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<論説>単なる動機(simple motif)の錯誤の考慮について : フランス民法1135 条1 項の場合

小林, 和子 筑波大学

2022.09.12

概要

1 日本の状況
 表意者が効果意思を形成するにあたっての動機に錯誤がある場合、様々な点が問題となりうる1)。例えば、動機の錯誤も民法95条の錯誤に含めて考えるべきか、動機の錯誤も民法95条の錯誤に含めるとすれば錯誤をどのように定義づけるべきか、表示の錯誤と動機の錯誤を区別するべきか、動機の錯誤はどのような要件で無効とされるべきか、などについて、判例や学説において議論が活発であった。
 5年余りに及んだ法制審議会「民法(債権関係)部会」における審議では、民法95条の明確化も目指された2、3)。2017年5月、「民法の一部を改正する法律」が成立し、2020年4月1日から改正民法が施行されている4)。改正民法において、民法95条は大きく変更した5)。改正民法95条1項では、意思表示の取消しの原因となる錯誤は、意思の不存在の錯誤と基礎事情の錯誤に分かれている6)。「基礎事情の錯誤」は、表意者が法律行為の基礎とした事情についての表意者の認識が事実に一致しない場合であり、従来、動機の錯誤とされてきた場合である7)。
 動機の錯誤には、様々な種類の錯誤が含まれる。例えば、意思表示の対象である人や物の性質に関する錯誤(性質の錯誤)8)や意思表示の間接的な目的ないし理由に関する錯誤(狭義の動機の錯誤)9)が含まれる。
 動機の錯誤に関する活発な議論の中で、後者である狭義の動機の錯誤はどのように扱われてきたのだろうか。以下では動機の錯誤を類型化する考え方(1))と動機の錯誤を類型化しない考え方(2)に分ける。

(1) 動機の錯誤を類型化する考え方
 以下では動機の錯誤を類型化する考え方をさらに二つの類型に分類する考え方((i)と三つの類型に分類する考え方(ii)に分ける。

(i) 二つの類型に分類する考え方
 狭義の動機の錯誤と性質の錯誤に区別し、狭義の動機の錯誤には特別の要件を要求すべきであるとの考え方がある。
 例えば、①効果意思内容に属する事項の性質に関する錯誤と②性質に関する錯誤以外の動機錯誤に区別をし、②に関する錯誤による無効は、一定の条件のもとにおいてしか認めるべきではないとする見解10、11)がある。
 次に、明治における大審院判決には、動機の錯誤については例外的にしか考慮されず、積極的に契約の要件・条件としない限り、要素の錯誤とはならないと判断した例12)があり、また、数多くの最高裁判決13)においても、狭義の動機が錯誤の対象にならないことを認めたものがあるとする見解14)がある。
 この見解は、甲・乙間の土地売買契約の合意解除と山林との交換契約の締結により、甲が乙に対して負担した清算金債務を弁済するために、丙との間で締結していた定期貯金契約を合意解除し、その払戻金を乙に給付することを丙に甲が委任したが、売買及び交換の両契約が山林の価値についての錯誤により無効であり、清算金債務が存在しなかった場合に、乙に対する支払の動機は、丙に表示されたかどうかにかかわりなく、定期貯金の解約および支払委任という法律行為の要素となるものではないと判断した最判昭和47年5月19日民集26巻4号723頁15)を挙げ、狭義の動機の錯誤は錯誤の対象とならない例であるとする16)。
 続けて、動機表示必要説や動機表示不要説が学説17、18)では生じたが、むしろ、原点に戻り、狭義の動機は表示の有無を問わず錯誤とはならず、広義の動機とされてきたものは表示の有無を問わず錯誤の対象となる、とこの見解は主張する19)。

(ii) 三つの類型に分類する考え方
 まず、①目的物に直接関係しない主観的理由の錯誤、②目的物に直接関係している動機の錯誤、③目的物や行為の評価の共通の前提とされている事実あるいは法律に関する錯誤に区別する見解20)がある。この見解は、①については、相手方にそれを動機として表示していたとしても、条件化していない限り、無効とはならないとする21)。この見解は、続けて、他に連帯保証人がいるという債務者の言葉を誤信して連帯保証をした場合は、特にそのことを保証契約の内容としたのでなければ動機の錯誤であって要素の錯誤ではないとした判例22)を具体例に挙げる。
 改正民法95条1項において、従来、動機の錯誤とされてきた場合である基礎事情の錯誤と分類される例23)について、①主観的理由の錯誤(目的物に関連しない錯誤)、②性状の錯誤(目的物に関連する錯誤)、③その他の前提事情に関する錯誤に区別24)しつつ、①については、表意者自身がリスクの負担をするべきであり、動機が表示されても錯誤による取消しとはならないし、仮に、「法律行為の基礎」とする趣旨で表示したとしても、要素性や重要性の要件を充たさないとする見解25)がある。

