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大学・研究所にある論文を検索できる 「富山県の陸水動態解析による沿岸海洋への栄養塩・炭素フラックスの長期変動の解明」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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富山県の陸水動態解析による沿岸海洋への栄養塩・炭素フラックスの長期変動の解明

片境 紗希 富山大学

2022.03.23

概要

太陽系で唯一「水圏」が存在する地球では,陛域からの水と物質供給が、地球表面における水と物質循環内の重要な構成要素である。また,陸一海間の水・物質循環は、気候や治岸海域の生物活動を制御する全球規模で重要な自然現象である。その構成要素である河川と海底地下水湧出(以下,海底湧水)は,物質のコンベアベルトとして隆起源栄養塩を沿岸海域へ供給し、結果的に治岸海域の基礎生産を介した実質的なCO_吸収にしていることが知られており,その量は全海洋の約4割を占めることが推定されている。したがって,隆域から海洋への適切な物質供給量の管理は,治岸海域の生物活動の活発化と二酸化炭素の吸収能力の向上に貢献するだけでなく、結果的に我々のカーボンニュートラルの達成にも直結すると考えられる。しかし,最近のモデル計算では,地球温暖化の進行により淡水性海底湧水(FSGD)の湧出量が増加し,結果的に降から海洋への炭素供給量が増加することが懸念されている。特に,全球において降からの炭素供給量が最大の北半球中緯度地域では、様々な将来予測モデルから今後,確実に降雪および積雪が減少することが示されている。全球規模で着実に地球温暖化が進行する中,降水システム及び降から海への水・物質供給がどのように応答し変化するかを観測値から理解することは喫緊の課題であり、なかでも世界で数少ない淡水性海底湧水の直接採取とその実測値に基づく気候変化の影響の定量的評価は,隆から海への炭素供給量の将来予測モデルの精度向上においても重要な科学的データとなる。そこで,本研究では北半球中緯度地域に位置し豊富な水量を持つ富山県の隆水システムとそこからの水・物質供給が盛んな富山湾沿岸域を研究対象とした。この地域の最大の特徴は,標高3,000m級の立山連峰から水深1,000mを超える富山湾の高低差4,000mの自然環境がわずか数十km という非常に短い距離に存在し,世界有数の隆水システムを有している点である。加えて,日本海を通過した東アジアモンスーンがこの地域にもたらす世界屈指の降雪と降雨は,地下水涵養や河川流出などの複数の流動プロセスを経て豊富な隆起源栄養塩を富山湾に供給し,富山湾沿岸の表層における一次生産に大きく寄与している。隆水における複数の化学トレーサー分析結果によると,山間部に降った雨や雪が富山湾岸へ流入するまでに要する平均滞留時間は数年~20年と見積もられており,この時間スケールはこれまでに報告されている事例研究の1/5~1/10と極めて循環が速い陸水システムであると考えられる。本研究では,先行研究と同じプロトコルに従った観測方法を用いることで,気候変化が陸水系内の溶存成分濃度及び同位体トレーサーと,隆から治岸海域への物質供給量に与える影響を評価した。また,隣から海への水・物質供給量とその長期変化を評価するために,富山湾への主要な物質供給源と実証されている5つの一級河川と海底湧水の調査を行った。海底湧水については,それと連動する片貝川扇状地の地下水調査も同時に実施した。

異なる期間(2001-2003 年と2017-2021 年)の観測値および栄養塩濃度等の地球化学的データを用いて,海底湧水及び関連する隆水システムの水質・起源解析を行った結果、片貝川扇状地治岸の淡水性海底湧水とそれと連動する隆水システムは,各溶存成分濃度・同位体比は年間を通じて平均値士10以内で一定であり,帯水層内で涵養から湧出までの水質が一致していることが示された。この特徴から,本研究が対象とした陸水システム全体を淡水性海底湧水一陸水システム(FSGDs)と定義した。

温暖化に起因した降雪量の減少が FSGDS の水質および物質供給量に与える影響を,各溶存成分濃度・同位体比の観測データの比較から評価した。その結果,現在のFSGDS では,少雪・多雨化に伴って,融解高度(降雪の下限)の上昇に伴う酒養標高の上昇、溶存成分濃度の10-30%減少,滞留時間の短縮が起こっており、これは,冬期における降雪量の減少分が降雨に変わった結果として淡水性海底湧水の湧出量が増加した(10-30 %)というの先行研究のモデルシミュレーションと一致していた。さらに,少雪・多雨化に伴う水質変化は,pH 低下と溶存 CO_濃度の上昇をもたらしており,結果的に,海底湧水を介した治岸海域への溶存無機炭素供給量を増加させていることが示唆された。

上記のような溶存成分濃度の低下が河川水にも生じているかを確認するために,富山湾へ供給される隆起源栄養塩の 6-7割を占める富山県内5つの主要一級河川を介した隆起源栄養塩負荷量の長期変化を評価した。過去 25 年間の河川流量や同位体組成から,河川の酒養状況の変化は確認されなかった一方で,5つの河川を介した栄養塩負荷は過去 25 年間で5-6割減少した。これは日本で策定された人為的栄養塩負荷量の環境基準の厳格化と調和的であった。同様の栄養塩減少は日本の約9割を占める小・中規模都市に面した治岸海域においても確認され、先行研究に基づく試算からこの米養塩滅少によって日本の治岸海域における純一次生産量による正味の炭素固定量が,1990 年代以降 25-50 %減少したと推定された。同様の計算を富山湾治岸にも適応し、かつ少雪・多雨化に伴う治岸海域への溶存無機炭素供給量の増加分を考慮すると,富山湾沿岸海域表層に存在する陸由来の溶存無機炭素は約20年前と比較して倍増していることが推定された。

本研究により,① 中緯度地域で頭著な積雪量減少は、隆水システムの希釈と滞留時間の短縮をもたらし,その結果として降域から治岸海域への溶存無機炭素供給量の増加と栄養塩供給量の減少へ導くこと,② この状況下における過剰な栄養塩負荷削減政策は,沿岸海域における純一次生産を経由した炭素固定量の大幅な減少をもたらす可能性があることが明らかとなった。これらの新しい知見は、隆域から海洋への水・物質供給が気候変化に対して非常に敏感に反応することを示すとともに,現状に合致した隆水・栄養塩管理施策と将来予測の実施の緊急性を提示するものである。

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