姻
後も隠し続けることは離婚原因としてのフォートに該当するが、妻が婚姻前の男性関係を
夫に隠し続けたことはこれに該当しないとされた事例); TC. Gannat, 3 avril 1933, DH., 1933,
jur., 375;RTD civ., 1933, 857, chr., Gaston Lagarde(同上); CA. Riom, 24 mai 1934, Gaz. Pal.,
1934, 2, jur., 207(同上); etc.
321)これらの場面では、病気や性的な障害の存在それ自体(もちろん、病気等の存在がそ
の責めに帰すべき事由に由来するときは別である。Ex. Cass. 2ème civ., 20 déc. 1962, no61
13.256 ; Bull. civ., II, no820)、犯罪歴それ自体、同性愛者であることそれ自体ではなく、一
方が他方に影響を与えるような事実を隠し続けたことが、フォートの中身となる。従って、
他方がこうした事実を認識していたときには、尊重義務の違反は否定される。Ex. TC.
Valence, 16 mars 1955, D., 1955, jur., 585, note, André Breton ; Gaz. Pal., 1955, 2, jur., 431(夫
が婚姻前から妻のアルコール依存等を認識していた場合には当該事実は離婚原因としての
フォートに該当しないとされた事例); etc.
322)病気等の存在を知り、それが夫婦生活や配偶者に影響を及ぼすことを理解しながら、
正当な理由なくその治療を行わないことは、離婚原因としてのフォートに該当する。Ex.
CA. Paris, 12 août 1895, Gaz. Pal., 1895, 2, jur., 512(ただし、夫が病気の治療を拒絶したこ
とに加えて、妻にその病気をうつしたことが離婚原因としてのフォートに該当するとされ
た事例); CA. Caen, 10 mai 1926, S., 1926, 2, 52 : Gaz. Pal., 1926, 2, jur., 120(夫による治療拒
絶); CA. Nancy, 6 mai 1946, supra note 316(同上); CA. Nancy, 3 déc. 1958, D., 1959, som.,
50(同上); CA. Lyon, 30 avril 1996, JCP., 1997, II, 22869, note, Thierry Garé(妻による治療
拒絶); etc. また、Cf. TC. Havre, 9 juill. 1926, Gaz. Pal., 1926, 2, jur., 588(妻による手術の拒
絶が自己の健康状態を考慮した結果であることを理由に離婚原因としてのフォートに該当
しないとされた事例); TC. Valence, 16 mars 1955, supra note 321(妻による治療の拒絶が証
明されていないことを理由に離婚原因としてのフォートが否定された事例); etc. もっと
も、その病気が治癒したものと信じて治療等をしなかったという場合には、フォートは否
定される。夫が妻に性病をり患させたことに関わる事案であるが、Ex. CA. Nancy, 26 janv.
1901, Gaz. Pal., 1901, 1, jur., 276(否定例); TC. Saint Quentin, 24 janv. 1906, Gaz. Pal., 1907, 1,
jur., 536(否定例); CA. Douai, 7 janv. 1908, Gaz. Pal., 1908, 2, jur., 255(肯定例); etc.

90

フランス法における家族のメンバーに対する民事責任⑵

ることができる。この傾向に属する実定法の様々な解決を丁寧に分析すると、
以下の 3 つの系統が抽出される。
1 つは、個人の自律や自由の観点を踏まえ一定の状況の下で義務それ自体の
弱化を認めるものである。

323)CA. Nîme, 21 mars 2007, D., 2007, 2587, note, Marie Lamoureux ; JCP., 2007, II, 10149,
note, Joëlle Vassaux ; Dr. fam., oct. 2007, com., 189, note, Laurence Mauger Vielpeau ; D.,
2008, 807, chr., Lina Williatte Pellitteri ; RTD civ., 2008, 91, chr., Jean Hauser(2度にわたり
子が出生後すぐに死亡してしまったという経験をしたことから、夫が子を持ちたくないと
考えていたにもかかわらず、妻が夫に知らせることなく妊娠し夫の子をもうけたことが、
夫を単なる生物学上の親に帰着させるもので離婚原因としてのフォートに該当するとされ
た事例); CA. Versailles, 22 janv. 2015, Dr. fam., mai 2015, com., 87, note, Jean René Binet(妻
が避妊措置を講じたにもかかわらず妊娠したことを夫との関係が悪化した後も3か月あま
り知らせなかったことが離婚原因としてのフォートに該当するとされた事例); etc. Contra.
CA. Caen, 5 fév. 2006, Dr. fam., juill. 2006, com., 149, note, Virginie Larribau Terneyre(妻が
夫に知らせることなく妊娠し夫の子をもうけたことが離婚原因としてのフォートに該当し
ないとされた事例); etc. この場面では、妊娠したこと、または、子をもうけたことそれ自
体ではなく、妻が夫に相談することなく1人で決定したことが、フォートの中身となる(Cf.
Mauger Vielpeau, supra, pp.3 et s.)。
324)性転換のための手術を受けること、民事身分における性別を変更すること等は、自己
決定の領域に属するため、それ自体では他方配偶者との関係でフォートを構成しないが、
夫婦生活に与える影響を考慮することなく一方的に決定されたものであるときは、他方配
偶者への誠実さを欠く行為としてフォートと評価される。Ex. TGI. Caen, 28 mai 2001, D.,
2002, 124, note, Laurence Mauger Vielpeau ; RTD civ., 2002, 274, chr., Jean Hauser ; Dr. fam.,
avril 2002, com., 42, note, Hervé Lécuyer. これに対して、CA. Nîme, 7 juin 2000, RTD civ.,
2001, 335, chr., Jean Hauser ; Dr. fam., janv. 2001, com., 4, note, Hervé Lécuyer ; PA., 12 avril
2001, 20, note, Jacques Massip は、夫が男性器を切除するための手術を受けたこと自体が離
婚原因としてのフォートを構成するとしている。しかし、この理解は、妻の自由や利益と
の衡量をすることなく夫による自己決定の領域を消滅させるものであり、受け入れられな
い。
325)それ以外の例として、夫が愛人を住居に迎え入れるよう妻に強要すること(Cass. 2ème
civ., 19 mars 1958, D., 1958, som., 121)
、夫が妻に対して繰り返し人工授精をするよう求め
ること(CA. Lyon, 28 mai 1956, D., 1956, jur., 646, note, André Breton)、夫が約束に反して
結婚のための宗教上の儀式を挙行しないこと(TC. Seine, 3 mars 1933, Gaz. Pal., 1933, 1,
jur., 757)等も、フォートとして取り上げられている。

91

論説(白石)

例えば、夫婦間の貞操義務との関係では、1975 年 7 月 11 日の法律による改
正で不貞行為が絶対的な離婚原因ではなくなったこと 336)、その結果、不貞行
326)裁判例において、慎み深さに関わる義務は、様々な形で現れている。Ex. CA. Metz, 7
sept. 2004, JCP., 2005, IV, 2646(妻が夫への腹いせとして子らに対し第三者により提供され
た精子を用いた人工授精から生まれた子であると告げることが離婚原因としてのフォート
に該当するとされた事例); CA. Dijon, 29 sept. 2005, JCP., 2006. IV, 2882(夫の露出狂および
妻以外の女性に対するセクハラ行為が離婚原因としてのフォートに該当するとされた事
例); CA. Angers, 23 mai 2011, supra note 285(妻が別居の解消後も扶養定期金の支払を求
め続けたことが離婚原因および損害賠償請求の基礎としてのフォートに該当するとされた
事例); CA. Lyon, 23 mai 2011, supra note 285(妻が夫との共有名義で登録している自動車
で交通犯罪を繰り返したことが離婚原因としてのフォートに該当するとされた事例); CA.
Aix en Provence, 20 janv. 2015, supra note 15(夫が子の面前で場違いな言動をしたことが
離婚原因としてのフォートに該当するとされた事例); etc. また、少し古い事例であるが、
Cf. TC. Seine, 23 juin 1932, S., 1932, 2, 192(夫が過度にヌーディズムにはまったことが離婚
原因としてのフォートに該当するとされた事例); etc.
327)1975 年7月 11 日の法律による改正前においては、一定の犯罪行為は絶対的な離婚原因
とされていた。ここには、夫婦間の名誉の連帯という発想が看取される。これに対して、
現在では、夫婦の一方が犯罪を繰り返していることは、それ自体では離婚原因としての
フォートにはならず、そのことが他方との関連で尊重義務違反を構成すると評価される場
合に限り、離婚原因としてのフォートになる(Ex. CA. Paris, 20 sept. 2007, JCP., 2007, IV,
3015 ; D., 2008, 807, chr., Lina Williatte Pellitteri.)。名誉の連帯という発想が後退し、相互
的な人格の尊重という視点が前面に出ている。
328)例えば、配偶者の反対にもかかわらず子に一定の措置を講じたり、配偶者の要請にも
かかわらず子に一定の措置を講じなかったり、配偶者と子との関係の構築を妨げたりする
こと等が、フォートとして取り上げられている。Ex. CA. Colmar, 4 juill. 1952, D., 1952, jur.,
751(当初の約束に反して夫が子に洗礼を受けさせないことが離婚原因としてのフォート
に該当するとされた事例); CA. Paris, 13 oct. 1959, JCP., 1960, II, 11552, obs., Pierre Barbier
(夫婦の同意に基づき子に洗礼を受けさせたにもかかわらず、妻が夫の知らないうちに子
を改宗させたことが離婚原因としてのフォートに該当するとされた事例); etc. なお、Cf.
TC. Briançon, 6 janv. 1948, D., 1948, jur., 579, note, Jean Carbonnier ; JCP., 1948, II, 4163 ;
RTD civ., 1948, 205, chr., Gaston Lagarde(夫が自己と異なる信仰を持つ妻による子への宗
教的な教育の実施に反対することは離婚原因としてのフォートに該当しないとされた事
例); etc. それ以外の例として、Ex. CA. Reims, 30 nov. 2012, Dr. fam., janv. 2013, com., 8,
note, Virginie Larribau Terneyre(妻が同性愛者である自己の子に対し攻撃的な態度をとっ
たことが離婚原因としてのフォートに該当するとされた事例); etc.

92

フランス法における家族のメンバーに対する民事責任⑵

為が離婚(および別居)原因としての貞操義務違反=フォートを構成するかど
うかについて裁判官の評価に服するようになったことを背景として 337、338)、事
329)本 文 に お け る 整 理 の 仕 方 は、Bénabent, supra note 264, nos137 et s., pp.120 et s. ;
Buffelan Lanore et Garcia, supra note 309, nos63 et s., pp.25 et s. を参考にしたものである。
330)Cass. 1re civ., 9 mars 2011, no10 10.154 ; Dr. fam., sept. 2011, com., 123, note, Jacques
Massip ; AJ fam., mai 2011, 258, obs., Félicité Mbala Mbala は、興味の喪失および尊重の欠
如から離婚原因としてのフォートを認定した原審の判断を維持している。
331)Cf. Ducrocq Paywels, supra note 272, nos520 et s., pp.347 et s.
332)Ex. Cass. req., 5 fév. 1940, DH., 1940, jur., 99 ; Gaz. Pal., 1940, 1, jur., 471 ; RTD civ., 1940
1941, 259, chr., Charlotte Béquignon Lagarde(夫が離婚手続中に妻に対して双方的有責離
婚を認めさせ妻から扶養定期金を主張する機会を奪ったことが損害賠償の基礎としての
フォートに該当するとされた事例); Cass. 1re civ., 14 janv. 2009, supra note 297 ; etc. のほか、
CA. Paris, 18 juin 1935, DH., 1935, jur., 430 ; RTD civ., 1935, 819, chr., René Demogue(夫が
離婚手続中に妻からの別居請求を放棄させ自己の離婚請求に異議を申し立てないように仕
向けたことが損害賠償請求の基礎としてのフォートに該当するとされた事例。原審(TC.
Seine, 15 mars 1934, Gaz. Pal., 1934, 1, jur., 951)も同旨である); etc.
333)Cass. 2ème civ., 13 déc. 1972, no71 12.043 ; Bull. civ., II, no320 ; D., 1973, jur., 493, note,
Christian Larroumet : D., 1973, IR., 27 ; Gaz. Pal., 1973, 1, jur., 416, note, J. P. D. ; Cass. 2ème
civ., 21 avril 1982, no81 11.775 ; Bull. civ., II, no62 ; D., 1983, IR., 345 ; Gaz. Pal., 1983, 2, jur.,
590, note, François Chabas ; RTD civ., 1984, 114, chr., Georges Durry(妻の再婚への希望の
侵害を認めた原審を維持した事例); Cass. 2ème civ., 5 juin 1985, no84 11.088 ; Bull. civ., II,
no113 ; Gaz. Pal., 1986, 1, jur., 9, note, François Chabas ; JCP., 1987, II, 20728, obs., Éric
Agostini(また、Cf. Pierre Barbier, Le problème du《Gueth》, Gaz. Pal., 1987, 2, doc., pp.484
et s.); Cass. 2ème civ., 15 juin 1988, no86 15.476 ; Bull. civ., II, no146 ; D., 1988, IR., 191 ; Gaz.
Pal., 1988, 2, pan., 205 ; RTD civ., 1988, 770, chr., Patrice Jourdain ; JCP., 1989, II, 21223, obs.,
Marie Luce Morançais Demeester(Cass. 2ème civ., 5 juin 1985, supra の移送後の再上告審。
離婚から得ることができる自由の侵害を認めた原審を維持した事例); Cass. 2ème civ., 21 nov.
1990, no89 17.659 ; Bull. civ., II, no239 ; D., 1991, jur., 434, note, Éric Agostini(ただし、アス
トラントの下での離縁状の引渡請求と損害賠償請求を認容した原審について、その引渡し
は夫の良心に委ねられるべきものであるため、損害賠償のみが認容されなければならない
として、これを破棄した事例); Cass. 2ème civ., 12 déc. 1994, no92 17.098 ; Bull. civ., II, no262 ;
Gaz. Pal., 1995, 2, pan., 134 ; RCA., fév. 1995, com., 45 ; etc.
 下級審の裁判例として、TC. Seine, 22 fév. 1957, D., 1957, som., 79 ; Gaz. Pal., 1957, 1, jur.,
246 ; CA. Grenoble, 7 mai 1958, RTD civ., 1959, 300, chr., Henri Desbois ; CA. Versailles, 31
oct. 1994, D., 1995, jur., 245, note, Éric Agostini(宗教的感情の侵害を認めた事例); etc.

93

論説(白石)

実上の別居中、和解不成立のオルドナンスの後、または、離婚手続開始後にお
いては、貞操義務が消滅したり、弱められたりするため、その段階での不貞行
為は離婚(および別居)原因としてのフォートを構成しないとの規範を明示す
る裁判例が、少数ではあるものの存在し 339)、この方向性を支持する見解もあ
る 340)。多くの裁判例 341)および学説 342)は、一般論としては上記の理解を否定す
るが、夫婦の状況や行為を取り巻く諸事情を考慮して、これらの段階での不貞
行為が離婚(および別居)原因としてのフォートに該当しないとの判断をする

334)注(328)で引用した裁判例において取り上げられたフォートは、夫婦が離婚した後で
あっても問題となる(Ex. CA. Paris, 29 sept. 2000, supra note 138(割礼); CA. Douai, 22 juin
2004, supra note 149(訪問権および受入権の行使の阻害); CA. Paris, 25 fév. 2005, supra note
148(関係構築の阻害); CA. Nîmes, 20 juin 2012, supra note 147(外国への連れ出しと宗教
的教育); CA. Agen, 3 juill. 2014, Dr. fam., déc. 2014, com., 183, note, Claire Neirinck(訪問権
および受入権の行使の阻害); etc.)。このことも、個人間の関係を踏まえた誠実や相互的尊
重の観点が夫婦関係の解消後にも現れることを示している。Cf. Kessler, supra note 146,
nos3 et s., pp.2 et s. ; Pizarro, supra note 272, nos124 et s., pp.99 et s.
335)その他、離婚に際して決定された事項を誠実に遵守することも、夫婦関係の解消後に
おける相互的な尊重義務の一内容である。尊重義務という視点を介在させなくても不法行
為の成立を肯定することができる事案ではあるが、Ex. Cass. 2ème civ., 24 juin 1998, no94
21.763 ; Dr. fam., fév. 1999, com., 16, note, Hervé Lécuyer(元夫が離婚判決の中で命じられ
た子への扶養定期金の支払を免れるために支払不能を偽装したことが元妻との関係で不法
行為に該当するとされた事例); Cass. 1re civ., 29 juin 2011, no10 16.096 ; Gaz. Pal., 2011, 2481
(元夫が離婚判決の中で命じられた補償給付の支払を害意とともに拒絶したことが元妻と
の関係で不法行為に該当するとされた事例); etc. なお、単に離婚に際して決定された補償
給付が支払われないだけであるときは、損害賠償ではなく、履行の強制を認めれば足りる。
Cass. civ., 12 fév. 1951, JCP., 1951, II, 6591, obs., Paul Esmain ; RTD civ., 1952, 50, chr., Gaston
Lagarde は、夫による扶養定期金の不払を理由とする妻からの不法行為に基づく損害賠償
請求を認容するが、同判決に付された評釈が指摘しているように、法律論としては疑問で
ある。
336)こ の 点 に つ い て は、Cf. Yves Mayaud, L adultère, cause de divorce, depuis la loi du 11
juillet 1975, RTD civ., 1980, pp.494 et s. ; etc.
337)1975 年7月 11 日の法律による改正前においては、不貞行為は絶対的な離婚原因とされ
ていた。そのため、不貞行為の存在が認められると、当該行為を取り巻く事情や配偶者に
よる黙認の有無等とは無関係に、離婚原因としてのフォートも肯定された。Ex. Cass. req.,

94

フランス法における家族のメンバーに対する民事責任⑵

余地を認めている 343)。こうした裁判例については、夫婦関係が回復する可能
性があるかどうかを慎重に審査しているだけであり、必ずしも貞操義務の弱化
を示したものではないとの評価もある 344)。しかし、不貞行為の相手方は原則
として他方配偶者との関係で不法行為責任を負わないとしたり 345)、従前の立

