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持続可能な地域構築に繋がるスマートコミュニティに関する研究 -地産地消型の木質エネルギー利活用を中心とした考察-

松嶋, 健太 京都大学 DOI:10.14989/doctor.r13414

2021.03.23

概要

1. はじめに

本研究は、東日本大震災を契機としてわが国のエネルギーの在り方に関する国民の考え方の変化を契機に、持続可能な社会構築に向けたエネルギー供給と使い方について、スマートコミュニティ構築を切り口に検討を行ったものである。

東日本大震災では、震災直後の電力やガスの途絶による避難所運営の困難さなどの経験から、自立的なエネルギーシステム構築による市民の安心・安全の確保を目指し、被災自治体の復興計画にスマートコミュニティの構築や再生可能エネルギーの導入が組み込まれることとなった。
本研究で対象とした岩手県釜石市においてもスマートコミュニティ構築を復興施策の柱に掲げるなど、再生可能エネルギーを活用したまちづくりを目指してきたところである。
その結果、複数のメガソーラ発電所など、太陽光発電の導入は進んだものの、いずれも事業性確保の点から FIT 売電が行われており、市内での利活用は行われていない。
また、豊富な森林資源を活用した木質バイオマスについては、震災の前から導入されていた木質混焼発電は継続運営されているものの、復興時に建築された災害公営住宅等への木質バイオマスの導入は進まなかった。
再生可能エネルギーの導入は、地域の資源の活用に結びつくものであり、温室効果ガスの排出を大幅に削減するなどの環境面での効果だけでなく、市外に流出していた燃料費を市内で循環させることで、雇用の創出など経済的にも利点がある。
加えて、持続可能な社会構築の視点からは、化石燃料のほとんどを海外からの輸入に頼っているわが国においては、資源の枯渇の問題だけでなく、安定的な輸入の確保がエネルギー安全保障の面からも課題があり、その面においても地産地消型の国産エネルギーである木質バイオマスや太陽光発電、風力発電等の再生可能エネルギーは有望なエネルギーと考えることができる。

そこで、岩手県釜石市を対象に、エネルギーの再生可能エネルギーへの転換、すなわちエネルギーの脱炭素化を実現するために必要な課題の抽出を試みるとともに、導入を指向したものの実際には導入が行われなかった木質バイオマスについて、地産地消型のエネルギーとしての可能性を検討した。
その上で、このような地域構築の取り組みが地域にとってどのような効果をもたらすのかを評価する評価指標を提案することができれば、木質バイオマス等の再生可能エネルギーを活用したスマートコミュニティのような地域づくりの促進に繋がるものと考えて研究を行った。

2. 研究の目的

2.1 地域特性を踏まえた再生可能エネルギーの最大活用方策の検討
世界的な課題となっている持続可能な社会構築において、環境面での大きな課題となっているのは地球温暖化に伴う気候変動による影響である。IPCC による「1.5℃報告書」においても 2050 年までに世界の温室効果ガスの排出量を現在の水準より 80%削減することで、気候変動による影響を許容できる範囲で緩和できるとされており、温室効果ガス排出の大幅な削減が必要となっている。
これに効果的な取組は、エネルギーの脱炭素化であり、化石燃料から再生可能エネルギーへの転換となる。しかしながら太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギー電源の多くは不安定で、エネルギー転換による再生可能エネルギー利用 100%の実現には、エネルギーの需給マネジメントを行う仕組み、すなわちスマートコミュニティの構築が必要となる。
本研究では、エネルギーの脱炭素化を地域の再生可能エネルギー資源で実現するために必要となる需要側の調整、安定して供給するためのシステム、地産地消型のシステムとするために必要な社会システムについて検討を行い、地域への再生可能エネルギー最大導入実現による効果と、実現に必要な課題の検討を行うことを目的とした。

