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大学・研究所にある論文を検索できる 「新規多平面二光子顕微鏡を用いた神経情報処理機構の4次元解析」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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新規多平面二光子顕微鏡を用いた神経情報処理機構の4次元解析

恩田, 将成 名古屋大学

2021.06.02

概要

脳は多くの生物に普遍的に存在する情報処理システムである。脳が正常に外界からの情報を処理し、情報に基づく意思決定を下し、各組織を制御することで、我々は考え、行動することが可能となる。このような我々の中枢たる脳の機能はどのように生じるのだろうか。

脳機能を形成する最小単位は、Cajal によって、ニューロンであることが示された。その後、個々のニューロンの電気生理学的な特性が解析され、単一細胞レベルでのニューロンの機能が明らかにされてきた。しかし 1940 年に Hebb は、セルアセンブリという概念を提唱した。多数のニューロンがセルアセンブリを構成し、同期活動することで情報を表現すると考えた。さらに、アセンブリを構成するニューロン数は多様であり、アセンブリを構成するニューロンは重複し入れ替わることで、柔軟な情報表現を可能にする。つまり、情報を処理するのは、単一のニューロンではなく、複数のニューロンの活動の組み合わせであるという考えである。

しかし、近年のマルチレコーディング技術やイメージング技術の発達により、セルアセンブリの実体が実験的に検証されつつあるが、生体におけるセルアセンブリの空間的解析は未だに進んでいない。それは、現在主流となっている二光子顕微鏡を用いた機能解析法では、単一平面の記録しか行えないという技術的制約のためである。そこで著者は、生体に適用可能な新規二平面二光子顕微鏡を構築し、生体脳における情報処理機構を 4 次元的に解析した。

1. 立体的な組織構築を有する脳のニューロンを記録するために、二光子顕微鏡を改良し、空間光変調器(SLM)を用いた二平面同時記録系を構築した。レーザーを 2 つの光路に分割し、一方はそのままの焦点位置に、もう一方は SLM を用いて新たな焦点面を作製し、光学チョッパーを用いてそれぞれの光路を切り替えることで 2 つの焦点面を交互に励起した。 SLM を搭載した二光子顕微鏡を in vivo イメージングに適用し、マウス大脳皮質一次視覚野(V1)の深さ約 250 μm と 500 μm にて各平面で約 500 個の細胞からカルシウム感受性蛍光タンパク質である GCaMP6m の蛍光強度変化を撮像した。マウス V1 細胞の自発活動をいずれの観察面においても 15 Hz で観察した。以上より、SLM 二光子顕微鏡は、生体の異なる二平面上の個々のニューロンの応答特性を記録・解析可能であることが示唆された。

2. さらなる機能の拡張を実現するため、ガルバノミラーを光路切り替えシステムとして用い、焦点面の変更に可変焦点レンズ(ETL)と SLM を有する二平面同時記録系を新たに構築した。単一レーザーをガルバノミラーで交互に振り分け、2 つの焦点面を交互に励起した。マウスの V1 の深さ約 200 μm と 500 μm にて各平面で約 500 個の細胞から GCaMP6m の蛍光強度変化を撮像した。マウスに視覚刺激として正弦波刺激を提示し、応答特性を評価したところ、いずれの平面で観察された個々のニューロンは、V1 に特徴的な方位選択性応答を示した。ETL-SLM 二光子顕微鏡は、生体の異なる二平面上の個々のニューロンの応答特性を記録・解析可能であることが示唆された。

3. 生体脳におけるセルアセンブリの 4 次元的な情報処理機構を明らかにする目的で、開発した二平面同時記録系を用いてマウス V1 に存在するセルアセンブリの解析を試みた。V1 の 2/3 層および 5 層から自発活動を GCaMP6m の蛍光強度変化として記録した。同期的自発活動を偶然より高い確率で行うニューロンの組み合わせを、機能的ネットワークを示すアンサンブルと定義した。2/3 層細胞間あるいは 5 層細胞間で同期的な活動が偶然より高い確率で存在した。さらに、2/3 層細胞と 5 層細胞によって構成されるアンサンブルが存在し、その割合は 87%であった。さらに、同期活動した細胞を含むフレームを時空間的に解析したところ、セルアセンブリを構成するニューロンは異なる時間において重複して出現すること、同期活動を示す細胞の組み合わせが時間経過により入れ替わることを見出した。以上より、大脳皮質の異なる層に存在するニューロン群がアンサンブルを構成すること、機能を表現するセルアセンブリは、機能ごとに空間的に異なる細胞集団により構成されることが示唆された。

4. ニューロンは樹状突起上のスパインにてシナプス前細胞から様々な入力を受け、その情報を統合し、軸索を介して情報出力を行う。しかし、空間的に複雑な構造を形成するニューロンから、複数の樹状突起上のスパインの情報入力を同時に解析するのは困難であった。そこで、SLM を用いてベッセルビームを作製し、深さ方向の解像度を変更し、ETL の焦点距離変更と組み合わせることで異なる深さに存在するスパインを同時に撮像した。マウス V1 の単一細胞に GCaMP6m を導入し、ベッセルビームを用いた空間イメージングにより尖端樹状突起上の多数のスパインを、通常のガウシアンビームにより細胞体と基底樹状突起上の多数のスパインを同時記録した。本研究では、約 200 個のスパインを同時に観察した。これは先行研究と比較し極めて多数かつ広範囲である。さらに、各樹状突起上のスパインの同期活動に加え、尖端樹状突起と基底樹状突起のスパイン間でも同期活動が認められた。本結果より、尖端樹状突起と基底樹状突起に分布する異なるスパインに同期した入力が存在することが示唆された。セルアセンブリが、異なる領野を跨ぎ空間的な広がりを持って分布し、単一細胞の尖端樹状突起と基底樹状突起のスパインに同期して入力していると考えられる。

著者は、新規二光子顕微鏡がカルシウムイメージングにより生理的な活動を計測可能な空間解像度および時間解像度を有することを示した。さらに、多平面同時イメージングにより、大脳皮質におけるセルアセンブリが 4 次元的に構成されること、セルアセンブリが単一細胞の、空間的に異なる場所に分布するスパインに同時入力することを明らかにした。本研究は、脳機能の基本原理に迫る基盤技術ならびに重要な基礎的知見を提供するものである。本研究成果により、超高齢化社会における最重要課題の一つである、アルツハイマー病をはじめとする神経疾患や精神疾患の理解、さらには創薬開発や治療法開発への貢献が期待できる。

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