(前頁からつづき)
5 août 1901, D., 1901, 1, 470 ; Cass. civ., 29 janv. 1936, DH., 1936, jur., 146 ; S., 1936, 1, 312 ;
RTD civ., 1936, 453, chr., Gaston Lagarde ; D., 1937, 1, 15(この判決については、Cf. René
Rodière, La notion de cause péremptoire en matière de divorce, JCP., 1937, I, 12); Cass. req.,
27 juin 1944, RTD civ., 1945, 27, chr., Gaston Lagarde ; Cass. civ., 1er juin 1950, JCP., 1950, II,
5782, obs., Andrée Jack Mayer ; RTD civ., 1951, 65, chr., Gaston Lagarde ; Cass. 2ème civ., 12
nov. 1953, D., 1954, jur., 24 ; JCP., 1954, II, 7927, obs., G. Madray ; RTD civ., 1954, 287, chr.,
Gaston Lagarde ; Cass. 2ème civ., 21 juill. 1960, Bull. civ., II, no517 ; Cass. 2ème civ., 11 juill. 1963,
D., 1964, som., 13 ; Cass. 2ème civ., 27 avril 1972, no71 10.475 ; Bull. civ., II, no118 ; Cass. 2ème
civ., 22 oct. 1975, D., 1976, IR., 7 ; Cass. 2ème civ., 14 juin 1979, no78 11.472 ; Bull. civ., II, no179 ;
RTD civ., 1980, 334, chr., Roger Nerson ; CA. Montpellier, 5 nov. 1952, D., 1953, jur., 87 ; Gaz.
Pal., 1953, 1, jur., 13 ; RTD civ., 1953, 315, chr., Gaston Lagarde ; etc. また、Cf. Cass. civ., 1er
mai 1939, DH., 1939, jur., 337 ; JCP., 1939, II, 1168 ; RTD civ., 1939, 725, chr., Gaston Lagarde ;
DC., 1941, 56, note, Jean Carbonnier(夫の一方的有責離婚を命じた第一審判決の後、控訴
審の段階で妻が不貞行為をしたことについて、第一審の判決により妻が貞操義務から解放
されたと信じるのは無理のないことであるとして夫からの妻の有責離婚請求を棄却した原
審(CA. Angers, 10 mai 1937, D., 1938, 2, 55, note, Jean Carbonnier)を破棄した事例); etc.
338)1975 年7月 11 日の法律による改正の直後には、不貞行為が絶対的な離婚原因とされて
いたそれ以前の法状況の影響を受けて、不貞行為が証明されたときには離婚(および別居)
原因としてのフォートの存在も推定されると理解しているかのようにみえる裁判例も存在
した。Ex. Cass. 2ème civ., 17 oct. 1979, no78 14.080 ; Bull. civ., II, no240 ; RTD civ., 1980, 334,
chr., Roger Nerson ; Cass. 2ème civ., 23 avril 1980, no78 16.636 ; Bull. civ., II, no80 ; etc. 学説で
は、現在においても、このような評価をするものもあるが(Ex. Mignon Colombet, supra
note 304, no8, p.9)、実定法の理解としては適切でない。
339)CA. Toulouse, 18 nov. 1991, RTD civ., 1993, 103, chr., Jean Hauser(和解不成立のオルド
ナンス後には貞操義務が消滅するとの理由によりその後の不貞行為が離婚原因としての
フォートに該当しないとされた事例); CA. Paris, 4 oct. 2000, Dr. fam., mars 2001, com., 28,
note, Hervé Lécuyer(和解不成立のオルドナンスの後には貞操義務の拘束力が弱まるとの
理由によりその後の妻による不貞行為が離婚原因としてのフォートに該当しないとされた
事例); CA. Montpellier, 18 nov. 2008, Gaz. Pal., 2009, 2105(離婚訴訟が長期間にわたり続く

95

論説(白石)

場 346)を変更して、不貞関係を維持する目的でのコンキュビーヌへの恵与等の
コーズは良俗に反するものではないとしたり 347)、配偶者を持つ者がした結婚
相談所への入会契約は公序良俗に反するコーズを持つものとして無効になるわ
けではないとしたり 348)、不貞行為の暴露や非難はそれだけでは名誉毀損を構

(前頁からつづき)
こと、別居を認めるオルドナンスが出されたことは、必然的に貞操義務の拘束力を弱める
との理由により、上記のオルドナンスから2年後にされた不貞行為が離婚原因としての
フォートに該当しないとされた事例); etc. 貞操義務以外の人格的義務の違反について、Cf.
CA. Bordeaux, 7 déc. 2004, Dr. fam., avril 2005, com., 77, note, Virginie Larribau Terneyre
(事
実上の別居は妻によるその後の行為からフォートの性格を奪うとされた事例); etc.
340)Gaël Henaff, La communauté de vie du couple en droit français, RTD civ., 1996, pp.551 et
s. ; Serra et Williatte Pellitteri, infra note 341, pp.833 et s. ; etc.
341)和解不成立のオルドナンス、離婚訴訟の提起、事実上の別居等は、配偶者相互に人格
的義務を免れさせ、その違反につき免責の効果を付与するものではない。Cass. 2ème civ., 17
juill. 1975, no74 14.135 ; Bull. civ., II, no226(和解不成立のオルドナンス後の夫による不貞行
為が離婚原因としてのフォートに該当するとした原審を維持した事例); Cass. 2ème civ., 29
avril 1982, D., 1982, IR., 406(離婚訴訟提起後の妻による不貞行為が離婚原因としてのフォー
トに該当しないとした原審を破棄した事例); Cass. 2ème civ., 12 juin 1987, no86 13.659 ; D.,
1987, IR., 160 ; RTD civ., 1989, 46, chr., Jacqueline Rubellin Devichi(和解不成立のオルドナ
ンス後に夫がほかの女性と生活を開始したことは離婚原因としてのフォートに該当しない
とした原審を破棄した事例); Cass. 2ème civ., 27 oct. 1993, no92 13.408 ; JCP., 1994, II, 22260,
note, Patricia Lemasson Bernard ; RTD civ., 1994, 571, chr., Jean Hauser(和解不成立のオル
ドナンス後の夫による不貞行為が離婚原因としてのフォートに該当しないとした原審を破
棄した事例); Cass. 2ème civ., 3 mai 1995, no93 13.358 ; Bull. civ., II, no130 ; RTD civ., 1995, 607,
chr., Jean Hauser ; D., 1996, som., 63, obs., Édith Blary Clément ; Defrénois, 1996, art. 36272,
325, note, Jacques Massip(和解不成立のオルドナンス後に夫がほかの女性と生活を開始し
その女性との間で子をもうけたことは離婚原因としてのフォートに該当するとした原審を
維持した事例); Cass. 2ème civ., 6 mars 1996, no94 17.596 ; Bull. civ., II, no60(離婚訴訟提起後
の夫による不貞行為が離婚原因としてのフォートに該当しないとした原審を破棄した事
例); Cass. 2ème civ., 4 juin 1997, no95 19.401(和解不成立のオルドナンス後の妻による不貞
行為が離婚原因としてのフォートに該当するとした原審を維持した事例); Cass. 2ème civ., 24
juin 1998, no96 10.566 ; Dr. et pat., oct. 1998, 87, obs., Alain Bénabent(離婚訴訟提起後の妻
による不貞行為が離婚原因としてのフォートに該当しないとした原審を破棄した事例);
Cass. 2ème civ., 15 juin 2000, no98 20.622 ; Dr. fam., oct. 2000, com., 111, note, Hervé Lécuyer

96

フランス法における家族のメンバーに対する民事責任⑵

成しないとしたりする 349)等、判例上、夫婦外の第三者との関係でその拘束力
を弱める動向が顕著にみられることを想起するとき 350)、夫婦間においても、
一定の範囲という限定は付くものの 351)、貞操義務の強度を弱化させる傾向が
観察されると理解するのが正当である 352)。そして、こうした傾向が強くなっ
(前頁からつづき)
(事実上の別居後に夫がほかの女性と生活を開始したことは離婚原因としてのフォートに
該当しないとした原審を破棄した事例); Cass. 1re civ., 3 nov. 2004, supra note 296(離婚訴訟
提起後の夫による不貞行為が離婚原因としてのフォートに該当しないとした原審を破棄し
た事例); Cass. 1re civ., 8 mars 2005, no03 20.235(同上); Cass. 1re civ., 11 juill. 2006, no05
19.080(離婚訴訟提起後の妻による不貞行為が離婚原因としてのフォートに該当するとし
た原審を維持した事例); Cass. 1re civ., 5 mars 2008, no07 15.516 ; Bull. civ., I, no63 ; D., 2008,
922 ; AJ fam. avril 2008, 162, obs., Stphanie David(離婚訴訟提起後の夫による不貞行為が離
婚原因としてのフォートに該当しないとした原審を破棄した事例); Cass. 1re civ., 9 juill.
2008, no07 19.714 ; RTD civ., 2008, 661, chr., Jean Hauser ; AJ fam., nov. 2008, 434, obs., L. G. ;
D., 2009, 832, chr., Guillaume Serra et Lina Williatte Pellitteri( 同 上 ); Cass. 1re civ., 13 fév.
2013, no11 28.671(事実上の別居中の夫による不貞行為を考慮することなく妻からの夫の
一方的有責離婚の請求を棄却した原審を破棄した事例); Cass. 1re civ., 1er avril 2015, no14
12.823 ; Gaz. Pal., 2015, 1826, note, Delphine Hornecker ; AJ fam., juin 2015, 341, obs., Benoît
de Boysson(和解不成立のオルドナンス後の不貞行為を理由に双方的有責離婚を認めた原
審を維持した事例); Cass. 1re civ., 9 nov. 2016, no15 27.968 ; D., 2017, 1089, chr., Jean Jacques
Lemouland et Daniel Vigneau ; JCP., 2017, 186, chr., Marie Lamarche ; Dr. fam., janv. 2017,
com., 1, note, Jean René Binet ; AJ fam., janv. 2017, 67(離婚訴訟提起後の夫による不貞行為
が離婚原因としてのフォートに該当しないとした原審を破棄した事例); Cass. 1re civ., 11
avril 2018, no17 17.575 ; AJ fam., juin 2018, 348, obs., Jérémy Houssier(夫がほかの女性と生
活を開始してから1か月後に妻が出会い系サイトに登録してほかの男性と出会いこの男性
と生活を開始したことを理由に双方的有責離婚を認めた原審を維持した事例); etc.
 下級審の裁判例として、TC. Castel Sarrazin, 8 avril 1864, supra note 279 ; CA. Toulouse,
29 juin 1864, supra note 279 ; CA. Riom, 12 fév. 1985, Gaz. Pal., 1985, 2, som., 237(事実上の
別居後の不貞行為が離婚原因としてのフォートに該当するとされた事例); CA. Dijon, 27
mars 1986, D., 1987, som., 276(同上); CA. Riom, 12 sept. 2000, Dr. fam., mars 2001, com.,
28, note, Hervé Lécuyer(和解不成立のオルドナンスの数か月後から夫がほかの女性と生活
を開始したことは離婚原因としてのフォートに該当するとされた事例); CA. Paris, 2 déc.
2009, supra note 15(和解不成立のオルドナンス後の夫による不貞行為が離婚原因としての
フォートに該当するとされた事例); CA., Pau, 29 mai 2012, Dr. fam., mars 2013, com., 36,
note, Virginie Larribau Terneyre(同上); CA. Aix en Provence, 27 nov. 2012, supra note 285

97

論説(白石)

ていることには、夫婦とその間に生まれた子からなる家族を優遇する思想が排
除されたこと等にみられるような貞操義務における指導的公序としての側面の
後退という観点に加えて 353)、夫婦それぞれの性的自由の尊重という観点が作
(前頁からつづき)
(離婚手続中の夫による不貞行為が離婚原因としてのフォートに該当するとされた事例);
CA. Douai, 28 fév. 2013, RTD civ., 2013, 583, chr., Jean Hauser ; Dr. fam., juin 2013, com., 83,
note, Jean René Binet(和解不成立のオルドナンス後の妻による不貞行為が離婚原因とし
てのフォートに該当するとされた事例); CA. Paris, 17 nov. 2016, D., 2017, 1089, chr., Jean
Jacques Lemouland et Daniel Vigneau : Dr. fam., janv. 2017, com., 2, note, Jean René Binet
(事
実上の別居後の夫による不貞行為が離婚原因としてのフォートに該当するとされた事例);
etc. な お、Cf. T. de corr. Laval, 9 janv. 1948, JCP., 1948, II, 4119 ; RTD civ., 1948, 206, chr.,
Gaston Lagarde(姦通罪の成否との関連で、離婚判決の確定まで貞操義務が存続するとさ
れた事例); CA. Douai, 22 sept. 1994, D., 1996, som., 63, obs., Édith Blary Clément(事案の
詳 細 は 不 明 で あ る が、 離 婚 手 続 の 終 了 ま で 貞 操 義 務 が 存 続 す る と さ れ た 事 例 ); CA.
Besançon, 7 sept. 1999, Dr. fam., mars 2001, com., 28, note, Hervé Lécuyer(同上); etc.
 また、貞操義務以外の人格的義務の違反について、Cf. Cass. 2ème civ., 8 juin 1955, JCP.,
1955, II, 8828(和解手続開始後の侮辱行為が離婚原因としてのフォートに該当しないとし
た原審を破棄した事例); Cass. 2ème civ., 20 oct. 1955, JCP., 1955, II, 8982(離婚訴訟提起後の
侮辱行為が離婚原因としてのフォートに該当するとされた事例); Cass. 2ème civ., 31 janv.
1973, D., 1974, jur., 3, note, Odile L huillier(和解不成立のオルドナンス後の妻による侮辱行
為が離婚原因としてのフォートに該当するとされた事例); Cass. 2ème civ., 2 fév. 1977, no75
13.059 ; Bull. civ., I, no23(離婚訴訟提起後の夫による扶養義務違反を考慮することなく妻か
らの離婚請求を棄却した原審を破棄した事例); Cass. 2ème civ., 2 oct. 1980, no79 12.634 ; Bull.
civ., II, no192(和解不成立のオルドナンス後の行為が離婚原因としてのフォートに該当し
ないとした原審を破棄した事例); Cass. 2ème civ., 15 déc. 1982, no81 15.991 ; Bull. civ., II,
no164(事実上の別居後の夫による行為が離婚原因としてのフォートに該当しないとした原
審を破棄した事例); Cass. 2ème civ., 18 juin 1997, no95 22.317 ; Bull. civ., II, no189 ; RTD civ.,
1998, 80, chr., Jean Hauser(離婚訴訟提起後の夫による犯罪行為が離婚原因としてのフォー
トに該当するとした原審を維持した事例); Cass. 2ème civ., 23 sept. 1999, no98 12.028 ; Bull.
civ., II, no141 ; JCP., 1999, IV, 2816 ; Dr. fam., déc. 1999, com., 139, note, Hervé Lécuyer ; Gaz.
Pal., 2000, 13 ; RTD civ., 2000, 91, chr., Jean Hauser(離婚訴訟提起後の妻による行為が離婚
原因としてのフォートに該当しないとした原審を破棄した事例); Cass. 1re civ., 20 sept.
2006, no04 17.743 ; Bull. civ., I, no410 ; D., 2007, 616, chr., Guillaume Serra(離婚訴訟提起後
の妻による侮辱行為が離婚原因としてのフォートに該当するとした原審を維持した事例);
Cass. 1re civ., 14 avril 2010, no09 14.006 ; AJ. fam., juill. août 2010, 328, obs., Mikaël Benillouche

98

フランス法における家族のメンバーに対する民事責任⑵

用している 354)。
また、生活共同義務の一部として位置付けられる配偶者と性的な関係を持つ
義務との関連でも 355)、裁判例は、性的な関係を持つことについての拒絶から
(前頁からつづき)
(離婚訴訟提起後の夫による場違いな行為が離婚原因としてのフォートに該当しないとし
た原審を破棄した事例); Cass. 1re civ., 20 oct. 2010, no08 21.913(和解不成立のオルドナン
ス後の妻による卑劣な言動が離婚原因としてのフォートに該当しないとした原審を破棄し
た事例); etc.
342)Pierre Molinié, Situation juridique de la femme abandonnée de son mari, Ar thur
Rousseau, Paris, 1935, pp.40 et s. ; Maury, supra note 283, no13, p.525 ; Laurent Leveneur,
Situations de fait et droit privé, préf. Michelle Gobert, Bibliothèque de droit privé, t.212,
LGDJ., Paris, 1990, no333, p.410 et no340, p.417 ; Hauser et Huet Weiller, supra note 296,
nos604 et s., pp.516 et s. ; H. et L. Mazeaud, J. Mazeaud et Leveneur, supra note 250, no1534,
p.812 ; Colombet, supra note 250, no300, p.380 ; Niboyer, supra note 281, no302, p.167 ;
Garrigue, supra note 290, nos585 et s., pp.503 et s. ; Yvaine Buffelan Lanore et Kiteri Garcia,
Cas de divorce. ─ Divorce pour faute. ─ Faits imputables à un époux : définition, caractères
et appréciation, J. CL., Civil Code, Art. 242 et 247 2, Fasc. 10, 2014, no13, pp.6 et s. et no28,
p.11 ; Ids., supra note 309, no105, p.36 et s. ; Caroline Watine Drouin, Séparation de corps. ─
Causes. Procédure. Effets, J. CL., Civil Code, Art. 296 à 304, Fasc. unique, 2016, nos72 et s.,
pp.26 et s. ; Terré, Goldie Genicon et Fenouillet, supra note 211, no345, p.298 ; Bénabent,
supra note 264, no192, p.157 et no202, p.163 ; etc.
343)Cass. 2ème civ., 29 avril 1994, no92 16.814 ; Bull. civ., II, no123 ; RTD civ., 1994, 571, chr.,
Jean Hauser ; Defrénois, 1995, art. 36210, 1375, note, Jacques Massip(和解不成立のオルド
ナンスから2年後の夫による不貞行為が離婚原因としてのフォートに該当しないとした原
審 の 判 断 を 専 権 的 評 価 に よ る も の と し て 維 持 し た 事 例。 こ の 判 決 に つ い て は、Cf.
Véronique Balestriero, Le devoir de fidélité pendant la procédure de divorce, PA., 8 nov. 1995,
pp.17 et s.); Cass. 2ème civ., 22 mars 1995, RTD civ., 1995, 607, chr., Jean Hauser ; D., 1996,
som., 64, obs., Édith Blary Clément(夫が正当な理由なく別居を開始した後の妻による不
貞行為が離婚原因に該当しないとした原審を維持した事例); Cass. 2ème civ., 25 nov. 1999,
no98 12.796(事実上の別居後に夫がほかの女性と生活を開始したことは離婚原因としての
フォートに該当しないとした原審の判断を専権的評価によるものであるとして維持した事
例); Cass. 2ème civ., 20 avril 2000, no98 15.786(妻が正当な理由なく別居を開始した後の夫に
よる不貞行為が離婚原因としてのフォートに該当しないとした原審の判断を専権的評価に
よるものとして維持した事例); Cass. 2ème civ., 15 juin 2000, no98 21.110(同上); Cass. 2ème
civ., 7 mai 2002, no00 10.030(和解不成立のオルドナンス後の妻による不貞行為が離婚原因