(2) 動機の錯誤を類型化しない考え方
 狭義の動機の錯誤と性質の錯誤を区別することなく、動機の錯誤を錯誤の対象から除外する見解26)もある。
 この中の見解には、①受胎している良馬との売主の言明を信頼して買った買主の錯誤を保護した事案27)について、「条件か保証」が問題となったとし、②上質のジャムであることを当事者双方が前提としていたのに、リンゴなどの粗悪品であった場合における受領者の錯誤が問題となった事案28)について、「前提合意」が問題となったとし、③道路が開通しているとの売主の説明を信じて当初の希望額を大幅に上回る代金をもって買い受けた買主の錯誤が問題となった事案29)について、道路の存在という「条件」が問題となっていたとし、④代金の一部で債務を相殺する特約をした不動産の売主の錯誤が問題となった事案30)について、買主が貸金債権を有することが売買契約の不可欠要件であり、「条件か前提」が問題となった、とする見解31)がある。
 要素の錯誤の対象は意思の欠缺をもたらす錯誤のみに限定すべきであるとこの見解は述べる32)。両当事者により、条件や前提、保証、特約などの形で合意にまで高められたとき、合意された動機は法的に保護されるが、その保護は、詐欺・条件理論、瑕疵担保などの契約責任等によるとこの見解は主張する33)。
 以上をまとめると、狭義の動機の錯誤は、①錯誤の問題であるとする見解、②錯誤の問題ではないとする見解があり、さらに①の見解の中でも、契約の効力を否定しないとするにとどまる見解や契約の効力を否定するために一定の条件が必要であるとする見解がある。②の見解では、条件・前提・保証・特約などに着目し、他の構成(契約責任等)によって処理すべきだとの見解がある。

2 フランスの状況34)
 フランス法には、狭義の動機の錯誤に対応する錯誤である、「単なる動機の錯誤」がある。ゲスタンによると、単なる動機とは「契約から生じた債務の内容とは全く異なる事実に関する錯誤」である35)。教科書等で紹介される具体例としては、転勤が決まったと勘違いをし、転勤先で一軒家を購入したが、実際には転勤がなかったという場合36)がある。
 かつて、フランス民法は、錯誤に関する規定として、旧1110条37)を置いていた。単なる動機の錯誤については、契約が無効となるための基準を判例が形成した。後掲・破毀院第一民事部2001年2月13日判決などの判例は、原則、単なる動機の錯誤によって契約は無効とされないが、例外として、一定の要件を満たした場合のみ契約は無効とされるとした。法的安定性がその主たる理由である38)。
 すなわち、2016年フランス民法改正前の段階では、動機の錯誤について、目的物の実体に関する動機やその者についての考慮が合意の主たる原因である場合における契約の相手方に関する動機(旧1110条に関連する動機)の錯誤と、表意者個人の状況にのみ関わる動機(判例によって無効とされる基準が形成された動機)の錯誤に区別されていた39)。
 2016年2月10日に発令された「契約、債権債務関係の一般制度及びその証明の法の改正を定めるオルドナンス」とオルドナンスを追認する2018年4月20日の法律第287号により、フランス民法は大きく変更した40)。
 新たなフランス民法は、錯誤に関する規定を数多く置く。1132条が基本となる規定である。

 1132条 錯誤は、法に関するものでも、事実に関するものでも、なされるべき給付の本質的性質又は相手方の本質的性質に関するものである場合には、契約の無効原因である。ただし、それが宥恕されないものであるときは、この限りでない。

 続いて、錯誤による契約の無効を制限する規定を置く41)。そのうちの1つに単なる動機の錯誤(1135条1項)がある42)。従来の判例の法理を明文化した規定との評価43)がされている。

 1135条1項 なされるべき給付又は相手方の本質的性質に関わらない、単なる動機に関する錯誤は、当事者が明示的にその者の同意の決定的要素としない限り、契約の無効原因ではない。

3 本稿の目的
 狭義の動機の錯誤のみに関する規定を日本法は置いていない。新たなフランス民法は1135条1項の規定を置く。
 新たなフランス民法は、単なる動機の錯誤について、錯誤の問題とするのか、あるいは、錯誤の問題ではないとするのか。給付又は相手方の本質的性質に関する錯誤(1132条)と給付又は相手方の本質的性質に関わらない単なる動機の錯誤(1135条1項)は、条文上は区別されているが、明確に区別がされているのか。錯誤の問題か否かの問題は別として、単なる動機の錯誤により契約の効力が否定されるには、どのような要件が必要か。
 本稿の目的は、フランスの判例や学説において、単なる動機の錯誤がどのように考慮されているのかについて、みることにある。
1135条1項によると、単なる動機は、「なされるべき給付」又は「相手方」の本質的性質に関わらない動機ということになる。本稿は、前者である「なされるべき給付」の本質的性質に関わらない動機を中心に検討する。

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