2.2 木質資源を活用したエネルギー事業の実現可能性の検討
中山間地等森林を広く抱える地域の資源である木質資源は、木材としてだけでなく、エネルギー資源としても活用可能である。
このようなことから、わが国の政府や各地域の自治体等でも木質資源のエネルギー利用に積極的に取り組んできた。その結果、地域の温浴施設のボイラを木質ボイラに転換した施設が建設されるなど、一部では活用が進められているところである。
その一方で、戸建て住宅や住宅団地など、市民の生活に根付いたところでの導入は進んでおらず、地域単位での木質バイオマス利用の広がりが少ない状況にある。
持続可能な地域づくりに結びつくスマートコミュニティでは、太陽光発電や風力発電などの既存の送配電インフラを活用することができ、また需給制御の比較的容易な電力を中心に導入が進められているところである。木質バイオマスは、太陽光発電などと同様に発電用のエネルギーとして活用できるだけでなく、熱を含めて有効活用することによって、より効率のよいエネルギー利用を実現することができる。
しかしながら、地域での熱利用には、熱の移送効率の点で近接地域での供給に限定されるなどの一定の制約がある。
そこで、一定の集団となる戸建て住宅団地と、住戸の離れた離散集落を対象に、東日本大震災復興時の釜石市を具体のフィールドとして、小型の木質エネルギーシステムの導入可能性の検討を行った。
本研究では、木質エネルギーシステムの導入による環境面、経済面、社会面での効果を検討するとともに、システム実現上の課題の検討を行うことを目的とした。

2.3 スマートコミュニティ実現を促進するための評価基準の検討
持続可能な社会の構築に向けて、国内外でスマートコミュニティ構築が進められているところである。スマートコミュニティ構築により、温室効果ガス排出の削減や再生可能エネルギーの促進、エネルギー自給率の向上等に効果があるほか、IoT が導入されることなどにより、より暮らしやすい地域を構築することができることなど、環境面だけではない効果を期待することができる。
しかしながら、現時点ではスマートコミュニティが地域に対してどのような効果をもたらすかなどに関する評価基準や指標がない状態にある。地域にとって、評価する基準がないことはスマートコミュニティ構築において、どのような状態を目指すのか、自らの地域で何が不足しているのかがわからない状態になり、スマートコミュニティ構築促進上の課題となっていると考えられる。
持続可能な社会の構築の視点では、SDGs が国際的な目標として採用されている。SDGs そのものは、国や地域が持続可能であるために確保される水準を 17 のゴールと 169 のターゲットにより、設定したものであるが、スマートコミュニティを SDGs の視点で評価することで、国際的に目指す目標と整合性を確保した評価が可能となる。また、スマートコミュニティ(シティ)が先進的な技術の採用を前提としているが、持続可能な地域づくりの視点からはローテクもその目的の達成に貢献するものであり、より広い視点でスマートコミュニティを捉え直すことも必要と考えられた。
そこで、本研究ではスマートコミュニティによって実現される持続可能なまちづくりについて、
SDGs との関係の視点から体系化し、指標化を試みた。


3. 再生可能エネルギーを活用した地域エネルギーシステムの検討

地域においてエネルギーの脱炭素化を推進するためには、地域に賦存する再生可能エネルギーの活用が不可欠である。国産エネルギーというだけでなく、地産地消型のエネルギーを活用することで、災害時のエネルギー供給途絶の影響を最小限にできるというレジリエンス(強靭性)に関するメリットに加えて、エネルギーの調達が市内で行われることによる経済的なメリットを享受できると考えられる。
釜石市において試算した結果、現状では市内最終エネルギー需要の 14.8%の供給力となるが、市内に賦存するポテンシャルは、市内最終エネルギー需要の 151.6%であり、量的には需要を充足できることが確認された。
再生可能エネルギーのポテンシャルでは風力発電が最大であり、供給できるエネルギー種別としては電力に偏ることになる。市内のエネルギー需要では産業用を中心に熱が多いため、エネルギー需要の電気への転換も必要となる。
本研究では、水素化やメタネーションによる都市ガス化により産業用の熱需要についても賄うことができる可能性を示すとともに、それに必要となる社会的な仕組みとして地域のエネルギー会社を基盤としたエネルギー需給の在り方を提案した。