99

論説(白石)

直ちに離婚(および別居)原因としてのフォートを導くのではなく 356)、当該
拒絶に正当な理由があったかどうかを慎重に判断した上でフォートの有無を評
価しており 357)、このことは、個人としての自律や自由を意識して 358)一定の場
面で性的な関係を持つ義務が弱められていることを示している。そして、個人

(前頁からつづき)
としてのフォートに該当しないとした原審の判断を専権的評価によるものとして維持した
事例); Cass. 1re civ., 30 mars 2004, no03 11.334(妻が正当な理由なく別居を開始した後の夫
による不貞行為が離婚原因としてのフォートに該当しないとした原審の判断を専権的評価
によるものとして維持した事例); Cass. 1re civ., 11 juin 2008, no07 17.431(和解不成立のオ
ルドナンス後の夫による不貞行為が離婚原因としてのフォートに該当しないとした原審の
判断を専権的評価によるものとして維持した事例); etc.
 下級審の裁判例として、CA. Paris, 10 oct. 1990, D., 1990, IR., 265(夫がほかの女性と生活
を開始した後にされた妻による不貞行為が離婚原因としてのフォートに該当しないとされ
た事例); CA. Douai, 28 janv. 1999, Dr. fam., déc. 1999, com., 139, note, Hervé Lécuyer(別居
の開始から3年半余りが経過した後、離婚訴訟の係属中の妻による不貞行為が離婚原因と
してのフォートに該当しないとされた事例); CA. Pau, 1er juin 2004, Dr. fam., déc. 2004,
com., 226, note, Virginie Larribau Terneyre(妻による不貞行為が事実上の別居前にされた
ものであることが明らかにされていないことを理由に当該行為が離婚原因としてのフォー
ト に 該 当 し な い と さ れ た 事 例 ); CA. Douai, 27 sept. 2007, RTD civ., 2008, 280, chr., Jean
Hauser ; Dr. fam., fév. 2008, com., 27, note, Virginie Larribau Terneyre(夫が妻を5年余り
にわたり放置した後にされた妻による不貞行為が離婚原因としてのフォートに該当しない
とされた事例); CA. Amiens, 19 mai 2010, supra note 307(離婚手続が長期に及んだこと等
を理由に和解不成立のオルドナンスから長期間経過した後の妻による不貞行為が離婚原因
としてのフォートに該当しないとされた事例); CA. Pau, 19 nov. 2012, Dr. fam., mars 2013,
com., 36, note, Virginie Larribau Terneyre(別居の開始から 20 年あまりが経過した後の夫
による不貞行為が離婚原因としてのフォートに該当しないとされた事例); CA. Douai, 14
mars 2013, Dr. fam., juin 2013, com., 83, note, Jean René Binet(和解不成立のオルドナンス
後の夫による不貞行為が離婚原因としてのフォートに該当しないとされた事例); CA.
Bordeaux, 9 sept. 2014, supra note 285 ; CA. Aix en Provence, 11 déc. 2014, Dr. fam., mars
2015, com., 47, note, Anne Claire Réglier(妻が仕事のために夫婦の住居を離れ両者の愛情
が薄れた後の夫による不貞行為が離婚原因としてのフォートに該当しないとされた事例);
CA. Rouen, 22 oct. 2015, supra note 285(和解不成立のオルドナンス後の夫による不貞行為
が離婚原因としてのフォートに該当しないとされた事例); etc.
344)Villa Nys, supra note 304, pp.93 et s. ; Mignon Colombet, supra note 304, no10, pp.9 et s.

100

フランス法における家族のメンバーに対する民事責任⑵

としての自律や自由への配慮という観点をより強調し、夫婦間の性的侵害に関
する刑法典の規律の変容を強く意識しながら 359)、この問題を民法典でも深刻
345)Cass. 2ème civ., 5 juill. 2001, no99 21.445 ; Bull. civ., II, no136 ; D., 2001, 2363 ; RTD civ.,
2001, 856, chr., Jean Hauser ; RTD civ., 2001, 893, chr., Patrice Jourdain ; RCA., oct. 2001,
com., 277 ; D., 2002, 1318, obs., Philippe Delebecque ; JCP., 2002, II, 10139, note, Dimitri
Houtcieff ; PA., 6 août 2002, 15, note, Didier R. Martin ; Defrénois, 2003, art. 37657, 119, note,
Jacques Massip. また、Cf. Cass. 2ème civ., 4 mai 2000, no95 21.567 ; JCP., 2000, II, 10356, note,
Thierry Garé ; RTD civ., 2000, 810, chr., Jean Hauser ; etc. この問題については、拙稿「家族
の保護⑴」246 頁以下での整理を参照。
346)かつての判例は、当該恵与が不道徳な関係の形成、継続、回復を目的としてされたも
のであるときはそれを無効とし(Cass. req., 2 fév. 1853, D., 1853, 1, 57(コンキュビーヌへ
の恵与); Cass. req., 4 mars 1914, D., 1916, 1, 27(コンキュビーヌへの包括受遺指定); Cass.
civ., 11 avril 1932, D., 1932, 1, 169, note, René Savatier(コンキュビーヌへの恵与); Cass. civ.,
14 oct. 1940, DH., 1940, jur., 174 ; Gaz. Pal., 1940, 2, jur., 165(同上); Cass. 1re civ., 8 oct. 1957,
JCP., 1957, II, 10234 ; D., 1958, jur., 317, note, Paul Esmain ; RTD civ., 1958, 73, chr., Henri et
Léon Mazeaud(コンキュビーヌを受益者とする生命保険契約); Cass. 1re civ., 6 janv. 1964,
no62 10.542 ; Bull. civ., I, no12(コンキュビーヌへの恵与); Cass. 1re civ., 25 janv. 1972, no70
12.679 ; Bull. civ., I, no25 ; D., 1972, jur., 413, note, Philippe Le Tourneau(愛人への仮装贈与);
Cass. 1re civ., 3 fév. 1976, no74 13.138 ; Bull. civ., I, no51(コンキュビーヌを受益者とする生命
保険契約); Cass. 1re civ., 8 nov. 1982, no81 13.815 ; Bull. civ., I, no321(同上); etc.)、そうで
ないときには、その効力を認めていた(Cass. civ., 11 mars 1918, D., 1918, 1, 100 ; S., 1918
1919, 1, 170 ; RTD civ., 1919, 508, chr., René Demogue(関係維持の目的について証明の不存
在); Cass. req., 8 juin 1926, DH., 1926, jur., 362 ; D., 1927, 1, 113, note, René Savatier(損害の
賠償という目的); Cass. civ., 20 juill. 1936, DH., 1936, jur., 441(良心の義務の履行という目
的。原審(CA. Paris, 8 juill. 1926, S., 1926, 2, 91)も同旨である); Cass. req., 12 janv. 1937,
DH., 1937, jur., 145(同上); Cass. 1re civ., 16 oct. 1956, Bull. civ., I, no353 ; JCP., 1957, II, 9707
(同上); Cass. 1re civ., 6 oct. 1959, JCP., 1959, II, 11305, obs., Paul Esmain ; D., 1960, jur., 515,
note, Philippe Malaurie(同上); Cass. 1re civ., 14 nov. 1960, no58 11.304 ; Bull. civ., I, no494(コ
ンキュビーヌではなく事業の協力者への恵与); Cass. 1re civ., 14 nov. 1961, no59 12.988 ; Bull.
civ., I, no526 ; D., 1962, som., 69(良心の義務の履行という目的); Cass. 1re civ., 22 déc. 1965,
no64 11.103 ; Bull. civ., I, no730(同上); Cass. 1re civ., 16 oct. 1967, JCP., 1967, II, 15287(同上);
Cass. 1re civ., 19 mars 1975, no73 13.984 ; Bull. civ., I. no119(コンキュビーヌの生活への配慮
という目的); Cass. 1re civ., 8 juill. 1975, no73 13.192 ; Bull. civ., I, no225(関係維持の目的につ
いて証明の不存在); Cass. 1re civ., 22 oct. 1980, no79 14.744 ; Bull. civ., I, no269(同上); Cass.
1re civ., 4 nov. 1982, no81 15.738 ; Bull. civ., I, no319(良心の義務の履行という目的); CA. Paris,

101

論説(白石)

なものとして受け止める方向を目指すのであれば、夫婦が相互に性的な関係を
持つ義務を負うという考え方それ自体に疑問も生じてくる 360)。
このような個人としての自律や自由を背景とした義務の弱化は、婚姻と生殖
(前頁からつづき)
19 nov. 1974, D., 1975, jur., 614, concl., Jean Cabannes ; JCP., 1976, II, 18412, obs., Hervé
Maurice Synvet(同上); etc. 事案に即した判断であるが、Cf. Cass. req., 26 mars 1860, D.,
1860, 1, 255. また、恵与のコーズが問題となった事案ではないが、Cf. Cass. 1re civ., 11 janv.
1983, no81 16.307 ; Bull. civ., I, no15 ; JCP., 1984, II, 20127, obs., François Boulanger ; Cass. 1re
civ., 29 fév. 1984, no82 15.712 ; Bull. civ., I, no81 ; D., 1985, jur., 601, note, Didier Martin ; JCP.,
1985, II, 20443, obs., Raymond Le Guidec ; etc.)。
347)Cass. 1re civ., 3 fév. 1999, no96 11.946 ; Bull. civ., I, no43 ; D., 1999, jur., 267, rapport, Xavier
Savatier et note, Jean Pierre Langlade O sughrue ; D., 1999, som., 307, obs., Michel
Grimaldi ; D., 1999, som., 377, obs., Jean Jacques Lemouland ; JCP., 1999, II, 10083, note,
Marc Billiau et Grégoire Loiseau ; JCP., 1999, I, 160, chr., Hubert Bosse Platière ; JCP. éd. N.,
1999, 723 ; JCP. éd. N., 1999, 1430, note, François Sauvage ; RTD civ., 1999, 364 et 817, chr.,
Jean Hauser ; RTD civ., 1999, 892, chr., Jean Pararin ; Defrénois, 1999, art. 36998, 680, note,
Jacques Massip ; Defrénois, 1999, art. 37008, 738, note, Denis Mazeaud ; Defrénois, 1999, art.
37017, 814, note, Gérard Champenois ; Dr. fam., mai 1999, com., 54, note, Bernard Beignier ;
PA., 17 nov. 1999, 10, note, Michèle Mestrot ; Gaz. Pal., 2000, 70, note, Stéphane Piedelièvre ;
Gaz. Pal., 2000, 646, note, François Chabas(コンキュビーヌへの恵与。この判決については、
Cf. Christian Larroumet, La libéralité consentie par un concubin adultère, D., 1999, chr.,
pp.351 et s. ; Laurent Leveneur, Une Libéralité consentie pour maintenir une relation adultère
peut elle être valable ?, JCP., 1999, I, 152, pp.1333 et s.); Cass. ass. plén., 29 oct. 2004, no03
11.238 ; Bull. ass. plén., no12 ; D., 2004, 2972 ; D., 2004, 3175, note, Daniel Vigneau ; Defrénois,
2004, art. 38073, 1732, note, Rémy Libchaber ; Dr. fam., déc. 2004, com., 230, note, Bernard
Beignier ; D., 2005, 813, chr., Jean Jacques Lemouland et Daniel Vigneau ; JCP., 2005, II,
10011, note, François Chabas ; RTD civ., 2005, 104, chr., Jean Hauser ; Defrénois, 2005, art.
38096, 234, note, Stéphane Piedelièvre ; Defrénois, 2005, art. 38183, 1045, note, Véronique
Mikalef Toudic ; CCC., mars 2005, com., 40, note, Laurent Leveneur ; AJ fam., janv. 2005, 23,
obs., Frédéric Bicheron( コンキュビーヌへの包括受遺指定。この判決については、Cf.
Philippe Malaurie, Libéralités, bonnes mœurs et relations adultères(Les voyous du sexe et la
Cour de cassation : le viex polisson pigeonné : à propos de Cass. ass. plén., 29 octobre 2004),
Defrénois, 2006, art. 38305, pp.38 et s.) の ほ か、Cass. 1re civ., 16 mai 2000, no98 15.950 ;
Defrénois, 2000, art. 37229, 1049, note, Jacques Massip ; Dr. fam., sept. 2000, com., 102, note,
Bernard Beignier(コンキュビーヌへの恵与); Cass. 1re civ., 25 janv. 2005, no96 19.878 ; Bull.

102

フランス法における家族のメンバーに対する民事責任⑵

との分離が促進されつつある法状況とも相まって、生殖に関わる義務 361)につ
いても看取される。かつては、夫婦が自然的な生殖に応じる義務を負うことを
前提に、子をもうけることについての拒絶はそれだけでフォートに該当すると
されていたが 362)、現在では、こうした裁判例の立場が維持されているかどう
かは不明であるものの、少なくとも夫婦の一方に不妊の原因がある場面につい
ては、当該配偶者が不妊治療をしたり生殖補助医療を用いたりする義務を負う
ことはなく、不妊治療に応じなかったり、生殖補助医療を利用しなかったりし

(前頁からつづき)
civ., I, no35 ; AJ fam., juin 2005, 234, obs., François Chénedé(コンキュビーヌへの贈与); etc.
また、配偶者を持たない者同士によるコンキュビナージュ間で行われた贈与に関わるもの
であるが、Cf. Cass. 1re civ., 29 janv. 2002, no00 18.987 ; Defrénois, 2002, art. 37548, 681, note,
Jacques Massip ; Dr. fam., juin 2002, com., 64, note, Hervé Lécuyer ; Dr. fam., juill. 2002, com.,
93, note, Bernard Beignier ; CA. Paris, 9 juin 1987, D., 1987, IR., 166 ; etc.
348)Cass. 1re civ., 4 nov. 2011, no10 20.114 ; Bull. civ., I, no191 ; AJ fam., déc. 2011, 614, obs.,
François Chénedé ; D., 2012, 59, note, Rémy Libchaber ; RTD civ., 2012, 93, chr., Jean Hauser ;
RTD civ., 2012, 113, chr., Bertrand Fages ; Dr. fam., fév. 2012, com., 21, note, Daniel Vigneau.
これに対して、かつての裁判例は、こうした契約を無効としていた。Ex. CA. Paris, 1er déc.
1999, D., 2000, som., 415, obs., Jean Jacques Lemouland ; etc.
349)Cass. 1re civ., 17 déc. 2015, no14 29.549 ; Bull. civ., I, no333 ; D., 2016, 77 ; D., 2016, 279,
chr., Emmanuel Dreyer ; D., 2016, 1344, chr., Jean Jacques Lemouland et Daniel Vigneau ;
JCP., 2016, 285, obs., Arnaud Latil ; JCP., 2016, 1724, chr., Adeline Gouttenoire et Marie
Lamarche ; RTD civ., 2016, 81, chr., Jean Hauser ; Dr. fam., mars 2016, com., 42, note, Jean
René Binet ; AJ fam., fév. 2016, 109, obs., Benoît de Boysson(不貞行為が刑事罰の対象から
外れたこと、慣習および道徳の捉え方が変化したことが根拠として挙げられている。また、
Cf. Evan Raschel, La révélation d une infidélité est elle encore une atteinte à l honneur ou à la
considération ?, D., 2016, pp.724 et s.); Cass. 1re civ., 3 nov. 2016, no15 24.879 ; D., 2017, 1089,
chr., Jean Jacques Lemouland et Daniel Vigneau ; Dr. fam., fév. 2017, com., 27, note, Cécile
Berthier(同上); etc.
350)TGI. Paris, 9 fév. 2017, Dr. fam., avril 2017, com., 72, note, Jean René Binet ; AJ. fam., avril
2017, 252, obs., Jérémy Houssier ; D., 2018, 1109, chr., Jean Jacques Lemouland et Daniel
Vigneau は、夫婦間の貞操義務が指導的公序ではなく保護的公序に関わるにすぎないこと
を明示した上で、夫婦の一方が他方と第三者との間の契約の無効を主張するために貞操義
務違反を援用することはできないとする。

103

論説(白石)

たことはフォートに該当しないとされているからである 363)。ここには、生殖
行動をしないことに関する自由への配慮という視点が現れている 364)。そのほ
351)貞操義務は、夫婦外の第三者との関係における効力との対比でみると、夫婦間ではな
お一定の効力を持ち続けている。例えば、受贈者による贈与者への重大な侮辱等があった
場合には生前の贈与の撤回が認められるが(民法典 955 条2号)、判例によれば、夫婦の一
方による不貞行為はこの意味での重大な侮辱に該当し、他方の承継人は一方に対して贈与
の撤回を求めることができる。Cass. 1re civ., 25 oct. 2017, no16 21.136 ; Bull. civ., I, no224 ; D.,
2017, 2206 ; Dr. fam., déc. 2017, com., 247, note, Bernard Beignier ; D., 2018, 1109, chr., Jean
Jacques Lemouland et Daniel Vigneau ; PA., 16 fév. 2018, 7, note, Paul Ludovic Niel et Marcie
Morin.
352)これは、Balestriero, supra note 343, pp.19 et s. がいう貞操義務の拘束力の弱化、Ben
Hadj Yahia, supra note 304, nos774 et s., pp.702 et s. がいう貞操義務の伸縮性に相当する。
353)この観点を強調するものとして、Philippe, supra note 304, pp.3 et s. ; Égéa, supra note
304, no20, pp.661 et s. ; Ben Hadj Yahia, supra note 304, nos682 et s., pp.618 et s. ; Larribau
Terneyre, supra note 309, nos13 et s., pp.11 et s. ; Maïté Saulier, Le droit commun des couples :
Essai critique et prospectif, préf. Anne Marie Leroyer, Bibliothèque de l institut de recherche
juridique de la Sorbonne André Tunc, t.79, IRJS., Paris, 2017, no86, p.96 ; Charles Masson,
L'ordre public familial en péril ?, RTD civ., 2018, nos15 et s., pp.817 et s. ; etc.
354)Antonini Cochin, supra note 304, nos3 et s., pp.23 et s.(ただし、この観点を過度に強調
することに対して疑問を提示する文脈での叙述); Catherine Philippe, Vers un droit commun
des effets du contrat de couple, PA., 20 déc. 2007, pp.18 et s. ; Ruffieux, supra note 133, no52,
pp.59 et s. et no87, pp.90 et s. ; etc. また、貞操義務の削除を主張する文脈での叙述であるが、
Cf. Marie Thérèse Calais Auloy, Pour un mariage aux effets limités, RTD civ., 1988, no8,
pp.257 et s.
355)配偶者と性的な関係を持つ義務を貞操義務の積極的側面として位置付ける見解もある。
Ex. Ben Hadj Yahia, supra note 304, nos682 et s., pp.618 et s.
356)かつての裁判例の中には、特段の審査をすることなく、性的な関係を持つことについ
ての拒絶だけから離婚(および別居)原因としてのフォートを導いているようにみえるも
のもあった。Cass. req., 12 nov. 1900, Gaz. Pal., 1900, 2, jur., 662 ; S., 1901, 1, 80 ; D., 1902, 1,
21(夫が妻と性的な関係を持つことを拒絶していることが離婚原因としてのフォートに該
当するとされた事例); Cass. 2ème civ., 16 déc. 1963, supra note 292(同上); Cass. 2ème civ., 8
oct. 1964, Bull. civ., II, no599(同上); Cass. 2ème civ., 8 oct. 1970, Gaz. Pal., 1971, 1, jur., 26(同
上); Cass. 2ème civ., 10 fév. 1972, D., 1972, jur., 379(妻が夫と性的な関係を持つことを拒絶し
ていることが離婚原因としてのフォートに該当するとされた事例); Cass. 2ème civ., 17 déc.
1997, no96 15.704(同上); etc.

104

フランス法における家族のメンバーに対する民事責任⑵

か、宗教活動や組合活動等への傾倒およびそれらに伴う一定の範囲での人格的
な義務の違反は、それが過剰で共同生活の維持に重大な支障をきたす場合にの
み離婚原因としてのフォートを構成するという解決も、個人としての自律や自
由への配慮という観点から人格的義務の強度を制限した例である 365)。
もう 1 つは、夫婦間の合意または配偶者による同意や許可により婚姻から生
ずる義務が弱められる可能性を示すものである。貞操義務に即していうと、一
般的には、貞操は合意に馴じまないため、あらかじめの合意に基づき夫婦が相

(前頁からつづき)
  下 級 審 の 裁 判 例 と し て、CA. Montpellier, 10 nov. 1897, supra note 299 ; TC. Clemont
Ferrand, 9 août 1900, supra note 299 ; CA. Lyon 28 mai 1956, supra note 325(妻が結婚後7
か月の間に1回しか性的な関係に応じなかったことが離婚原因としてのフォートに該当す
る と さ れ た 事 例 ); CA. Paris, 27 oct. 1959, D., 1960, jur., 144( 同 上 ); CA. Amiens, 3 mars
1975, D., 1975, jur., 706, note, Yves Géraldy(妻が宗教上の信念に基づき性的な関係を持つ
ことを拒絶したことが離婚原因としてのフォートに該当するとされた事例); CA. Paris, 28
fév. 1996, Gaz. Pal., 1996, 2, jur., 445(妻が1年間にわたり性的な関係を持つことを拒絶した
ことが離婚原因としてのフォートに該当するとされた事例); etc. また、Cf. TC. La Roche
sur Yon, 30 oct. 1923, Gaz. Pal., 1923, 2, jur., 751.
357)CA. Aix en Provence, 3 mai 2011, supra note 285(夫による性的な関係を持つことにつ
いての拒絶が健康上の理由によるものでないことを理由に離婚原因としてのフォートに該
当するとされた事例); CA. Paris, 16 avril 2015, Dr. fam., juill. 2015, com., 141, note, Jean
René Binet(夫による性的な関係を持つことについての拒絶が妻から性的な関係を奪う意
思ではなく身体的要因によるものであることを理由に離婚原因してのフォートに該当しな
いとされた事例); etc. また、少し古い事例であるが、Cf. Cass. 2ème civ., 5 nov. 1969, no68
13.246 ; Bull. civ., II, no298 ; D., 1970, jur., 223, note, Georges Wiederkehr(夫による性的な関
係を持つことについての拒絶が夫のフォートに由来するものであるかどうかが探求されて
いないとして、夫の一方的有責離婚を認めた原審を破棄した事例); CA. Paris, 17 avril 1961,
Gaz. Pal., 1961, 2, jur., 67(妻による性的な関係を持つことについての拒絶が妻のフォート
に由来するものではないことを理由に離婚原因としてのフォートに該当しないとされた事
例); etc.
358)Jean Michel Bruguière, Le devoir conjugal : Philosophie du code et morale du juge, D.,
2000, chr., pp.10 et s. は、性的な関係を持つ義務との関連で意思および性的自由の尊重とい
う観点を強調することの重要性を説く。また、Cf. Ducrocq Paywels, supra note 272, no453,
pp.302 et s.

105

論説(白石)

互に貞操義務を免れることはできないとされ 366)、多くの学説もこれを支持す
るが 367)、夫婦の一方が犯した過去の貞操義務違反に関しては、合意や同意の
359)刑法典は、夫婦間においても強制性交等の犯罪が成立しうることを認めた判例(Cass.
crim., 5 sept. 1990, no90 83.786 ; Bull. crim., no313 ; D., 1991, jur., 13, note, Henri Angevin ;
JCP., 1991, II, 21629, obs., Michèle Laure Rassat ; RTD civ., 1991, 301, chr., Jean Hauser ;
Cass. crim., 11 juin 1992, no91 86.346 ; Bull. crim., no232 ; D., 1993, jur., 117, note, Michèle
Laure Rassat ; JCP., 1993, II, 22043, note, Thierr y Garé ; RSC., 1993, 107, chr., Georges
Levasseu)の登場を受けて、2006 年4月4日の法律による改正でそのことを明確にし(同
法による改正後の刑法典旧 222 22 条2項)、その後、2010 年7月9日の法律による改正で
夫婦の性行為に対する同意の推定に関する規律を削除して(同 222 22 条2項)、夫婦間に
おける強制性交等の犯罪についての特別な取扱いを止めている。
360)Cf. Anne Marie Leroyer, Mariage ─ Couple ─ Communauté de vie. Loi no2006 399 du 4
avril 2006, RTD civ., 2006, pp.405 et s. ; Pizarro, supra note 285, Obs. sous CA. Aix en
Provence, 3 mai 2011, p.1927 ; Pierroux, supra note 285, pp.2393 et s. ; etc.
361)この義務一般については、Cf. Garrigue, supra note 290, nos42 et s., pp.45 et s. ; etc.
362)CA. Caen, 26 déc. 1899, S., 1900, 2, 143(夫が妻の知らないうちに避妊具を使用したこと
が離婚原因としてのフォートに該当するとされた事例); TC. Seine, 12 nov. 1948, Gaz. Pal.,
1949, 1, jur., 7(夫が生殖行為を拒絶したことが離婚原因としてのフォートに該当するとさ
れた事例); Cass. 2ème civ., 27 mars 1974, no73 10.788 ; Bull. civ., II, no111 ; JCP., 1974, IV, 178
(妻が夫の知らないうちに妊娠中絶手術を受けたことが離婚原因としてのフォートに該当
するとされた事例); etc.
363)CA. Bordeaux, 1er oct. 1991, JCP., 1992, IV, 1043 ; JCP., 1992, I, 3593, chr., Thierry Garé,
Pierre Murat, Isabelle Sayn, Jacqueline Rubellin Devichi, Sylvie Bernigaud, Hugues
Fulchiron et Olivier Matocq ; RTD civ., 1992, 56, chr., Jean Hauser(不妊治療を拒絶するこ
とが離婚原因としてのフォートに該当しないとされた事例); CA. Aix en Provence, 5 juill.
2005, Dr. fam., nov. 2005, com., 247, note, Virginie Larribau Terneyre(生殖補助医療を拒絶
することが離婚原因としてのフォートに該当しないとされた事例); etc. 一部の裁判例は、
不妊治療の拒絶それ自体からフォートの存在を導くが(CA. Bordeaux, 7 juin 1994, RTD
civ., 1994, 836, chr., Jean Hauser ; D., 1996, som., 63, obs., Édith Blary Clément ; JCP., 1996,
II, 22590, note, Joëlle Vassaux)、個人の自律や自由の保護という観点からみると問題がある
(Cf. Vassaux, supra, pp.91 et s.)。もちろん、夫婦が生殖補助医療を用いることに同意し、
これを開始した後に、一方が正当な理由なく突然これを打切って別居を開始した等の事情
があれば、別である(Ex. CA. Paris, 27 juin 2013, Dr. fam., déc. 2013, com., 164, note, Claire
Neirinck)。
364)Garrigue, supra note 290, nos42 et s., pp.45 et s.

106

フランス法における家族のメンバーに対する民事責任⑵

存在、場合によっては他方による黙認を理由に、これをフォートとして取り上
げることを否定した裁判例がある 368、369)。この解決では、単に一方が貞操義務
に違反したことではなく、一方が他方のあずかり知らないところで貞操義務に
違反したことが、フォートとして捉えられていることになる 370)。なお、離婚
365)Cass. req., 19 juill. 1909, D., 1909, 1, 503(宗教への傾倒が過剰であること、家庭が放棄
されたこと、妻からの要請が無視されたことを理由に、離婚原因としてのフォートを認め
た原審を維持した事例); Cass. 2ème civ., 19 juin 1975, D., 1975, IR., 208 ; Gaz. Pal., 1975, 2, jur.,
721, note, Pierre Barbier(宗教への傾倒が過剰であること、そのために家族の生活が混乱
したことを理由に、離婚原因としてのフォートを認めた原審を維持した事例); Cass. 2ème
civ., 25 janv. 1978, Gaz. Pal., 1978, 2, jur., 505, note, Pierre Barbier(同上); Cass. 2ème civ., 8
nov. 1995, no94 10.685 ; Bull. civ., II, no271;RTD civ., 1996, 367, chr., Jean Hauser ; Defrénois,
1997, art. 36516, 300, note, Jacques Massip(密教への入信が離婚原因としてのフォートに該
当するとした原審について、夫婦生活に対する影響の有無が評価されていないとして破棄
した事例); Cass. 2ème civ., 9 oct. 1996, no95 10.461 ; Bull. civ., II, no224 ; JCP., 1997, I, 4045,
chr., Hubert Bosse Platière ; RTD civ., 1997, 103, chr., Jean Hauser(宗教への傾倒が過剰で
あること、そのために家族の生活が混乱したことを理由に、離婚原因としてのフォートを
認めた原審(CA. Montpellier, 7 nov. 1994, JCP., 1995, I, 3855, chr., Sylvie Ferré André ; JCP.,
1996, II, 22680, note, Jean Michel Bruguière ; RTD civ., 1996, 368, chr., Jean Hauser)を維持
し た 事 例 ); Cass. 1re civ., 19 juin 2007, no05 18.735 ; Dr. fam., sept. 2007, com., 168, note,
Virginie Larribau Terneyre ; D., 2008, 807, chr., Lina Williatte Pellitteri(同上); etc.
 下級審の裁判例として、TC. Seine, 18 juin 1945, Gaz. Pal., 1945, 2, jur., 38 ; RTD civ., 1945,
184, chr., Gaston Lagarde(特定の宗教団体に加入することは離婚原因としてのフォートに
該当しないとされた事例); CA. Nîme, 10 juin 1967, D., 1969, jur., 366, note, Jean Carbonnier :
RTD civ., 1969, 552, chr., Roger Nerson(宗教への傾倒が過剰であること、その結果、配偶
者への関心が失われたことを理由に離婚原因としてのフォートを認めた事例); CA. Paris,
12 janv. 1972, D., 1972, jur., 217, note, J. C. ; RTD civ., 1972, 762, chr., Roger Nerson(同上);
CA. Paris, 5 janv. 1973, Gaz. Pal., 1973, 1, jur., 465, note, Pierre Barbier(同上); CA. Paris, 11
juin 1976, Gaz. Pal., 1976, 2, som., 317( 同 上 ); CA. Douai, 12 oct. 1984, D., 1985, jur., 523,
note, Edith Blary Clémen(組合活動への傾倒が過剰であること、そのために夫婦生活に甚
大な影響が生じていることを理由に、離婚原因としてのフォートを認めた事例); CA.
Grenoble, 4 juin 1991, JCP., 1991, II, 21744, note, Jean Hauser ; RTD civ., 1991, 710, chr., Jean
Hauser et Danièle Huet Weiller(宗教団体への加入により夫婦生活に有害な影響が生じた
ことが証明されていないことを理由に離婚原因としてのフォートを否定した事例); CA.
Dijon 23 sept. 1997, JCP., 1998, IV, 3143 ; RTD civ., 1999, 69, chr., Jean Hauser(宗教団体への
加入はそれ自体で離婚原因としてのフォートに該当しないとされた事例); etc.

107

論説(白石)

原因として援用することができる事実があった後に夫婦間で和解がされると、
和解後に発生したり発見されたりした事実がある場合を除き、当該事実を離婚
原因として援用することができなくなる旨を規定した民法典 244 条も、同様の
366)Cass. 2ème civ., 19 nov. 1997, no96 12.631(別々に暮らすことについての夫婦間の合意は
貞操義務違反を正当化するものではないとされた事例); CA. Grenoble, 3 mai 2000, Dr. fam.,
mars 2001, com., 28, note, Hervé Lécuyer(同上); CA. Bordeaux, 7 nov. 2000, RTD civ., 2002,
78, chr., Jean Hauser(同上); CA. Aix en Provence, 30 mars 2004, Dr. fam., mai 2005, com.,
107, note, Virginie Larribau Terneyre(同上); etc. また、生活共同義務について、Cf. CA.
Orléans, 17 oct. 2006, mai 2007, com., 109, note, Virginie Larribau Terneyre(夫がほかの女
性と生活をすることについて妻による許可があったことは夫による生活共同義務の違反を
正当化するものではないとされた事例); etc.
367)Carole Edon Lamballe, La situation juridique de ceux par qui le scandale arrive :
Réflexions sur l adultère, RRJ., 2002, pp.80 et s. ; Cornu, supra note 250, La famille, no29, p.56 ;
Solange Mirabail, Les obligations personnelles au sein du couple, in, Les états généraux du
mariage : L évolution de la conjugalité, sous la dir. Claire Neirinck, PUAM., Aix en Provence,
2008, pp.122 et s. ; Niboyer, supra note 281, nos302 et s., pp.167 et s. ; Garrigue, supra note 290,
nos607 et s., pp.517 et s. ; Ben Hadj Yahia, supra note 304, nos695 et s., pp.628 et s. et nos703 et
s., pp.637 et s. ; Moracchini Zeidenberg, supra note 281, no11, p.780 ; Malaurie et Fulchiron,
supra note 244, no1476, pp.691 et s. ; Bénabent, supra note 264, no151, p.128 ; etc. また、人格
的義務一般について、Cf. Buffelan Lanore et Garcia, supra note 342, no53, p.17 ; etc.
368)Cass. 2ème civ., 27 mars 1963, no62 11.068 ; Bull. civ., II, no287(夫による同性との不貞行
為の後も妻が5年にわたり夫と生活をともにしてきたことを踏まえて当該不貞行為が離婚
原因としてのフォートに該当しないとされた事例); Cass. 2ème civ., 4 juill. 1973, no72 12.110 ;
Bull. civ., II, no214(他方による黙認が存在する場合には一方による不貞行為は離婚原因と
してのフォートに該当しなくなるとして、黙認が相互的でないことを理由に夫による黙認
を考慮することなく妻による不貞行為が離婚原因としてのフォートに該当するとした原審
を破棄した事例); Cass. 2ème civ., 21 juin 1979, no78 14.005 ; Bull. civ., II, no193(他方による
黙認が存在することを理由に一方による不貞行為が離婚原因としてのフォートに該当しな
いとされた事例); Cass. 1re civ., 22 nov. 2005, no05 12.126 ; Dr. fam., janv. 2006, com., 7(10 年
以上前の夫による不貞行為について妻がその当時何も不平を述べなかったことを踏まえて
当該不貞行為が離婚原因としてのフォートに該当しないとされた事例); etc. また、Cf.
Cass. 2ème civ., 15 avril 1970, no69 12.576 ; Bull. civ., II, no120(妻が夫から問い詰められたに
もかかわらず不貞行為を継続してきたという事情の下では、夫が妻による不貞行為を黙認
したとみることはできず、妻による不貞行為は離婚原因としてのフォートに該当するとさ
れた事例); etc.

108

フランス法における家族のメンバーに対する民事責任⑵

趣旨に基づく 371)。また、これらの諸解決を発展的に捉え直すことを通じて、
実定法が合意による貞操義務の排除を認める方向に向かいつつあるとの評価を
示し 372)、これを積極的に推進しようとする見解があるほか 373)、裁判例の中に
は、ごく一部ではあるものの、夫婦間の合意により貞操義務があらかじめ免除
(前頁からつづき)
 下級審の裁判例として、CA. Paris, 18 juill. 1893, D., 1893, 2, 517 ; S., 1893, 2, 277(夫婦が
別居に同意し相互にほかの異性と親密な関係を持つことを黙認していたという事情の下で
は双方の不貞行為は離婚原因としてのフォートに該当しないとされた事例); TC. Lyon, 1er
mai 1902, Rev. dr. civ., 1902, 883, chr., Louis Josserand(妻の黙認が存在することを理由に夫
による不貞行為が離婚原因としてのフォートに該当しないとされた事例); CA. Paris, 5 janv.
1903, S., 1905, 2, 80(夫の黙認が存在する場合には妻による不貞行為は離婚原因としての
フォートに該当しないが本件では夫の黙認は存在しないとされた事例); TGI. Laval, 29 sept.
1969, JCP., 1970, II, 16384, obs., J. L. D.(夫の黙認が存在することを理由に妻による不貞行
為が離婚原因としてのフォートに該当しないとされた事例); TGI. Quimper, 20 avril 2001,
Dr. fam., sept. 2001, com., 78, note, Hervé Lécuyer(夫婦としてではなく単なる親族として
生活する旨の合意が存在したという事情の下では夫による不貞行為は離婚原因としての
フォートに該当しないとされた事例); CA. Pau, 6 fév. 2006, Dr. fam., sept. 2006, com., 165,
note, Virginie Larribau Terneyre(夫婦の一方がほかの異性と親密な関係を持つことにつき
他方が認識および承諾していたという事情の下では一方による不貞行為は離婚原因として
のフォートに該当しないとされた事例); CA. Pau, 9 mai 2011, Dr. fam., nov. 2011, com., 165,
note, Virginie Larribau Terneyre(夫婦が別居に同意して相互にほかの異性と親密な関係を
持っていたという事情の下では別居後の夫による不貞行為は離婚原因としてのフォートに
該 当 し な い と さ れ た 事 例 ); CA. Chambéry, 4 fév. 2014, JCP., 2014, 697, obs., Guillaume
Kessler(夫婦が放蕩生活を送ることに合意し 10 年あまりにわたってこうした生活を続け
てきたという事情の下では夫による不貞行為は離婚原因としてのフォートに該当しないと
された事例); CA. Versailles, 10 sept. 2015, supra note 286(妻が夫の二重生活を承諾してい
たという事情の下では夫の貞操義務違反を理由とする妻からの損害賠償請求は認められな
いとされた事例); etc. また、Cf. CA. Montpellier, 5 nov. 1952, supra note 337(夫がその過ち
を認め妻の不貞関係を認めることを内容とする手紙は無気力からくるものであり妻の不貞
関係の黙認には該当しないとされた事例); etc.
369)これに対して、Mignon Colombet, supra note 304, nos16 et s., pp.11 et s. は、注(368)
で引用した裁判例について、合意や同意が存在したことではなく、原告側に一定の有責性
があったことを理由に、離婚請求を否定したものとして位置付ける。しかし、判決文の内
容からは、こうした理解を導くことはできない。
370)Larribau Terneyre, supra note 368, p.1.