4. 木質バイオマスによる戸建て住宅団地への地域熱供給システムの導入

岩手県釜石市のような東北の震災被災地では、冬季の暖房需要等が大きく、地域の森林資源が活用でき、かつ熱供給を行うことができる木質バイオマスのようなエネルギーの導入が促進された場合は、環境面や経済面での効果が非常に大きいと考えられる。
本研究では、住宅団地への熱供給による暖房・給湯需要対策、離散型の集落での熱電併給に関する検討を行い、木質バイオマスの利活用の可能性の検討を行った。
その結果、40 戸規模の住宅団地については、既存の化石燃料である LPG による地域熱供給システムと比較して、初期費用は高額となるが、ランニングコストの低減により長期的には木質バイオマスによるシステムの方が優位であること、燃料費が市内に循環することによる経済的な効果があること、温室効果ガス排出の大幅な削減に結びつくことにより、木質バイオマスによるシステムが優位となる可能性が示唆された。


5. 離散集落への薪ボイラ導入による地域熱供給システムの導入

離散型の集落への熱電併給システムの導入については、各住戸への薪ボイラの導入は灯油・LPG からの転換による燃料費の低減により、常勤雇用を生み出すほどの効果はないが一定の経済的なメリットがあることが確認された。さらに、近年政府が促進している高齢者の地方への定住促進策を考慮し、地域に福祉施設を配置し、福祉施設に木質 CGS を設置することによる熱電併給も検討に加えた。その結果、電力の供給には、電力小売事業者等の仲介が必要になるなど、実現には課題があるものの、本論文で想定した 40 人規模の老人福祉施設と 20 戸の集落において、エネルギーの地産地消が成立する可能性が示唆された。


6. 持続可能な地域づくりであるスマートコミュニティを評価するための手法

持続可能な地域づくりの促進については、環境省が「地域循環共生圏」を提示する等、国内外で進められようとしている。
本研究で検討した地域での再生可能エネルギーの活用なども、持続可能な地域づくりの中で考えられているものであり、喫緊の課題となっている地球温暖化に伴う気候変動の緩和の視点からは、導入が促進され再生可能エネルギーが主たるエネルギーになっていくと考えられる。
その一方で、再生可能エネルギーを活用したまちづくりを考えた場合、再生可能エネルギーの導入によって、温室効果ガスの排出削減など環境面での効果だけでなく、地産地消型のシステムを構築することによって、ここで示したように経済的な効果だけでなく、コミュニティの維持形成などの社会的な効果も得ることができると考えられる。
従来の社会インフラ整備においても、費用便益等による効果計測が行われてきたところであるが、前出のような社会面や経済面、環境面を含む持続可能性の視点での総合的な評価は、行われてこなかった。
本研究で検討を加えた SDGs のゴールとターゲットを活用した評価基準である「スマートコミュニティ・インデックス」を体系的に構築することで、評価対象とした事業(又はインフラ整備)が持続可能な地域づくりの視点で、どのような貢献をするのか(又は目指そうとするものか)を説明可能であること、さらに評価指標を設定することによって定量性をもって比較評価が可能となる可能性を示唆することができた。
本研究では、木質バイオマス事業のほか、太陽光発電や風力発電の再生可能エネルギー事業とスマートコミュニティ事業をあてはめて評価することで SDGs のゴールとターゲットを用いた評価基準の構築の可能性を検討したところであるが、指標による定量的な評価だけでなく、事業による効果を SDGs の視点から定性的に説明することで、類似した事業でありながら事業ごとの効果の相違を説明できる可能性が示唆された。
また太陽光発電事業などの固定価格買取制度を活用した事業では「ゴール 7 エネルギーをみんなに、そしてクリーンに」ついて評価が低くなるが、売電先を地域新電力等に切り替え、釜石市内で電力を使える地産地消型電源とすることなどの対策を実施することで評価を改善できる。「スマートコミュニティ・インデックス」を活用することで、事業の現在の評価だけでなく、持続可能なまちづくりの視点から改善すべき点を抽出し、対応方針を検討することが可能となると考えられた。
今後、異なる事業、異なる規模、異なる地域等での比較検討を行うことで、持続可能なまちづくりに資する評価手法として確立することが可能ではないかと考えられる。

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