109

論説(白石)

されることを明確に認めたものがある 374)。
最後の 1 つは、夫婦間の義務の相互性という観点から夫婦の一方による義務
の違反がある場合に他方による義務の不尊重を正当化するものである。一部の
学説は、双務契約で一方当事者に債務の不履行がある場合には他方当事者に不
履行の抗弁が認められることに準えて、夫婦関係でも、特定の義務に限定した
上で、夫婦の一方に人格的義務の違反がある場合には他方に特定の義務につき
不履行の抗弁が認められるべきことを主張する 375)。そして、一部の裁判例は、
この考え方を一般化し、また、婚姻の制度的性格を強調して、夫婦の一方が婚
姻義務を尊重せず他方を苦しい状況に置く場合、裁判所には、他方が自己の婚
371)裁判例の中には、夫婦間の和解の効力が第三者との関係でも一定の意味を持ちうるこ
とを認めるものもある。例えば、夫婦の一方が不貞行為をした他方に対して許しを与えた
場合、そのことは、一方が不貞行為の相手方に対して損害賠償を請求することの妨げにな
る。Ex. TGI. Seine, 6 fév. 1963, Gaz. Pal., 1963, 2, jur., 36 ; RTD civ., 1964, 114, chr., André
Tunc. もっとも、この解決を理論的に説明することには困難が伴う。
372)注(373)で引用する文献のほか、Ex. Antonini Cochin, supra note 304, nos4 et s., pp.23
et s.
373)Xavier Labbée, Les rapports juridiques dans le couple sont ils contractuel ?, préf. Jean
Hauser, Presses Universitaires du Septentrion, Villeneuve d Ascq, 1996, pp.76 et s. ; Id., Le
droit commun du couple, 2ème éd., Presses Universitaires de Septentrion, Villeneuve d Ascq,
2010, pp.103 et s. ; Likillimba, supra note 304, nos195 et s., pp.137 et s. ; Chauvet, supra note
310, p.152 ; etc. また、貞操義務の免除について裁判官の評価に服させることを前提とする
ものであるが、Larribau Terneyre, supra note 309, nos30 et s., pp.19 et s.
374)TGI. Lille, 26 nov. 1999, D., 2000, jur., 254, note, Xavier Labbée(相互に貞操義務を免れる
旨の条項を含む離婚に向けた一時的な合意について執行力の付与の請求が認められた事
例); TGI. Paris, 9 fév. 2017, supra note 350(貞操義務が保護的公序に関わるにすぎないこと
を導くに際し当事者の同意によりこの義務を免れることができることを根拠とした事例);
etc.
375)Jean François Pillebout, Recherches sur l exception d inexécution, préf. Pierre Raynaud,
Bibliothèque de droit privé, t.119, LGDJ., Paris, 1971, nos175 et s., pp.172 et s. ; Thomas, supra
note 16, pp.80 et s. ; André Brunet, Les incidences de la réforme du divorce sur la séparation
de fait entre époux, D., 1977, chr., pp.191 et s. ; etc. また、Cf. Claude Isabelle Foulon Piganiol,
Le droit de ne pas demander le divorce : À propos de la dispense de cohabitation et de l arrêt
de Civ. 1re, 1er juill. 1969, D. 1970. 148, D., 1970, chr., pp.140 et s.

110

フランス法における家族のメンバーに対する民事責任⑵

姻義務から解放されることを認める権限があるとする 376)。この立場は、婚姻
義務一般について、客観的な意味での相互性 377)を理由に、夫婦の一方による
違反の場合に他方の義務からの解放を認めるものである。これに対し、多くの
裁判例は、夫婦の一方による人格的義務の違反は他方による人格的義務の違反
を正当化するものではないとの立場から、上記の考え方を明確に否定する 378)。
夫婦の一方による人格的義務の違反がある場合に、一般的な形で他方に不履行
の抗弁を認めたり、人格的義務を免れさせたりすると、例えば、貞操義務の場
面では他方による不貞が促進されてしまう等、関係の悪化に繋がり、不履行の
抗弁の制度趣旨にも反することになるからである 379)。この意味において、夫
376)CA. Toulouse, 30 janv. 1961, D., 1961, jur., 324, note, Henri Roland ; RTD civ., 1962, 77,
chr., Henri Desbois.
377)客観的相互性と主観的相互性については、Cf. Janick Roche Dahan, Les devoirs nés du
mariage : Obligations réciproques ou obligations mutuelles ?, RTD civ., 2000, nos5 et s., pp.738
et s.
378)Cass. 2ème civ., 19 nov. 1997, supra note 366(妻の態度は夫の貞操義務違反を正当化する
ものではないとして双方的有責離婚を命じた原審を維持した事例); Cass. 2ème civ., 7 mai
2003, no01 14.635 ; RTD civ., 2003, 686, chr., Jean Hauser(妻の同居義務違反および貞操義
務違反は夫の貞操義務違反を許容するものではないとして双方的有責離婚を命じた原審を
維持した事例); Cass. 1re civ., 11 avril 2018, supra note 341 ; etc. また、原則として妻による
姦通だけに刑事罰が科されていた時代のものであるが、Cf. Cass. crim., 20 nov. 1885, S.,
1886, 1, 88(夫が夫婦の住居でコンキュビーヌと暮らしていることは妻の姦通罪を免責す
るものではないとされた事例); etc.
  下 級 審 の 裁 判 例 と し て、CA. Orléans, 8 fév. 2005, Dr. fam., juill. 2005, com., 166, note,
Virginie Larribau Terneyre(一方による性的な関係を持つことについての拒絶は他方によ
る貞操義務違反を許容するものではないとして双方的有責離婚が命じられた事例); CA.
Versailles, 17 mars 2016, Dr. fam., juin 2016, com., 118, note, Jean René Binet(夫からの愛情
の不存在は妻の貞操義務違反を許容するものではないとして双方的有責離婚が命じられた
事例); CA. Montpellier, 15 nov. 2017, D., 2018, 1109, chr., Jean Jacques Lemouland et Daniel
Vigneau ; Dr. fam., mars 2018, com., 60, note, Cécile Berthier(妻の度重なる貞操義務違反は
夫の貞操義務違反を許容するものではないとして双方的有責離婚が命じられた事例); etc.
Contra. TGI. Creteil, 3 fév. 1977, Gaz. Pal., 1977, 1, jur., 201 ; RTD civ., 1978, 628, chr., Roger
Nerson et Jacqueline Rubellin Devichi(双方の貞操義務違反は各行為について離婚原因と
してのフォートを否定する効果を持つとして双方からの離婚請求が否定された事例); etc.

111

論説(白石)

婦間の人格的義務については客観的な意味での相互性が否定されている 380)。
とはいえ、夫婦の一方による人格的義務の違反が他方による人格的義務の違反
の評価に全く影響を及ぼさないというわけではない。例えば、夫婦の一方に同
居義務違反がある場合、正当な理由があれば他方による扶助や婚姻費用の履行
拒絶が認められ 381)、また、夫婦の一方に扶助義務等の違反がある場合、正当
な理由があれば他方による同居拒絶が認められる 382)。また、裁判例の中には、
夫婦の一方による人格的義務の違反の存在およびその程度を考慮して、他方に
よる人格的義務の違反が離婚(および別居)原因としてのフォートになるかど
うかを評価するものがある 383)。更に、民法典 245 条 1 項によれば、離婚訴権を
提起した者にフォートがある場合、そのフォートは、相手方配偶者の非難され
るべき行為から離婚原因となりうるような重大な性格を奪うことがあるとされ
ている 384)。これらの規律は、履行拒絶に際しての正当な理由や他方当事者に
よる義務違反の重大性等を考慮し、夫婦間の人格的義務についていわば主観的

379)Pillebout, supra note 375, no177, p.174 ; Maury, supra note 283, nos10 et s., pp.522 et s. ;
Thomas, supra note 16, pp.101 et s. ; Ruffieux, supra note 133, nos67 et s., pp.72 et s. ; etc. ま
た、理由は付されていないが、Mignon Colombet, supra note 304, nos11 et s., p.10 ; Cornu,
supra note 250, La famille, no24, pp.49 et s. ; etc.
380)Roche Dahan, supra note 377, nos5 et s., pp.738 et s.
381)Ex. Cass. 1re civ., 8 mai 1979, no77 15.822 ; Bull. civ., I, no135(同居を拒絶している妻から
の婚姻費用分担の請求を否定した事例); Cass. 1re civ., 18 fév. 1983, D., 1984, jur., 39, note,
Janine Revel(同上); CA. Riom, 15 oct. 2002, Dr. fam., déc. 2003, com., 138, note, Hervé Lécuyer
(同居を拒絶している妻からの救護義務の履行請求を否定した事例); etc. もちろん、同居を
拒絶されている妻からの請求は可能である(Ex. Cass. 1re civ., 14 mars 1973, no71 14.190 ;
Bull. civ., I, no97 ; D., 1974, jur., 453, note, Philippe Rémy ; etc.)。
382)Cass. req., 20 nov. 1860, D., 1861, 1, 305(夫が住環境を整えないことを理由とする妻に
よる同居拒絶が離婚原因としてのフォートに該当しないとされた事例); Cass. req., 2 janv.
1877, D., 1877, 1, 162, rapport, Onofrio(夫が夫婦の住居に無関係な者を居住させたことを
理由とする妻による住居からの離脱請求を認めた事例); Cass. 2ème civ., 15 janv. 1969, no68
11.259 ; Bull. civ., II, no16 ; D., 1970, jur., 148, note, Joseph Le Calonnec(同居拒絶を理由に妻
の一方的有責離婚を命じた原審について、それが夫の行為により正当化されるかどうかが
探求されていないとして破棄した事例); etc.

112

フランス法における家族のメンバーに対する民事責任⑵

な形で相互性を持たせることで 385)、違反された側の義務の効力だけを弱める
ものということができる。
なお、これらの様々な解決の多くは、フォートに基づく離婚(および別居)
のケースにおけるフォートの評価に関わり、直接的には、損害賠償請求の基礎
383)Cass. req., 23 mai 1923, D., 1924, 1, 76(一方の有責行為が他方の有責行為を宥恕するこ
とになるかは裁判官の専権的な評価に服するとして、夫による不貞行為の存在を考慮する
ことなく妻による不貞行為が離婚原因としてのフォートに該当するとした原審を維持した
事例); Cass. 2ème civ., 5 fév. 1986, no84 14.467 ; Bull. civ., II, no9(夫の行為態様を考慮して妻
による不貞行為が離婚原因としてのフォートに該当しないとされた事例); Cass. 1re civ., 3
janv. 2006, no04 18.767, supra note 285(夫による不貞行為が先行していたことを考慮して
妻による不貞行為が離婚原因としてのフォートに該当しないとされた事例); Cass. 1re civ.,
28 janv. 2009, no08 11.598 ; PA., 20 mai 2009, 8, note, Armand Lylian Ondo(妻に強度のアル
コール依存があったこと等を考慮して夫による不貞行為が離婚原因としてのフォートに該
当しないとされた事例); etc.
 下級審の裁判例として、CA. Alger, 26 fév. 1895, D., 1895, 2, 344(妻による婚姻義務違反
が夫の非難されるべき行為に由来するときは夫の一方的有責離婚または双方的有責離婚が
命じられるべきであるとされた事例); TC. Cherbourg, 23 déc. 1908, RTD civ., 1909, 141,
chr., Albert Wahl(自らも貞操義務に違反していた妻が夫の一方的有責離婚を求めることは
できないとされた事例); CA. Paris, 30 juin 1978, Gaz. Pal., 1980, 1, jur., 231, note, J. M. ; RTD
civ., 1980, 333, chr., Roger Nerson(妻による不貞行為が先行していたことを考慮して夫に
よる不貞行為が離婚原因としてのフォートに該当しないとされた事例); TGI. Albertville, 27
nov. 1979, D., 1981, jur., 16, note, A. B. ; JCP., 1981, II, 19609, obs., R. L. et Ph. B.(夫が妻に残
忍な行為をしていたこと等を考慮して妻による不貞行為が離婚原因としてのフォートに該
当しないとされた事例); CA. Chambéry, 29 mai 1984, JCP., 1985, II, 20347, obs., R. L.(夫が
不貞行為を繰り返し妻への愛情を失っていたこと等を考慮して妻による不貞行為が離婚原
因としてのフォートに該当しないとされた事例); CA. Douai, 27 sept. 2007, supra note 343 ;
CA. Pau, 9 mai 2011, supra note 367 ; CA. Douai, 19 déc. 2013, Dr. fam., fév. 2014, com., 22,
note, Jean René Binet(妻がほかの男性との間で子をもうけたことが夫による生殖の拒絶
に由来することを理由に、フォートに基づく離婚が否定され、夫婦関係の終局的な変質に
よる離婚が命じられた事例); TGI. Paris, 9 fév. 2017, supra note 350(貞操義務が保護的公序
に関わるにすぎないことを導くに際し一方の行為態様により他方の貞操義務違反がフォー
トに該当しないと評価されうることを根拠とした事例); etc.
384)245 条1項の規律を不履行の抗弁の現れとして位置付ける見解もある。Buffelan Lanore
et Garcia, supra note 309, nos60 et s., pp.19 et s. ; Moracchini Zeidenberg, supra note 281,
no16, pp.781 et s. ; etc.

113

論説(白石)

としてのフォートの評価に関わるものではない。また、離婚(および別居)原
因としてのフォートと不法行為上のフォートとの間には、一定の相違もあ
る 386)。前者は、客観面では、後者のような単なる義務の違反ではなく 387)、婚
姻から生ずる債務および義務の違反が重大または繰返しのもので、共同生活の
維持を耐え難くするものであることを(民法典 242 条、296 条を参照)388)、主
観面では、後者とは異なり 389)、帰責のための前提として識別能力が存在する
ことを求めているからである 390)。しかし、いずれのフォートにおいても、義

385)Roche Dahan, supra note 377, nos14 et s., pp.748 et s. また、Cf. Chartier, supra note 283,
Domicile conjugal..., nos36 et s., pp543 et s.
386)Ducrocq Paywels, supra note 272, nos61 et s., pp.49 et s. は、離婚(および別居)原因と
してのフォートにおいては主観的要素が必要とされていること等を理由に、これと不法行
為上のフォートとを同一視することはできないとする。しかし、仮に上記の相違が存在す
るとしても、いずれのフォートでも義務違反が前提とされ、その評価方法が共通している
ことに変わりはないため、その限りにおいて、2つのフォートを同列に捉えることは差し
支えない。
387)不法行為上のフォートの客観的側面については、拙稿・前掲注(36)81 頁以下。
388)その結果、離婚原因としてのフォートの存在が否定され、民法典 1240 条にいうフォー
トの存在が肯定されることはある。Ex. CA. Bordeaux, 9 sept. 2014, supra note 285.
389)不法行為上のフォートの主観的側面については、拙稿・ 前掲注(36)81 頁以下、同・
前掲注(3)「家族のメンバーによる不法行為と責任」124 頁以下。
390)Cass. req., 5 août 1890, D., 1891, 1, 365 ; S., 1894, 1, 15(心神喪失状態の下でされた妻に
よる暴行等について離婚原因としてのフォートが否定された事例); Cass. req., 4 mars 1902,
D., 1902, 1, 192 ; S., 1902, 1, 388(精神障害の影響下でされた夫による暴行、侮辱等につい
て別居原因としてのフォートが否定された事例); Cass. req., 15 mai 1912, D., 1912, 1, 303 ;
S., 1912, 1, 360(同上); Cass. 2ème civ., 15 juin 1955, Bull. civ., II, no331 ; D., 1956, som., 34(精
神障害の影響下でされた妻による失踪、浪費、侮辱的言動等について離婚原因としての
フォートが否定された事例); Cass. 2ème civ., 10 oct. 1956, Bull. civ., II, no498(精神障害の影
響下でされた妻による侮辱行為について離婚原因としてのフォートが否定された事例);
Cass. 2ème civ., 13 mars 1957, Bull. civ., no224(精神障害が離婚原因としてのフォートを否定
するほどのものではないとして妻の一方的有責離婚を認めた原審を維持した事例); Cass.
2ème civ., 19 janv. 1961, Bull. civ., no55(精神障害が離婚原因としてのフォートを否定するほ
どのものではないとして夫の一方的有責離婚を認めた原審を維持した事例); Cass. 2ème civ.,
31 oct. 1962, no61 11.952 ; Bull. civ., II, no683(精神障害が離婚原因としてのフォートを否定

114

フランス法における家族のメンバーに対する民事責任⑵

務違反の存在が前提とされていることに変わりはなく、この部分の判断の仕方
は共通している 391)。夫婦の一方のフォートを理由とする離婚を肯定し、特段
の理由を付すことなく他方からの民法典 1240 条に基づく損害賠償請求を認容
(前頁からつづき)
するほどのものではないとして妻の一方的有責離婚を認めた原審を維持した事例); Cass.
2ème civ., 12 juin 1963, Bull. civ., II, no437(精神障害の影響下でされた夫による家族の放棄に
ついて離婚原因としてのフォートが否定された事例); Cass. 2ème civ., 19 janv. 1966, no64
13.849 ; Bull. civ., II, no75(精神障害の影響下でされた夫による婚姻義務の違反について離
婚原因としてのフォートが否定された事例); Cass. 2ème civ., 12 mars 1980, D., 1981, IR., 76,
obs., André Breton(心神喪失状態の下でされた妻の行為について離婚原因としてのフォー
トが否定された事例); Cass. 2ème civ., 5 juin 1991, no90 14.277(同上); Cass. 1re civ., 12 nov.
2009, no08 20.710 ; D., 2010, 1243, chr., Lina Williatte Pellitteri ; Dr. fam., janv. 2010, com., 8,
note, Ingrid Maria(当該行為が精神障害の影響下でされたものであるかどうかが探求され
ていないとして妻の一方的有責離婚を認めた原審を破棄した事例); Cass. 1re civ., 16 juin
2011, no10 17.566(精神障害が離婚原因としてのフォートを否定するほどのものではない
として妻の一方的有責離婚を認めた原審を維持した事例); etc. また、Cf. Cass. 2ème civ., 2
mai 1958, D., 1958, jur., 509, note, André Rouast ; RTD civ., 1959, 76, chr., Henri Desbois(離
婚原因としてのフォートを認めるためには行為者に識別能力があれば足り故意の存在は必
要でないとされた事例); Cass. 2ème civ., 19 juill. 1976, no75 12.692 ; Bull. civ., II, no257(同上);
etc. なお、識別能力が存在しないことを理由にフォートの不存在を導いたものかどうかは
判然としないが、Cf. Cass. 2ème civ., 29 mai 1957, D., 1957, jur., 480(妻が 10 人の子を産み育
てていたという事情の下でされた行為について、重い負担に由来する精神的な反応である
こと理由に、離婚原因としてのフォートが否定された事例); etc. 夫の精神的な病気を考慮
して妻に付与されるべき損害賠償の額を算定したものとして、Cass. 2ème civ., 18 mars 1998,
no96 13.589.
 下級審の裁判例として、CA. Alger, 11 juill. 1892, D., 1893, 2, 20(心神喪失状態の下でさ
れた妻による暴行、暴言、放浪について、その状態が自ら招来されたものであることを理
由に、離婚原因としてのフォートが肯定された事例); CA. Aix, 3 juin 1936, supra note 316 ;
CA. Rennes, 8 mars 1944, DA., 1944, 101(妻による放浪が精神障害の影響下でされたもので
あるかどうかを判断するため鑑定人の選任が命じられた事例); CA. Montpellier, 11 mars
1953, D., 1953, jur., 258 ; JCP., 1953, II, 7557, obs., G. M. ; RTD civ., 1953, 521, chr., Gaston
Lagarde(心神喪失状態の下でされた妻による不貞行為について離婚原因としてのフォー
トが否定された事例); TGI. Coutances, 13 janv. 1965, JCP., 1965, II, 14130, obs., J. A.(精神障
害の影響下でされた妻による嫉妬行為等について離婚原因としてのフォートが否定された
事例); CA. Toulouse, 29 oct. 1997, Dr. fam., avril 1998, com., 51, note, Hervé Lécuyer(精神

115

論説(白石)

する裁判例の解決は、このことを明確に示している 392)。そして、裁判官は、
フォートに基づく離婚(および別居)が認められるかどうかを評価することを
通じて、夫婦関係における新たな義務を創造し 393)、または、夫婦の人格的義
務の外延を明らかにしている 394)。従って、これらの様々な解決は、損害賠償
請求の場面でも、一方では、一般的な誠実義務の観点を踏まえて、その基礎と
なる夫婦間の人格的義務の範囲を拡大させることに繫がり、他方では、夫婦関
係の状況、合意や一方による同意の存在、義務の主観的な相互性という視点を
(前頁からつづき)
分裂病にり患した妻による行為について離婚原因としてのフォートが否定された事例);
CA. Grenoble, 10 janv. 2000, Dr. fam., juill. 2002, com., 84, note, Fédérica Oudin(心神喪失状
態の下でされた妻による子の殺害行為について離婚原因としてのフォートが否定された事
例); CA. Bordeaux, 8 janv. 2002, Dr. fam., juill. 2002, com., 84, note, Fédérica Oudin(精神障
害の影響下でされた妻による夫への暴力行為および社会的孤立について離婚原因としての
フ ォ ー ト が 否 定 さ れ た 事 例 ); CA. Agen, 5 déc. 2013, Dr. fam., avril 2014, com., 68, note,
Ingrid Maria(精神障害の影響下でされた夫による妻への暴力行為について離婚原因とし
てのフォートが否定された事例); etc.
391)Pons, supra note 17, nos301 et s., pp.180 et s. ; etc. これに対して、Kessler, supra note 272,
nos9 et s., pp.3 et s. は、夫婦の人格的義務の違反を理由とする損害賠償請求においては、そ
の基礎となる不法行為上のフォートについて、単純フォートではなく、一定の特徴付けら
れたフォートが要求されていると評価する。
392)Ex. CA. Angers, 23 mai 2011, supra note 285 ; CA. Lyon, 23 mai 2011, supra note 285 ; CA.
Aix en Provence, 27 nov. 2012, supra note 285 ; CA. Paris, 10 avril 2013, supra note 285 ; CA.
Bourges, 13 fév. 2014, supra note 285 ; CA. Rouen, 22 oct. 2015, supra note 285 ; CA. Riom, 3
nov. 2015, supra note 285 ; etc. ま た、Cf. Cass. 1re civ., 5 janv. 2012, no10 23.411 ; RTD civ.,
2012, 105, chr., Jean Hauser(離婚原因としてのフォートとは別のフォートの存在が証明さ
れていないとして妻からの損害賠償請求を棄却した原審について、離婚原因としての
フォートにより婚姻の解消から生ずる損害とは別の損害が発生したかどうかが探求されて
いないとして破棄した事例); etc. なお、夫の一方的有責離婚を認めること、従って、妻に
離婚原因としてのフォートが存在しないことを確認することにより、夫からの民法典 1240
条に基づく損害賠償請求の要件が充足されていないことを明らかにしたことになるとした
ものとして、Cass. 1re civ., 20 mai 2009, no08 16.916.
393)Françoise Dekeuwer Défossez, Impressions de recherche sur les fautes causes de
divorce, D., 1985, chr., pp.219 et s. ; Garé, supra note 322, p.311.
394)Bénabent, supra note 264, no135, pp.119 et s.

116

フランス法における家族のメンバーに対する民事責任⑵

踏まえて、その基礎となる夫婦間の人格的義務の範囲を縮小させることに繫が
る。
以上の実定法の状況を本稿の問題関心に従って整理すると、次のようになる。
実定法は、婚姻制度や夫婦であることに由来する人格的義務の強度を一定の場
面で弱める一方、個人間における一般的な誠実または尊重の観点を夫婦関係の
中で具体化させたかのような義務を強化する傾向にある。このことを損害賠償
請求の保護対象という視点から捉え直すと、実定法は、配偶者としての身分や
地位に由来する個別的な権利や利益の保護を弱め 395)、夫婦という身分や地位
に着目することなく 396)、人格の実現に必要不可欠な関係に由来する権利や利
益、または、個人としての人格的な権利や利益の保護を強化しているというこ
とができる 397)。そして、こうした変化の背後には、緩やかな形での 398)婚姻の
脱制度化または契約化ないし意思支配化 399)、更に、夫婦という制度的なユニッ
トよりも個人を重視する、
カップルに関わる法の基本的な動向がある 400)。また、
実定法は、いずれの解決においても、少なくとも法律論の上では、問題を義務
の次元で捉えており、夫婦間の義務をそのままにしておいて、サンクションの
次元だけでこれを強化したり 401)、
制約したりすることはしていない。この点は、
特に、人格的な義務の違反が存在し、不法行為に基づき損害賠償を請求するた
めの要件が充足されているにもかかわらず、夫婦関係の存在や家庭の平和と
395)かつては、配偶者という身分や地位に由来する個別的な権利や利益を損害賠償請求の
保護対象として措定する考え方を前提に、精神的損害の具体的な内容について、夫または
妻としての名誉、評判、および、尊厳等を想定する理解が多かったが(Théodore François
Nicolas Rebel, L'adultère, Colillon, E, Dentu, Paris, 1861, nos184 et s., pp.141 et s.(妻による
貞操義務違反を理由に夫に生ずる損害); Lacoste, supra note 299, p.137(夫による性関係を
持つことについての拒絶を理由に妻に生ずる損害); Pierre Gervésie, Pension alimentaire
après divorce(Article 301 du Code Civil), LGDJ., Paris, 1928, pp.56 et s.(貞操義務違反を理
由に生ずる損害); Thomas, supra note 16, pp.306 et s.(同上); Guiton, supra note 272, no3,
p.247(婚姻中の違法行為を理由に生ずる損害); etc.)、今日では、こうした理解の仕方は
ほとんどみられない。
396)Cf. Perreau, supra note 299, pp.425 et s. また、Cf. Id., Des droits de la personnalité, RTD
civ., 1909, pp.508 et s.

117

論説(白石)

いった外在的理由によりその請求が制限されることはないという意味でも、重
要性を持つ。
第 2 に、カップルの関係がパクスである場合について、パクスの当事者の一
397)このことは、夫婦の一方による貞操義務の違反を認めながら、当該夫婦の実態を踏まえ、
損害が生じていないことを理由に他方からの損害賠償請求を否定したり、他方に付与され
るべき損害賠償の額を減らしたりする判例の解決にも現れている。Ex. Cass. 2ème civ., 8
mars 1989, no88 11.765(夫婦双方が不貞関係を維持していたという事案で、損害の不存在
を理由に夫からの損害賠償請求を棄却した事例); Cass. 2ème civ., 7 oct. 1999, no98 12.282(双
方の責めに帰すべき原因により夫婦関係が破綻していた時に夫がほかの女性と親密な関係
を持ったという事案で、妻に生じた損害を1フランと算定した原審を維持した事例); Cass.
2ème civ., 8 fév. 2001, no99 15.476(事実上の別居から 12 年後に夫がほかの女性と親密な関係
を持ったという事案で、損害の不存在を理由に妻からの損害賠償請求を棄却した事例);
etc. ま た、Cf. CA. Dijon, 28 nov. 1995, RTD civ., 1996, 589, chr., Jean Hauser. こ れ は、
Ducrocq Paywels, supra note 272, nos404 et s., pp.264 et s. が強調する点である(ただし、
フォートと損害との混同がみられる)。
398)実定法は、一部の学説が主張するような急進的ないし全面的なカップル関係の契約化
(Labbée, supra note 373, Les rapports juridiques... ; Id., supra note 373, Le droit commun... ;
Id., Le mariage homosexuel et l union civile, JCP., 2012, 977, pp.1642 et s. ; Id., L obligation
implicite de fidélité dans le concubinage, Gaz. Pal., 2014, p.67 ; Id., La contractualisation du
droit familial : Et après ?, in, Mélanges en l honneur du professeur Claire Neirinck,
LexisNexis, Paris, 2015, pp.261 et s. ; etc.)からは距離を置いている。
399)本文で扱った素材だけからも明らかになるとおり、実定法は、夫婦間の問題、特に夫
婦の人格的な側面を規律するために契約という法技術および契約に関わる制度を常に用い
ているわけではない。従って、婚姻の契約化という表現は、一種の比喩として用いたり、
契約法の基本原則である契約自由や意思自治だけを示すものとして使用したりするのであ
ればともかく、契約の法制度に依拠するという意味で使うとすれば、適切さを欠く。実定
法では、婚姻の契約化というよりも、一定の枠の下における個人意思による支配が現れてい
るとみるべきである。Cf. Françoise Dekeuwer Défossez, La contractualisation de la famille,
entre leurre et instrumentalisation, in, Approche critique de la contractualisation, sous la dir.
Sandrine Chassagnard Pinet et David Hiez avec soutien de la Mission de recherche Droit et
Justice et du Centre René Domogue de l Université de Lille 2, LGDJ., Paris, 2007, p.178. 同じ
く契約というよりも個人の意思に力点を置いた説明をするものとして、Niboyer, supra
note 281, nos269 et s., pp.153 et s.
400)Niboyer, ibid. ; Ruffieux, supra note 133, nos56 et s., pp.64 et s. et nos125 et s., pp.127 et s. ;
etc.

118

フランス法における家族のメンバーに対する民事責任⑵

方が、同居を一方的に停止したり、ほかの者と親密な関係を持ったりした場合
に、パクスの解消とは関わりなく 402)、他方当事者に対して損害賠償の支払を
義務付けられることはあるか、仮にこの問いが肯定されるとして、どのような
内容の損害を賠償する義務を負うか。これらの問いに答えるためには、その前
提として、パクスの当事者は、夫婦と同じように、相互に同居や貞操等の人格
的な内容を持つ義務を負うのか、それとも、一般的な誠実または尊重の義務を
負うにすぎないのか、本稿の問題関心に即していえば、上記の場面における損
害賠償請求の保護対象として、パクスの当事者という地位から生ずる個々の人
格的な権利や利益が想定されるのか、それとも、こうした地位とは切り離され
た個人としての権利や利益だけが想定されるのかという点の解明が必要となる。
パクスは、1999 年 11 月 15 日の法律により導入された制度である。当時の条
文によれば、パクスの当事者に対しては相互に財産的な援助をする義務だけが
課されており(2006 年 6 月 23 日の法律による改正前の民法典旧 515 4 条 1 項)、
少なくとも条文の上では、パクスにおいて人格的な内容を持つ義務は存在しな
かった 403)。その後、2006 年 6 月 23 日の法律による改正に伴い、パクスの当事
401)例えば、離婚について有責である配偶者の資力やフォートの重大性を考慮して他方か
らの損害賠償を増額することは認められない。Ex. Cass. 2ème civ., 21 juill. 1982, no81 15.236 ;
Bull. civ., II, no109 ; D., 1982. IR, 426 ; Defrénois, 1983, art. 33022, 336, note, Jean Luc Aubert ;
Defrénois, 1983, art. 33082, 771, note, Jacques Massip(離婚について有責である配偶者の資
力を考慮して損害賠償額を算定した原審を破棄した事例); Cass. 2ème civ., 12 janv. 2011,
no09 15.426(離婚について有責である配偶者のフォートの重大性を考慮して損害賠償額を
算定した原審を破棄した事例); etc.
402)本文で述べたような状況が生じた場合、現実的には、まずパクスが解消され、その後
に他方当事者による損害賠償請求が行われる。そのため、実際上は、関係継続中の出来事
に由来する損害の賠償と関係の解消によって生ずる損害の賠償とが同時に主張される。
もっとも、夫婦の人格的義務の違反から生ずる損害の賠償と離婚によって生ずる損害の賠
償とが明確に区別されているのと同じく、理論的にみれば、フォートの中身においても、
保護対象の点においても、両者は厳密に区別されなければならない。なお、パクスの当事
者が関係の解消との関連で被った損害の賠償については、② 一で扱われる。
403)CA. Paris, 9 nov. 2006, AJ fam., fèv. 2007, 94, obs., François Chénedé は、救護義務および
扶助義務の不存在を理由に、これらの違反を理由とする損害賠償請求を棄却している。

119

論説(白石)

者は、相互に、共同生活、財産的援助、相互扶助に関する義務を負うものとさ
404)
れるに至った(同 515 4 条 1 項)
。この改正によって、パクスの当事者には、

一定の範囲での人格的義務、すなわち、共同生活および相互扶助という人格的
な内容を持つ義務が課されていることが明らかにされた。
こうした経緯との関連では、以下の 2 点に留意が必要である。1 つは、2006
年 6 月 23 日の法律による改正でパクスの当事者に人格的義務が課されたこと
を契機として、パクスの婚姻化 405)、準婚姻としてのパクス 406)、第 2 の婚姻と
してのパクス 407)、婚姻のクローンとしてのパクス 408)、コンキュビナージュを
超えるものから小さな婚姻への移行 409)等が語られるようになっているが、仮
にこうしたスローガンが適切な表現であるとしても、このことだけから、パク
スの当事者に対して婚姻の場合と同じ強度の人格的義務が課されているとの理
解を導くことはできないという点である。例えば、パクスの当事者と夫婦に対
して等しく同居義務が課されているとしても、パクスと婚姻とにおいて関係の

404)こ の 点 に つ い て は、Cf. Philippe Simler et Patrice Hilt, Le nouveau visage du Pacs : un
quasi mariage, JCP., 2006, I, 161 ; Judith Rochfeld, Réforme du PACS. Loi no2006 728 du 23
juin 2006 portant réforme des successions et des libéralités(JO 24 juin 2006, p.9513), RTD
civ., 2006, pp.624 et s. ; Hugues Fulchiron, Le nouveau PACS est arrivé !(Commentaire de la
loi no2006 728 du 23 juin 2006 portant réforme des succesions), Defrénois, 2006, art. 38471,
pp.1621 et s. ; Virginie Larribau Terneyre, L amélioration du Pacs : un vrais contrat d union
civile. ─ À propos de la loi du 23 juin 2006, Dr. fam., janv. 2007, étude 1 ; etc.
405)Dominique Fenouillet, Couple hors mariage et contrat, in, La contractualisation de la
famille, sous la dir. Dominique Fenouillet et Pascal de Vareilles Sommières, Economica,
Paris, 2001, pp.111 et s. ただし、2006 年6月 23 日の法律による改正前の状況を批判的に検
討する文脈での表現である。
406)Simler et Hilt, supra note 404.
407)Michel Grimaldi, Réflexions sur le Pacte civil de solidarité du droit français, Defrénois,
2003, art. 37763, no10, p.822. ただし、2006 年6月 23 日の法律による改正前の状況ではパク
スに人格的義務はないためそのようなものとして位置付けることはできないという文脈で
の表現である。
408)Malaurie et Fulchiron, supra note 244, no357, pp.217 et s.
409)Bénabent, supra note 264, no424, p.315.

120

フランス法における家族のメンバーに対する民事責任⑵

解消や義務違反のサンクション等に関わる仕組が異なっていることを強調すれ
ば、両者の同居義務の強度に差があると理解することも可能になるはずだから
である 410)。もう 1 つは、民法典 515 4 条 1 項の文言だけから、パクスの当事者
には共同生活および相互扶助以外の人格的な内容を持つ義務が課されることは
ないという解釈や、2006 年 6 月 23 日の法律による改正前のパクスでは一切の
人格的な内容を持つ義務は存在しなかったという理解を導くこともできないと
いう点である。パクスが共同生活を組織するための契約である(同 515 1 条)
とすれば、当事者に対しては、一方で、契約によって作り出される義務や契約
であることに由来する義務が、他方で、人と人との関係に由来する一般的な義
務が課される可能性があり、こうした意味での義務の中に人格的な内容が含め
られるという理解の仕方も想定されるからである。以上のことを前提に、条文
に明示されている共同生活の義務の違反を理由とする損害賠償請求と、そこに
明示されていない当事者以外の者と親密な関係を持ったことを理由とする損害
賠償請求の問題を検討する。
まず、パクスの当事者の一方が共同生活の義務に違反したことを理由とする
他方からの損害賠償請求についてみると、共同生活の義務の中身として具体的
に何を想定するかという点、すなわち、夫婦に義務付けられている生活の共同
(民法典 212 条)とパクスの当事者に義務付けられている共同生活(同 515 4
条 1 項、同 515 1 条)との間に有意な差を認めるかという問いとの関連も含
め 411)、どこまでを共同生活の義務として捉えるかという点は別としても 412)、
410)Cf. Ruffieux, supra note 133, nos175 et s., pp.191 et s. ; Malaurie et Fulchiron, supra note
244, nos387 et s., pp.230 et s.
411)この点については、夫婦間における生活の共同には、生活や住居という側面に加えて、
運命や人生といった側面の共同が含まれるのに対し、パクスおよびコンキュビナージュに
おける共同生活には、文字通りの生活や住居の共同という側面だけが含まれるとする見解
(Ex. Niboyer, supra note 281, no204, p.123 ; Mirabail, supra note 367, pp.120 et s. ; etc.)と、
両者を同一視してそれらに運命や人生の共同という意味を込める見解(Ex. Labbée, supra
note 373, Le droit commun..., pp.99 et s. ; Philippe, supra note 354, pp.20 et s. ; Saulier, supra
note 353, nos72 et s., pp.85 et s. ; etc.)とがある。

121

論説(白石)

現在の条文を前提とした場合に 413)、最低限の要素として同居が共同生活の中
に含まれること、従って、パクスの当事者が相互に同居義務を負うことは明ら
かである。そして、ここから、一方当事者が同居を拒絶したときには他方当事
者からの同居義務違反を理由とする損害賠償請求も認められるとの理解が導か
れうる。この理解では、パクスの当事者という地位に由来する同居への権利な
いし利益が損害賠償請求の保護対象として想定される。
とはいえ、これは、理論的な可能性の 1 つにすぎない。まず、理論的な可能
性にすぎないというのは、仮に上記の理解の仕方を受け入れるとしても、パク
スの場合には、婚姻の場合とは異なり、関係の解消が容易であるため、当事者
の一方が同居を拒絶しながらパクスを解消せず、かつ、他方も関係を維持しな
がら損害賠償だけを請求するという事態は、現実的には想定されないからであ
412)憲法院は、民法典 515 1 条にいう共同生活には、単なる同居のみならず、カップルとし
ての生活も含まれること、そのことから、一定の近親者間で締結されたパクス、婚姻関係
にある者によって締結されたパクス、および、既にパクスを締結している者によって締結
されたパクスを無効とする条文(同 515 2 条)が正当化されることを判示している(Cons.
const., 9 nov. 1999, no99 419 DC ; PA., 1er déc. 1999, 6, note, Jean Eric Schoettl ; D., 2000,
som., 424, obs., Stéphanie Garneri ; JCP., 2000, I, 280, chr., Geneviève Viney ; RTD civ., 2000,
109, chr., Jacques Mestre ; PA., 26 juill. 2000, 11, note, Bertrand Mathieu et Michel Verpeaux ;
RDP., 2000, 203, note, Philippe Blanchère et Jean Baptiste Seube. この判決については、Cf.
Nicolas Molfessis, La réécriture de la loi relative au PACS par le conseil constitutionnel, JCP.,
2000, I, 210, pp.399 et s. なお、JCP. éd. N., 2000, pp.270 et s. にもほぼ同じ内容の論文が掲載
されている)。憲法院判決では、ここでいうカップルとしての生活が具体的に何を意味す
るかについて明らかにされていないが、カップルとしての生活という点から正当化されて
いる条文の内容を踏まえて判断すると、そこに性的な要素が含められていることは確かで
ある。従って、この憲法院判決を前提にすれば、パクスの当事者は、少なくとも居住の側
面および性的な側面については、夫婦間の生活共同義務と同じ内容を持つ義務=共同生活
義務を負っていることになる。
413)2006 年6月 23 日の法律による改正前においては、条文上パクスの当事者には共同生活
義務が課されていなかったため、コンキュビナージュの場合と同様、共同生活はパクスの
存 続 要 件 で あ り、 当 事 者 の 義 務 を 構 成 し な い と 理 解 す る こ と も 可 能 で あ っ た。Ex.
Françoise Dekeuwer Défossez, PACS et famille : Retour sur l analyse juridique d un contrat
controversé, RTD civ., 2001, p.540 ; Grimaldi, supra note 407, no5, p.817 ; etc.

122

フランス法における家族のメンバーに対する民事責任⑵

る 414)。次に、可能性の 1 つにすぎないというのは、パクスの場合には、婚姻
の場合とは異なり、同居義務違反についてフォートに基づく離婚のような特別
のサンクションが予定されていないだけでなく、解消の自由が前提とされてい
ることからすると 415)、立法的な態度決定として、同居への権利ないし利益お
よびその母胎となるパクスの当事者という地位それ自体が弱いものとして措定
されていると理解することもでき、そこから、この場面では、同居との関連で
法的に保護される権利や利益が存在しないと解釈する可能性もあるからであ
る 416)。
次に、パクスの当事者の一方が他方以外の者と親密な関係を持ったことを理
由とする他方からの損害賠償請求が認められるかどうかは、パクスの各当事者
に対して他方との関連で貞操に関わる何らかの義務が課されているか、反対か
らいえば、パクスの各当事者が他方に対して貞操に関わる何らかの権利や利益
を主張することができるかという問いに従属する。
一方で、パクスにおいて貞操義務は存在しないというのが多くの裁判例によ
る理解の仕方である 417)。これらの裁判例は、その理由を明示していないが、
これを支持する多くの見解によれば、その根拠は、立法だけが性の排他性を命
ずることができるところ 515 4 条 1 項はその対象から貞操義務を除外すること
によりパクスの当事者に貞操義務を課さないという明確な態度決定をしたこ
と 418)、作為義務と不作為義務とは性格が全く異なるため同居という作為義務
414)Ruffieux, supra note 133, nos181 et s., pp.197 et s. ; Ducrocq Paywels, supra note 272,
no335, p.214.
415)婚姻の場合には、離婚が認められるケースが定められているが(民法典 229 条を参照)、
パクスの場合には、そのような規律は存在しない。
416)問題関心は異なるが、Cf. Ruffieux, supra note 133, nos175 et s., pp.191 et s. ; Malaurie et
Fulchiron, supra note 244, nos387 et s., pp.230 et s.
417)CA. Montpellier, 4 janv. 2011, Dr. fam., juin 2011, com., 89, note, Virginie Larribau
Terneyre ; D., 2012, 983, chr., Jean Jacques Lemouland et Daniel Vigneau(貞操義務違反を
理由とする損害賠償請求の否定); CA. Rennes, 5 mai 2015, RTD civ., 2015, 855, chr., Jean
Hauser ; Dr. fam., juill. 2015, com., 140, note, Jean René Binet ; D., 2016, 1343, chr., Jean
Jacques Lemouland et Daniel Vigneau(同上); etc.

123

論説(白石)

の中に貞操という不作為義務を読み込むことはできないこと 419)、各人が誰と
どのような性的関係を持つかという点をパクスの当事者の合意によって規律さ
せるのは適切でないこと 420)等 421)に求められる 422)。これらの根拠は、いずれも、
究極的には当事者の性的自由への配慮という視点に立脚する 423)。この理解に
よれば、
パクスの当事者の一方が他方以外の者と親密な関係を持ったとしても、
貞操義務の違反は存在せず、他方はそのことを理由に損害賠償を請求すること
418)Jean Hauser, Statut civile des partenaires, JCP. éd. N., 2000, no36, p.6 ; Id., infra note 429,
p.271 ; Dekeuwer Défossez, supra note 413, pp.540 et s. ; Fenouillet, supra note 405, pp.86 et
s. ; Likillimba, supra note 304, no252, pp.167 et s.(ただし、当事者の合意により貞操義務を
導入する可能性を肯定する); Fulchiron, supra note 404, p.1633 ; Niboyer, supra note 281,
no213, pp.127 et s. ; Bazin, supra note 304, p.173 ; Garrigue, supra note 290, no208, pp.155 et
s. ; Ruffieux, supra note 133, no231, pp.235 et s. ; Moracchini Zeidenberg, supra note 281,
no12, p.780 ; Malaurie et Fulchiron, supra note 244, no389, pp.231 et s. ; etc.
419)Hauser, infra note 429, p.270 ; Likillimba, ibid. ; Garrigue, supra note 290, no209, p.156 ;
Ruffieux, supra note 133, nos233 et s., pp.236 et s. ; etc.
420)Hauser, supra note 418, no36, p.6 ; Id., infra note 429, p.271 ; Dekeuwer Défossez, supra
note 413, pp.540 et s. ; Fenouillet, supra note 405, pp.86 et s. ; Dominique Vich Y Llado, La
désunion libre, t.1, préf. Françoise Dekeuwer Défossez, L Harmattan, Paris, 2001, pp.108 et
s. ; Fulchiron, supra note 404, p.1633 ; Larribau Terneyre, supra note 404, no19, p.7 ; Mirabail,
supra note 367, pp.122 et s. ; Niboyer, supra note 281, nos215 et s., pp.128 et s. ; Bazin, supra
note 304, p.173 ; Garrigue, supra note 290, nos213 et s., pp.158 et s. ; Ruffieux, supra note 133,
nos238 et s., pp.239 et s. ; Ducrocq Paywels, supra note 272, no422, pp.283 et s. ; Saulier, supra
note 353, n o84, pp.94 et s. ; Malaurie et Fulchiron, supra note 244, n o389, pp.231 et s. ;
Frédérique Granet Lambrechts, Le pacte civile de solidarité, J. CL., Civil Code, Art. 515 1 à
515 7 1, Fasc. unique, 2017, no99, pp.37 et s. ; etc.
421)貞操義務が婚姻の指導的公序に属することを理由にパクスにおける貞操義務の存在を
否 定 す る 見 解 も あ る が(Sébastien de Benalcázar, Pacs, Mariage et filiation : Étude de la
politique familiale, préf. Bernard Beignier, Collection de Thèses, t.27, Defrénois, Paris, 2007,
nos103 et s., pp.121 et s.)、実定法で夫婦間における貞操義務の脱指導的公序化という現象
がみられることに鑑みると説得的でない。
422)理由は付されていないが、貞操義務を否定するものとして、Jean Jacques Lemouland,
Présentation de la loi no99 944 du 15 novembre 1999 relative au pacte civile de solidarité, D.,
1999, chr., p.484 ; Grimaldi, supra note 407, no5, p.817 ; Égéa, supra note 310, no1158, pp.546 et
s. ; etc.

124

フランス法における家族のメンバーに対する民事責任⑵

はできない。言い換えれば、パクスの各当事者は、相手方の性的自由への配慮
という視点に基づき、相手方の貞操との関連で法的に保護される権利や利益を
持たない。
もっとも、この立場を前提とする場合であっても、パクスの各当事者に対し
て個人間の関係を規律する尊重義務や誠実義務が課され、また、パクスの各当
事者が他方から自己の人格を尊重されることについて権利や利益を持つと理解
することは否定されない。こうした尊重や誠実の観点を、契約法理、例えば、
契約連帯やパクスという契約の類型的な解釈によって基礎付けるのか 424)、そ
れとも、一般的な信義誠実から正当化するのか 425)という点には議論がありう
るが、このことを措くとすれば、パクスの各当事者に、相手方以外の者と性的
な関係を持たないという意味での貞操義務ではないものの、個別の状況に応じ
て相手方に配慮を示しその人格を尊重するという意味での誠実義務が課せられ
ること、そして、このような義務の違反を理由とする損害賠償請求は可能であ
ることが、
貞操義務の存在を否定する見解によっても説かれている 426)。確かに、
場合によっては、パクスの当事者の一方が他方以外の者と性的な関係を持つこ
とにより他方の人格等が害されること、性的関係の存在が誠実義務の違反を基
礎付ける事実となりうることもあるが、この場面における損害賠償請求の保護
対象は、あくまでも他方との繫がりに由来する一方の個人としての人格的な権
423)Hauser, infra note 429, p.271 ; Dekeuwer Défossez, supra note 413, pp.540 et s. ;
Fenouillet, supra note 405, pp.86 et s. ; Bernard Beignier, Le droit des personnes à l épreuve
du PACS, in, Regards civilistes sur la loi du 15 novembre 1999 relative au concubinage et au
pacte civile de solidarité, avant propos de Françoise Dekeuwer Défossez, LGDJ., Paris, 2002,
p.69 ; Larribau Terneyre, supra note 404, no19, p.7 ; Niboyer, supra note 281, no216, p.129 ;
Garrigue, supra note 290, no210, p.157 ; etc.
424)Cf. Hauser, supra note 418, no40, pp.6 et s. ; Larribau Terneyre, ibid. ; Ruffieux, supra note
133, nos235 et s., pp.237 et s. ; Bénabent, supra note 264, no428, pp.316 et s. ; etc.
425)Cf. Beignier, supra note 423, p.69 ; etc.
426)Hauser, supra note 418, no40, pp.6 et s. ; Beignier, ibid. ; Larribau Terneyre, supra note
404, no19, p.7 ; Garrigue, supra note 290, nos237 et s., pp.182 et s. ; Ruffieux, supra note 133,
nos235 et s., pp.237 et s. ; Bénabent, supra note 264, no428, p.316 ; etc.

125

論説(白石)

利や利益であり、
他方の貞操との関連における権利や利益ではない。そのため、
このことを誠実義務の名の下における貞操義務の再導入 427)と評することは適
切でない。とはいえ、夫婦間においても、他者と性的な関係を持たないという
狭い意味での貞操義務のほかに、一般的な誠実義務に解消されうるような貞操
義務が存在したことを想起するとき、パクスの当事者間においては、前者の意
味での貞操義務は存在しないが、後者の意味での貞操義務は存在しうるという
形で整理することは差し支えない 428)。
他方で、一部ではあるが、パクスにおいて貞操義務の存在を認める裁判例も
ある 429、430)。この裁判例およびこれを肯定的に評価する見解を厳密に分析して
いくと、2 つの説明の仕方を抽出することができる。1 つは、夫婦関係におけ
る貞操義務を範型として 431)、およそすべてのパクスにおいて貞操義務の存在
を認めるものである。この説明の仕方は、民法典 515 4 条 1 項に規定されてい
る共同生活や相互扶助の義務の中に貞操義務が含まれることや 432)、二重のパ
クスが禁止されていること 433)を、その根拠とする。もう 1 つは、合意を起点

427)Beignier, ibid.
428)Cf. Ruffieux, supra note 133, nos235 et s., pp.237 et s.
429)TGI. Lille, 5 juin 2002, D., 2003, 515, note, Xavier Labbée ; RTD civ., 2003, 270, chr., Jean
Hauser ; Dr. fam., mai 2003, com., 57, note, Bernard Beignier(パクスの当事者に貞操義務が
課されていることを前提に当事者の一方による不貞行為の事実確認を目的とした執行吏の
選任が認められた事例)
430)一部の学説は、Cons. const., 9 nov. 1999, supra note 412 がいうカップルとしての生活の
中に貞操義務を読み取ろうとする。Molfessis, supra note 412, no22, p.405 ; Bazin, supra note
304, p.174 ; Ben Hadj Yahia, supra note 304, nos735 et s., pp.665 et s. ; Granet Lambrechts,
supra note 420, no98, p.37 ; etc.
431)Molfessis, ibid.
432)Labbée, supra note 373, Le droit commun..., pp.101 et s. ; Villa Nys, supra note 304, pp.98
et s. ; Simler et Hilt, supra note 404, no13, p.4 ; Philippe, supra note 354, pp.21 et s. ; etc. また、
TGI. Lille, 5 juin 2002, supra note 429 は、(当時の法状況ではこれを認める明文の規定が存
在しなかったため民法典 515 1 条から導かれる)共同生活義務と信義則とを接合させて、
パクスの当事者には共同生活を誠実に履行する義務が課せられており、そこには、あらゆ
る形式の不貞行為をしない義務が含まれるとする。

126

フランス法における家族のメンバーに対する民事責任⑵

として、一定のパクスにおいてのみ貞操義務の存在を認めるものである。この
説明の仕方は、夫婦間で合意に基づく貞操義務の排除が認められることがある
とすれば 434)、パクスの当事者間でも合意に基づき貞操義務を導入することは
可能であるとして 435)、合意を介してカップル間の貞操の問題を一元的に把握
しようとするものである。貞操義務に関する合意の存在を推定する等、合意の
認定の仕方によっては、この説明の仕方は、前者のそれに接近する。これらの
理解によれば、パクスの当事者の一方が他方以外の者と親密な関係を持ったと
きには、貞操義務の違反が存在し、他方はそのことを理由に損害賠償を請求す
ることができる。言い換えれば、パクスの各当事者は、相手方の貞操との関連
で法的に保護される権利や利益を持つ。しかし、実定法において夫婦間の貞操
義務を弱める傾向が強く現れていたことを想起し、かつ、貞操義務を免れさせ
ることとそれを課すこととでは個人の自由に与える意味が全く異なることを強
調すれば、現在の法状況の下でパクスの当事者間における貞操義務を強めよう
とすることには、全体としての整合性の点で疑問が残る 436)。
パクスの各当事者に課されている人格的な内容を持つ義務の違反を理由とす
る損害賠償請求の問題について、実定法の状況およびその理解をめぐる学理的
な議論を本稿の問題関心に従って整理すると、次のようになる。実定法は、パ
クスの当事者という地位から生ずる人格的義務については、夫婦間のそれより
も弱い強度のものとして予定したり(共同生活義務)、夫婦間とは異なりその

433)Ben Hadj Yahia, supra note 304, nos735 et s., pp.665 et s. しかし、パクスの当事者はパー
トナー以外の者と婚姻することができ、これによりパクスが解消されることからすると(民
法典 515 7 条1項)、この根拠は説得的でない。Cf. Dekeuwer Défossez, supra note 413,
pp.540 et s. ; Garrigue, supra note 290, no211, pp.157 et s. ; etc.
434)ただし、こうした把握の仕方は必ずしも実定法の現状を正確に捉えたものではない。
435)Labbée, supra note 373, Le droit commun..., pp.103 et s. ; Id., supra note 429, pp.517 et s. ;
Guy Raymond, Pacs et droit des contrats, CCC., oct. 2000, chr., 14, p.5 ; Likillimba, supra note
304, no252, pp.167 et s. ; Ben Hadj Yahia, supra note 304, nos735 et s., pp.665 et s. ; Chauvet,
supra note 310, p.152 ; etc.
436)Antonini Cochin, supra note 304 ; Niboyer, supra note 281, no214, p.128 ; etc.

127

論説(白石)

存在を否定したり(貞操義務)する一方、個人間における一般的な誠実または
尊重の観点をカップル関係の中で具体化させたかのような義務を強化する傾向
にある。一部では、パクスの当事者という地位に結び付く人格的義務を強化し
ようとする議論もあるが、実定法全体の状況とは整合しない。このことを損害
賠償請求の保護対象という視点から捉え直すと、実定法では、パクスの当事者
としての地位に由来する個別的な権利や利益の保護はほとんど想定されておら
ず、人格の実現に必要不可欠な関係に由来する権利や利益、または、個人とし
ての人格的な権利や利益の保護が中核に据えられているということになる。
第 3 に、コンキュビナージュの当事者の一方が、同居を一方的に停止したり、
ほかの者と親密な関係を持ったりした場合に、コンキュビナージュの解消とは
関わりなく 437)、他方当事者に対して損害賠償の支払を義務付けられることは
あるかという問いについて、実定法は、コンキュビナージュの当事者間におい
ては夫婦間(および一定の範囲でパクスの当事者間)のそれに類するような人
格的な内容を持つ義務が存在しないという理解を前提に 438)、上記の事実それ
自体を理由とする損害賠償を否定しつつ、諸状況に照らして一般的な誠実また
は尊重の義務の違反が認められれば、損害賠償を肯定するという点でほぼ一貫

437)現実的には関係継続中の出来事に由来する損害の賠償と関係の解消によって生ずる損
害の賠償とは同時に請求されるが、理論的には両者が厳密に区別されるべきことについて、
注(402)を参照。なお、CA. Rouen, 29 janv. 2003, Dr. fam., juin 2003, com., 69, note, Hervé
Lécuyer は、コンキュビナージュの解消、それに先行する出来事、および、それに続く出
来事のそれぞれについて、フォートの有無を検討すべきことを説いている(ただし、実際
には、解消を取り巻く事情とそれに続く出来事のみが検討されている)。
438)身分や地位とは別の法理に基づき夫婦間で認められている人格的な内容を持つ義務の
一部をコンキュビナージュの当事者間でも肯定しようとする見解もあるが(Ex. Christophe
Sauvat, Réflexions sur le droit à la santé, préf. Anne Leborgne, PUAM., Aix en Provence,
2004, nos269 et s., pp.225 et s.( 健 康 へ の 権 利 に よ る 扶 助 義 務 等 の 正 当 化 ); Anne Laure
Fabas Serlooten, L obligation de soins en droit privé, préf. Hugues Kenfack, Collection des
thèses de l IFR, Presses de l Université Toulouse 1 Capitole, Toulouse, 2015, nos46 et s., pp.59
et s.(良心の義務による看護義務の正当化); etc.)、少なくとも同居および貞操に関しては、
そのような主張はみられない。

128

フランス法における家族のメンバーに対する民事責任⑵

している。
まず、民法典 515 8 条が示しているように、コンキュビナージュは事実上の
結合であるため 439)、地位や身分といった思考には馴染まず 440)、当事者は、コ
ンキュビナージュの関係にあることに由来して何らかの人格的な義務を負うも
のではない 441)。例えば、コンキュビナージュにおいてカップルとしての生
活=性的な関係の存在が本質的な要素の 1 つであるとしても、このことは性的
な関係の排他性を意味するものではないため、貞操義務が問題になることはな
い 442、443)。また、同条によれば、コンキュビナージュは安定的かつ継続的な性
格を持つ共同生活を前提とするため、同居はコンキュビナージュの存続それ自
体に関わり、当事者の義務を構成するものではない 444)。更に、事実上の結合

439)コンキュビナージュの当事者間に法的に結合しようとする意思と約務があると仮定し
ても(Cf. Aurélien Molière, Et si le concubinage était un acte juridique ?, RTD civ., 2018, pp.21
et s.)、それは婚姻およびパクスを選択しないことによりそれらから生ずる権利や義務に従
わないことを意味するものにすぎないため、この約務を理由としてコンキュビナージュの
当事者に人格的義務を課すこともできない。
440)Cf. Alain Sériaux, De l opportunité d un statut des concubins, in, Regards civilistes sur la
loi du 15 novembre 1999 relative au concubinage et au pacte civil de solidarité, supra note 423,
no7, pp.33 et s.
441)Cf. Ruffieux, supra note 133, nos172 et s., pp.187 et s.
442)Louis Josserand, L avènement du concubinat, DH., 1932, chr., p.47 ; Françoise Alt Maes,
La situation de la concubine et de la femme mariée dans le droit français, RTD civ., 1983,
pp.646 et s. ; Hauser et Huet Weiller, supra note 183, no1121, p.799 ; Colombet, supra note
250, no75, p.104 ; Niboyer, supra note 281, nos211 et s., pp.126 et s. ; Vincent Égéa, La fonction
de juger à l épreuve du droit contemporain de la famille, préf. Anne Leborgne, Collection de
Thèses, t.43, Defrénois, Paris, 2010, nos472 et s., pp.296 et s. ; Id., supra note 310, nos1179 et s.,
pp.554 et s. ; Garrigue, supra note 290, nos170 et s., pp.125 et s. ; Bazin, supra note 304, pp.172
et s. ; Ruffieux, supra note 133, nos231 et s., pp.235 et s. ; Ducrocq Paywels, supra note 272,
no422, pp.283 et s. ; Olivier Gazeau, Hugues Lemaire et Franck Vancleemput, Les effets
propres à la rupture volontaire du concubnage, Defrénois, 2015, art. 39145, p.1677 ; Saulier,
supra note 353, no84, pp.94 et s. ; Malaurie et Fulchiron, supra note 244, no315, p.195 et no321,
p.198 ; Terré, Goldie Genicon et Fenouillet, supra note 211, no383, p.333 ; Bénabent, supra
note 264, no463, p.339 ; etc.

129

論説(白石)

であるコンキュビナージュの関係に対して、法的な結合である婚姻に関する
様々な規定が適用されることはなく 445、446)、コンキュビナージュの当事者が、
民法典 212 条や同 215 条に基づいて、貞操、救護、扶助、生活の共同等を義務
443)当事者の合意により貞操義務を導入する可能性を認める見解もあるが(Labbée, supra
note 373, Les rapports juridiques..., pp.136 et s. ; Id., supra note 373, Le droit commun...,
pp.403 et s. ; Id., supra note 398, L obligation implicite de fidélité..., p.67 ; Villa Nys, supra note
304, pp.98 et s. ; Likillimba, supra note 304, no252, pp.167 et s. ; Ben Hadj Yahia, supra note
304, nos715 et s., pp.652 et s.)、少数に止まる。
444)Hauser et Huet Weiller, supra note 183, no1121, p.799 ; Niboyer, supra note 281, nos206 et s.,
pp.124 et s. ; Garrigue, supra note 290, no173, p126 ; Saulier, supra note 353, no72 et s., pp.85 et
s. ; Malaurie et Fulchiron, supra note 244, nos310 et s., pp.193 et s. et no321, p.198 ; etc.
445)Cf. Leveneur, supra note 342, nos345 et s., pp.423 et s.
446)例えば、コンキュビナージュの当事者に家事債務の連帯を規定した民法典 220 条が適用
されることはないため、一方が家庭の維持または子の教育のために締結した契約により負
担した債務について他方が連帯して義務を負うことはない(Cass. 1re civ., 11 janv. 1984,
no82 16.198 ; Bull. civ., I, no12 ; D., 1984, IR., 275, obs., Didier Martin ; Defrénois, 1984, art.
33354, 933, note, Gérard Champenois ; Defrénois, 1984, art. 33367, 1003, note, Jacques
Massip ; Gaz. Pal., 1985, 1, jur., 133, note, J. M. ; RTD civ., 1985, 171, chr., Jacques Mestre ;
Cass. 1re civ., 17 oct. 2000, no98 19.527 ; Bull. civ., I, no244 ; D., 2000, 611, obs., Jean Jacques
Lemouland ; Dr. fam., déc. 2000, com., 139, note, Bernard Beignier ; D., 2001, 497, note, Rémy
Cabrillac ; JCP., 2001, II, 10568, note, Thierry Garé ; JCP. éd. N., 2001, 1822, note, Thierry
Garé ; RTD civ., 2001, 111, chr., Jean Hauser ; Defrénois, 2001, art. 37287, 93, note, Jacques
Massip ; Cass. 1re civ., 2 mai 2001, no98 22.836 ; Bull. civ., I, no111 ; D., 2001, 1772 ; RTD civ.,
2001, 565, chr., Jean Hauser ; Defrénois, 2001, art. 37394, 1003, note, Jacques Massip ; Dr.
fam., sept. 2001, com., 79, note, Luc Perrouin ; D., 2002, 612, chr., Jean Jacques Lemouland ;
JCP., 2002, I, 103, chr., Georges Wiederkehr ; JCP., 2002, II, 10009, note, Rémy Cabrillac ; RTD
civ., 2002, 556, chr., Bernard Vareille ; Cass. 1re civ., 27 avril 2004, no02 16.291 ; Bull. civ., I,
no113 ; D., 2004, 2968, obs., Daniel Vigneau ; RTD civ., 2004, 487, chr., Jean Hauser ; RTD civ.,
2004, 510, chr., Jacques Mestre et Bertrand Fages ; Dr. fam., sept. 2004, com., 140, note,
Virginie Larribau Terneyre ; AJ fam., oct. 2004, 362, obs., François Chénedé ; JCP., 2005, II,
10008, note, Georges Cavalier ; Cass. 1re civ., 23 mars 2011, no09 71.261 ; Dr. fam., juin 2011,
com., 91, note, Virginie Larribau Terneyre ; D., 2012, 980, chr., Jean Jacques Lemouland et
Daniel Vigneau ; CA. Paris, 21 sept. 1989, D., 1990, jur., 500, note, Gilles Paisant ; etc.)。また、
コンキュビナージュの当事者に婚姻費用の分担を規定した同 214 条は適用されないため、当
事者の意思が明らかでなければ、各自が共同生活の費用を負担する(Cass. 1re civ., 19 mars

130

フランス法における家族のメンバーに対する民事責任⑵

付けられることもない。従って、コンキュビナージュの当事者は、相互に人格
的な内容を持つ義務を負わず、上記の場面における損害賠償は、こうした義務
の違反を根拠とするものでも、コンキュビナージュの当事者という地位から生
ずる個々の人格的な権利や利益を保護の対象とするものでもない。
とはいえ、コンキュビナージュの当事者間にいかなる法的な義務も発生しな
いというわけではない。コンキュビナージュも人と人との関係であることに変
わりはないため、他方を尊重したり、他方に誠実さを示したりする一般的な義
務は問題となる 447、448)。従って、一方が他方との同居を一方的に停止したり、
ほかの者と親密な関係を持ったりしたこととの関連も含めて、一方が他方との
関連で誠実義務や尊重義務の違反と評価される行動や態度をとったときには、

(前頁からつづき)
1991, no88 19.400 ; Bull. civ., I, no92 ; Defrénois, 1991, art. 35088, 942, note, Jacques Massip ;
Cass. 1re civ., 31 janv. 2006, no02 19.277 ; Cass. 1re civ., 28 nov. 2006, no04 15.480 ; Bull. civ., I,
no517 ; Dr. fam., fév. 2007, com., 32, note, Virginie Larribau Terneyre ; AJ fam., janv. 2007, 33,
obs., François Chénedé ; Cass. 1re civ., 19 déc. 2018, no18 12.311 ; D., 2019, 7 ; D., 2019, 919,
chr., Jean Jacques Lemouland ; JCP., 2019, 215, chr., Marie Lamarche ; Gaz. Pal., 2019, 240,
note, Solange Mirabail ; AJ fam., fév. 2019, 94, obs., Jérémy Houssier ; etc. このことは、コン
キュビナージュの当事者が後に夫婦になったとしても、婚姻に先立つ時点における費用負
担について妥当する。Cf. Cass. 1re civ., 9 janv. 1979, no77 12.991 ; Bull. civ., I, no11 ; Gaz. Pal.,
1979, 2, jur., 500 ; D., 1981, jur., 241, note, André Breton ; RTD civ., 1980, 340, chr., Roger
Nerson)。その他、Cf. Cass. 1re civ., 9 déc. 2003, no02 12.884 ; Bull. civ., I, no253 ; Defrénois,
2004, art. 37926, 585, note, Jacques Massip(2006 年6月 23 日の法律による改正前の同旧
832 条の不適用); etc.
447)Hauser et Huet Weiller, supra note 183, nos1120 et s., pp.799 et s. ; Égéa, supra note 304,
nos45 et s., pp.689 et s. ; Pons, supra note 17, nos138 et s., pp.99 et s. ; Garrigue, supra note 290,
nos237 et s., pp.182 et s. ; etc. また、Pizarro, supra note 272, nos23 et s., pp.25 et s. は、主とし
て関係の解消の局面を念頭に置いたものであるが、3つのカップルの形態に共通する共同
生活という要素からいずれのカップルでも当事者相互に誠実義務が課せられるとする。更
に、Suzel Castagné, Mariage, PACS, concubinage. ─ Analyse comparative, JCP. éd. N., 2008,
1325, nos57 et s., pp.19 et s. は、民法典 212 条にいう尊重義務がコンキュビナージュ当事者
にも課されるべきことを説く。ただし、この見解は、同 212 条にいう尊重義務の中に貞操
義務も含めて捉えるものであり、この限りにおいて、適切さを欠く。

131

論説(白石)

他方からの損害賠償請求も認められる 449)。もちろん、この損害賠償請求では、
コンキュビナージュの当事者という地位から切り離された個人としての人格的
な権利や利益だけが保護対象として想定されることになる。
①での検討課題に関する実定法の現状を大枠として整理すると、以下のよう
になる。一方で、実定法は、カップル関係の多元的な把握を基礎として 450)、
夫婦の一方からの損害賠償請求では、次第にその強度を弱めながら、配偶者と
しての身分に由来する個別的な権利や利益を保護対象として想定し、パクスの
448)Cass. 1re civ., 25 juin 2008, no07 14.628 ; Defrénois, 2008, art. 38871, 2420, note, Jacques
Massip ; D., 2010, 735, chr., Jean Jacques Lemouland et Daniel Vigneau は、コンキュビナー
ジュの当事者には婚姻義務が課されていないこと、従って、その違反も存在しないことを
理由に、コンキュビーヌからの損害賠償請求を棄却した原審について、コンキュバンが精
神的な混乱の中で自己を放置しておいたことがフォートを構成するというコンキュビーヌ
の主張に応えていないとして破棄している。この判決では、コンキュビナージュの当事者
にはその地位から生ずる人格的な義務は課されないが、個人間の関係に由来する一般的な
義務が課されうることが示唆されている。
449)例えば、コンキュバンが妊娠中のコンキュビーヌおよび生まれてきた子に無関心であっ
たこと(Cass. 1re civ., 2 avril 2008, no07 13704 et no07 13.756 ; Dr. fam., juin 2008, com., 87,
note, Pierre Murat)等は、損害賠償の基礎としてのフォートに該当する。その他、Cf. CA.
Bordeaux, 4 janv. 2000, D., 2000, som., 411, obs., Jean Jacques Lemouland ; Dr. fam., mars
2000, com., 34, note, Hervé Lécuyer(コンキュバンが関係の解消を明確に告げなかったこ
と、ほかの女性と関係を有していたこと、コンキュビーヌがほかの女性の存在を通じて関
係の解消を認識したこと等の事実から、損害賠償の基礎としてのフォートが肯定された事
例); CA. Pau, 30 janv. 2012, Dr. fam., mai 2012, com., 76, note, Virginie Larribau Terneyre(コ
ンキュバンがほかの女性と関係を持ちながら虚言等を用いてコンキュビーヌとの関係を維
持したことの証明がされていないとして、損害賠償の基礎としてのフォートが否定された
事例); CA. Paris, 13 juin 2013, Dr. fam., oct. 2013, com., 133, note, Jean René Binet ; D., 2014,
1352, chr., Jean Jacques Lemouland et Daniel Vigneau(コンキュバンがコンキュビーヌ不
在の間に子の写真だけを残してすべての家財を運び出したことが損害賠償の基礎としての
フォートに該当するとされた事例); etc.
450)Jean Jacques Lemouland, Le pluralisme et le droit de la famille, post modernité ou pré
déclin ?, D., 1997, chr., pp.133 et s. ; Françoise Dekeuwer Défossez, À propos du pluralisme
des couples et des familles, PA., 28 avril 1999, pp.32 et s. ; Niboyer, supra note 281, nos226 et s.,
pp.133 et s. ; Laurence Mauger Vielpeau, L autonomie du pacs, Dr. fam., oct. 2008, étude 22 ;
etc.

132

フランス法における家族のメンバーに対する民事責任⑵

当事者の一方からの損害賠償請求では、解釈の仕方にもよるが、限定的な範囲
でパートナーとしての地位に由来する個別的な権利や利益を保護対象として想
定する余地を残し、コンキュビナージュの一方からの損害賠償請求では、こう
した可能性を否定する。他方で、実定法は、いずれのカップル関係においても、
尊重や誠実といった一般的な義務を認めることを通じて、当事者の一方からの
損害賠償請求の保護対象として、人格の実現に必要不可欠な関係に由来する権
利や利益、または、個人としての人格的な権利や利益を想定する。とはいえ、
このことは、実定法がカップルの多元性を放棄し単一のカップルの地位を生成
する方向 451)に向かっていることを意味するものではない 452)。この現象は、カッ
プルの形態がどのようなものであっても、カップルの当事者という身分や地位
からは切り離した形で、個人としての人格を保護することの重要性が強調され
るようになっていることを示すものにすぎない。
(しらいし・ともゆき 筑波大学ビジネスサイエンス系准教授)

451)こうした方向を目指すものとして、Ex. Labbée, supra note 373, Les rapports juridiques... ;
Id., Reconstruire la famille : Le droit commun du couple, PA., 20 déc. 2007, pp.4 et s. ; Id., Le
ministre et les violences dans le couple, D., 2009, pp.2814 et s. ; Id., supra note 373, Le droit
commun... ; Id., supra note 398, Le mariage homosexuel..., pp.1642 et s. ; Id., supra note 398,
L obligation implicite de fidélité..., p.67 ; Id., supra note 398, La contractualisation du droit
familial..., pp.261 ; etc. また、カップル関係の完全な一元化を説くものではないが、Cf. Clotilde
Brunetti Pons, L émergence d une notion de couple en droit civil, RTD civ., 1999, pp.27 et s. ;
Saulier, supra note 353 ; etc.
452)問題関心は異なるが、Cf. Rachel Blough, Le concubinage, dix ans après, Dr. fam., avril
2009, étude 19.

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